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第2話「天然同士(※片方は演技)で初パーティ」
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草原は、思っていたより広かった。
空が大きくて、風がまっすぐ吹いて、草がざわざわ揺れている。
その音が、妙に落ち着く――はずなのに。
リィナは今、落ち着いていなかった。
なぜなら。
(……みんな、歩くの速い……!)
パーティの先頭を行く戦士のガラムは、鎧の重さなんて関係ないみたいにずんずん進む。
弓の女性――ミラは草を踏む音すら小さく、軽やかに。
そして、少し後ろにカイ。
カイだけは、リィナの隣にいる。
リィナの歩幅と同じ速度で。
(優しい……)
(やっぱり仲間……)
心がぽっと温かくなったのも束の間、リィナはすぐに別のことに気づいてしまった。
(……あれ?)
カイが、さっきから一度も“草”を踏んでいない。
いや、正確には踏んでるんだけど――
歩く場所がいつも“平ら”で、リィナがつまずきそうな所を避けている。
(え、すごい…)
(地面、見てる…?)
リィナが思わずカイを見上げると、カイはにこっとして言った。
「段差、嫌い?」
「えっ……」
「嫌いそう」
なぜ分かった。
リィナは軽くパニックになった。
「き、嫌いというか……あ、えっと……私、ちょっと遅いので……」
「遅いの、可愛いよ」
「えっ」
心臓がきゅってなった。
(可愛いって言った!?)
(待って、これは……“仲間”の会話?)
リィナが固まっている間に、カイはさらっと続けた。
「ちゃんと足元見てて偉い」
「……え、えへへ……」
褒められると弱い。
褒められ慣れていないから、すぐに嬉しくなる。
しかも、“遅い”を褒められるのは初めてだった。
(遅いのが……可愛い……?)
分からないけど、嬉しい。
嬉しいから笑ってしまう。
すると前を行くミラが振り返った。
「……なに、その距離。近くない?」
「近い?」
「近いよ」
ミラの視線が鋭い。
リィナは慌てて離れようとしたが、草原のちょっとした凹みに足を取られ、ふらついた。
「あっ――」
転びかけた瞬間。
カイの手が、すっと伸びてきて、リィナの腕を支えた。
軽く。
でも確実に。
「大丈夫?」
「だいじょ……ぶ……」
支えられたまま、リィナは固まった。
(……え、手……)
(手、あったかい……)
腕を掴まれているのに痛くない。
怖くない。
むしろ、安心する。
「……うん。歩こ」
「は、はい」
リィナが立ち直ったのを確認してから、カイは自然に手を離した。
離し方まで自然すぎて、リィナは逆に恥ずかしくなる。
ガラムが前から叫んだ。
「おい!いちゃつくな!」
「いちゃついてない!」
リィナは反射で否定した。
が、否定した後に気づく。
(えっ!?今の流れ、いちゃついて見えたの!?)
そして遅れて顔が赤くなる。
カイは涼しい顔で言った。
「仲間を守っただけだよ」
「仲間…ねぇ」
ミラが、意味深に笑った。
(え、え、え……)
リィナは頭の中が忙しくなる。
仲間って、こんなにドキドキするんだっけ。
・
草原の奥、少し背の高い草が集まった場所で、ガラムが拳を握った。
「来るぞ」
そこにいたのは――
黒い毛並みに赤い目の、狼のような魔獣だった。
一匹じゃない。
二匹。三匹。
草の中から、低い唸り声が連なって聞こえる。
リィナは思わず息を飲んだ。
(……怖い)
でも、それ以上に。
(……私が、守らなきゃ)
胸元の鈴を握る。
鈴が小さく鳴る。
それだけで、心が少しだけ落ち着く。
ガラムが前に出る。
「ミラ、援護!」
「了解!」
矢が飛ぶ。
魔獣が跳ぶ。
ガラムの剣が唸る。
戦闘が始まった。
リィナは後ろに下がりながら、カイの動きを見た。
補助術師――というから、後方支援の人だと思っていた。
でもカイは、迷いなく“全体”を見ている。
目線が動く。
空気の流れを読むみたいに。
そして、ぽん、と軽い声で言った。
「ガラム、右から二匹来る」
「分かってる!」
ガラムが叫んだ直後、右から本当に二匹出てきた。
(当たった……)
リィナが驚いている間に、カイは手を軽く振った。
淡い光が広がり、地面の草が一瞬だけ硬化する。
魔獣の足が、わずかに引っかかった。
その一瞬が、致命的だった。
ガラムの剣が一匹を叩き落とす。
ミラの矢がもう一匹の目を狙う。
(すごい……)
(え、カイくん……頼れる……)
リィナの“仲間発見喜び”が、別方向に加速する。
(仲間なのに……すごい……)
(ふわふわ界の住人のくせに……!)
