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しおりを挟む「言ってたケーキ屋ってここの近く?」
「おねーちゃんに献上するような高級なケーキ屋がこのボロい一角にあると思うか?」
ロクに言われてそれもそうかと周りを見る。二人が出てきた小さな家と同じ規模の家がずらりと並んでいる。いわゆる分譲長屋。それでも二階建て三階建ての建物もちらほらある。
仕事場となりそうな工場やお店は目につくところにはない。
どうやら住宅街らしい。
今から仕事に行く大人達が道に出てきており、もう少しすれば人ごみでごった返すだろうと予想できる。
人が多くなる前にケーキ屋まで辿り着きたい、というレーシーの思いとは裏腹に、人は徐々に増えていき既に人混み、というよりも人波といった風勢になっている。
背の高いロクの背は見えているが、レーシーよりも体格の良い労働者達にぶつかり押し合いへし合いしている間にどんどんその背が遠くなる。
大人なのに迷子になってしまう。
いつもならはぐれたところで魔法でちょいとすればロクの居場所などわかるのだけど。今日は違う。
魔法を極力使いたくないのだ。
「ロク! ちょっと! ロークー!」
出来るだけ大きな声を上げる。
遠くからでも見える様にとぴょんぴょんと、跳ねるレーシーを迷惑そうな顔のおじさんが睨んでくる。申し訳ない。
が、がやがやとした喧騒にその声が勝つことはない。
やがて、多くの人々に紛れて背筋の伸びたロクの後ろ姿がどこにあるのかわからなくなってしまい、レーシーは肩を落とした。
はぁ、ロクの方が探してくれるまでどこかで時間をつぶそうか。
朝ご飯食べ損ねたからお腹が空いているし、どこかで朝食とか……って財布忘れて来たんだった最悪。
朝ご飯の相場の値段を思い起こしてついでに財布がないことを思い出した。
お金が無ければ飲食店に入ることはできない。
精々が雑貨屋や服屋を冷やかして見て回るぐらいだ。
思い出してしまえば、空腹が身に染みる。
心臓がなくてもお腹は減るんだななどと思い、いつもよりも凹んだ気さえする腹をさする。
飲み物だけでは腹は膨れない。
人の流れに逆らわず、てくてくと足を動かす。
ロクと合流したら良い感じの朝ごはんを食べようとレーシーは思う。
朝一人でパニクっていた時から比べれば、ロクに会ってからかなり精神的には安定している。
いざとなればロクから魔力を分けてもらうという最後の手段があることも一つ。
ロクが頼りになることを知っているというのも一つ。
このままいけば城に近い城下町に着きそうだ。
いつのまにかレーシーの使い魔の姿もなくなっているがそれはいつものことだ。
あの子は猫らしく、使い魔にしては自由気ままなのだ。
呼べば戻ってくるだろうが、久しぶりの王都を猫なりに楽しんでいるのかもしれないと思えばまだ呼び寄せる時でもない気がしてくる。
眼は自然にロクの姿を探している。
城下町が近づくと、各々の職場に向かう人が一人二人と減っていき、大通りに面した大規模な市場が見える頃には人の流れは無くなっていた。
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