天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花

文字の大きさ
3 / 16

第2話「天然同士(※片方は演技)で初パーティ」

しおりを挟む
草原は、思っていたより広かった。

空が大きくて、風がまっすぐ吹いて、草がざわざわ揺れている。
その音が、妙に落ち着く――はずなのに。

リィナは今、落ち着いていなかった。

なぜなら。

(……みんな、歩くの速い……!)

パーティの先頭を行く戦士のガラムは、鎧の重さなんて関係ないみたいにずんずん進む。
弓の女性――ミラは草を踏む音すら小さく、軽やかに。

そして、少し後ろにカイ。

カイだけは、リィナの隣にいる。
リィナの歩幅と同じ速度で。

(優しい……)
(やっぱり仲間……)

心がぽっと温かくなったのも束の間、リィナはすぐに別のことに気づいてしまった。

(……あれ?)

カイが、さっきから一度も“草”を踏んでいない。

いや、正確には踏んでるんだけど――
歩く場所がいつも“平ら”で、リィナがつまずきそうな所を避けている。

(え、すごい…)
(地面、見てる…?)

リィナが思わずカイを見上げると、カイはにこっとして言った。

「段差、嫌い?」
「えっ……」
「嫌いそう」

なぜ分かった。

リィナは軽くパニックになった。

「き、嫌いというか……あ、えっと……私、ちょっと遅いので……」
「遅いの、可愛いよ」
「えっ」

心臓がきゅってなった。

(可愛いって言った!?)
(待って、これは……“仲間”の会話?)

リィナが固まっている間に、カイはさらっと続けた。

「ちゃんと足元見てて偉い」
「……え、えへへ……」

褒められると弱い。
褒められ慣れていないから、すぐに嬉しくなる。

しかも、“遅い”を褒められるのは初めてだった。

(遅いのが……可愛い……?)

分からないけど、嬉しい。
嬉しいから笑ってしまう。

すると前を行くミラが振り返った。

「……なに、その距離。近くない?」
「近い?」
「近いよ」

ミラの視線が鋭い。

リィナは慌てて離れようとしたが、草原のちょっとした凹みに足を取られ、ふらついた。

「あっ――」

転びかけた瞬間。

カイの手が、すっと伸びてきて、リィナの腕を支えた。

軽く。
でも確実に。

「大丈夫?」
「だいじょ……ぶ……」

支えられたまま、リィナは固まった。

(……え、手……)
(手、あったかい……)

腕を掴まれているのに痛くない。
怖くない。
むしろ、安心する。

「……うん。歩こ」
「は、はい」

リィナが立ち直ったのを確認してから、カイは自然に手を離した。
離し方まで自然すぎて、リィナは逆に恥ずかしくなる。

ガラムが前から叫んだ。

「おい!いちゃつくな!」
「いちゃついてない!」
リィナは反射で否定した。

が、否定した後に気づく。

(えっ!?今の流れ、いちゃついて見えたの!?)

そして遅れて顔が赤くなる。

カイは涼しい顔で言った。

「仲間を守っただけだよ」
「仲間…ねぇ」
ミラが、意味深に笑った。

(え、え、え……)

リィナは頭の中が忙しくなる。

仲間って、こんなにドキドキするんだっけ。



草原の奥、少し背の高い草が集まった場所で、ガラムが拳を握った。

「来るぞ」

そこにいたのは――
黒い毛並みに赤い目の、狼のような魔獣だった。

一匹じゃない。
二匹。三匹。
草の中から、低い唸り声が連なって聞こえる。

リィナは思わず息を飲んだ。

(……怖い)

でも、それ以上に。

(……私が、守らなきゃ)

胸元の鈴を握る。
鈴が小さく鳴る。

それだけで、心が少しだけ落ち着く。

ガラムが前に出る。

「ミラ、援護!」
「了解!」

矢が飛ぶ。
魔獣が跳ぶ。
ガラムの剣が唸る。

戦闘が始まった。

リィナは後ろに下がりながら、カイの動きを見た。
補助術師――というから、後方支援の人だと思っていた。

でもカイは、迷いなく“全体”を見ている。

目線が動く。
空気の流れを読むみたいに。

そして、ぽん、と軽い声で言った。

「ガラム、右から二匹来る」
「分かってる!」

ガラムが叫んだ直後、右から本当に二匹出てきた。

(当たった……)

リィナが驚いている間に、カイは手を軽く振った。
淡い光が広がり、地面の草が一瞬だけ硬化する。

魔獣の足が、わずかに引っかかった。

その一瞬が、致命的だった。

ガラムの剣が一匹を叩き落とす。
ミラの矢がもう一匹の目を狙う。

(すごい……)
(え、カイくん……頼れる……)

リィナの“仲間発見喜び”が、別方向に加速する。

(仲間なのに……すごい……)
(ふわふわ界の住人のくせに……!)

