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12.
しおりを挟む「ここだな」
一際目つきを鋭くしたロクが、低い声を出した。
ロクが言うから間違いないんだろう。
レーシーは魔力感知すら出来なくなっている。このままいけば今日中には魔力はすっからかんになり、レーシーの死を引き起こすだろう。
こんな情けない死に方は嫌だな。
もっとこう、幸せな最後を迎えたい。
「言ってた通り大きいね」
まるで貴族にでもなったような大きさだ。
門の前には厳しそうな門番が二人立っている。
「どうやって入る? 正面突破でもいいが……上から行くか」
雪の降る地域特有の傾斜のキツい屋根を見上げて、入れそうな窓を確認する。
「ん」
無関係な人を傷つけるのは本意ではない。ロクに短く返事をすると、了承したとばかりに箒はそっと屋根の上に降りた。
真っ赤な屋根はいかにもクララの趣味っぽい。
傾斜に足を取られないように注意して歩く。バランス感覚が鈍いのかよちよち歩き状態のレーシーとは違いロクはなんの危なげもなくすたすたと歩いていている。
「ね、手繋いでよ」
今の状態ではペンギンよりも歩みが遅い。
バランス感覚の良いロクに手を引いてもらって行った方がいいに決まっている。
ロクは、自分の手をじっと見てからレーシーの手を握り、無理のない程度に引っ張ってくれる。
大きな骨張った手は男性的で、すっぽりとレーシーの手を包むように思える。
ロクの手は上手く血液が巡っていないのか、冷たくなってしまっていたレーシーの手をじんわりと温めてくれる。
それこそ幼い頃はよく手を繋いでいた記憶はあるが、大人になってからははじめてかもしれない。
「ここから入れそうだな」
屋根裏部屋の出窓にたどり着くと、ひょいと鍵を開け、ドアを開いた。
無事に薄暗い部屋にすべり込む。
思えば堂々と客として正門から入れば良かった気もしてくるが、クララが大人しく会ってくれるとも限らない。
警戒されてしまうとちょっと面倒だ。
会って話を聞きたいのだが、屋敷が広すぎてどこがクララの部屋なのかわからない。
「ロク、わかる?」
「近くにいるってことしかわかんねぇな」
チッとロクが舌打ちした。どうしようかな、と困っていると、ふいに使い魔のスミスが悠々とした足取りでやってきた。
「スミス! 今までどこにいたの」
駆け寄ったレーシーをかわすように尻尾をゆらりと振ると、また歩きだした。
「クララの場所がわかるの?」
動物の力は侮れない。
レーシーはふらふり揺れるスミスの尻尾を追いかけることに決めた。
まるでクララの部屋を知っているかのようにスミスは迷いなく進んでいく。
歩くたびにバランスを取ったしっぽの毛がふわふわとゆらめいて、レーシーを誘惑している。
いつの間にか繋いでいた手は離れてしまっていて、レーシーはそれを残念に思う。
屋根から降りたのだから離してしまうのが当然なのに、もっと繋いでいたかったなどど思ってしまう。
ロクはといえば、レーシーの気持ちなどしらず、足音を消してスミスの後を追っている。
大きな屋敷ではあるが、あまり人の気配が多くはない。
人に見つかることは無さそうだった。
やがて、スミスはぴたりとドアの前で足を止めた。
一仕事終えたとばかりに、レーシーの足の周りをくるくると周る。頭をこすりつけるようにしてくるので、褒められたいのか、の合点し、しゃがみこむと、その小さな頭をよしよしと何度も撫でる。
レーシーの日頃からのお世話のおかげで、スミスの毛並みはさらさらだ。鳴くと部屋の中にいるクララに気づかれるからか一言も鳴かず、小さく喉を鳴らしている。
綺麗に掃除された廊下や、所々に飾ってある生花から、それなりに手入れされているのだろうと思われた。
普通ならばドアをノックして、中にいるであろうクララの許可を待ってから入るべきところだが、そんなことはしていられない。
ドアの鍵がかかっていないことをそっと確認してから、勢いよくドアを開けた。
ドアの動きに合わせて、スミスはぴょいとそこを飛び退き、レーシーの足元に陣取った。
ふわふわの灰青の毛がレーシーのふくらはぎにゆるやかに当たる。
風通りのいい部屋の開け放たれた窓辺で、白い清潔そうなカーテンがはためいた。
陽の光が満ちて眩しいぐらい明るい部屋のベッドの端に腰掛けて、クララは愉快そうな表情をしてこちらを見ていた。
「もう、遅いじゃない」
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