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「ここ数十年ぐらいなんか暇だなーって思って、久しぶりに人間で遊ぶか、って思ったのよね」

人間はおもちゃではないが、そういう感覚の魔女は珍しいわけでもないため、レーシーは黙って目の前の血を分けた女の話の続きを待つ。
どこか楽しそうでもあり、わくわくした様子でもある。
ロクな話じゃないんだろうな、とレーシーはやや諦めを持って耳を傾けた。

「まぁ遊ぶにしても草原に寝転がったりとか走り回ったりするのはさすがに卒業してる年だしどうするかなーって思ってたんだけど、その時にね、見たのよ」

「修羅場ってやつ」

真っ赤な唇をにっこりと弓なりに反らしたクララはお芝居のようにさぁここからがおもしろいところ、と言葉を挟み込んでから続きを話しはじめた。

結構流行りのカフェだったんだけどね~さてケーキセットでも追加で食べようかなって
思ってたら、大きな声が店に響いたのよ。

一人の女がすごい怒鳴ってて、すごい鬼みたいな顔だった。
もう一人の女はしくしくわかりやすい演技で泣いてて…いやたぶん涙は出てないけどね。男はうつむいたまま黙りこくって怒鳴り声が収まるのを待ってるの。
怒鳴ってた女は徐々に怒鳴り声を収めるんだけど、それはあきらかに怒るのが面倒になったって感じで、怒りがなくなったとかいうわけではなく、怒るという行為自体にメリットを見出せなくなったって感じだった。
あきれたって感じかな、まぁ男の方はようやく女が話を聞いてくれるかと希望を持った目をしてたけど、男ってのは女の心理を全然理解してないからだめだよねぇ。怒らなくなったってことは、期待しなくなった、ってことで、つまりはどうでもいい人間というレッテルをつけられたってことでしかないのにね。怒られてるうちが花ってやつ。
で、なんか二三言葉を交わしたみたいだったけど、泣いたふりしてる女の肩を男がこれみよがしに抱き寄せたりしてて、みててなんか滑稽だったな。
あなたもう「どうでもいいひと」に成り下がってるのに気づかずにまだ舞台の真ん中で演じてるような気分になってますよ、もう退場のお時間すぎてますよ、ってね。
怒ってた女は腕につけた時計をちら、っとみて立ち上がったのよ。
「わかってくれたのか」とか男が言ってたけど、全然もう男のことなんか見てなくってね~泣きマネ女はしめしめって感じの顔して反省してますってアピールでうつむいてるんだけど、そこの男明らかに見限られてますよ、って教えてやりたかったわ。
最後に女が、ちら、っと机の上の注文票を見て、カバンから財布を取り出したのよ。
そんでもって「あら、ちょうどあるわ、ラッキー」って言って財布の中からいくつか硬貨を出して机の上、の注文票の近くにおいてた。「おい、話はまだ……」とか男の方が言ったけど女の飲んでた紅茶はもう空っぽ。立ち上がった女の方が「ええ、まだ話は終わってない、次は法廷で会いましょう」って言ってささっと立ち上がって出ていったわ。

魔女の私たちだったら絶対男も女も恥かかせてきた存在全てを呪い殺してやるところなのに、その女、もうそこの男なんか金をむしり取れるだけのゴミくずって感じで扱っててなんかすごいすっきりしたんだよねぇ。私もばかな男は大嫌いなんだもん。
なんなら追いかけて行って拍手してほめたたえてあげたい気分よ。

だから私もやってみることにしたんだ。
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