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Chapter 2 エリュシフォン
episode 5. 炭鉱
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炭鉱内部へ足を踏み入れる。
天井や壁のあちこちには、ノード稼働の採掘機がむき出しで設置されており、そこから掘り出された鉱石を小型ドローンが忙しなく運んでいた。
足元は〈グラント・アイアン〉製の金属足場。二人はそれを慎重に踏みしめながら、上へと進んでいく。
セリオンが生体スキャンを起動した。
ホロに映し出される無数の反応点。
赤い光が、視界いっぱいに散らばる。
「うぉ、なんだここ。めちゃくちゃ反応あるな」
「炭鉱内は生態系が複雑だからな」
エルが歩きながら顎で示す。
「例えば、アレだ」
示された先。
壁面に張り付く、全長一メートルほどの巨大な甲虫。
ギチギチと身体を鳴らしながら、六本の脚で岩肌を捉えている。
「うへぇ」
セリオンは思わず顔をしかめた。
「お前の好物だろ」
エルがさらりと言う。
「さっき、後生大事に持ってたじゃねぇか」
「げっ!? まじかよ!?」
愕然とエルを振り返る。
「食わなくてよかった……」
エルは堪えきれないといった様子で、喉を鳴らして笑った。
「まぁ、あれのおかげで情報は仕入れられたがな」
一転して、声の調子が落ちる。
「……それより」
歩きながら、ふと横を見る。
「さっきだ。どうして、あの子供に話を聞いた?」
不意の問いに、セリオンは前を向いたまま考え込む。
そのまま歩みを続けて――
「うぉっ」
距離を詰めすぎて、エルにぶつかりそうになる。
気づけば、眼下にその顔。
「近い」
思わず咳払いし、視線を逸らす。
「目がさ」
少し間を置いて、ぽつりと言う。
「明らかに怯えてたんだよ。俺たちでも、あの店主にでもなくて」
視線を落としたまま、続ける。
「今にも、何か怖いものが襲ってくるって思ってるみたいな目だった」
「へぇ」
短い相槌。
エルはそれだけを零した。
「ただの脳筋じゃなかったんだな」
「誰が脳筋だ!」
即座に噛みつく。
エルは何も言わず、また歩き出した。
(第五部隊の戦闘評価は聞いていたが)
(ああいう“勘”もあるのか)
内心、わずかに評価が上がる。
エルが先導して進んでいると、不意に足が止まった。
そのまま、すっとセリオンの後ろへ回りこむ。
「……?」
怪訝に思い、前を見る。
「げっ」
足場一面。
さきほどの甲虫が、わらわらと群れて行く手を塞いでいた。
後ずさろうとした瞬間、エルの足が背中に当たる。
「ちょっ、おい! まじで、無理だから!」
必死に抗議する。
エルはそっぽを向いたまま、淡々と返した。
「俺は虫が嫌いだ」
「はぁ~~~……」
深い溜息。
セリオンは逃げ場のない虫たちに向き直り、剣を抜かず、鞘のまま先端で軽くつついた。
甲虫はギシギシと鳴くだけで動かない。
ちらりと後ろを見る。
エルは心底嫌そうな顔をしている。
「……よし」
意を決して、セリオンは虫の尻側を蹴り上げた。
ガサガサガサッ――
群れは一斉に散開し、足場は空いた。
「って、うわっ!」
足先に粘つく感触。
立ち止まり、必死に足を振って液体を飛ばす。
「あああ~~も~~!」
振り返る。
「ほら! もういないぞ!」
エルが、ようやくこちらを見る。
少しだけ――本当に少しだけ、照れたように口角を上げた。
「……よくやった」
その表情に、セリオンの胸が僅かに跳ねる。
エルは何事もなかったふうに前へ出て、再び歩き出した。
ほどなくして、二人は大きな空洞へと抜ける。
空洞の中には、壊れているのかどうかも判然としないメカの残骸が、あちこちに転がっていた。
壁には、小さな虫やトカゲに似た生物が無数に張り付いている。そこら中から突き出た透明な鉱石がライトを反射し、青白い光をちらちらと返していた。
少し進んだところで、奥の方から複数の足音が響いてくる。こちらに近づいてくる気配がした。
「生体からノード反応あり。人か?」
セリオンが足を止め、身構えた。
暗闇の奥から姿を現したのは、軍服を着たヴァルガルド種の男たち。ざっと十人ほどいる。
「ヴァルガルド兵か」
セリオンが舌打ちする。
「あぁ?なんだ、お前らは」
兵士の一人が睨みつけてきた。
セリオンが兵たちを見回すと、その端に立つ兵が、白い何かを抱えているのが目に入った。
子犬だった。
「ッ……!ガボン!?」
思わず目を見開く。
同時に通信が勝手に割り込んできた。
『ガボンではありません。ガボンは現在アストレイカーに搭載中。別個体と推測されます』
セリオンとエルが、ちらと視線を交わす。
エルが銃剣を抜き、銃口を子犬を抱えた兵士へ向けた。
「その犬をよこせ」
セリオンも剣を抜き、兵たちに向き直る。
ヴァルガルド兵が不敵に笑った。
「聞けない頼みだな!」
一人が斧を抜いたのを合図に、他の兵たちも銃や斧を一斉に構える。
「多勢に無勢だぞ?」
そう言うが早いか、兵の一人が銃を撃ってきた。
セリオンは剣で弾き、そのまま素早く踏み込み、突きを繰り出す。光刃が銃を撃った兵の肩を貫いた。
背後と正面から、斧の一撃が迫る。
身を翻してかわしたところへ、別の兵の追撃。
エルが銃で援護射撃し、セリオンの死角を潰す。
セリオンは倒れかけた兵の背中を踏み台にして飛び込み、別の兵を一人斬り捨てた。
エルは銃剣から刀身を展開し、目にも止まらぬ速さで、端で斧を構えていた兵士へ切りかかる。兵士が反応するより早く、銅の装甲ごと身体を断ち切った。
硬いものが崩れ落ちる音が洞窟内に響く。
セリオンはなおも二人を相手取る。斧が突き出される。
「遅いな」
斧を弾き上げ、下から切り上げる。
残りは半分。子犬を抱えた兵は、怯えたように後方へ下がり、他の兵の影に隠れている。
「くそ、こいつら、強い……!」
兵たちが互いに背中を合わせるように固まり、陣形を整えたそのとき――。
ドシン、ドシン、と空洞全体が揺れた。
天井の岩からパラパラと小石が降ってくる。
「なんだ!?」
兵たちがざわめき、セリオンとエルも思わず周囲を見回した。
次の瞬間、ドガッと岩壁が内側から弾け、破片がエルめがけて飛んできた。
エルは後方へ身を反らしてかわす。
その拍子に、セリオンたちとの間に少し距離が生まれる。
砕けた岩の向こう――空いた穴から、四体のグラント・ゴーレムが、ずるりと這い出してきた。
「まずい!!ゴーレムだ!追ってきた!!」
兵たちは慌てて来た道へと踵を返したが、その先にも一体のゴーレムが立ち塞がる。
兵とセリオンたちは、ゴーレムの群れに完全に囲まれた。後ろには岩の壁。じりじりと後退する足が岩片を踏み鳴らす。
「これは、まずいか」
セリオンが短く呟き、剣を鞘に収める。
エルが怪訝そうに首を傾げた、その時だった。
ガラッと、小石を蹴るような音。
その小さな音に、ゴーレムたちのセンサーが一斉に反応する。
目の光が空洞の入り口に滑り、足音の主を照らした。
ロンロンだった。
こっそりつけて来ていた。
複数のゴーレムが、ロンロンに向かって一斉に腕を伸ばす。
「ひぃっ!」
ロンロンが思わず丸くなる。
エルが飛び出そうとした――その直前に。
「ロンロン!!」
セリオンが先に飛び出していた。
ゴーレムの腕から、光線が放たれる。セリオンは寸前でロンロンの身体を突き飛ばし、その代わりに自分の脇腹と足へ、まともに光線を浴びた。
「……ぐっ!」
肉が抉れ、焼ける匂いが立ちのぼる。
「お兄ちゃん!!」
ロンロンが泣きそうな顔でセリオンの元へ駆け寄る。
再びゴーレムが腕を伸ばした。
「セリオン!」
エルが二人の前に躍り出る。
構えた銃剣が、高周波の光をまとい始めた。ゴーレムたちが光線を放つのと同時に、エルが狙いを定め、引き金を引く。銃口が眩い光を噴き上げる。
轟音。
瞬間、ゴーレムが一斉に焼かれ、溶け崩れた。
金属と岩の破片がゴトゴトッと音を立てて散らばる。
セリオンは傷を押さえながらも、その光景に目を見開いた。
「すげ……」
(今の光――アイノの武器みたいだ)
空洞に、ようやく静寂が戻る。
エルがその場に膝をつき、激しく咳き込んだ。
「ガハッ……ゴホッ、ゴホッ」
口から血が零れる。
「お、おい!エル!?大丈夫かよ……っ、つっ……!」
セリオンは立ち上がろうとして足の痛みに顔を歪め、その場に崩れ落ちた。
「お兄ちゃん!大丈夫!?」
ロンロンが慌てて駆け寄る。
セリオンはロンロンの頭に手を伸ばし、ぐしゃりと撫でた。
「なんで付いてきちゃったんだよ。無事で良かったけど、危ないことすんなよな」
痛みを堪えながら、そう言って笑う。
「ごめんなさい、犬が、どうしても気になって」
ロンロンの目から、ぽろぽろと涙がこぼれた。
エルは息を整えながら周囲を見渡す。
さっきまでいたヴァルガルド兵の姿は、どこにもなかった。
「チッ、逃したか」
ゆっくりと立ち上がると、セリオンとロンロンの方へ歩み寄る。
通信端末を叩いた。
「ストレイ。ゴーレムはスキャンしたか」
『スキャン済みです。ただいまスキャン結果をまとめています』
エルはふぅ、とひとつ息を吐き、セリオンに手を差し出した。
「アストレイカーに戻るぞ」
肩を抱えるようにして支える。足元ではロンロンが、小さな身体で健気にセリオンを支えようとしていた。
「大したことないさ」
セリオンはそう言ってロンロンを安心させようとするが、焼けただれた傷口は生々しく、見るだけで痛みが伝わってきそうだった。
エルはその傷に目をやり、わずかに顔を顰める。
「まったく、無茶をする。焼けたおかげで出血が少ないのが、まだ幸いか」
三人はゆっくりと歩き出し、炭鉱の空洞を後にした。
天井や壁のあちこちには、ノード稼働の採掘機がむき出しで設置されており、そこから掘り出された鉱石を小型ドローンが忙しなく運んでいた。
足元は〈グラント・アイアン〉製の金属足場。二人はそれを慎重に踏みしめながら、上へと進んでいく。
セリオンが生体スキャンを起動した。
ホロに映し出される無数の反応点。
赤い光が、視界いっぱいに散らばる。
「うぉ、なんだここ。めちゃくちゃ反応あるな」
「炭鉱内は生態系が複雑だからな」
エルが歩きながら顎で示す。
「例えば、アレだ」
示された先。
壁面に張り付く、全長一メートルほどの巨大な甲虫。
ギチギチと身体を鳴らしながら、六本の脚で岩肌を捉えている。
「うへぇ」
セリオンは思わず顔をしかめた。
「お前の好物だろ」
エルがさらりと言う。
「さっき、後生大事に持ってたじゃねぇか」
「げっ!? まじかよ!?」
愕然とエルを振り返る。
「食わなくてよかった……」
エルは堪えきれないといった様子で、喉を鳴らして笑った。
「まぁ、あれのおかげで情報は仕入れられたがな」
一転して、声の調子が落ちる。
「……それより」
歩きながら、ふと横を見る。
「さっきだ。どうして、あの子供に話を聞いた?」
不意の問いに、セリオンは前を向いたまま考え込む。
そのまま歩みを続けて――
「うぉっ」
距離を詰めすぎて、エルにぶつかりそうになる。
気づけば、眼下にその顔。
「近い」
思わず咳払いし、視線を逸らす。
「目がさ」
少し間を置いて、ぽつりと言う。
「明らかに怯えてたんだよ。俺たちでも、あの店主にでもなくて」
視線を落としたまま、続ける。
「今にも、何か怖いものが襲ってくるって思ってるみたいな目だった」
「へぇ」
短い相槌。
エルはそれだけを零した。
「ただの脳筋じゃなかったんだな」
「誰が脳筋だ!」
即座に噛みつく。
エルは何も言わず、また歩き出した。
(第五部隊の戦闘評価は聞いていたが)
(ああいう“勘”もあるのか)
内心、わずかに評価が上がる。
エルが先導して進んでいると、不意に足が止まった。
そのまま、すっとセリオンの後ろへ回りこむ。
「……?」
怪訝に思い、前を見る。
「げっ」
足場一面。
さきほどの甲虫が、わらわらと群れて行く手を塞いでいた。
後ずさろうとした瞬間、エルの足が背中に当たる。
「ちょっ、おい! まじで、無理だから!」
必死に抗議する。
エルはそっぽを向いたまま、淡々と返した。
「俺は虫が嫌いだ」
「はぁ~~~……」
深い溜息。
セリオンは逃げ場のない虫たちに向き直り、剣を抜かず、鞘のまま先端で軽くつついた。
甲虫はギシギシと鳴くだけで動かない。
ちらりと後ろを見る。
エルは心底嫌そうな顔をしている。
「……よし」
意を決して、セリオンは虫の尻側を蹴り上げた。
ガサガサガサッ――
群れは一斉に散開し、足場は空いた。
「って、うわっ!」
足先に粘つく感触。
立ち止まり、必死に足を振って液体を飛ばす。
「あああ~~も~~!」
振り返る。
「ほら! もういないぞ!」
エルが、ようやくこちらを見る。
少しだけ――本当に少しだけ、照れたように口角を上げた。
「……よくやった」
その表情に、セリオンの胸が僅かに跳ねる。
エルは何事もなかったふうに前へ出て、再び歩き出した。
ほどなくして、二人は大きな空洞へと抜ける。
空洞の中には、壊れているのかどうかも判然としないメカの残骸が、あちこちに転がっていた。
壁には、小さな虫やトカゲに似た生物が無数に張り付いている。そこら中から突き出た透明な鉱石がライトを反射し、青白い光をちらちらと返していた。
少し進んだところで、奥の方から複数の足音が響いてくる。こちらに近づいてくる気配がした。
「生体からノード反応あり。人か?」
セリオンが足を止め、身構えた。
暗闇の奥から姿を現したのは、軍服を着たヴァルガルド種の男たち。ざっと十人ほどいる。
「ヴァルガルド兵か」
セリオンが舌打ちする。
「あぁ?なんだ、お前らは」
兵士の一人が睨みつけてきた。
セリオンが兵たちを見回すと、その端に立つ兵が、白い何かを抱えているのが目に入った。
子犬だった。
「ッ……!ガボン!?」
思わず目を見開く。
同時に通信が勝手に割り込んできた。
『ガボンではありません。ガボンは現在アストレイカーに搭載中。別個体と推測されます』
セリオンとエルが、ちらと視線を交わす。
エルが銃剣を抜き、銃口を子犬を抱えた兵士へ向けた。
「その犬をよこせ」
セリオンも剣を抜き、兵たちに向き直る。
ヴァルガルド兵が不敵に笑った。
「聞けない頼みだな!」
一人が斧を抜いたのを合図に、他の兵たちも銃や斧を一斉に構える。
「多勢に無勢だぞ?」
そう言うが早いか、兵の一人が銃を撃ってきた。
セリオンは剣で弾き、そのまま素早く踏み込み、突きを繰り出す。光刃が銃を撃った兵の肩を貫いた。
背後と正面から、斧の一撃が迫る。
身を翻してかわしたところへ、別の兵の追撃。
エルが銃で援護射撃し、セリオンの死角を潰す。
セリオンは倒れかけた兵の背中を踏み台にして飛び込み、別の兵を一人斬り捨てた。
エルは銃剣から刀身を展開し、目にも止まらぬ速さで、端で斧を構えていた兵士へ切りかかる。兵士が反応するより早く、銅の装甲ごと身体を断ち切った。
硬いものが崩れ落ちる音が洞窟内に響く。
セリオンはなおも二人を相手取る。斧が突き出される。
「遅いな」
斧を弾き上げ、下から切り上げる。
残りは半分。子犬を抱えた兵は、怯えたように後方へ下がり、他の兵の影に隠れている。
「くそ、こいつら、強い……!」
