47 / 54
第十八話 「告白未満の告白」
1/2
しおりを挟む
僕
手を繋ぐ許可は、もう出ている。
条件もある。
人が少ないとき。
彼女が「いいよ」と言ったとき。
条件があると、僕は落ち着く。
でも落ち着くのに、胸の奥はずっと熱かった。
“これからも”と言った日から、僕の中で何かが変わった。
明日が怖いのは同じだ。
続くのが怖いのも同じだ。
でも、怖いからといって減らす癖が、少しだけ弱くなった。
減らすより、確かめたくなった。
――手を繋いだら、何が起きるだろう。
怖い。
でも、確定したい。
彼女が「受け取る」と言った“これからも”を、
手の温度で信じてみたい。
夕方、彼女が奥に来た。
付箋が一枚、机の端に置かれる。
今日、条件いけそう
条件。
その言い方が、彼女らしい。軽くて優しい。
僕は頷いた。
「……了解です」
了解、も僕らしい。
でも今日は、心臓が少し速い。
*
外は、いつもの通り。
でも少しだけ、人が少なかった。
平日の隙間みたいな時間帯。
僕は彼女の手首のバンドに軽く触れて、合図を出した。
彼女が頷く。
「受け取った」
その言葉が、僕の呼吸を整える。
僕たちはいつもの静かな道に入った。
パン屋の前を通り過ぎて、公園へ向かう。
ベンチが空いている。
風は冷たいけど、嫌じゃない。
寒いということが、今ここにいることを確かめさせる。
ベンチに座る前、僕は立ち止まった。
今だ。
条件が満たされている。
人が少ない。
彼女は笑っている。
呼吸も深い。
僕は低い声で言った。
「……今、いいですか」
彼女が首を傾げる。
「うん。なに?」
僕は息を吸って、言った。
「……手、繋いでもいいですか」
許可。
怖さを形にして、動けるようにする。
彼女は笑って、でも目はまっすぐにして頷いた。
「うん。いいよ」
その瞬間、胸の奥がほどけた。
でも同時に、震える。
僕の手が伸びる。
彼女の手に触れる前に、一瞬止まる。
怖い。
でも逃げない。
指先が触れた。
彼女の手は温かい。
僕の手は少し冷たい。
彼女が指を少し動かして、僕の指に絡めた。
自分から。
その確定が、僕の胸を一気に熱くする。
――置いていかれない。
まだ分からないのに、身体が先にそう思う。
僕は手を繋いだまま、息を吐いた。
吐いたら、少し涙が出そうになった。
でも堪える。
泣いたら、逃げる癖が出る。
彼女が小さく聞いた。
「大丈夫?」
大丈夫。
パン屋の窓際、初めて名前を呼ばれたときのーー付箋の言葉。
僕は頷いた。
「……大丈夫です」
言えた。
手が繋がっているから。
彼女が笑う。
「よかった」
そのたった一言で、胸の奥の針がまた丸くなる。
僕は思った。
このまま、言ってしまいたい。
好きだ、と。
でも好き、は重い。
好き、は確定する。
確定は怖い。
僕が言える確定は、もっと僕らしい形だ。
だから、告白未満で、でも逃げない確定。
僕は握っている手に少しだけ力を込めて、低い声で言った。
「……手放したくないです」
言ってしまった。
彼女の指が、少しだけ強く絡む。
逃げない。
受け取った合図。
彼女が静かに言う。
「うん」
それだけで、胸がきゅっとする。
僕は続けた。
ここで止めたら、また減らす癖が出る。
「……帰ってきてほしいです」
“ここに”帰る。
この場所へ。
この時間へ。
それは、家を持てなかった僕の、いちばん深い欲だ。
言った瞬間、怖くなった。
重い。
束縛に聞こえる。
困らせる。
でも彼女は、困った顔をしなかった。
ただ、ゆっくり息を吐いて、握っている手を軽く揺らして言った。
「うん。帰ってくる」
軽い。
でも嘘じゃない。
「来られない日は、先に言う。約束」
また形をくれる。
続くための現実。
僕の胸の奥が、静かにほどけていく。
僕はもう一度、言ってしまった。
「……好き、より、先に言いたかったです」
彼女が笑った。
「うん。あなたらしい」
あなたらしい。
その言葉が、嬉しい。
僕を否定しない。
彼女が少しだけ顔を近づけて、まっすぐ言った。
「玲央。手放さないで」
呼ばれる。
名前。
僕の喉が詰まりそうになる。
でも、逃げない。
「……はい」
たった一語が、確定する。
手を繋ぐ許可は、もう出ている。
