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「またお前か、ユイカ……」
元気な第一声を聞いて、ヴァ―レンはユイカを睨みつけた。
同じ人間に何度も会うことは稀だ。
それゆえに何度も顔をだすユイカの名前をヴァ―レンはすぐに覚えた。
ユイカを初めて見たときにはまだ大人になり切らない幼体だったが、今はもう成体になっている。
「もう20回目だろう? いい加減諦めたらどうだ?」
「まだまだ若いし諦めるのは早すぎるかな~って!」
確かに人間で言えば今が一番動きの冴える時期だろう。
「まぁ、いい。やるならやろう」
ヴァ―レンの感覚から言えば、終わったと思えばまた姿を現す面倒な生き物だ。しかし暇を持て余しているのも事実であり、まぁ暇つぶし程度に遊んでやる分にはこちらに損害はない。
「よし、いつも通り俺が勝ったら結婚契約してくれるってことでいいか?」
「……まぁ、勝てればの話だ」
ヴァ―レンは魔族の中でもかなりの強さを誇る。
それがエリア10を任された理由でもある。
それが、脆弱な人間に負けるなどありえない。
これまでの19回すべて赤子の手をひねるよりも簡単な勝利だった。
油断大敵。
この言葉をヴァ―レンが身をもって理解した時にはすでに状況を覆すのは難しいところまで追いつめられていた。
「……これは……なんだ……?」
「お、すごいほんとに効いてるな?」
ヴァ―レンはだらだらと大量の汗をかいて、片膝をついた。
冷や汗、というのだろうか身体が体調不良を訴えて発汗している。
「魔王からまだ聞いてないだろ?」
「……?」
汗を吸った服がじっとりと濡れていく。
「生まれたんだよ」
「……生まれた……誰が……?」
ユイカは、楽しそうに犬歯を見せて笑い、足をついて震えがきているヴァ―レンの身体を容赦無く刀で薙いだ。
腕で刀の軌道を反らしたヴァ―レンの、ちょうど、内臓機能のない横腹の肉が裂けて引きちぎれた塊が地面に飛び散る。ヴァーレンは失態に舌打ちし、自分の周りに飛び散る血を靴底で踏みにじる。
「あー魔国ではなんていうんだっけな、こっちではこう呼ぶ【聖女】ってね」
「聖女……あぁ、嬢王か……」
ヴァ―レンは、頷く。
「嬢王の力が込められてるのか、その……玉虫色の宝石か?」
「あはっ、やっぱ、種明かししたらすぐわかっちゃう?」
ユイカは愉快そうに笑いながらも刀でヴァ―レンを、切りつづける。
ユイカの黒い髪がさらさらと揺らぐ。
足の腱を正確に狙われて動けなくされると、ますますヴァーレンは防戦を強いられる。
「嬢王って、魔族に対して30倍ぐらいの攻撃能力向上するんだよな、すごいよなぁ。しかも体調にも影響するって。っていってもそんだけ能力向上しても魔王にはかなわないだろうし別に契約をどうこうしようなんて話じゃないと思うけど、ね」
ヴァ―レンの体液がどばどばと床に蒔かれていく。
「自分の力で、と思ってたけど、なりふり構ってこれ以上待つの嫌だし。聖女って俺の妹の娘ちゃんだし、職権乱用しちゃった。ヴァーレンも自分の力じゃないから無効試合、なんて言わないよな?」
あはっと小憎たらしく笑って、最後のとどめとばかりに左目に刀の切っ先がすぶと突き刺さった。みちみちと脳の千切れる音がする。
頭蓋までぶち抜いたそれを、ユイカは恍惚とした顔をして引きずり出す。
「う、ぐッ」
ぶしゅ、とイヤな音がする。
みっともなく叫びたいのをどうにか喉元で止める。
鉄の匂いが辺りに充満して、ヴァーレンは、痛みに痙攣しかけてひくつく肺を動かし、なんとか息を吸う。
ユイカの手にある綺麗な白い光を返していた刀身はどろどろとした粘性の強い体液で汚れている。
元気な第一声を聞いて、ヴァ―レンはユイカを睨みつけた。
同じ人間に何度も会うことは稀だ。
それゆえに何度も顔をだすユイカの名前をヴァ―レンはすぐに覚えた。
ユイカを初めて見たときにはまだ大人になり切らない幼体だったが、今はもう成体になっている。
「もう20回目だろう? いい加減諦めたらどうだ?」
「まだまだ若いし諦めるのは早すぎるかな~って!」
確かに人間で言えば今が一番動きの冴える時期だろう。
「まぁ、いい。やるならやろう」
ヴァ―レンの感覚から言えば、終わったと思えばまた姿を現す面倒な生き物だ。しかし暇を持て余しているのも事実であり、まぁ暇つぶし程度に遊んでやる分にはこちらに損害はない。
「よし、いつも通り俺が勝ったら結婚契約してくれるってことでいいか?」
「……まぁ、勝てればの話だ」
ヴァ―レンは魔族の中でもかなりの強さを誇る。
それがエリア10を任された理由でもある。
それが、脆弱な人間に負けるなどありえない。
これまでの19回すべて赤子の手をひねるよりも簡単な勝利だった。
油断大敵。
この言葉をヴァ―レンが身をもって理解した時にはすでに状況を覆すのは難しいところまで追いつめられていた。
「……これは……なんだ……?」
「お、すごいほんとに効いてるな?」
ヴァ―レンはだらだらと大量の汗をかいて、片膝をついた。
冷や汗、というのだろうか身体が体調不良を訴えて発汗している。
「魔王からまだ聞いてないだろ?」
「……?」
汗を吸った服がじっとりと濡れていく。
「生まれたんだよ」
「……生まれた……誰が……?」
ユイカは、楽しそうに犬歯を見せて笑い、足をついて震えがきているヴァ―レンの身体を容赦無く刀で薙いだ。
腕で刀の軌道を反らしたヴァ―レンの、ちょうど、内臓機能のない横腹の肉が裂けて引きちぎれた塊が地面に飛び散る。ヴァーレンは失態に舌打ちし、自分の周りに飛び散る血を靴底で踏みにじる。
「あー魔国ではなんていうんだっけな、こっちではこう呼ぶ【聖女】ってね」
「聖女……あぁ、嬢王か……」
ヴァ―レンは、頷く。
「嬢王の力が込められてるのか、その……玉虫色の宝石か?」
「あはっ、やっぱ、種明かししたらすぐわかっちゃう?」
ユイカは愉快そうに笑いながらも刀でヴァ―レンを、切りつづける。
ユイカの黒い髪がさらさらと揺らぐ。
足の腱を正確に狙われて動けなくされると、ますますヴァーレンは防戦を強いられる。
「嬢王って、魔族に対して30倍ぐらいの攻撃能力向上するんだよな、すごいよなぁ。しかも体調にも影響するって。っていってもそんだけ能力向上しても魔王にはかなわないだろうし別に契約をどうこうしようなんて話じゃないと思うけど、ね」
ヴァ―レンの体液がどばどばと床に蒔かれていく。
「自分の力で、と思ってたけど、なりふり構ってこれ以上待つの嫌だし。聖女って俺の妹の娘ちゃんだし、職権乱用しちゃった。ヴァーレンも自分の力じゃないから無効試合、なんて言わないよな?」
あはっと小憎たらしく笑って、最後のとどめとばかりに左目に刀の切っ先がすぶと突き刺さった。みちみちと脳の千切れる音がする。
頭蓋までぶち抜いたそれを、ユイカは恍惚とした顔をして引きずり出す。
「う、ぐッ」
ぶしゅ、とイヤな音がする。
みっともなく叫びたいのをどうにか喉元で止める。
鉄の匂いが辺りに充満して、ヴァーレンは、痛みに痙攣しかけてひくつく肺を動かし、なんとか息を吸う。
ユイカの手にある綺麗な白い光を返していた刀身はどろどろとした粘性の強い体液で汚れている。
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