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第1話「ふわふわ仲間、できました!」
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ギルドの扉って、どうしてこう――
““強そうな音”“がするんだろう。
リィナは今日も、扉の前でひと呼吸置いた。
深呼吸。
背筋を伸ばす。
笑顔を作る。
「大丈夫、大丈夫……私は回復術師。必要とされる人間……たぶん……」
自分で言って、自分で弱気になる。
(たぶん、って何!?)
心の中でツッコミを入れながら、リィナは扉を押した。
ガラン、と鈴が鳴る。
同時に、依頼受付の前に溜まっていた冒険者たちの声が、波みたいに押し寄せてくる。
「おい、新しい依頼だぞ!報酬いい!」
「討伐?いや、護衛も混じってる」
「回復役がいねぇ!回復役!」
――回復役。
その言葉に、リィナの肩がきゅっと上がった。
(私……?)
でも、すぐに目を逸らす。
だって、ああいう大きな声の中へ飛び込むのは、まだ少し怖い。
リィナは、おっとりしている。
喋るテンポも、歩く速度も、考えがまとまるのも、たぶん人よりゆっくりだ。
そのせいで昔からよく言われた。
「リィナ、もうちょっとハキハキ!」
「リィナ、急いで!」
「リィナ、ほら、遅い遅い!」
急げないわけじゃない。
頑張れば、走れる。
言葉だって、もっと早く出せる――はず。
でも、頑張れば頑張るほど、どこかで空回りしてしまう。
“自然体の私”が、いちばん遅い。
(……遅いのって、だめなのかな)
喉の奥が少しだけ、きゅっとする。
リィナは胸元の小さな鈴を握った。
回復術の媒体になっている鈴だ。
緊張すると、これを触る癖がある。
すると、その鈴が――
「可愛いですね、それ」
すぐ隣で、のんびりした声がした。
リィナは驚いて、びくっと肩を跳ねさせた。
隣に、いつの間にか人がいる。
柔らかい笑顔。
涼しげな目。
背はそこそこ高いのに、雰囲気がふわっとしている。
そして、彼はなぜか片手にパンを持っていた。
しかも――かじりかけ。
(え、今……ギルドで……パン……?)
リィナが固まっている間に、彼はもぐもぐしながら言った。
「回復術師さんですか?」
「えっ……あ、は、はい……」
「助かる。今日、回復役が足りないって騒いでたから」
その人はパンを飲み込んで、にこっと笑った。
「僕、カイ。補助術師です。よろしく」
差し出された手が、妙に“安心する手”だった。
握るだけで落ち着くタイプの温度。
リィナは慌てて手を握り返す。
「り、リィナです……回復……担当で……」
「担当、って言い方かわいい」
「えっ?」
褒められたのか、からかわれたのか分からない。
でもカイは、本当に穏やかに笑っている。
押しが強いわけでもなく、圧があるわけでもなく、ただ“ふわふわ”とそこにいる。
――あ。
リィナの胸の奥が、少しだけ明るくなった。
(この人……私と似てる……!)
リィナは内心でガッツポーズをした。
(やった!おっとり仲間だ!)
(私だけじゃないんだ!ふわふわ界の住人、発見!)
その瞬間、リィナの顔はぱぁっとほころんでいた。
「カイさん……その……!」
「うん?」
「私、同じ雰囲気の人、初めて会いました……!」
「……同じ雰囲気?」
カイのまばたきが一拍遅れる。
「あっ、えっと……その……ゆっくりしてる感じ……?」
「ゆっくり……」
カイは一瞬だけ、妙に考える目をしてから、ふふっと笑った。
「……そっか。じゃあ、仲間だ」
「仲間です!」
「いいね、仲間」
その言い方があまりに自然で、リィナは嬉しくなった。
仲間って言葉はあったかい。
それだけで、ここにいていい気がする。
――そのとき。
受付のほうから、怒鳴るような声が飛んできた。
「おい!回復役いたら来い!すぐだ!」
「今日の依頼、草原の魔獣だぞ!面倒だぞ!」
「命に関わるんだよ!」
リィナはびくっとして、足が半歩引けた。
(うっ……)
怖い、というより。
“私が行ったら迷惑なんじゃないか”が先に来てしまう。
リィナは笑顔を保ったまま、視線だけ下に落とした。
すると、カイがぽん、と軽く言った。
「行こっか」
「えっ」
「仲間だし」
仲間。
たったそれだけで、足が止まらなくなるから不思議だ。
「……はい」
リィナが頷いた瞬間、カイは先に歩き出した。
ゆっくりでもなく、急ぎでもなく。
リィナが置いていかれない速度。
(……え、優しい)
いや、たまたまかもしれない。
でもリィナの歩幅に合わせるのって、意外と難しい。
焦ると早くなるから。
(すごい……私に合わせてくれてる……)
受付の前で待っていたのは、いかにも戦士!という鎧の男と、弓を背負った女の人。
二人とも顔が険しい。
「回復役、来たか!」
「……この子?」
視線がリィナに刺さる。
リィナは反射で背筋を伸ばした。
「は、はい……リィナです……」
「おっとりしてんなぁ……大丈夫か?」
(うっ……)
胸がきゅっとなる。
やっぱり、そう思われるよね。
けれどその瞬間、カイがふわっと笑って言った。
「大丈夫ですよ。彼女、回復が丁寧で早い」
「早いのか?」
「うん。見た目はふわふわだけど、仕事が正確。僕の好きなタイプ」
リィナは目を見開いた。
(好き……!?)