条件もある。
人が少ないとき。
彼女が「いいよ」と言ったとき。
条件があると、僕は落ち着く。
でも落ち着くのに、胸の奥はずっと熱かった。
“これからも”と言った日から、僕の中で何かが変わった。
明日が怖いのは同じだ。
続くのが怖いのも同じだ。
でも、怖いからといって減らす癖が、少しだけ弱くなった。
減らすより、確かめたくなった。
――手を繋いだら、何が起きるだろう。
怖い。
でも、確定したい。
彼女が「受け取る」と言った“これからも”を、
手の温度で信じてみたい。
夕方、彼女が奥に来た。
付箋が一枚、机の端に置かれる。
今日、条件いけそう
条件。
その言い方が、彼女らしい。軽くて優しい。
僕は頷いた。
「……了解です」
了解、も僕らしい。
でも今日は、心臓が少し速い。
*
外は、いつもの通り。
でも少しだけ、人が少なかった。
平日の隙間みたいな時間帯。
僕は彼女の手首のバンドに軽く触れて、合図を出した。
彼女が頷く。
「受け取った」
その言葉が、僕の呼吸を整える。
僕たちはいつもの静かな道に入った。
パン屋の前を通り過ぎて、公園へ向かう。
ベンチが空いている。
風は冷たいけど、嫌じゃない。
寒いということが、今ここにいることを確かめさせる。
ベンチに座る前、僕は立ち止まった。
今だ。
条件が満たされている。
人が少ない。
彼女は笑っている。
呼吸も深い。
僕は低い声で言った。
「……今、いいですか」
彼女が首を傾げる。
「うん。なに?」
僕は息を吸って、言った。
「……手、繋いでもいいですか」
許可。
怖さを形にして、動けるようにする。
彼女は笑って、でも目はまっすぐにして頷いた。
「うん。いいよ」
その瞬間、胸の奥がほどけた。
でも同時に、震える。
僕の手が伸びる。
彼女の手に触れる前に、一瞬止まる。
怖い。
でも逃げない。
指先が触れた。
彼女の手は温かい。
僕の手は少し冷たい。
彼女が指を少し動かして、僕の指に絡めた。
自分から。
その確定が、僕の胸を一気に熱くする。
――置いていかれない。
まだ分からないのに、身体が先にそう思う。
僕は手を繋いだまま、息を吐いた。
吐いたら、少し涙が出そうになった。
でも堪える。
泣いたら、逃げる癖が出る。
彼女が小さく聞いた。
「大丈夫?」
大丈夫。
パン屋の窓際、初めて名前を呼ばれたときのーー付箋の言葉。
僕は頷いた。
「……大丈夫です」
言えた。
手が繋がっているから。
彼女が笑う。
「よかった」
そのたった一言で、胸の奥の針がまた丸くなる。
僕は思った。
このまま、言ってしまいたい。
好きだ、と。
でも好き、は重い。
好き、は確定する。
確定は怖い。
僕が言える確定は、もっと僕らしい形だ。
だから、告白未満で、でも逃げない確定。
僕は握っている手に少しだけ力を込めて、低い声で言った。
「……手放したくないです」
言ってしまった。
彼女の指が、少しだけ強く絡む。
逃げない。
受け取った合図。
彼女が静かに言う。
「うん」
それだけで、胸がきゅっとする。
僕は続けた。
ここで止めたら、また減らす癖が出る。
「……帰ってきてほしいです」
“ここに”帰る。
この場所へ。
この時間へ。
それは、家を持てなかった僕の、いちばん深い欲だ。
言った瞬間、怖くなった。
重い。
束縛に聞こえる。
困らせる。
でも彼女は、困った顔をしなかった。
ただ、ゆっくり息を吐いて、握っている手を軽く揺らして言った。
「うん。帰ってくる」
軽い。
でも嘘じゃない。
「来られない日は、先に言う。約束」
また形をくれる。
続くための現実。
僕の胸の奥が、静かにほどけていく。
僕はもう一度、言ってしまった。
「……好き、より、先に言いたかったです」
彼女が笑った。
「うん。あなたらしい」
あなたらしい。
その言葉が、嬉しい。
僕を否定しない。
彼女が少しだけ顔を近づけて、まっすぐ言った。
「玲央。手放さないで」
呼ばれる。
名前。
僕の喉が詰まりそうになる。
でも、逃げない。
「……はい」
たった一語が、確定する。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる