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こじんまりとした店構えのカフェの前のガラスのドアに映る自分の姿をちらりと見て、髪がぴょいと跳ねていないことを確認する。
俺のくせ毛は強情で、いくら直しても頭のてっぺんがもさもさと発破みたいに立ち上がってくるので、きつめに固まるスプレーをしている。
けれど、強情なだけあって気づけばぴょんと一房頭から飛び出していることがあるので要注意だ。一応身だしなみには気を付けているつもりなのである。
ドアノブには今日のおすすめメニューが書いてあった。
かわいらしい絵とおすすめ、とやや丸みを帯びた文字で描かれた紙がボードに張り付けられている。
今日のおすすめはみかんタルトらしい。
タルト系はあまり得意ではないのでいつもどおりにチーズケーキのセットを頼もうかそれともいっそ今日はケーキを頼むのをやめてしまって紅茶だけにしてしまおうかと悩みながら店の中に入る。
ちりん、と涼しい音が店の中に響いた。
この店の鈴は鉄製ではなく、ガラス製で他のものよりも高い音が鳴る。しかしその音は小さくて入り口近くにいる店員とかカウンターの客以外には聞こえない大きさだ。
「あ、澄也くん、いらっしゃい」
店のロゴがはいったエプロンを付けた女性の店員さんが俺の顔をみて、にっこり笑顔を見せた。
「こんにちは、ちょっと久しぶりです」
少しの間ご無沙汰していたので、俺は懐かしさを感じる。
「空いてる好きな席に座ってね」
店はまだまだ空いている。が、もうすぐおやつ時になる。
一休みしたい女性客やカップルが押し寄せてくることだろう。
俺はカウンター席の右から四つ目に座った。
今のところお店も混雑していないし、店員の女性と店長と少し雑談をしたいと思っったからだ。
「今日の一杯とチーズトーストのセットをお願いします」
向かい側から水を出してくれた店員の女性に注文する。
今日は体が塩気を欲していたらしい。とろりと零れるチーズトーストの写真に目がいって仕方がなかったのでそれを頼むことにした。
「最近忙しかったの?」
差し出された温かいお手拭きを受け取る。
明るめの茶色に染めた髪を後ろでお団子にしている。おくれ毛がふわふわと顔の周りにかかっているため、その髪のくせの強さがうかがわれて親近感が沸く。
朝は時間をかけて髪の毛と奮闘しているに違いない。
「あー、そうなんです。もうすぐ模擬試験があるので……ちょっとビシバシ扱かれてて」
模擬試験と言っても合否が決まるだけではなく、ランキングとして順位づけられるものだ。そのランキングによってはより良い就職先に直結するため、皆が少しでもいい成績を残そうと必死になっている。
もうすぐ皆卒業の時期に差し掛かっているため、重要な試験だ。
かくいう俺もかなりハードな指導をされていた。
そのためなかなか外出する元気が残っている日がなかったのだ。
「模擬試験? そんなのがあるのね。あの子全然そんなこと言ってなかったのに……」
彼女は表情を曇らせて、不満そうに言う。
「あぁ、俺と同じで士官学校に通ってるっていう息子さんですか?」
「そうなの、大きくなってから中途で特別に入らせてもらったからちゃんと周りに馴染めてるから心配で」
大きな目に心配と書いていそうな不安を目に浮かべて、彼女ははぁとため息をつく。
「あ、ため息ついちゃったわ。ごめんね~辛気臭い話はやめときましょうか」
「いや~ルミナちゃんは美人だから憂い顔も素敵だから、大丈夫!」
俺はにっこり微笑んでみせる。
上に姉二人がいるおかげて女性との会話の運びや、よろこばせる言い回しはすらすらと口をついて出てくる。
俺のくせ毛は強情で、いくら直しても頭のてっぺんがもさもさと発破みたいに立ち上がってくるので、きつめに固まるスプレーをしている。
けれど、強情なだけあって気づけばぴょんと一房頭から飛び出していることがあるので要注意だ。一応身だしなみには気を付けているつもりなのである。
ドアノブには今日のおすすめメニューが書いてあった。
かわいらしい絵とおすすめ、とやや丸みを帯びた文字で描かれた紙がボードに張り付けられている。
今日のおすすめはみかんタルトらしい。
タルト系はあまり得意ではないのでいつもどおりにチーズケーキのセットを頼もうかそれともいっそ今日はケーキを頼むのをやめてしまって紅茶だけにしてしまおうかと悩みながら店の中に入る。
ちりん、と涼しい音が店の中に響いた。
この店の鈴は鉄製ではなく、ガラス製で他のものよりも高い音が鳴る。しかしその音は小さくて入り口近くにいる店員とかカウンターの客以外には聞こえない大きさだ。
「あ、澄也くん、いらっしゃい」
店のロゴがはいったエプロンを付けた女性の店員さんが俺の顔をみて、にっこり笑顔を見せた。
「こんにちは、ちょっと久しぶりです」
少しの間ご無沙汰していたので、俺は懐かしさを感じる。
「空いてる好きな席に座ってね」
店はまだまだ空いている。が、もうすぐおやつ時になる。
一休みしたい女性客やカップルが押し寄せてくることだろう。
俺はカウンター席の右から四つ目に座った。
今のところお店も混雑していないし、店員の女性と店長と少し雑談をしたいと思っったからだ。
「今日の一杯とチーズトーストのセットをお願いします」
向かい側から水を出してくれた店員の女性に注文する。
今日は体が塩気を欲していたらしい。とろりと零れるチーズトーストの写真に目がいって仕方がなかったのでそれを頼むことにした。
「最近忙しかったの?」
差し出された温かいお手拭きを受け取る。
明るめの茶色に染めた髪を後ろでお団子にしている。おくれ毛がふわふわと顔の周りにかかっているため、その髪のくせの強さがうかがわれて親近感が沸く。
朝は時間をかけて髪の毛と奮闘しているに違いない。
「あー、そうなんです。もうすぐ模擬試験があるので……ちょっとビシバシ扱かれてて」
模擬試験と言っても合否が決まるだけではなく、ランキングとして順位づけられるものだ。そのランキングによってはより良い就職先に直結するため、皆が少しでもいい成績を残そうと必死になっている。
もうすぐ皆卒業の時期に差し掛かっているため、重要な試験だ。
かくいう俺もかなりハードな指導をされていた。
そのためなかなか外出する元気が残っている日がなかったのだ。
「模擬試験? そんなのがあるのね。あの子全然そんなこと言ってなかったのに……」
彼女は表情を曇らせて、不満そうに言う。
「あぁ、俺と同じで士官学校に通ってるっていう息子さんですか?」
「そうなの、大きくなってから中途で特別に入らせてもらったからちゃんと周りに馴染めてるから心配で」
大きな目に心配と書いていそうな不安を目に浮かべて、彼女ははぁとため息をつく。
「あ、ため息ついちゃったわ。ごめんね~辛気臭い話はやめときましょうか」
「いや~ルミナちゃんは美人だから憂い顔も素敵だから、大丈夫!」
俺はにっこり微笑んでみせる。
上に姉二人がいるおかげて女性との会話の運びや、よろこばせる言い回しはすらすらと口をついて出てくる。
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