待ち合わせなんかしない

染西 乱

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士官学校というのは基本的に小さなころから預けられることが多い。
幼いころからの反復訓練が一番の効果を上げることが今までの歴史でわかってきているからだ。
とはいえ小さいころから剣術の訓練漬けでは、頭の悪いものばかりになってしまうので、それ以外の常識的な教科もカバーしている。
いわば普通の学校の授業のほかに肉体的にも鍛える目的の騎士訓練なるものが追加されたような学校である。
その生徒数は少なくはないが、小さなころから同じ顔触れのためほとんどの子供たちは顔見知りで、名前は知らずとも皆顔ぐらいは知っている仲だ。

俺も小さなころから士官学校に通っていた。
士官学校に入る子供のほとんどは親が騎士やそれに準じた職業についているものだ。
澄也の親はそうではない。
幼いころに見た騎士にあこがれて親に無理をいって入れてもらったのだ。
親が騎士に子供に比べて明らかに不利だ。教えてくれる人間がいないのだから当たり前だ。
しかし澄也はそれをものともせず、持ち前の才能を発揮した。
努力と才能をもってして澄也は全国的に見てもレベルの高い力を身につけていた。
もちろん学友には澄也と同じレベルの……いや澄也よりもレベルの高い学生は多々いたが、それらも幼いころからの厳しい教育あってのものと理解していた。

なんといえばいいのか、小さいころからの時間を費やしてきたことは皆の団結力のもとにもなったし、強くなった生徒に対してはお前はほんとうに昔っから頑張ってたよなぁというような親心が芽生えていることもあった。
訓練を怠けているとわかりやすく弱くなる。

力は努力に裏打ちされている。

その時まで澄也はそう思っていたのだ。

十五歳になって、途中編入で入ってきたのがルミナの息子だ。
中途での編入など聞いたことがない。
噂をたどってみれば、偉い騎士の推薦で入ってきたらしいということだけがわかる。
この学校の仕組みも理解しているだろう騎士からの推薦というのは何とも驚きだ。
ここの卒業生からの推薦という事はこの学校のレベルもわかっていてのことだろう。

この学校を卒業すればほぼ全員が騎士職につける。
どこの騎士になるのかというのは良し悪しがあり、それぞれがなりたい騎士を目指している。

卒業まではあと一年ほどだ。

入学初日に担任教師に連れられてやってきた男は、すこぶる目つきが悪く、威嚇するように教室で行儀よく座っているクラスメイトを睨んでいる。
その態度の悪さに皆驚き……若干引いている。
名前もろくに名乗らずに空いている席にどっかと座った。
ちょうどそこは新しく設置された席だ。
かろうじて着ている制服はおろしたてで色あせていないそれは綺麗でぱりっとしていて、どこか新入生めいた空気があった。

授業もたまにしか出てこないし、ごくまれに出てきたとしても何か別のことをしているか居眠りをしている。
そのくせ勉学においては誰よりも優秀だった。
噂によれば教科書を一度見てしまえばすべてのことを暗記してしまうことが出来るらしい。そんなことが本当にできるのかどうかはわからないがルミナの息子――津島衛は才能の塊のような男だった。
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