――ん?
自分の心の声に、自分で引っかかった。
(ふわふわ界の住人のくせに、って何?)
でもまあ、すごいものはすごい。
そんなことを考えていたら、突然。
ガラムの腕に、魔獣の爪が食い込んだ。
「くっ……!」
血が飛ぶ。
ガラムの動きが一瞬鈍る。
リィナの心臓が跳ねた。
(回復!)
リィナは鈴を鳴らした。
リン、と澄んだ音が草原に広がる。
光がガラムの腕に集まり、傷がふわっと閉じていく。
「……助かった」
ガラムが短く言った。
その声が少しだけ柔らかくて、リィナは嬉しくなった。
(役に立てた…!)
その瞬間、別の魔獣がリィナへ向かって跳んできた。
「――っ!」
リィナは反射で身を引いた。
でも遅い。間に合わない。
(やば……)
――次の瞬間。
カイが、リィナの前に出た。
ふわっと。
まるで“風が動いた”みたいに。
彼の手が光る。
透明な壁が生まれて、魔獣の突進を弾き返した。
「……大丈夫?」
カイが振り返る。
その声は柔らかいのに――
目だけが、少しだけ冷たい。
(え……)
リィナは息を飲む。
(カイくん……今、ちょっと怖かった……?)
でもその冷たさは一瞬で消えた。
カイはすぐに笑って言った。
「びっくりしたね」
「……う、うん……ありがとう……」
胸がどくどくしている。
怖かったからじゃない。
安心したからでもない。
(……守られた)
その事実が、ただ、熱い。
ガラムが叫ぶ。
「リィナ!下がれ!」
「だ、大丈夫です!」
下がるのは苦手だ。
でも下がらないと、守れない。
リィナは自分に言い聞かせながら、少し後ろへ退いた。
その時、カイが小さく言った。
「無理しないで。君は、前に出る係じゃない」
「……でも」
「でも、守りたい?」
リィナは小さく頷いた。
「……うん」
カイは少しだけ目を細めた。
「その気持ち、好き」
「えっ」
また“好き”が出た。
リィナの思考が止まる。
(これ、仲間って言うの!?)
(仲間って“好き”って言うの!?)
でも戦闘中だ。
今は考えている場合じゃない。
リィナは鈴を握り直し、回復の光を広げた。
戦いは、少しずつ優勢になっていく。
カイの支援が的確すぎる。
ガラムとミラの動きが噛み合っていく。
そして最後の一匹が倒れた時。
草原に、静けさが戻った。
ガラムが大きく息を吐く。
「……終わった」
ミラが肩を回しながら、カイを見た。
「カイ、やっぱり今日の動き変じゃない?」
「変?」
「回復役を守りすぎ」
リィナが思わず口を挟む。
「えっ、守ってくれるの普通じゃないですか?」
ミラが笑った。
「普通じゃないよ。普通は“必要最低限”」
「必要最低限……」
「カイは“過剰”」
過剰。
その言葉が、リィナの胸に落ちた。
過剰に守られた。
過剰に気にかけられた。
過剰に褒められた。
(……でも、嫌じゃない)
むしろ――
嬉しい。
カイがふわっと笑って言った。
「だってリィナ、転ぶから」
「転ばないです!」
「転びかけた」
「か、かけただけです!」
「可愛い」
「えっ」
また。
また可愛いって言った。
リィナは真っ赤になる。
ガラムが呆れた声で言った。
「お前らもう付き合え」
「付き合ってません!」
リィナが即答した。
カイは少しだけ、間を置いた。
「……付き合うって、どういう意味?」
リィナ「え?」
ガラム「は?」
ミラ「は?」
草原に、三人分の「は?」が響いた。
リィナは慌ててカイに説明する。
「えっと、その……恋人、みたいな……」
カイはゆっくり頷いた。
「恋人……へぇ」
そして、ふわっと微笑む。
「じゃあ、まだ仲間でいい」
「うん、仲間です!」
リィナは安心して頷いた。
――カイの目が、ほんの少しだけ揺れた。
(……まだ、仲間でいい)
(“まだ”って言った)
(俺、何を期待してる?)
