4 / 16
第3話「回復役、守られすぎ問題」
しおりを挟む
ギルドの酒場は、夜になると“別の戦場”になる。
昼間は依頼の受付でざわついていた空間が、
夜は酒と笑い声と武勇伝でいっぱいになるのだ。
「おい聞いたか!今日の草原の魔獣、あのパーティが片付けたらしいぞ!」
「回復役連れてたって!」
「回復役いるのに死人出なかったって、それだけで勝ちだろ!」
リィナは、その“別の戦場”の入り口で、今日もひと呼吸置いた。
(うぅ……人が多い……)
音が大きい。
笑い声が大きい。
肩と肩がぶつかる距離。
苦手。
でも行かないと――情報が入らない。
“回復術師は孤立すると死ぬ。”
ギルドで先輩に言われた言葉が、いつも頭の片隅にある。
リィナは意を決して扉を開けた。
ガラン、と鈴。
そして――
すぐに視線が集まった。
(……え?)
なんか、見られてる。
リィナは心臓がきゅっとなって、無意識に鈴を握った。
すると、少し離れた席から声が飛んできた。
「おっ!噂の回復役だ!」
「え、あの子!?」
「ふわふわしてるのに強いってやつ!」
(噂……?)
リィナの頭が真っ白になる。
(えっ私、噂になってるの!?)
(やだ、恥ずかしい……!)
その瞬間――
「リィナ」
背後から、のんびりした声。
振り返ると、カイがいた。
今日もふわふわ笑顔で、片手にパン……ではなく、今度はなぜか肉串を持っている。
(ギルド酒場って、食べ歩きする場所だったっけ……)
カイは当たり前みたいに言った。
「こっち。席取ってある」
「えっ、あ、ありがとう……」
リィナがカイの後ろをついて歩くと、
人の流れが自然に割れた。
(……え?)
カイが進むだけで、周りが避ける。
避け方が“自然すぎる”。
リィナは首を傾げた。
(みんな、カイくんのこと好きなのかな……?)
席に着くと、そこにはミラとガラムがいた。
ガラムが腕を組んで、リィナを見た。
「お前、噂になってるぞ」
「えっ……やだ……」
「“ふわふわのくせに回復が正確”だとよ」
褒められているのか、変なあだ名を付けられているのか分からない。
リィナは両手で頬を押さえた。
「や、やめてください……」
「悪い噂じゃねぇ」
ミラが笑う。「むしろ羨ましい噂」
リィナは小さく震える。
「でも、目立つの怖い……」
本音がぽろっと出た。
その瞬間、カイが即座に言った。
「じゃあ目立たないようにする」
「えっ?」
「僕が全部引き受ける」
ミラが即ツッコミを入れた。
「どうやって?」
カイは平然と答える。
「リィナのことを僕の後ろに置く」
ガラム「過保護か?」
カイ「そうかも」
認めた。
リィナは慌てて首を振る。
「だ、大丈夫だよ!私、後ろで回復する係だし!」
「うん。だから前に出ないで」
「前に出ないよ!」
「出そうだった」
「出てない!」
「出そうだった」
言い合いが小学生みたいになって、ミラが吹き出した。
「なにそれ。夫婦喧嘩?」
「夫婦じゃないです!」
リィナが即答する。
ガラムが頷く。
「夫婦じゃねぇな」
「えっ、そうなの?」
ミラが首を傾げる。「じゃあ何?」
リィナが困っている間に、カイがのんびり言った。
「仲間」
リィナ「仲間です!」
ミラ「……仲間って便利ね」
ガラム「便利だな」
酒場の空気が、じわっと笑いに変わる。
(は、恥ずかしい……)
リィナは鈴を握りしめた。
その時、隣の席から声がした。
「おいおい、回復役ちゃん。今度うちのパーティ来ない?」
「えっ」
声をかけてきたのは、派手なマントの男だった。
笑顔は爽やかだけど、目が笑ってない。
(うわ……苦手……)
リィナが固まった瞬間、カイが笑顔のまま言った。
「……やめといた方がいいですよ」
「え?」
男が眉をひそめる。「なんで?」
カイは相変わらずふわふわした顔で、さらっと答えた。
「彼女、うちの固定回復役だから」
「固定?」
「うん。僕の」
その言葉が、リィナの脳内で一回転した。
(僕の……?)
(え?今、私、所有物みたいに……!?)
でもカイの声は柔らかい。
優しい。
だから怒れない。
派手マント男が笑った。
「お前の回復役?お前、そんな独占するタイプだっけ?」
「するよ」
カイはにこっとしたまま言った。
ミラが小声で言う。
「……今のカイ、天然じゃない」
ガラム「圧あるな」
リィナは息を止めた。
(圧……?)
