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二.カミングアウト
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大和がゲイであることを家族に告げたのは、高校三年の冬である。
通常なら、この性的嗜好を隠すところだろうが、大和の家はその血を重んじる家系だった為、跡継ぎを残せないのなら早めに言った方が良いと考え、弟の高校受験が終わって落ち着いたのを見計らい、家族全員の前でカミングアウトした。
大和は、代々、神呼びという特殊な能力を持った、“告”一族の直系である。
家は神社でもなくただの一般の家庭である。
だが、その実、“告”に訪れるのは政治家や大手企業などの特別な人間たちばかりだ。日本の大事に“告”在り、と言われるように、先祖代々から日本を支えてきた。
トップの人間にしか密かに伝えられない為、表立っては“告”の存在は知られてはいない。
たいがいのコネクションに精通している為、“告”の人間が望めば叶わないことはないだろう。
代々薄まりつつある神呼びの血を守る為、告の一族は分家の人間との結婚を繰り返し、その血を絶やすことなく守り続けていた。
実際に、大和の父親も分家の出身で、今は亡き母親が直系だった。
現在、最も“告”の血が濃いのは大和ということになる。
神呼びの能力は血の濃さでは決まらないが、濃いに越したことはない。だからこそ、直系の母の結婚相手には当時分家でより濃い血を持つ十歳も年下の父が選ばれた。
女性は月の障りや妊娠がある為、父が当主となり、母は補助の役目をしていたと聞いている。
同じように大和にも、幼い頃から分家に年の近い女性が許嫁として充てられていた。
子供の頃から“告”のことが何よりの最優先事項と教えられ育っていたので、恋の何たるかを知る前に将来が決められていたことも、大和には当然のことだと思っていたし、それ以外の道があるとは考えもしなかった。
自分の性的嗜好に気付くまでは。
今でも、家族の前で告げた時のことは忘れることはできない。
「俺、女性ではなく男性が好きなタイプの人間です。今まで黙っていてすみません。だから、“告”の跡継ぎを残すことができません」
深く頭を垂れた大和に、一家団欒の空間は一瞬にして変わった。
認めず激昂する父、おろおろとする継母。そして、弟の驚愕の眼差し。
大和は勘当されることも覚悟はしていたが、一番“告”の血が濃いことと、跡継ぎが残せないからといって能力がなくなったわけでもないので、追い出されることもなく今も告の家に暮らし続けている。
ただし、精子の凍結保存をするということが、跡を継がないことの条件だった。
“告”の一族が国にとっても重要な存在の為、政府の手の回った病院へ、今も定期的に精子の提出を行っている。
そして、“告”の次期当主は、大和から弟の悠仁へと変わった。
悠仁は、告と一切関係のない普通の女性と父との間に生まれた子供なので、“告”の血の濃さは大和よりはだいぶ劣る。だが、幸いにも大事な“告”の血脈は、大和が幼い頃に父がのうのうと愛人を作っていたおかげで守られたわけだ。
まだ中学三年生だった悠仁に、突然訪れた重責。
“告”の一族のことは理解していたとしても、補助をする立場と当主になる立場では、色々な制限があり責任の重みが違う。
決して“告”の重責から逃れたいと思ってのことではなかったが、図らずしてそうなったことを申し訳ないと詫びながら、大和は“告”を悠仁に託した。
父が厳しくするのは弟の悠仁に変わり、大和の許嫁は悠仁の許嫁へと切り替えられた。
中学生なら、身近に好きな女子がいたかもしれない。そんなことすら自由にならなくなった悠仁と相反し、重責と期待の枷が外れた大和は、すっかり“告”の血から解放されふわふわと適当な人生を歩むことができるようになった。
以来、悠仁の態度は変わってしまった。
当主を押し付けられたと恨んでいるのかもしれないし、単にゲイが気持ち悪いと思われているのかもしれない。もしかしたらその両方かもしれない。