そんな顔をしたのは一瞬で、すぐにまたふわふわに戻る。
ミラが肩をすくめた。
「リィナ、あんた面白いね」
「え?」
「カイをそのままにしてるの、初めて見る」
リィナは首を傾げた。
「そのまま……?」
「カイって、誰とでもうまくやるでしょ?」
「うん……優しい」
「そう。うまくやる。でもね――」
ミラは意味深に笑った。
「うまくやりすぎる男は、信用ならないのよ」
「えっ」
リィナの胸が、少しだけひやっとした。
でもすぐに、カイがのんびり言う。
「信用ならないって言われた」
「言ったね」
「じゃあ僕、信用されるように頑張る」
「頑張る方向それでいいの?」
「いいよ。リィナに信用されたい」
リィナの心臓が、また跳ねる。
(信用……されたい……?)
(え、なんか、甘くない……?)
リィナは混乱しつつも、鈴を握り直した。
(でも、いい)
仲間がいるって、心強い。
守られるって、嬉しい。
一緒に戦うって、温かい。
そして――
(カイくん、ふわふわで優しくて、頼れて……)
(……なんか、すごく好きかも)
リィナは、ぼんやり思った。
でもその“好き”が
仲間の好きなのか、恋の好きなのか――
まだ分からない。
分からないまま、笑ってしまう。
カイはそんなリィナの横顔を見て、ほんの少しだけ息を飲んだ。
(……やばい)
(天然演技で安全圏にいるはずなのに)
(この子、距離が近い。無防備。まっすぐ)
(俺の策が、全部“良い人”で終わる)
(……それが一番、困る)
・
帰り道、リィナが小さく言った。
「カイくん、今日……楽しかったね」
「うん。楽しかった」
「仲間って、あったかいね」
「……そうだね」
カイの声が、少しだけ低くなる。
リィナは気づかず笑う。
「明日も、一緒に依頼行ける?」
「……行く」
“行ける?”じゃなくて“行く”。
そんな答え方に変わったことも、
リィナは気づかない。
=======
次回、
第3話「回復役、守られすぎ問題」
ギルドで噂が広がり、カイの“天然”が揺らぎ始めます♡
空が大きくて、風がまっすぐ吹いて、草がざわざわ揺れている。
その音が、妙に落ち着く――はずなのに。
リィナは今、落ち着いていなかった。
なぜなら。
(……みんな、歩くの速い……!)
パーティの先頭を行く戦士のガラムは、鎧の重さなんて関係ないみたいにずんずん進む。
弓の女性――ミラは草を踏む音すら小さく、軽やかに。
そして、少し後ろにカイ。
カイだけは、リィナの隣にいる。
リィナの歩幅と同じ速度で。
(優しい……)
(やっぱり仲間……)
心がぽっと温かくなったのも束の間、リィナはすぐに別のことに気づいてしまった。
(……あれ?)
カイが、さっきから一度も“草”を踏んでいない。
いや、正確には踏んでるんだけど――
歩く場所がいつも“平ら”で、リィナがつまずきそうな所を避けている。
(え、すごい…)
(地面、見てる…?)
リィナが思わずカイを見上げると、カイはにこっとして言った。
「段差、嫌い?」
「えっ……」
「嫌いそう」
なぜ分かった。
リィナは軽くパニックになった。
「き、嫌いというか……あ、えっと……私、ちょっと遅いので……」
「遅いの、可愛いよ」
「えっ」
心臓がきゅってなった。
(可愛いって言った!?)
(待って、これは……“仲間”の会話?)
リィナが固まっている間に、カイはさらっと続けた。
「ちゃんと足元見てて偉い」
「……え、えへへ……」
褒められると弱い。
褒められ慣れていないから、すぐに嬉しくなる。
しかも、“遅い”を褒められるのは初めてだった。
(遅いのが……可愛い……?)