――ん?

自分の心の声に、自分で引っかかった。

(ふわふわ界の住人のくせに、って何?)

でもまあ、すごいものはすごい。

そんなことを考えていたら、突然。

ガラムの腕に、魔獣の爪が食い込んだ。

「くっ……!」

血が飛ぶ。
ガラムの動きが一瞬鈍る。

リィナの心臓が跳ねた。

(回復!)

リィナは鈴を鳴らした。

リン、と澄んだ音が草原に広がる。
光がガラムの腕に集まり、傷がふわっと閉じていく。

「……助かった」
ガラムが短く言った。

その声が少しだけ柔らかくて、リィナは嬉しくなった。

(役に立てた…!)

その瞬間、別の魔獣がリィナへ向かって跳んできた。

「――っ!」

リィナは反射で身を引いた。
でも遅い。間に合わない。

(やば……)

――次の瞬間。

カイが、リィナの前に出た。

ふわっと。
まるで“風が動いた”みたいに。

彼の手が光る。
透明な壁が生まれて、魔獣の突進を弾き返した。

「……大丈夫?」
カイが振り返る。

その声は柔らかいのに――
目だけが、少しだけ冷たい。

(え……)

リィナは息を飲む。

(カイくん……今、ちょっと怖かった……?)

でもその冷たさは一瞬で消えた。

カイはすぐに笑って言った。

「びっくりしたね」
「……う、うん……ありがとう……」

胸がどくどくしている。

怖かったからじゃない。
安心したからでもない。

(……守られた)

その事実が、ただ、熱い。

ガラムが叫ぶ。

「リィナ!下がれ!」
「だ、大丈夫です!」

下がるのは苦手だ。
でも下がらないと、守れない。

リィナは自分に言い聞かせながら、少し後ろへ退いた。

その時、カイが小さく言った。

「無理しないで。君は、前に出る係じゃない」
「……でも」
「でも、守りたい?」

リィナは小さく頷いた。

「……うん」

カイは少しだけ目を細めた。

「その気持ち、好き」
「えっ」

また“好き”が出た。

リィナの思考が止まる。

(これ、仲間って言うの!?)
(仲間って“好き”って言うの!?)

でも戦闘中だ。
今は考えている場合じゃない。

リィナは鈴を握り直し、回復の光を広げた。

戦いは、少しずつ優勢になっていく。
カイの支援が的確すぎる。
ガラムとミラの動きが噛み合っていく。

そして最後の一匹が倒れた時。

草原に、静けさが戻った。

ガラムが大きく息を吐く。

「……終わった」

ミラが肩を回しながら、カイを見た。

「カイ、やっぱり今日の動き変じゃない?」
「変?」
「回復役を守りすぎ」

リィナが思わず口を挟む。

「えっ、守ってくれるの普通じゃないですか?」
ミラが笑った。

「普通じゃないよ。普通は“必要最低限”」
「必要最低限……」
「カイは“過剰”」

過剰。

その言葉が、リィナの胸に落ちた。

過剰に守られた。
過剰に気にかけられた。
過剰に褒められた。

(……でも、嫌じゃない)

むしろ――
嬉しい。

カイがふわっと笑って言った。

「だってリィナ、転ぶから」
「転ばないです!」
「転びかけた」
「か、かけただけです!」
「可愛い」
「えっ」

また。

また可愛いって言った。

リィナは真っ赤になる。

ガラムが呆れた声で言った。

「お前らもう付き合え」
「付き合ってません!」
リィナが即答した。

カイは少しだけ、間を置いた。

「……付き合うって、どういう意味?」
リィナ「え?」
ガラム「は?」
ミラ「は?」

草原に、三人分の「は?」が響いた。

リィナは慌ててカイに説明する。

「えっと、その……恋人、みたいな……」
カイはゆっくり頷いた。

「恋人……へぇ」

そして、ふわっと微笑む。

「じゃあ、まだ仲間でいい」
「うん、仲間です!」
リィナは安心して頷いた。

――カイの目が、ほんの少しだけ揺れた。

(……まだ、仲間でいい)
(“まだ”って言った)
(俺、何を期待してる?)

