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Chapter 10. 終結
episode 29. 帰りたい
しおりを挟む「セリオン、エル。お前らはゼロ・コーラスを止めろ」
アイノはランスを構えたままそう告げると、床を蹴って高く跳躍した。
一気にガルザードの高台まで飛び上がり、その胸ぐらを片手で掴んで引き寄せる。
巨躯が、嘘みたいに軽々と持ち上がる。
そのまま、高台から引きずり落とした。
「……ッ!」
床に叩きつけられたガルザードが、すぐに体勢を立て直してアイノを睨み上げる。
「見下ろされるのは嫌いでねぇ」
アイノはランスを構え直し、上から一気に突っ込んだ。
ガルザードは紙一重でそれをかわす。ランスの穂先が床に突き刺さり、爆ぜる。
ガルザードは距離を取って立ち上がる。
セリオンとエルは、その光景を一瞬ぽかんと見ていた。
「……お前ら、早くしろ」
アイノがランスを引き抜きざまに言う。
「セリオン、行くぞ」
エルが先にゼロ・コーラスの方へ駆け出す。
「気をつけろよ、アイノ!」
セリオンもそう叫んで後を追った。
ガルザードがゆっくりと立ち上がる。マウルを構え、高周波の光を集めていく。
ただし、その光は先ほどまでのように斬撃を飛ばすものではない。
「――打ち合いだ」
低く呟き、斧を振り下ろした。
アイノがランスで受け、弾き、蹴りで間合いをずらす。
ガルザードの斧は巨体に似合わぬ速さで飛んでくる。
再びランスで受け止める。
光と光がぶつかり合い、ビリビリと火花のようなエネルギーが散る。
次の瞬間、ボンッ、と衝撃波が弾けた。
アイノは後方へ飛び退く。
ガルザードは斧を構え直す――その視界の端を、白い影が横切った。
「ダメだよ!!……わんちゃん!!」
壊れた障壁の裂け目から、アリシアが飛び込んできた。
標的が、一瞬で変わる。
ガルザードの斧に集まっていた光が、アリシアの方へと放たれた。
「アリシア!!」
アイノが飛び込み、その背で光刃を受ける。
「……っ」
膝をつく。ロングコートの背中に黒い焼け跡が広がり、煙が立ち上る。
「シルバースター!!」
アリシアが真っ青な顔で駆け寄る。
「シルバースター、大丈夫!?ごめん!!!」
今にも泣きそうな声。
アイノは俯いたまま、何も返さない。
ガルザードが愉快そうに笑う。
「ふふ……いくら絶対的な力を持っていようとも、その“弱さ”がある限り、わしには勝てぬよ」
「くっ……!」
アリシアがアイノを庇うように前に立ち、銃を構える。
ガルザードは、再び斧に光を集め始めた。
「アリシア。大丈夫だ」
アイノが低く言う。
ゆっくりと立ち上がる。その拍子に、焼け焦げたコートが肩からずり落ちた。
「ちょっとしたハンデさ」
ガルザードの方を向く。
右目の金色が、ぎらりと光った。
ガルザードの背筋を、嫌な汗が一筋伝う。
――――
一方、セリオンとエルはゼロ・コーラスへ向かって走っていた。
「共鳴が効かないって、どういう理屈だ」
「なんかさ、俺に力くれたのが“群れのリーダー”らしくてさ。共鳴“される”側じゃなくて、“させる”側……だとかどうとかって、書いてあったようなそんなような……」
セリオンが、ごにょごにょ言う。
エルは眉を寄せて首をかしげた。
「……さっぱりわかんねぇ」
そんな会話を交わしているうちに、二人はゼロ・コーラス前に辿り着く。
その前には、巨大なバリアの壁が立ち塞がっていた。
「こいつを、どうするかだな」
エルは周囲を見回す。
解除できそうな装置は見当たらない。
セリオンが試しに拳を叩きつけてみる。
バリアは衝撃を吸収するように波紋を広げるだけで、傷一つつかない。
その時――紫の光が、横合いから飛んできた。
「危ねぇ!」
エルがセリオンの腕を引く。
光はセリオンの肩をかすめ、そのまま背後のバリアに当たって消えた。
二人が振り向く。
そこには、白い子犬が一匹。
ガボンが、紫の光を纏いながら立っていた。
「ガボン!?」
