今日の分を、あなたに

星乃和花

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第七話 「迎え」

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迎えに行く、と決めたのは朝だった。

彼女が忙しい日があるのは分かっている。
でも分かっていても、待つのはまだ苦手だ。

待つと、頭の中に昔の音が戻ってくる。

「あとでね」
「今は無理」
「忙しいから」

それは仕方ない言葉なのに、僕の身体は勝手に“減点”に変換する。

だから、今日は“待つ”を別の形にした。

迎えに行く。
迎えて、渡す。
来てほしいのを、言い訳なしで形にする。

怖い。
でも昨日、彼女が言った。

“次から隠さない”って言った僕を、受け取ってくれた。

だから今日は、隠さない。

表のカウンターの前は、人が多い。
僕はあそこに出るのが少し苦手だ。
視線が多いと、点数が動く気がする。

でも今日は、彼女の方がもっと大変そうだった。
だから、僕が動く。

紙コップを握って、扉の前で待った。
待つのは嫌いじゃない。
“待つ意味”があるなら、待てる。

彼女が来た瞬間、胸の針が少し溶けた。

――来た。

僕は言った。

「迎えに来ました」

言った瞬間、怖くなった。
重いと思われるかもしれない。
でも彼女は困った顔をしなかった。

受け取って、嬉しいと言った。

嬉しいと言われると、胸が熱くなる。
帳尻の針が動く。
でも今日は、制度にしなかった。

僕はただ頷いた。

“ちょうどいい”と言われた。
それが、僕の中で静かに嬉しかった。

ちょうどいい、は点数じゃない。
条件でもない。
ただ、彼女が心地よいという事実だ。

僕は言ってしまった。

「毎回、嬉しいって言ってください」

欲を言った。
安全な形に包む前に、口から出た。

彼女が頷いた。
その瞬間、胸の中が少し落ち着いた。

“欲”は危険じゃない。
欲を言っても、減点されない。

まだ信じきれないけど、
今日の彼女の頷きが、その証拠だった。

作業の区切りを僕が決めたのは、彼女を止めたかったからだ。
頑張るのが好きな人は、止めないと止まらない。

……そして、本当はもう一つ理由がある。

区切りがついたあと、外に出たかった。
彼女と、奥の外で並びたかった。

これは効率じゃない。
僕の欲だ。

だから“混んでない時間帯”という言い訳を添えた。
僕はまだ臆病だ。
でも、言わないよりはずっと前に進んでいる。

彼女が「行く」と言った。
僕は胸の奥が熱くなった。

予約、と言ったのは、僕なりの確保だ。
未来を点数にしたくない。
制度にもしたくない。
でも、欲しい。

欲しいから、先に取っておきたい。

それを言葉にできたことが、怖いのに、
今日はいちばん嬉しかった。
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