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【トキ】の四角い建物の、一番奥
物の少ない部屋に一つ置いてある長机には様々な仕事の書類が分類分けされ、積み重なっている。
しかし、その机の前には大きく廃棄、と張り紙がされている。
その隣には、代表であるコヨミの仕事机がある。
贅沢な造りでもない普通の木造りのシンプルなデスクだ。
コヨミの机の上にも書類が置かれているが、それはあと一刻もあれば捌き切れる程度の量だ。
薄い灰色の壁には【トキ】の象徴である鳥のシルエットが飾られている。その横には政府からの感謝状や、委任状、事業法人の許可証等が無造作に飾られている。
ガラス扉の棚の中にはいくつものトロフィーや盾が並べられている。その名前はどれも久須木田コヨミと記載されている。
さらさらと羽ペンを滑らせて書類にサインしている青年は、日本人にしては色素の薄い茶色の髪をしている。
七三に分けた髪を右に流している。オールバックとはいかないものの、前髪は軽く撫でつけられ、つやつやとした天使の輪が目立つ。
異国の血が混ざったのかと思えるほど目鼻立ちがくっきりとしていて、そのまつ毛の長さは影を産むのではと心配になる程だ。
特にそのすっと通った鼻筋は青年の顔の印象を引き締めて、冷たいものに見せている。
キリッとした切れ長の目は鋭く、大きな瞳と相まって猛禽類を思わせた。
「コヨミ様、お呼びでしょうか」
青年の机の前に直立不動の構えで立っているのは、サイリが美人隊員と称した入野早都子だ。室内であるため帽子はかぶっていない。眉のすぐ近くでまっすぐに切り揃えられた前髪と、肩上までの黒い髪はくるりと内巻きに巻かれ小さな顔をさらに小さく見せている。
コヨミは書類作業をしていた手を止め、顎を上げるようにして目の前に立つ女性を見上げた。
「入野、今日の報告にあった少女というのは?」
「はい、恥ずかしながら悪魔に押されていたところを助けてもらいまして……それがかなりの上位悪魔を使役していたのですが、聞いてみると試運転で悪魔を呼んで使っている、と。どうしたものか自身で判断がつかなかったため、ご報告をと思いまして……」
「そうか、入野おまえの力も相当なものだ。卑下することはない。が、おまえがいうその少女というのは少し気にかかるな……上位悪魔か……」
「ゲンの工房の使いだと言っていました」
「……ゲンの? あのじいさんもたいそうな変人だが……確か孫がいたな」
「孫まで変人とはな」
「コヨミ様、そのようなもの言いは……」
入野は軽く眉をしかめると、口の過ぎるコヨミを嗜めた。
入野は命の恩人であるコヨミを尊敬していると同時に手間のかかる弟をもつ姉のような感情を抱いており、上司だというのについ小言のようなことを口にしてしまう。
コヨミも入野の小言は善意からの忠告であると受け止め、特になにを咎めるでもない。しかし【トキ】でコヨミにそのような忠告や小言を言うような人間は入野しかいない。
他の隊員は全員が全員コヨミに尊敬の念を持っていると同時に強大な力を持つコヨミを恐れてもいる。
「ふん、わかっている。本人の前では口が裂けても言わない。口は災いのもとと言うだろう?」
「わかっているのならいいんですが……」
入野は美しい顔を曇らせたまま、腑に落ちない顔をしている。
「その娘ことは、俺が預かることにする。入野、お前はいつも通りの職務に戻れ」
「はい」
物の少ない部屋に一つ置いてある長机には様々な仕事の書類が分類分けされ、積み重なっている。
しかし、その机の前には大きく廃棄、と張り紙がされている。
その隣には、代表であるコヨミの仕事机がある。
贅沢な造りでもない普通の木造りのシンプルなデスクだ。
コヨミの机の上にも書類が置かれているが、それはあと一刻もあれば捌き切れる程度の量だ。
薄い灰色の壁には【トキ】の象徴である鳥のシルエットが飾られている。その横には政府からの感謝状や、委任状、事業法人の許可証等が無造作に飾られている。
ガラス扉の棚の中にはいくつものトロフィーや盾が並べられている。その名前はどれも久須木田コヨミと記載されている。
さらさらと羽ペンを滑らせて書類にサインしている青年は、日本人にしては色素の薄い茶色の髪をしている。
七三に分けた髪を右に流している。オールバックとはいかないものの、前髪は軽く撫でつけられ、つやつやとした天使の輪が目立つ。
異国の血が混ざったのかと思えるほど目鼻立ちがくっきりとしていて、そのまつ毛の長さは影を産むのではと心配になる程だ。
特にそのすっと通った鼻筋は青年の顔の印象を引き締めて、冷たいものに見せている。
キリッとした切れ長の目は鋭く、大きな瞳と相まって猛禽類を思わせた。
「コヨミ様、お呼びでしょうか」
青年の机の前に直立不動の構えで立っているのは、サイリが美人隊員と称した入野早都子だ。室内であるため帽子はかぶっていない。眉のすぐ近くでまっすぐに切り揃えられた前髪と、肩上までの黒い髪はくるりと内巻きに巻かれ小さな顔をさらに小さく見せている。
コヨミは書類作業をしていた手を止め、顎を上げるようにして目の前に立つ女性を見上げた。
「入野、今日の報告にあった少女というのは?」
「はい、恥ずかしながら悪魔に押されていたところを助けてもらいまして……それがかなりの上位悪魔を使役していたのですが、聞いてみると試運転で悪魔を呼んで使っている、と。どうしたものか自身で判断がつかなかったため、ご報告をと思いまして……」
「そうか、入野おまえの力も相当なものだ。卑下することはない。が、おまえがいうその少女というのは少し気にかかるな……上位悪魔か……」
「ゲンの工房の使いだと言っていました」
「……ゲンの? あのじいさんもたいそうな変人だが……確か孫がいたな」
「孫まで変人とはな」
「コヨミ様、そのようなもの言いは……」
入野は軽く眉をしかめると、口の過ぎるコヨミを嗜めた。
入野は命の恩人であるコヨミを尊敬していると同時に手間のかかる弟をもつ姉のような感情を抱いており、上司だというのについ小言のようなことを口にしてしまう。
コヨミも入野の小言は善意からの忠告であると受け止め、特になにを咎めるでもない。しかし【トキ】でコヨミにそのような忠告や小言を言うような人間は入野しかいない。
他の隊員は全員が全員コヨミに尊敬の念を持っていると同時に強大な力を持つコヨミを恐れてもいる。
「ふん、わかっている。本人の前では口が裂けても言わない。口は災いのもとと言うだろう?」
「わかっているのならいいんですが……」
入野は美しい顔を曇らせたまま、腑に落ちない顔をしている。
「その娘ことは、俺が預かることにする。入野、お前はいつも通りの職務に戻れ」
「はい」
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