(え、待って、今のは“仕事が”だよね!?)
一人で勝手に熱くなって、慌てて冷静に戻る。
頬に熱が集まってしまうのが自分でも分かる。
弓の女性が眉を上げた。
「へぇ。カイがそんな言い方するの珍しい」
「そう?僕、いつもこうだよ」
カイは本当にふわふわしている。
(仲間だ……!やっぱり仲間……!)
戦士の男は半信半疑のまま、腕を組んだ。
「ま、いい。依頼は草原の魔獣、群れが出た。討伐隊の支援だ。回復役は絶対に必要だ」
「……はい」
「途中で腰抜けるなよ?」
その言い方が雑で、リィナは笑顔のまま心がきゅっとした。
けれど、カイがさりげなくリィナの前に半歩出た。
「腰抜けないよ。彼女、根性あるから」
「根性?」
「うん。おっとりしてる人はね、“根性”がある。急いでないだけ」
リィナの胸が、少しだけ軽くなる。
(……急いでないだけ)
その言葉が、とても優しかった。
戦士が鼻を鳴らした。
「口が上手いな、お前」
「天然だからね」
カイがさらっと言う。
(天然仲間だ……)
リィナはその言葉を疑わなかった。
疑う理由がない。
だってカイは、優しくて、落ち着いてて、ふわふわしてて――
(私みたいだ)
同類がいることが嬉しくて、リィナは思わず笑ってしまう。
「……私、頑張ります」
「うん。頑張ろうね、仲間」
カイは笑った。
その笑顔は、あまりに自然で。
だからリィナは気づかなかった。
カイが、ほんの一瞬だけ、
“確認する目”をしたことに。
そして心の中で、静かにこう言ったことに。
(よし、“天然枠”で信用を取れた)
(このまま彼女をパーティに固定する)
(回復役の確保は最優先――)
(……なのに)
(なんで、こっちの心拍数が上がってんだろ)
リィナは知らない。
自分が見つけた“仲間”が、
天然を演じる策士であることを。
そして彼が、
自分だけは読めなくて、
これからどんどん自爆していくことも。
=======
次回、
第2話「天然同士(※片方は演技)で初パーティ」
草原の魔獣討伐、出発です!
““強そうな音”“がするんだろう。
リィナは今日も、扉の前でひと呼吸置いた。
深呼吸。
背筋を伸ばす。
笑顔を作る。
「大丈夫、大丈夫……私は回復術師。必要とされる人間……たぶん……」
自分で言って、自分で弱気になる。
(たぶん、って何!?)
心の中でツッコミを入れながら、リィナは扉を押した。
ガラン、と鈴が鳴る。
同時に、依頼受付の前に溜まっていた冒険者たちの声が、波みたいに押し寄せてくる。
「おい、新しい依頼だぞ!報酬いい!」
「討伐?いや、護衛も混じってる」
「回復役がいねぇ!回復役!」
――回復役。
その言葉に、リィナの肩がきゅっと上がった。
(私……?)
でも、すぐに目を逸らす。
だって、ああいう大きな声の中へ飛び込むのは、まだ少し怖い。
リィナは、おっとりしている。
喋るテンポも、歩く速度も、考えがまとまるのも、たぶん人よりゆっくりだ。
そのせいで昔からよく言われた。
「リィナ、もうちょっとハキハキ!」
「リィナ、急いで!」
「リィナ、ほら、遅い遅い!」
急げないわけじゃない。
頑張れば、走れる。
言葉だって、もっと早く出せる――はず。
でも、頑張れば頑張るほど、どこかで空回りしてしまう。
“自然体の私”が、いちばん遅い。
(……遅いのって、だめなのかな)
喉の奥が少しだけ、きゅっとする。
リィナは胸元の小さな鈴を握った。
回復術の媒体になっている鈴だ。
緊張すると、これを触る癖がある。
すると、その鈴が――
「可愛いですね、それ」
すぐ隣で、のんびりした声がした。
リィナは驚いて、びくっと肩を跳ねさせた。
隣に、いつの間にか人がいる。
柔らかい笑顔。
涼しげな目。
背はそこそこ高いのに、雰囲気がふわっとしている。
そして、彼はなぜか片手にパンを持っていた。
しかも――かじりかけ。
(え、今……ギルドで……パン……?)
リィナが固まっている間に、彼はもぐもぐしながら言った。
「回復術師さんですか?」
「えっ……あ、は、はい……」
「助かる。今日、回復役が足りないって騒いでたから」
その人はパンを飲み込んで、にこっと笑った。
「僕、カイ。補助術師です。よろしく」
差し出された手が、妙に“安心する手”だった。
握るだけで落ち着くタイプの温度。
リィナは慌てて手を握り返す。
「り、リィナです……回復……担当で……」
「担当、って言い方かわいい」
「えっ?」
褒められたのか、からかわれたのか分からない。
でもカイは、本当に穏やかに笑っている。
押しが強いわけでもなく、圧があるわけでもなく、ただ“ふわふわ”とそこにいる。
――あ。
リィナの胸の奥が、少しだけ明るくなった。
(この人……私と似てる……!)