兄さん兄さんと懐いていた可愛い弟は、最初はどう接して良いか戸惑っていたようだったが、次第に恨むような強い眼差しを大和に向けるようになり、今はあまり大和に近寄ることもなくなったのだった。
通常なら、この性的嗜好を隠すところだろうが、大和の家はその血を重んじる家系だった為、跡継ぎを残せないのなら早めに言った方が良いと考え、弟の高校受験が終わって落ち着いたのを見計らい、家族全員の前でカミングアウトした。
大和は、代々、神呼びという特殊な能力を持った、“告”一族の直系である。
家は神社でもなくただの一般の家庭である。
だが、その実、“告”に訪れるのは政治家や大手企業などの特別な人間たちばかりだ。日本の大事に“告”在り、と言われるように、先祖代々から日本を支えてきた。
トップの人間にしか密かに伝えられない為、表立っては“告”の存在は知られてはいない。
たいがいのコネクションに精通している為、“告”の人間が望めば叶わないことはないだろう。
代々薄まりつつある神呼びの血を守る為、告の一族は分家の人間との結婚を繰り返し、その血を絶やすことなく守り続けていた。
実際に、大和の父親も分家の出身で、今は亡き母親が直系だった。
現在、最も“告”の血が濃いのは大和ということになる。
神呼びの能力は血の濃さでは決まらないが、濃いに越したことはない。だからこそ、直系の母の結婚相手には当時分家でより濃い血を持つ十歳も年下の父が選ばれた。
女性は月の障りや妊娠がある為、父が当主となり、母は補助の役目をしていたと聞いている。
同じように大和にも、幼い頃から分家に年の近い女性が許嫁として充てられていた。
子供の頃から“告”のことが何よりの最優先事項と教えられ育っていたので、恋の何たるかを知る前に将来が決められていたことも、大和には当然のことだと思っていたし、それ以外の道があるとは考えもしなかった。
自分の性的嗜好に気付くまでは。
今でも、家族の前で告げた時のことは忘れることはできない。
「俺、女性ではなく男性が好きなタイプの人間です。今まで黙っていてすみません。だから、“告”の跡継ぎを残すことができません」
深く頭を垂れた大和に、一家団欒の空間は一瞬にして変わった。
認めず激昂する父、おろおろとする継母。そして、弟の驚愕の眼差し。
大和は勘当されることも覚悟はしていたが、一番“告”の血が濃いことと、跡継ぎが残せないからといって能力がなくなったわけでもないので、追い出されることもなく今も告の家に暮らし続けている。
ただし、精子の凍結保存をするということが、跡を継がないことの条件だった。
“告”の一族が国にとっても重要な存在の為、政府の手の回った病院へ、今も定期的に精子の提出を行っている。
そして、“告”の次期当主は、大和から弟の悠仁へと変わった。
悠仁は、告と一切関係のない普通の女性と父との間に生まれた子供なので、“告”の血の濃さは大和よりはだいぶ劣る。だが、幸いにも大事な“告”の血脈は、大和が幼い頃に父がのうのうと愛人を作っていたおかげで守られたわけだ。
まだ中学三年生だった悠仁に、突然訪れた重責。
“告”の一族のことは理解していたとしても、補助をする立場と当主になる立場では、色々な制限があり責任の重みが違う。
決して“告”の重責から逃れたいと思ってのことではなかったが、図らずしてそうなったことを申し訳ないと詫びながら、大和は“告”を悠仁に託した。
父が厳しくするのは弟の悠仁に変わり、大和の許嫁は悠仁の許嫁へと切り替えられた。
中学生なら、身近に好きな女子がいたかもしれない。そんなことすら自由にならなくなった悠仁と相反し、重責と期待の枷が外れた大和は、すっかり“告”の血から解放されふわふわと適当な人生を歩むことができるようになった。
以来、悠仁の態度は変わってしまった。
当主を押し付けられたと恨んでいるのかもしれないし、単にゲイが気持ち悪いと思われているのかもしれない。もしかしたらその両方かもしれない。
兄さん兄さんと懐いていた可愛い弟は、最初はどう接して良いか戸惑っていたようだったが、次第に恨むような強い眼差しを大和に向けるようになり、今はあまり大和に近寄ることもなくなったのだった。
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