そんな顔をしたのは一瞬で、すぐにまたふわふわに戻る。

ミラが肩をすくめた。

「リィナ、あんた面白いね」
「え?」
「カイをそのままにしてるの、初めて見る」

リィナは首を傾げた。

「そのまま……?」
「カイって、誰とでもうまくやるでしょ?」
「うん……優しい」
「そう。うまくやる。でもね――」

ミラは意味深に笑った。

「うまくやりすぎる男は、信用ならないのよ」
「えっ」

リィナの胸が、少しだけひやっとした。

でもすぐに、カイがのんびり言う。

「信用ならないって言われた」
「言ったね」
「じゃあ僕、信用されるように頑張る」
「頑張る方向それでいいの?」
「いいよ。リィナに信用されたい」

リィナの心臓が、また跳ねる。

(信用……されたい……?)
(え、なんか、甘くない……?)

リィナは混乱しつつも、鈴を握り直した。

(でも、いい)

仲間がいるって、心強い。
守られるって、嬉しい。
一緒に戦うって、温かい。

そして――

(カイくん、ふわふわで優しくて、頼れて……)

(……なんか、すごく好きかも)

リィナは、ぼんやり思った。

でもその“好き”が
仲間の好きなのか、恋の好きなのか――

まだ分からない。

分からないまま、笑ってしまう。

カイはそんなリィナの横顔を見て、ほんの少しだけ息を飲んだ。

(……やばい)

(天然演技で安全圏にいるはずなのに)

(この子、距離が近い。無防備。まっすぐ)

(俺の策が、全部“良い人”で終わる)

(……それが一番、困る)



帰り道、リィナが小さく言った。

「カイくん、今日……楽しかったね」
「うん。楽しかった」
「仲間って、あったかいね」
「……そうだね」

カイの声が、少しだけ低くなる。

リィナは気づかず笑う。

「明日も、一緒に依頼行ける?」
「……行く」

“行ける?”じゃなくて“行く”。

そんな答え方に変わったことも、
リィナは気づかない。



=======
次回、

第3話「回復役、守られすぎ問題」

ギルドで噂が広がり、カイの“天然”が揺らぎ始めます♡
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。

《完結》戦利品にされた公爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
戦いの《戦利品》として公爵邸に連れて行かれた公爵令嬢の運命は?

醜女の私と政略結婚した旦那様の様子がおかしい

サトウミ
恋愛
この国一番の醜女である私と結婚したイバン様。眉目秀麗で数多の女性と浮き名を流した彼は、不祥事を起こしたせいで私なんかと結婚することになってしまった。それでも真面目な彼は、必死に私を愛そうと努力してくださる。 ──無駄な努力だ。 こんな色白で目と胸の大きい女を、愛せるはずがない。

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

お妃候補に興味はないのですが…なぜか辞退する事が出来ません

Karamimi
恋愛
13歳の侯爵令嬢、ヴィクトリアは体が弱く、空気の綺麗な領地で静かに暮らしていた…というのは表向きの顔。実は彼女、領地の自由な生活がすっかり気に入り、両親を騙してずっと体の弱いふりをしていたのだ。 乗馬や剣の腕は一流、体も鍛えている為今では風邪一つひかない。その上非常に頭の回転が速くずる賢いヴィクトリア。 そんな彼女の元に、両親がお妃候補内定の話を持ってきたのだ。聞けば今年13歳になられたディーノ王太子殿下のお妃候補者として、ヴィクトリアが選ばれたとの事。どのお妃候補者が最も殿下の妃にふさわしいかを見極めるため、半年間王宮で生活をしなければいけないことが告げられた。 最初は抵抗していたヴィクトリアだったが、来年入学予定の面倒な貴族学院に通わなくてもいいという条件で、お妃候補者の話を受け入れたのだった。 “既にお妃には公爵令嬢のマーリン様が決まっているし、王宮では好き勝手しよう” そう決め、軽い気持ちで王宮へと向かったのだが、なぜかディーノ殿下に気に入られてしまい… 何でもありのご都合主義の、ラブコメディです。 よろしくお願いいたします。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

家を乗っ取られて辺境に嫁がされることになったら、三食研究付きの溺愛生活が待っていました

ミズメ
恋愛
ライラ・ハルフォードは伯爵令嬢でありながら、毎日魔法薬の研究に精を出していた。 一つ結びの三つ編み、大きな丸レンズの眼鏡、白衣。""変わり者令嬢""と揶揄されながら、信頼出来る仲間と共に毎日楽しく研究に励む。 「大変です……!」 ライラはある日、とんでもない事実に気が付いた。作成した魔法薬に、なんと"薄毛"の副作用があったのだ。その解消の為に尽力していると、出席させられた夜会で、伯爵家を乗っ取った叔父からふたまわりも歳上の辺境伯の後妻となる婚約が整ったことを告げられる。 手詰まりかと思えたそれは、ライラにとって幸せへと続く道だった。 ◎さくっと終わる短編です(10話程度) ◎薄毛の話題が出てきます。苦手な方(?)はお気をつけて…!

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

処理中です...