兵たちが互いに背中を合わせるように固まり、陣形を整えたそのとき――。
ドシン、ドシン、と空洞全体が揺れた。
天井の岩からパラパラと小石が降ってくる。
「なんだ!?」
兵たちがざわめき、セリオンとエルも思わず周囲を見回した。
次の瞬間、ドガッと岩壁が内側から弾け、破片がエルめがけて飛んできた。
エルは後方へ身を反らしてかわす。
その拍子に、セリオンたちとの間に少し距離が生まれる。
砕けた岩の向こう――空いた穴から、四体のグラント・ゴーレムが、ずるりと這い出してきた。
「まずい!!ゴーレムだ!追ってきた!!」
兵たちは慌てて来た道へと踵を返したが、その先にも一体のゴーレムが立ち塞がる。
兵とセリオンたちは、ゴーレムの群れに完全に囲まれた。後ろには岩の壁。じりじりと後退する足が岩片を踏み鳴らす。
「これは、まずいか」
セリオンが短く呟き、剣を鞘に収める。
エルが怪訝そうに首を傾げた、その時だった。
ガラッと、小石を蹴るような音。
その小さな音に、ゴーレムたちのセンサーが一斉に反応する。
目の光が空洞の入り口に滑り、足音の主を照らした。
ロンロンだった。
こっそりつけて来ていた。
複数のゴーレムが、ロンロンに向かって一斉に腕を伸ばす。
「ひぃっ!」
ロンロンが思わず丸くなる。
エルが飛び出そうとした――その直前に。
「ロンロン!!」
セリオンが先に飛び出していた。
ゴーレムの腕から、光線が放たれる。セリオンは寸前でロンロンの身体を突き飛ばし、その代わりに自分の脇腹と足へ、まともに光線を浴びた。
「……ぐっ!」
肉が抉れ、焼ける匂いが立ちのぼる。
「お兄ちゃん!!」
ロンロンが泣きそうな顔でセリオンの元へ駆け寄る。
再びゴーレムが腕を伸ばした。
「セリオン!」
エルが二人の前に躍り出る。
構えた銃剣が、高周波の光をまとい始めた。ゴーレムたちが光線を放つのと同時に、エルが狙いを定め、引き金を引く。銃口が眩い光を噴き上げる。
轟音。
瞬間、ゴーレムが一斉に焼かれ、溶け崩れた。
金属と岩の破片がゴトゴトッと音を立てて散らばる。
セリオンは傷を押さえながらも、その光景に目を見開いた。
「すげ……」
(今の光――アイノの武器みたいだ)
空洞に、ようやく静寂が戻る。
エルがその場に膝をつき、激しく咳き込んだ。
「ガハッ……ゴホッ、ゴホッ」
口から血が零れる。
「お、おい!エル!?大丈夫かよ……っ、つっ……!」
セリオンは立ち上がろうとして足の痛みに顔を歪め、その場に崩れ落ちた。
「お兄ちゃん!大丈夫!?」
ロンロンが慌てて駆け寄る。
セリオンはロンロンの頭に手を伸ばし、ぐしゃりと撫でた。
「なんで付いてきちゃったんだよ。無事で良かったけど、危ないことすんなよな」
痛みを堪えながら、そう言って笑う。
「ごめんなさい、犬が、どうしても気になって」
ロンロンの目から、ぽろぽろと涙がこぼれた。
エルは息を整えながら周囲を見渡す。
さっきまでいたヴァルガルド兵の姿は、どこにもなかった。
「チッ、逃したか」
ゆっくりと立ち上がると、セリオンとロンロンの方へ歩み寄る。
通信端末を叩いた。
「ストレイ。ゴーレムはスキャンしたか」
『スキャン済みです。ただいまスキャン結果をまとめています』
エルはふぅ、とひとつ息を吐き、セリオンに手を差し出した。
「アストレイカーに戻るぞ」
肩を抱えるようにして支える。足元ではロンロンが、小さな身体で健気にセリオンを支えようとしていた。
「大したことないさ」
セリオンはそう言ってロンロンを安心させようとするが、焼けただれた傷口は生々しく、見るだけで痛みが伝わってきそうだった。
エルはその傷に目をやり、わずかに顔を顰める。
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