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Chapter 2 エリュシフォン
episode 3. 呼応
しおりを挟むアストレイカー内部。
『第四惑星グラントの調査任務――データを受信しました』
操縦桿から手を離したセリオンは自動渡航モードへ切り替え、ホロに浮かんだ任務内容を確認していく。
横から、静かに覗き込む影。
エルだ。
その存在が視界に入る度、セリオンの集中力は霧散していく。
『操縦者。アウトライダーではなく、任務内容を見てください』
「見てるって!今まさに!今!!」
セリオンの慌てっぷりに、
エルは小さく喉を鳴らして笑う。
「異変は炭鉱内部か。麓に町が一つある。聞き込みはそこが一番効率的だろうな」
「そうだな」
セリオンが頷くと、
エルの膝で丸まっていた白い塊――ガボンが寝返りを打つ。
「ガボンは――留守番させた方が安全かな」
「ガボ……」
呼びかけると、ガボンは寂しそうに小さく鳴く。
セリオンは眉を下げ、そっと頭を撫でた。
そんな二人の様子を見て――
エルが、不意に唇を持ち上げる。
「へぇ。……じゃあ、二人っきりだな」
固まるセリオン。
『心拍数上昇中――』
「だまれ!ストレイ!エルも揶揄うなって!!俺がウブなのわかってて言ってんだろ!」
「自分でウブって言うのか。可愛いな」
「かっ……そ、そういうのやめろ!!」
セリオンが顔を覆ってのたうち回るのを、
エルは愉快そうに眺める。
『操縦者。心拍の乱れは航行精度に影響します。深呼吸を推奨します』
「ストレイのせいだろ!!」
『私は事実を伝えているだけです。なお、エルの接近時、あなたの心拍の跳ね上がり率が顕著です』
「分析するなーーーッ!」
エルが肩を揺らして笑う。
「大変だな、お前」
愕然とエルを見るセリオン。
「…………? 誰のせいだと?」
そんな騒がしいやり取りの向こうで、
アストレイカーの窓外には、ゆっくりと第四惑星〈グラント〉が姿を現し始めていた。
――――
第一惑星〈ヴァルガルド〉
軍事中枢・黒鋼の城塞艦〈バスティオン〉
――最高司令官室。
漆黒の広間に、低い振動音が満ちていた。
巨大な椅子に身を預ける男がひとり。
ヴァルガルド軍
最高司令官ガルザード。
軍事国家における、最高権力者。
ヴァルガルド種の中でも最大級の巨躯。
額から伸びた二本の湾曲角は、獣の牙を思わせる。
背に負う斧は、鈍い光を返していた。
「失礼いたします!」
鋭いノック。
隊員が直立不動で駆け込む。
「“ゼロ・コーラス”、呼応実験――ほぼ成功です。第三、第四、第五――各地で“力”が覚醒しました!」
ガルザードの口角がゆっくりと上がる。
「範囲は」
地鳴りのような声。
「第六惑星オルドスまで到達しております。ただし――」
言い淀む隊員。
ガルザードの瞳が細く光る。
「言え」
「呼応は成功いたしましたが……呼応したターゲットが、すべて消失しました」
静寂。
ガルザードは大きく腕を組む。
その瞬間、壁面の通信端末が自動的に起動した。
『ターゲットは“呼応”によって全生命力を消費するようです。これ以上の実験は、生体の数を減らす恐れがあります』
冷徹な分析。
機械とも、生体とも判別できない声。
ガルザードは顎をわずかに上げ、隊員へ視線を戻す。
「幼体の捕獲状況は」
「複数の幼体が生存している可能性があります。現在、全力で捜索中です」
カタン、と椅子が鳴る。
ガルザードが立ち上がる。
『幼体はエコーが未発達。呼応の効率は劣ります。できれば、複数体の確保が望ましい』
ガルザードは窓辺に歩み寄り、城塞の中枢、
装甲に囲まれた巨大な円形の窪地を見下ろした。
その奥、バスティオンの骨格をくり抜いて造られたコア・ドックの中心で、黒い円形の巨大装置が脈動している。
中心から白い光が樹脈のように走り、
淡く、静かに、音もなく広がっていく。
装置の中央は空洞で、そこだけ闇が“沈んで”いるように見えた。
――〈ゼロ・コーラス〉。
バスティオンの船体深部に係留された、未知の残響装置。
その一振動が、銀河各地で“異変”を目覚めさせている。
「急げ。幼体を確保しろ」
静かに、しかし戦場を震わせるような声で告げた。
「警備隊に先を越されるな」
光を映したガルザードの赤い瞳が、わずかに細まる。
窓の下で揺れるゼロ・コーラスは、
まるで次の“呼応”を待つかのように
不気味な静寂をまとっていた。
――――
第二惑星〈エデニア〉
深海・銀河警備隊秘匿本部――マリナス・ヴォールト
指揮卓に淡い光が走る。
セリオンへ随伴する《ストレイ》からの第一報だった。
オルカカがログを開こうとしたその時。
コン、コン。
「失礼します」
秘匿情報局局長・シグラが入室した。
濃緑の髪が薄光の中で揺れ、静かに敬礼する。
「シグラか。どうした」
「第一惑星にて、ヴァルガルド軍に動きが確認されました」
オルカカの表情が揺らぐ。
「続けろ」
「城塞艦〈バスティオン〉にて、巨大兵器の開発を進めている模様です」
「兵器、だと」
低く押し殺した声。
シグラは端末を操作しながら、慎重に言葉を選ぶ。
「現時点で詳細は不明です。しかし――ノードの反応がほぼ感知されません。おそらく“ノード非搭載型”、未知仕様の兵器と推測されます」
オルカカは顎に手を当て、深く考え込んだ。
「ノード非搭載……。この時代にか」
α銀河全域で広く使われているノード技術。
ノード無しで作られる巨大兵器など、古代アーク兵器か、あるいは――完全に未知の力で作られるもの。
嫌な予感が、胸の底に沈んでいく。
「承知した。シグラ、引き続き監視と調査を頼む。――くれぐれも」
「内密に、ですね」
シグラが短く頷く。
その目は落ち着いており、揺れがない。
オルカカの信頼が厚い理由がそこにある。
「助かる」
かすかな疲労を帯びた声に、シグラは敬礼し退室した。
扉が閉まる。
深海の静けさが戻る。
「ヴァルガルドの兵器、そして各地の異常。無関係とは思えんな」
オルカカは静かに息を吐き、再び《ストレイ》の報告に目を戻す。
スクロールした瞬間、見慣れぬ記述を見つけて目を細めた。
――〈新規同行者:エル〉
――〈職業:アウトライダー(傭兵)〉
――〈犬型生体:ガボン(仮称)〉
オルカカはこめかみを押さえた。
「……全く、何をしておられる」
深海に乾いたため息が響く。
しばらくして、オルカカは端末を操作し、
第四惑星での調査任務の詳細データをセリオンへ送信した。
「気をつけろよ。――全員、だ」
その呟きは、深海にゆっくりと溶けていった。
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