魔女のハートが盗まれた!〜返してください私の心臓。私の心臓妹が使ってます?

染西 乱

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早く行こうとロクの手を引くと、強い力で引き返される。

「なによ」

「おねーちゃんにはお土産がないと、だろ」 

 おねーちゃんのことが苦手なロクは早くも苦々しい顔をしている。
 それでも一緒に行ってくれるのは変わらないらしい。
 嬉しくないわけがない。ちょっとぶっきらぼうなところがあるが、ロクはとっても優しいのだ。

「そうだった。うーん、私今何にも持ってない」

 家からめちゃくちゃ急いできた。なんなら財布も忘れたぐらい何にも持っていない。
 ロクは寝巻きのワンピース姿のままのレーシーをしげしげと見つめると、かったるそうに目を伏せた。
 途端レーシーは、かわいらしいいいところのお嬢さんが着ていそうなよそいきのワンピースに着替えていた。
 薄い水色を基調としたもので、ふんわりとしたスカートはちょうどレーシーの膝の長さ。白い襟は女性らしく丸くカットされている。腰回りには細いベルトが巻き付いていて、レーシーの腰の細さを強調している。

「さすがに寝巻きのまま街に行くのは……ないから」
 
 自身も白い開襟シャツに黒いスラックスに着替えたロクが、ついでにレーシーを着替えさせてくれたようだ。
 魔力を温存しようとしているレーシーは寝巻きのままで行くつもりだった。
 別にスケスケなわけでもないし、そこまで気にならないだろうと思っていたが、やはり寝巻き感が拭えなかったようだ。
 助かったありがとうとレーシーは素直に礼を言う。

「別に。なんてことない。お前は極力魔力を使うなよ」

 ロクはなんだかんだ心配してくれている。

「お土産は……王都でなんか買うか」

 ちら、とロクの目が壁にかけられた時計を見ている。
 まだ時刻はかなり早い。
 ロクの家の近くにある街はまだ寝静まっているはずだ。街でお土産を用意するのは難しいだろう。

「そうね。じゃぁおねーちゃんのところに行く前にケーキ屋さんにでも寄ろう」

  さっと箒を出したレーシーにロクが呆れたとばかりにそれをひったくった。

「王都までどんだけあると思ってんだよ。転移陣があるからそれで行くぞ」

「へぇ、転移陣なんてあったんだ」

 ロクとかなり古い付き合いのレーシーだが、転移陣のことは初めて知った。
 まだ知らないことがあるんだな、と思う。

「行き先は王都だけだけどな」

 付いてこいと、行ったロクの背中を追ってレーシーは階段を登る。
 ロクが一緒に来てくれることになって心底安心した。
 実のところ不安で仕方がなかったのだ。
 王都になんか行くのは何十年ぶりだし、今のレーシーはなにかあっても軽々しく魔力を使うわけにはいかない。
 先行きの見えない旅だが、ロクがいてくれれば頼もしいことこの上ない。
 
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