リィナは内心でガッツポーズをした。
(やった!おっとり仲間だ!)
(私だけじゃないんだ!ふわふわ界の住人、発見!)
その瞬間、リィナの顔はぱぁっとほころんでいた。
「カイさん……その……!」
「うん?」
「私、同じ雰囲気の人、初めて会いました……!」
「……同じ雰囲気?」
カイのまばたきが一拍遅れる。
「あっ、えっと……その……ゆっくりしてる感じ……?」
「ゆっくり……」
カイは一瞬だけ、妙に考える目をしてから、ふふっと笑った。
「……そっか。じゃあ、仲間だ」
「仲間です!」
「いいね、仲間」
その言い方があまりに自然で、リィナは嬉しくなった。
仲間って言葉はあったかい。
それだけで、ここにいていい気がする。
――そのとき。
受付のほうから、怒鳴るような声が飛んできた。
「おい!回復役いたら来い!すぐだ!」
「今日の依頼、草原の魔獣だぞ!面倒だぞ!」
「命に関わるんだよ!」
リィナはびくっとして、足が半歩引けた。
(うっ……)
怖い、というより。
“私が行ったら迷惑なんじゃないか”が先に来てしまう。
リィナは笑顔を保ったまま、視線だけ下に落とした。
すると、カイがぽん、と軽く言った。
「行こっか」
「えっ」
「仲間だし」
仲間。
たったそれだけで、足が止まらなくなるから不思議だ。
「……はい」
リィナが頷いた瞬間、カイは先に歩き出した。
ゆっくりでもなく、急ぎでもなく。
リィナが置いていかれない速度。
(……え、優しい)
いや、たまたまかもしれない。
でもリィナの歩幅に合わせるのって、意外と難しい。
焦ると早くなるから。
(すごい……私に合わせてくれてる……)
受付の前で待っていたのは、いかにも戦士!という鎧の男と、弓を背負った女の人。
二人とも顔が険しい。
「回復役、来たか!」
「……この子?」
視線がリィナに刺さる。
リィナは反射で背筋を伸ばした。
「は、はい……リィナです……」
「おっとりしてんなぁ……大丈夫か?」
(うっ……)
胸がきゅっとなる。
やっぱり、そう思われるよね。
けれどその瞬間、カイがふわっと笑って言った。
「大丈夫ですよ。彼女、回復が丁寧で早い」
「早いのか?」
「うん。見た目はふわふわだけど、仕事が正確。僕の好きなタイプ」
リィナは目を見開いた。
(好き……!?)
(え、待って、今のは“仕事が”だよね!?)
一人で勝手に熱くなって、慌てて冷静に戻る。
頬に熱が集まってしまうのが自分でも分かる。
弓の女性が眉を上げた。
「へぇ。カイがそんな言い方するの珍しい」
「そう?僕、いつもこうだよ」
カイは本当にふわふわしている。
(仲間だ……!やっぱり仲間……!)
戦士の男は半信半疑のまま、腕を組んだ。
「ま、いい。依頼は草原の魔獣、群れが出た。討伐隊の支援だ。回復役は絶対に必要だ」
「……はい」
「途中で腰抜けるなよ?」
その言い方が雑で、リィナは笑顔のまま心がきゅっとした。
けれど、カイがさりげなくリィナの前に半歩出た。
「腰抜けないよ。彼女、根性あるから」
「根性?」
「うん。おっとりしてる人はね、“根性”がある。急いでないだけ」
リィナの胸が、少しだけ軽くなる。
(……急いでないだけ)
その言葉が、とても優しかった。
戦士が鼻を鳴らした。
「口が上手いな、お前」
「天然だからね」
カイがさらっと言う。
(天然仲間だ……)
リィナはその言葉を疑わなかった。
疑う理由がない。
だってカイは、優しくて、落ち着いてて、ふわふわしてて――
(私みたいだ)
同類がいることが嬉しくて、リィナは思わず笑ってしまう。
「……私、頑張ります」
「うん。頑張ろうね、仲間」
カイは笑った。
その笑顔は、あまりに自然で。
だからリィナは気づかなかった。
カイが、ほんの一瞬だけ、
“確認する目”をしたことに。
そして心の中で、静かにこう言ったことに。
(よし、“天然枠”で信用を取れた)
(このまま彼女をパーティに固定する)
(回復役の確保は最優先――)
(……なのに)
(なんで、こっちの心拍数が上がってんだろ)
リィナは知らない。
自分が見つけた“仲間”が、
天然を演じる策士であることを。
そして彼が、
自分だけは読めなくて、
これからどんどん自爆していくことも。
=======
次回、
第2話「天然同士(※片方は演技)で初パーティ」
草原の魔獣討伐、出発です!
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