(え、カイくん……圧あるの?)
派手マント男が肩をすくめる。
「まぁいいや。回復役ちゃん、困ったら声かけて」
「は、はい……」
その男が去った瞬間、リィナは小さく息を吐いた。
「……こわかった……」
「分かる」
カイが短く言う。いつもより声が低い。
(え、カイくん、今……ちょっと怒ってる?)
リィナが恐る恐る見上げると、カイはすぐにふわっと笑って言った。
「ごめんね。変な人多いから」
「ううん……助けてくれてありがとう」
「当然」
当然。
その言い方が――
“仲間”の距離じゃない気がして、リィナは胸が熱くなる。
ミラが頬杖をついて、リィナを見た。
「リィナ、気づいてないの?」
「え?」
「カイ、あんたの前だと変だよ」
リィナは首を傾げた。
「変……?」
「うん。過保護。独占。あと――」
ミラが笑う。「妙に楽しそう」
リィナは顔が赤くなる。
「そ、そんな……私、普通だよ……」
「普通じゃないよ」
ガラムが淡々と言う。
リィナが固まると、カイがのんびり口を挟んだ。
「リィナは普通だよ。ちょっと可愛いだけ」
「えっ」
また可愛い。
酒場の熱気のせいじゃなく、リィナの顔が熱くなる。
「か、かわいくないよ……!」
「可愛いよ」
「……なんでそんなに言うの?」
リィナがぽろっと聞いてしまった。
その瞬間。
カイの動きが止まった。
肉串を持った手が、宙で止まる。
まばたきが遅れる。
笑顔が一拍遅れて戻る。
(あれ?)
リィナが不安になった時、カイはふわっと言った。
「言いたいから」
「えっ」
「褒めたいから」
「……えっ」
シンプルすぎて、逆に破壊力がある。
ミラが天井を仰いだ。
「ほらね。変」
ガラムが頷く。
「変だな」
リィナは頭の中がぐるぐるする。
(褒めたいから……?)
(言いたいから……?)
そんな理由で、可愛いって言うものなの?
リィナは分からない。
分からないけど、嬉しい。
嬉しいから笑ってしまう。
そして、笑った瞬間。
カイの目が、ほんの少しだけ“揺れた”。
(……この顔)
(これが見たいから言ってる?)
(いや、違う。俺はただ――)
(……やばい)
カイは心の中で、じわっと自覚してしまう。
(天然演技で安全圏にいるはずなのに)
(この子の笑顔、刺さりすぎる)
(“仲間”って言葉の盾が薄い)
(……薄いのに、本人だけが気づいてない)
――その時。
酒場の別の席から、誰かが叫んだ。
「おーい!カイ!お前、今日、回復役ちゃん守りすぎだろ!」
「見た見た!前に出て庇ってたぞ!」
「軍師が前出るなよ!」
一気に笑いが起きる。
リィナは縮こまった。
(やだ……また噂……)
でもカイは涼しい顔で返した。
「だって転ぶから」
「転ばないです!」
リィナが反射で返す。
酒場が爆笑した。
「回復役ちゃん、本人否定してるぞ!」
「かわいい!」
「固定回復役決まったな!」
リィナは顔を覆いたくなる。
でも――
その中で、カイだけが静かに言った。
「……決まってる」
聞こえるか聞こえないかの声で。
リィナの胸が、どくん、と鳴った。
(え……)
今の、何?
聞き返そうとした時、ガラムがどん、と机に肘をついた。
「よし、明日も依頼だ」
ミラ「賛成」
「リィナ、来れるか?」
「は、はい……!」
返事をした瞬間、リィナは思った。
(私……怖いのに)
(目立つの嫌なのに)
(……でも)
(この人たちと一緒なら、頑張れる)
そう思えたのは、
きっと隣に“仲間”がいるから――
……だと、思いたい。
カイがリィナの手元をちらっと見た。
「鈴、鳴ってない?」
「えっ?」
リィナは気づく。
自分の指が、鈴をきゅっと握りしめすぎて、
小さく鳴っていた。
リン。
それは緊張の音じゃなく――
どこか、嬉しさの音だった。
カイは微笑んだ。
「……その音、好き」
「えっ」
リィナが固まる。
(また好きって言った!?)
ミラが呆れたように笑う。
「カイ、もう自分で何言ってるか分かってる?」
カイはふわっと言った。
「分かってるよ」
「じゃあやめなさい」
「やだ」
即答。
ガラムが飲み物を飲み干して言った。
「もう付き合え」
「付き合ってません!!」
リィナが叫ぶ。
酒場がまた爆笑した。
カイは笑わなかった。
笑う代わりに、リィナを見て――
とても静かに言った。
「……まだ、仲間」
「うん、仲間!」
リィナは頷く。
その言葉に安心してしまう。
でもカイは、ほんの少しだけ寂しそうに目を伏せた。
(……まだ)
(まだ、っていつまでだ)
・
その夜。
リィナが宿へ帰る道で、ふと立ち止まる。
胸が熱い。
顔が熱い。
(仲間って……こんなに心が忙しいの?)
自分に問いかけても、答えは出ない。
でも一つだけ分かる。
――明日も、カイに会いたい。
リィナは小さく鈴を鳴らして、歩き出した。
リン。
その音の先に、何が待っているかも知らずに。
=======
次回、
第4話「ギルドの噂『カイ、恋してる説』」
噂が確信に変わり、カイの“天然”が崩れ始めます♡
昼間は依頼の受付でざわついていた空間が、
夜は酒と笑い声と武勇伝でいっぱいになるのだ。
「おい聞いたか!今日の草原の魔獣、あのパーティが片付けたらしいぞ!」
「回復役連れてたって!」
「回復役いるのに死人出なかったって、それだけで勝ちだろ!」
リィナは、その“別の戦場”の入り口で、今日もひと呼吸置いた。
(うぅ……人が多い……)
音が大きい。
笑い声が大きい。
肩と肩がぶつかる距離。
苦手。
でも行かないと――情報が入らない。
“回復術師は孤立すると死ぬ。”
ギルドで先輩に言われた言葉が、いつも頭の片隅にある。
リィナは意を決して扉を開けた。
ガラン、と鈴。
そして――
すぐに視線が集まった。
(……え?)
なんか、見られてる。
リィナは心臓がきゅっとなって、無意識に鈴を握った。
すると、少し離れた席から声が飛んできた。
「おっ!噂の回復役だ!」
「え、あの子!?」
「ふわふわしてるのに強いってやつ!」
(噂……?)
リィナの頭が真っ白になる。
(えっ私、噂になってるの!?)
(やだ、恥ずかしい……!)
その瞬間――
「リィナ」
背後から、のんびりした声。
振り返ると、カイがいた。
今日もふわふわ笑顔で、片手にパン……ではなく、今度はなぜか肉串を持っている。
(ギルド酒場って、食べ歩きする場所だったっけ……)
カイは当たり前みたいに言った。
「こっち。席取ってある」
「えっ、あ、ありがとう……」
リィナがカイの後ろをついて歩くと、
人の流れが自然に割れた。
(……え?)
カイが進むだけで、周りが避ける。
避け方が“自然すぎる”。
リィナは首を傾げた。
(みんな、カイくんのこと好きなのかな……?)
席に着くと、そこにはミラとガラムがいた。
ガラムが腕を組んで、リィナを見た。
「お前、噂になってるぞ」
「えっ……やだ……」
「“ふわふわのくせに回復が正確”だとよ」
褒められているのか、変なあだ名を付けられているのか分からない。
リィナは両手で頬を押さえた。
「や、やめてください……」
「悪い噂じゃねぇ」
ミラが笑う。「むしろ羨ましい噂」
リィナは小さく震える。
「でも、目立つの怖い……」
本音がぽろっと出た。
その瞬間、カイが即座に言った。
「じゃあ目立たないようにする」
「えっ?」
「僕が全部引き受ける」
ミラが即ツッコミを入れた。
「どうやって?」
カイは平然と答える。
「リィナのことを僕の後ろに置く」
ガラム「過保護か?」
カイ「そうかも」
認めた。
リィナは慌てて首を振る。
「だ、大丈夫だよ!私、後ろで回復する係だし!」
「うん。だから前に出ないで」
「前に出ないよ!」
「出そうだった」
「出てない!」
「出そうだった」
言い合いが小学生みたいになって、ミラが吹き出した。
「なにそれ。夫婦喧嘩?」
「夫婦じゃないです!」
リィナが即答する。
ガラムが頷く。
「夫婦じゃねぇな」
「えっ、そうなの?」
ミラが首を傾げる。「じゃあ何?」
リィナが困っている間に、カイがのんびり言った。
「仲間」
リィナ「仲間です!」
ミラ「……仲間って便利ね」
ガラム「便利だな」
酒場の空気が、じわっと笑いに変わる。
(は、恥ずかしい……)
リィナは鈴を握りしめた。
その時、隣の席から声がした。
「おいおい、回復役ちゃん。今度うちのパーティ来ない?」
「えっ」
声をかけてきたのは、派手なマントの男だった。
笑顔は爽やかだけど、目が笑ってない。
(うわ……苦手……)
リィナが固まった瞬間、カイが笑顔のまま言った。
「……やめといた方がいいですよ」
「え?」
男が眉をひそめる。「なんで?」
カイは相変わらずふわふわした顔で、さらっと答えた。
「彼女、うちの固定回復役だから」
「固定?」
「うん。僕の」
その言葉が、リィナの脳内で一回転した。
(僕の……?)