セリオンが一歩踏み出しかけたところで、エルが肩を掴んで止める。
「待て。様子がおかしい」
「ウゥゥ……」
ガボンは低く唸る。
その瞳が、妖しく紫に光っていた。
エルがハッと目を見開く。
「共鳴……?さっきの“共鳴シーケンス”に、乗せられてるのか……!」
ガボンが再び紫の光を溜め、撃ち出してくる。
二人は左右に跳んで避ける。
「操られてるのかよ!?こんなエコー飛ばしてたら、身体が持たねぇだろ!」
セリオンの表情が歪む。
アステリアで見た、あの子犬の最後が頭をよぎる。
だが――ガボンに向けて銃を向けることも、拳を振るうこともできない。
ガボンが、再び紫の光を溜め始めた、そのとき。
「――よせ」
セリオンが低く呟いた。
彼の身体もまた、紫に輝き始める。
「ガボン」
真正面から、ガボンを見据える。
「攻撃を、“やめろ”」
はっきりと言葉を落とす。
ガボンは、セリオンの瞳をじっと見つめ返した。
数秒の沈黙。
やがて、その身体を包んでいた光が、しゅう、と音もなくしぼんでいく。
ガボンの体から、紫の輝きがふっと消えた。
ぱちり、と瞬きをし、首を小さく傾げる。
「……わふ」
尻尾を振り、セリオンの方へ駆け寄ってきた。
「お、おお……?戻ったのか?」
セリオンがおそるおそる手を伸ばし、頭を撫でる。
「ガボン!」
尻尾をぶんぶん振る。
セリオンはほっと息を吐き、笑いながらその小さな体を撫で続けた。
「無事でよかった……」
ぽつりと零す。
エルも、大きく息を吐き出した。
(群れの……リーダー、ね)
ちらりとセリオンを見る。
さっきまで灯っていた紫の光は、セリオンの体からも完全に抜けていた。
「お前が?」
つい、心の声が口から漏れる。
「え? 何が?」
セリオンが首をかしげて振り向く。
「いや、なんでもねぇ」
突如、警告音が艦内に鳴り響いた。
赤いランプが中枢部一帯に明滅する。
『浮上シーケンス開始。残り三百秒で浮上を開始します』
無機質な機械音声が、冷たく告げた。
「……まずい」
エルが顔を上げる。
「ここで浮かせたら、バスティオンはもう止められない」
拳をぎゅっと握り締める。
遠くでは、影と光が幾度も交差していた。
高台付近――アイノとガルザードが、凄まじい打ち合いを続けている。
「……セリオン」
名を呼ばれて、セリオンが振り向いた。
エルは背からヴェイルを抜く。
「バリアは俺が剥がす。……けど、あれは修復型だ。すぐにまた展開する。だから――剥がした瞬間に中に入って、ゼロ・コーラスを止めろ」
セリオンが眉を寄せる。
「そんなことしたら、お前の体が――」
「言ってる場合か」
そう言ってエルは、わずかに眉を下げて笑った。
「――お前のエコーなら止められるんだろ?だったら、これしかねぇ」
セリオンは奥歯をきつく噛みしめ、俯く。
「……くそっ……」
エルはヴェイルを構え、銃口に光を込め始めた。
「一瞬開けばいい!それで十分だ!!だから――」
セリオンが叫ぶ。
「絶対に、全力なんか出すなよ!!
俺は、お前と帰りたいんだ!!」
その言葉に、エルは強く唇を結ぶ。
――俺だって。
喉まで出かかった言葉を、鉄錆の味と一緒に飲み込む。
(総司令官として。レリックを“持ってしまった”者として。最後まで全うしろ)
自分に言い聞かせるように、引き金へ指をかけた。
銃口が、眩いほどに光り輝く。
「……行くぞ!!」
エルの号令に、セリオンが構え直す。
ガボンがセリオンの肩へぴょんと飛び乗ったが、構っている暇はない。
引き金が絞られる。
光が一直線にバリアへと奔った。
最初は淡く吸収していた光壁が、やがてバチバチと激しい火花を散らし始める。
「……っ」
バチン――という破裂音と共に、バリアに丸い穴が穿たれた。
その瞬間、セリオンが地を蹴る。
視界の端で、エルの身体がぐらりと傾き、床へ倒れ込むのが見えた。
駆け寄りたい衝動を、喉の奥で噛み殺し、セリオンはただ穴へ身を躍らせる。
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