分からないけど、嬉しい。
嬉しいから笑ってしまう。
すると前を行くミラが振り返った。
「……なに、その距離。近くない?」
「近い?」
「近いよ」
ミラの視線が鋭い。
リィナは慌てて離れようとしたが、草原のちょっとした凹みに足を取られ、ふらついた。
「あっ――」
転びかけた瞬間。
カイの手が、すっと伸びてきて、リィナの腕を支えた。
軽く。
でも確実に。
「大丈夫?」
「だいじょ……ぶ……」
支えられたまま、リィナは固まった。
(……え、手……)
(手、あったかい……)
腕を掴まれているのに痛くない。
怖くない。
むしろ、安心する。
「……うん。歩こ」
「は、はい」
リィナが立ち直ったのを確認してから、カイは自然に手を離した。
離し方まで自然すぎて、リィナは逆に恥ずかしくなる。
ガラムが前から叫んだ。
「おい!いちゃつくな!」
「いちゃついてない!」
リィナは反射で否定した。
が、否定した後に気づく。
(えっ!?今の流れ、いちゃついて見えたの!?)
そして遅れて顔が赤くなる。
カイは涼しい顔で言った。
「仲間を守っただけだよ」
「仲間…ねぇ」
ミラが、意味深に笑った。
(え、え、え……)
リィナは頭の中が忙しくなる。
仲間って、こんなにドキドキするんだっけ。
・
草原の奥、少し背の高い草が集まった場所で、ガラムが拳を握った。
「来るぞ」
そこにいたのは――
黒い毛並みに赤い目の、狼のような魔獣だった。
一匹じゃない。
二匹。三匹。
草の中から、低い唸り声が連なって聞こえる。
リィナは思わず息を飲んだ。
(……怖い)
でも、それ以上に。
(……私が、守らなきゃ)
胸元の鈴を握る。
鈴が小さく鳴る。
それだけで、心が少しだけ落ち着く。
ガラムが前に出る。
「ミラ、援護!」
「了解!」
矢が飛ぶ。
魔獣が跳ぶ。
ガラムの剣が唸る。
戦闘が始まった。
リィナは後ろに下がりながら、カイの動きを見た。
補助術師――というから、後方支援の人だと思っていた。
でもカイは、迷いなく“全体”を見ている。
目線が動く。
空気の流れを読むみたいに。
そして、ぽん、と軽い声で言った。
「ガラム、右から二匹来る」
「分かってる!」
ガラムが叫んだ直後、右から本当に二匹出てきた。
(当たった……)
リィナが驚いている間に、カイは手を軽く振った。
淡い光が広がり、地面の草が一瞬だけ硬化する。
魔獣の足が、わずかに引っかかった。
その一瞬が、致命的だった。
ガラムの剣が一匹を叩き落とす。
ミラの矢がもう一匹の目を狙う。
(すごい……)
(え、カイくん……頼れる……)
リィナの“仲間発見喜び”が、別方向に加速する。
(仲間なのに……すごい……)
(ふわふわ界の住人のくせに……!)
――ん?
自分の心の声に、自分で引っかかった。
(ふわふわ界の住人のくせに、って何?)
でもまあ、すごいものはすごい。
そんなことを考えていたら、突然。
ガラムの腕に、魔獣の爪が食い込んだ。
「くっ……!」
血が飛ぶ。
ガラムの動きが一瞬鈍る。
リィナの心臓が跳ねた。
(回復!)
リィナは鈴を鳴らした。
リン、と澄んだ音が草原に広がる。
光がガラムの腕に集まり、傷がふわっと閉じていく。
「……助かった」
ガラムが短く言った。
その声が少しだけ柔らかくて、リィナは嬉しくなった。
(役に立てた…!)
その瞬間、別の魔獣がリィナへ向かって跳んできた。
「――っ!」
リィナは反射で身を引いた。
でも遅い。間に合わない。
(やば……)
――次の瞬間。
カイが、リィナの前に出た。
ふわっと。
まるで“風が動いた”みたいに。
彼の手が光る。
透明な壁が生まれて、魔獣の突進を弾き返した。
「……大丈夫?」
カイが振り返る。
その声は柔らかいのに――
目だけが、少しだけ冷たい。
(え……)
リィナは息を飲む。
(カイくん……今、ちょっと怖かった……?)
でもその冷たさは一瞬で消えた。
カイはすぐに笑って言った。
「びっくりしたね」
「……う、うん……ありがとう……」
胸がどくどくしている。
怖かったからじゃない。
安心したからでもない。
(……守られた)
その事実が、ただ、熱い。
ガラムが叫ぶ。
「リィナ!下がれ!」
「だ、大丈夫です!」
下がるのは苦手だ。
でも下がらないと、守れない。
リィナは自分に言い聞かせながら、少し後ろへ退いた。
その時、カイが小さく言った。
「無理しないで。君は、前に出る係じゃない」
「……でも」
「でも、守りたい?」
リィナは小さく頷いた。
「……うん」
カイは少しだけ目を細めた。
「その気持ち、好き」
「えっ」
また“好き”が出た。
リィナの思考が止まる。
(これ、仲間って言うの!?)
(仲間って“好き”って言うの!?)
でも戦闘中だ。
今は考えている場合じゃない。
リィナは鈴を握り直し、回復の光を広げた。
戦いは、少しずつ優勢になっていく。
カイの支援が的確すぎる。
ガラムとミラの動きが噛み合っていく。
そして最後の一匹が倒れた時。
草原に、静けさが戻った。
ガラムが大きく息を吐く。
「……終わった」
ミラが肩を回しながら、カイを見た。
「カイ、やっぱり今日の動き変じゃない?」
「変?」
「回復役を守りすぎ」
リィナが思わず口を挟む。
「えっ、守ってくれるの普通じゃないですか?」
ミラが笑った。
「普通じゃないよ。普通は“必要最低限”」
「必要最低限……」
「カイは“過剰”」
過剰。
その言葉が、リィナの胸に落ちた。
過剰に守られた。
過剰に気にかけられた。
過剰に褒められた。
(……でも、嫌じゃない)
むしろ――
嬉しい。
カイがふわっと笑って言った。
「だってリィナ、転ぶから」
「転ばないです!」
「転びかけた」
「か、かけただけです!」
「可愛い」
「えっ」
また。
また可愛いって言った。
リィナは真っ赤になる。
ガラムが呆れた声で言った。
「お前らもう付き合え」
「付き合ってません!」
リィナが即答した。
カイは少しだけ、間を置いた。
「……付き合うって、どういう意味?」
リィナ「え?」
ガラム「は?」
ミラ「は?」
草原に、三人分の「は?」が響いた。
リィナは慌ててカイに説明する。
「えっと、その……恋人、みたいな……」
カイはゆっくり頷いた。
「恋人……へぇ」
そして、ふわっと微笑む。
「じゃあ、まだ仲間でいい」
「うん、仲間です!」
リィナは安心して頷いた。
――カイの目が、ほんの少しだけ揺れた。
(……まだ、仲間でいい)
(“まだ”って言った)
(俺、何を期待してる?)
そんな顔をしたのは一瞬で、すぐにまたふわふわに戻る。
ミラが肩をすくめた。
「リィナ、あんた面白いね」
「え?」
「カイをそのままにしてるの、初めて見る」
リィナは首を傾げた。
「そのまま……?」
「カイって、誰とでもうまくやるでしょ?」
「うん……優しい」
「そう。うまくやる。でもね――」
ミラは意味深に笑った。
「うまくやりすぎる男は、信用ならないのよ」
「えっ」
リィナの胸が、少しだけひやっとした。
でもすぐに、カイがのんびり言う。
「信用ならないって言われた」
「言ったね」
「じゃあ僕、信用されるように頑張る」
「頑張る方向それでいいの?」
「いいよ。リィナに信用されたい」
リィナの心臓が、また跳ねる。
(信用……されたい……?)
(え、なんか、甘くない……?)
リィナは混乱しつつも、鈴を握り直した。
(でも、いい)
仲間がいるって、心強い。
守られるって、嬉しい。
一緒に戦うって、温かい。
そして――
(カイくん、ふわふわで優しくて、頼れて……)
(……なんか、すごく好きかも)
リィナは、ぼんやり思った。
でもその“好き”が
仲間の好きなのか、恋の好きなのか――
まだ分からない。
分からないまま、笑ってしまう。
カイはそんなリィナの横顔を見て、ほんの少しだけ息を飲んだ。
(……やばい)
(天然演技で安全圏にいるはずなのに)
(この子、距離が近い。無防備。まっすぐ)
(俺の策が、全部“良い人”で終わる)
(……それが一番、困る)
・
帰り道、リィナが小さく言った。
「カイくん、今日……楽しかったね」
「うん。楽しかった」
「仲間って、あったかいね」
「……そうだね」
カイの声が、少しだけ低くなる。
リィナは気づかず笑う。
「明日も、一緒に依頼行ける?」
「……行く」
“行ける?”じゃなくて“行く”。
そんな答え方に変わったことも、
リィナは気づかない。
=======
次回、
第3話「回復役、守られすぎ問題」
ギルドで噂が広がり、カイの“天然”が揺らぎ始めます♡
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