(え?今、私、所有物みたいに……!?)
でもカイの声は柔らかい。
優しい。
だから怒れない。
派手マント男が笑った。
「お前の回復役?お前、そんな独占するタイプだっけ?」
「するよ」
カイはにこっとしたまま言った。
ミラが小声で言う。
「……今のカイ、天然じゃない」
ガラム「圧あるな」
リィナは息を止めた。
(圧……?)
(え、カイくん……圧あるの?)
派手マント男が肩をすくめる。
「まぁいいや。回復役ちゃん、困ったら声かけて」
「は、はい……」
その男が去った瞬間、リィナは小さく息を吐いた。
「……こわかった……」
「分かる」
カイが短く言う。いつもより声が低い。
(え、カイくん、今……ちょっと怒ってる?)
リィナが恐る恐る見上げると、カイはすぐにふわっと笑って言った。
「ごめんね。変な人多いから」
「ううん……助けてくれてありがとう」
「当然」
当然。
その言い方が――
“仲間”の距離じゃない気がして、リィナは胸が熱くなる。
ミラが頬杖をついて、リィナを見た。
「リィナ、気づいてないの?」
「え?」
「カイ、あんたの前だと変だよ」
リィナは首を傾げた。
「変……?」
「うん。過保護。独占。あと――」
ミラが笑う。「妙に楽しそう」
リィナは顔が赤くなる。
「そ、そんな……私、普通だよ……」
「普通じゃないよ」
ガラムが淡々と言う。
リィナが固まると、カイがのんびり口を挟んだ。
「リィナは普通だよ。ちょっと可愛いだけ」
「えっ」
また可愛い。
酒場の熱気のせいじゃなく、リィナの顔が熱くなる。
「か、かわいくないよ……!」
「可愛いよ」
「……なんでそんなに言うの?」
リィナがぽろっと聞いてしまった。
その瞬間。
カイの動きが止まった。
肉串を持った手が、宙で止まる。
まばたきが遅れる。
笑顔が一拍遅れて戻る。
(あれ?)
リィナが不安になった時、カイはふわっと言った。
「言いたいから」
「えっ」
「褒めたいから」
「……えっ」
シンプルすぎて、逆に破壊力がある。
ミラが天井を仰いだ。
「ほらね。変」
ガラムが頷く。
「変だな」
リィナは頭の中がぐるぐるする。
(褒めたいから……?)
(言いたいから……?)
そんな理由で、可愛いって言うものなの?
リィナは分からない。
分からないけど、嬉しい。
嬉しいから笑ってしまう。
そして、笑った瞬間。
カイの目が、ほんの少しだけ“揺れた”。
(……この顔)
(これが見たいから言ってる?)
(いや、違う。俺はただ――)
(……やばい)
カイは心の中で、じわっと自覚してしまう。
(天然演技で安全圏にいるはずなのに)
(この子の笑顔、刺さりすぎる)
(“仲間”って言葉の盾が薄い)
(……薄いのに、本人だけが気づいてない)
――その時。
酒場の別の席から、誰かが叫んだ。
「おーい!カイ!お前、今日、回復役ちゃん守りすぎだろ!」
「見た見た!前に出て庇ってたぞ!」
「軍師が前出るなよ!」
一気に笑いが起きる。
リィナは縮こまった。
(やだ……また噂……)
でもカイは涼しい顔で返した。
「だって転ぶから」
「転ばないです!」
リィナが反射で返す。
酒場が爆笑した。
「回復役ちゃん、本人否定してるぞ!」
「かわいい!」
「固定回復役決まったな!」
リィナは顔を覆いたくなる。
でも――
その中で、カイだけが静かに言った。
「……決まってる」
聞こえるか聞こえないかの声で。
リィナの胸が、どくん、と鳴った。
(え……)
今の、何?
