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「ヴァ―レン、降参は? まだ? ……死んじゃうのはダメだからね?」
誰のせいで死にそうになってんだか…
「誰が死ぬかよ……」
ヴァ―レンの心臓は二つある。一つは左目の奥。二つめは腹の中頃に位置している。今しがた潰されたのが二つ目の心臓。
先ほど腹の端を割いたのは、心臓をつぶすことなど容易だというパフォーマンスだったらしい。
「……わかった、終わりだ」
「降参?」
錆くさいヴァ―レンの茶褐色の体液がこびりついた刀を、大きく一振りして刀の刀身を綺麗にすると、ユイカはその恐るべき嬢王の刀を柄に収めた。柄にそれを納めた途端、ヴァーレンの体に作用していた謎の不愉快さが消える。
なにか柄にも細工があるらしかった。
「お前の勝ちだ」
咳き込むと口から血を吐いてしまいそうで、ヴァ―レンは言葉少なになっていく。
痛みを我慢して頭がぼうっとしてくる。
じんじんと切られた場所が熱く発熱しており、自分の命がとろとろと流れ落ちていくような錯覚に陥る。
「いいの? 俺の力じゃない、とか言われるかもって思ってたのに」
「姪に嬢王がいる、というのはお前の力の一つだろう」
「じゃぁ……ヴァ―レンは俺の……嫁?」
「嫁ではないだろう……」
「うーん、婿? しっくりこないけど、ヴァ―レンは俺のものになったってことだよな?」
「……では、契約しよう」
「そんな死にそうなのに……今シたらほんとに死ぬっしょ?」
ヴァ―レンは黙って、色を失った顔のままユイカを睨みつけた。
眼以外、顔につけられた傷は一つもない。
「魔族って回復どのぐらいかかるもんなの?」
「このぐらいなら二日もかからない」
さすがに心臓は回復しないが、あと一つまだ心臓が残っている。再生速度には影響はないだろう。
「じゃぁ、二日待つ。俺が20回もここに来てんのわかってるでしょ? 人間の20回って相当よ? ヴァ―レンと初めて会ってから7年経ってるんだし……。あと二日ぐらい余裕で待てできる」
ヴァ―レンは、ユイカの言葉を鼻で笑った。
短命な人間が7年も棒に振っているとは……つくづく奇特なやつだ。
二人の繋がりは初めてユイカがエリア10に迷い込んだ時からだ。
暇つぶしにと対応に出たヴァ―レンに開口一番「結婚してください!」と言い放った頭のおかしな子供がユイカだった。
ヴァーレンはそこそこ人間の営みについての知見を得ている。ユイカの着ている服装や、身の振り方、肌の状態などを総合してみると、身分のある子供なのだろうなと見てとれた。
顔の造作も、黄金比に近い顔立ちだ。
くりくりと丸い瞳はヴァーレンに焦がれるように熱を帯びている。
「け、っこん? ハハッ面白いことを言うな! ……お前まだ子供だろう? それに俺たち魔族は戦いで負かされた相手にしか発情しないしな……無理な話だ」
初めて聞いたとばかりに、目をこぼれるほど見張ったユイカは、なるほどと頷いた。
「強くなってあなたに勝てば、僕に発情するようになる、ということですね!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
いいこと聞いたぞとばかりに、キラキラした笑顔を向けられてヴァ―レンは、あっけにとられた。
「いやまぁ理論的にはそう……人間だよな? お前」
「めっちゃ人間です! 子供と言ってましたが、あと一年で16歳! 人間でいうところの成人です!」
人間の成人というのはずいぶん幼いものなのだなとヴァ―レンは思う。
「なので、また来ます。あなたをぎったぎたに倒してみせるので、結婚してください!」
「……そうか、やって見せろ」
ヴァ―レンは人間にもおもしろい冗談を言うものがいるのだなと軽く考えていた。
が、それから頻繁にヴァ―レンを倒しに来た、と尋ねてきては戦いを挑んでくるので、正直なところ驚いてもいた。
率先して魔族にはかかわってくるなど聞いたことがない。たぶんこの男は脳みそが何回か溶けてしまっているんだろう。
ヴァーレンは、口元を緩め微かに笑う。
この少年が死ぬまでは退屈はしなさそうだ。
誰のせいで死にそうになってんだか…
「誰が死ぬかよ……」
ヴァ―レンの心臓は二つある。一つは左目の奥。二つめは腹の中頃に位置している。今しがた潰されたのが二つ目の心臓。
先ほど腹の端を割いたのは、心臓をつぶすことなど容易だというパフォーマンスだったらしい。
「……わかった、終わりだ」
「降参?」
錆くさいヴァ―レンの茶褐色の体液がこびりついた刀を、大きく一振りして刀の刀身を綺麗にすると、ユイカはその恐るべき嬢王の刀を柄に収めた。柄にそれを納めた途端、ヴァーレンの体に作用していた謎の不愉快さが消える。
なにか柄にも細工があるらしかった。
「お前の勝ちだ」
咳き込むと口から血を吐いてしまいそうで、ヴァ―レンは言葉少なになっていく。
痛みを我慢して頭がぼうっとしてくる。
じんじんと切られた場所が熱く発熱しており、自分の命がとろとろと流れ落ちていくような錯覚に陥る。
「いいの? 俺の力じゃない、とか言われるかもって思ってたのに」
「姪に嬢王がいる、というのはお前の力の一つだろう」
「じゃぁ……ヴァ―レンは俺の……嫁?」
「嫁ではないだろう……」
「うーん、婿? しっくりこないけど、ヴァ―レンは俺のものになったってことだよな?」
「……では、契約しよう」
「そんな死にそうなのに……今シたらほんとに死ぬっしょ?」
ヴァ―レンは黙って、色を失った顔のままユイカを睨みつけた。
眼以外、顔につけられた傷は一つもない。
「魔族って回復どのぐらいかかるもんなの?」
「このぐらいなら二日もかからない」
さすがに心臓は回復しないが、あと一つまだ心臓が残っている。再生速度には影響はないだろう。
「じゃぁ、二日待つ。俺が20回もここに来てんのわかってるでしょ? 人間の20回って相当よ? ヴァ―レンと初めて会ってから7年経ってるんだし……。あと二日ぐらい余裕で待てできる」
ヴァ―レンは、ユイカの言葉を鼻で笑った。
短命な人間が7年も棒に振っているとは……つくづく奇特なやつだ。
二人の繋がりは初めてユイカがエリア10に迷い込んだ時からだ。
暇つぶしにと対応に出たヴァ―レンに開口一番「結婚してください!」と言い放った頭のおかしな子供がユイカだった。
ヴァーレンはそこそこ人間の営みについての知見を得ている。ユイカの着ている服装や、身の振り方、肌の状態などを総合してみると、身分のある子供なのだろうなと見てとれた。
顔の造作も、黄金比に近い顔立ちだ。
くりくりと丸い瞳はヴァーレンに焦がれるように熱を帯びている。
「け、っこん? ハハッ面白いことを言うな! ……お前まだ子供だろう? それに俺たち魔族は戦いで負かされた相手にしか発情しないしな……無理な話だ」
初めて聞いたとばかりに、目をこぼれるほど見張ったユイカは、なるほどと頷いた。
「強くなってあなたに勝てば、僕に発情するようになる、ということですね!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
いいこと聞いたぞとばかりに、キラキラした笑顔を向けられてヴァ―レンは、あっけにとられた。
「いやまぁ理論的にはそう……人間だよな? お前」
「めっちゃ人間です! 子供と言ってましたが、あと一年で16歳! 人間でいうところの成人です!」
人間の成人というのはずいぶん幼いものなのだなとヴァ―レンは思う。
「なので、また来ます。あなたをぎったぎたに倒してみせるので、結婚してください!」
「……そうか、やって見せろ」
ヴァ―レンは人間にもおもしろい冗談を言うものがいるのだなと軽く考えていた。
が、それから頻繁にヴァ―レンを倒しに来た、と尋ねてきては戦いを挑んでくるので、正直なところ驚いてもいた。
率先して魔族にはかかわってくるなど聞いたことがない。たぶんこの男は脳みそが何回か溶けてしまっているんだろう。
ヴァーレンは、口元を緩め微かに笑う。
この少年が死ぬまでは退屈はしなさそうだ。
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