聞き返そうとした時、ガラムがどん、と机に肘をついた。
「よし、明日も依頼だ」
ミラ「賛成」
「リィナ、来れるか?」
「は、はい……!」
返事をした瞬間、リィナは思った。
(私……怖いのに)
(目立つの嫌なのに)
(……でも)
(この人たちと一緒なら、頑張れる)
そう思えたのは、
きっと隣に“仲間”がいるから――
……だと、思いたい。
カイがリィナの手元をちらっと見た。
「鈴、鳴ってない?」
「えっ?」
リィナは気づく。
自分の指が、鈴をきゅっと握りしめすぎて、
小さく鳴っていた。
リン。
それは緊張の音じゃなく――
どこか、嬉しさの音だった。
カイは微笑んだ。
「……その音、好き」
「えっ」
リィナが固まる。
(また好きって言った!?)
ミラが呆れたように笑う。
「カイ、もう自分で何言ってるか分かってる?」
カイはふわっと言った。
「分かってるよ」
「じゃあやめなさい」
「やだ」
即答。
ガラムが飲み物を飲み干して言った。
「もう付き合え」
「付き合ってません!!」
リィナが叫ぶ。
酒場がまた爆笑した。
カイは笑わなかった。
笑う代わりに、リィナを見て――
とても静かに言った。
「……まだ、仲間」
「うん、仲間!」
リィナは頷く。
その言葉に安心してしまう。
でもカイは、ほんの少しだけ寂しそうに目を伏せた。
(……まだ)
(まだ、っていつまでだ)
・
その夜。
リィナが宿へ帰る道で、ふと立ち止まる。
胸が熱い。
顔が熱い。
(仲間って……こんなに心が忙しいの?)
自分に問いかけても、答えは出ない。
でも一つだけ分かる。
――明日も、カイに会いたい。
リィナは小さく鈴を鳴らして、歩き出した。
リン。
その音の先に、何が待っているかも知らずに。
=======
次回、
第4話「ギルドの噂『カイ、恋してる説』」
噂が確信に変わり、カイの“天然”が崩れ始めます♡
0
あなたにおすすめの小説
『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』
ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。
現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。
醜女の私と政略結婚した旦那様の様子がおかしい
サトウミ
恋愛
この国一番の醜女である私と結婚したイバン様。眉目秀麗で数多の女性と浮き名を流した彼は、不祥事を起こしたせいで私なんかと結婚することになってしまった。それでも真面目な彼は、必死に私を愛そうと努力してくださる。
──無駄な努力だ。
こんな色白で目と胸の大きい女を、愛せるはずがない。
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
お妃候補に興味はないのですが…なぜか辞退する事が出来ません
Karamimi
恋愛
13歳の侯爵令嬢、ヴィクトリアは体が弱く、空気の綺麗な領地で静かに暮らしていた…というのは表向きの顔。実は彼女、領地の自由な生活がすっかり気に入り、両親を騙してずっと体の弱いふりをしていたのだ。
乗馬や剣の腕は一流、体も鍛えている為今では風邪一つひかない。その上非常に頭の回転が速くずる賢いヴィクトリア。
そんな彼女の元に、両親がお妃候補内定の話を持ってきたのだ。聞けば今年13歳になられたディーノ王太子殿下のお妃候補者として、ヴィクトリアが選ばれたとの事。どのお妃候補者が最も殿下の妃にふさわしいかを見極めるため、半年間王宮で生活をしなければいけないことが告げられた。
最初は抵抗していたヴィクトリアだったが、来年入学予定の面倒な貴族学院に通わなくてもいいという条件で、お妃候補者の話を受け入れたのだった。
“既にお妃には公爵令嬢のマーリン様が決まっているし、王宮では好き勝手しよう”
そう決め、軽い気持ちで王宮へと向かったのだが、なぜかディーノ殿下に気に入られてしまい…
何でもありのご都合主義の、ラブコメディです。
よろしくお願いいたします。
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
家を乗っ取られて辺境に嫁がされることになったら、三食研究付きの溺愛生活が待っていました
ミズメ
恋愛
ライラ・ハルフォードは伯爵令嬢でありながら、毎日魔法薬の研究に精を出していた。
一つ結びの三つ編み、大きな丸レンズの眼鏡、白衣。""変わり者令嬢""と揶揄されながら、信頼出来る仲間と共に毎日楽しく研究に励む。
「大変です……!」
ライラはある日、とんでもない事実に気が付いた。作成した魔法薬に、なんと"薄毛"の副作用があったのだ。その解消の為に尽力していると、出席させられた夜会で、伯爵家を乗っ取った叔父からふたまわりも歳上の辺境伯の後妻となる婚約が整ったことを告げられる。
手詰まりかと思えたそれは、ライラにとって幸せへと続く道だった。
◎さくっと終わる短編です(10話程度)
◎薄毛の話題が出てきます。苦手な方(?)はお気をつけて…!
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる