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十.告白
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抱かれる前は、本気で恨まれていると思っていた。そう思われても仕方がないと分かっていた。
しかし、悠仁の気持ちを聞いた今は、そこまでではなかったのだと思えた。
今、大和が言ったのも本気で言ったわけではなく、悠仁への文句から出た言葉に過ぎない。
だから改めて言葉にされ、大和は一気に悲しくなった。
手が震え力が抜けていき、掴んでいた悠仁の手を放す。
恨んでいると言われ、どう返せばいいのか。
ごめんなんて言葉ではダメだ。謝ったって、その気持ちが晴れるわけでもない。
恨みは、蓄積されてできるものだ。
長い間、大和がそうさせていたのだ。
「なんで俺だけが、って……」
悠仁が言葉を続ける。
「相手が女ならまだ納得できたのに、何で男なんだよ。男というだけで、何千何万の男が兄さんに好きになってもらえる可能性があるのに、なんで俺だけ対象外なんだよッ」
背中から強く抱きしめられる。
“告”の責任を押し付けてしまったことへの恨みだとばかり思っていたので、予想外の理由に大和は戸惑いを隠せない。
「俺だけ相手にしない兄さんを、恨んでる。男でいいなら、俺でいいじゃないかっ。何でダメなんだよ……俺のことも見ろよっ」
痛いくらいに背中から抱きしめられ、回された悠仁の手に大和はそっと触れた。
理由は決まっている。
兄弟だからだ。しかも、“告”だからだ。
跡継ぎは必ずいなくてはならない。そのことを悠仁も分かっているからこその、恨みなのだろう。
同じ気持ちを経験しているだけに、大和にも悠仁の辛い気持ちが分かる。
「……逆恨みって分かってる。あんな嫌な態度とってごめん」
悠仁がぽつりと謝る。
悠仁の態度が豹変したことは大和にも辛かったが、理由を聞いてしまえば責めることなどできない。
侮蔑の眼差しを向けられているのだと思っていたのは、恨みからくるものだったということか。
まるで子供の頭を撫でるように、大和は悠仁の手をよしよしと撫でた。
「………。好きだよ、兄さん」
こつんと頭を肩に当てられる。
大和は息を呑んだ。悠仁に添えていた手が止まる。
しっかりと、間違いなく、告白されてしまった。
「………」
大和は反応に困る。
答えはもちろん決まっている。悠仁も分かっているはずだ。
「最初は兄さんのこと、ちゃんと普通に兄さんと思ってた。ゲイだって言われた時はどう反応していいか分からなかったけど。……でも、俺だけ兄さんの恋愛対象から除外されたって気付いた途端に、執着心みたいなのが湧き上がってきて、自分でもどうしようもなく兄さんが好きなんだって、気付いた」
「……俺たちは、兄弟だ」
大和は声を絞り出す。
「そして、“告”の人間だ」
うん、と背中から悠仁の声が聞こえた。
こんなにも自分たちは惹かれ合っていたのに、その血ゆえに想いが叶わない。そして、この血がなければ出会うこともなかった。お互いに、辛い運命のめぐり合わせだ。
大和はすでに悠仁への想いはないが、今なお好きでいてくれているのならば、同じように悠仁も早くその想いから解放されるのを願うばかりだ。
「でも、もう我慢しない」
悠仁の言葉に、何か聞き間違いをしたのかと大和は首を悠仁の方へと向けた。
「この前オトコ連れ込まれた時に、吹っ切れた。もう我慢するつもりないから、遠慮しない」
「はあ!?」
「“告”のことは、ちゃんと責任もつ。でも、自分の気持ちもちゃんと向き合う」
「……」
悠仁の言葉に、大和は唖然とする。
「お、お前な、俺がどんな思いで……」
大和が悠仁への想いを、どんな思いで断ったと思っているのか―――。
しかし、自分が過去に悠仁を好きだったということは言えない。
大和は諦めることを選んだ。だが悠仁は、大和とは違う選択をしたのだ。
とはいえ、悠仁の気持ちを受け入れるわけにはいかない。
「兄さん」
するりとスウェットの中に手が滑り込み、下着越しに優しく握られる。油断していた大和は慌てた。
「馬鹿、やめろ」
悠仁の手を抑え込もうとするができず、見えていないのに的確にくびれなど大和の感じるところを指の腹や爪先で擦られる。
「ん…っ」
大和の口から思わず甘い声が漏れる。
「さっき痛くした分、優しく撫でてあげる」
「い、いらん! 離せっ」
遠慮しないと言った以上、悠仁は本気だ。
これから大和は、身の危険を感じながら過ごすことになるのだろうか。相手は、セックスを覚えたての男子高校生だ。大和も経験があるだけに、快楽を覚えたての頃は我慢ができないことは分かる。冗談ではない。
「お、俺は疲れてるんだっ。もう寝る!」
すでにセックスをしてきて、いい感じに体が疲れている。一日に二度もセックスできるはずもない。
「だいたい、清めに入るんだろ!」
清めと言われ、悠仁の手の動きが止まる。
告の人間には、“告”のことを言うのが一番効果がある。
「………」
悠仁が不満気な顔をしているのが想像つく。
しばらくして、悠仁の長い溜め息が聞こえ、大和の体から悠仁が離れた。
ベッドを降りた悠仁に、大和は安堵する。大和もベッドから身を起こした。
部屋を出ていこうとして、ドアの前で悠仁が立ち止まる。
「終わるまで我慢する」
そう告げて、悠仁は部屋を出た。
安堵したのも束の間、その言葉に大和はハッとする。思わず枕を掴み、閉じられたドアに向かって投げた。
「ヤレる前提でいるんじゃねーよ!」
そもそも大和は抱かれる側ではないし、兄弟だし、合意もしていないしと、色々と言いたいことはある。
悠仁が見ていたら、睨んでも可愛いだけとまた言われてしまいそうなたれ目で、大和は悠仁が立ち去ったドアを睨んだ。
しかし、悠仁の気持ちを聞いた今は、そこまでではなかったのだと思えた。
今、大和が言ったのも本気で言ったわけではなく、悠仁への文句から出た言葉に過ぎない。
だから改めて言葉にされ、大和は一気に悲しくなった。
手が震え力が抜けていき、掴んでいた悠仁の手を放す。
恨んでいると言われ、どう返せばいいのか。
ごめんなんて言葉ではダメだ。謝ったって、その気持ちが晴れるわけでもない。
恨みは、蓄積されてできるものだ。
長い間、大和がそうさせていたのだ。
「なんで俺だけが、って……」
悠仁が言葉を続ける。
「相手が女ならまだ納得できたのに、何で男なんだよ。男というだけで、何千何万の男が兄さんに好きになってもらえる可能性があるのに、なんで俺だけ対象外なんだよッ」
背中から強く抱きしめられる。
“告”の責任を押し付けてしまったことへの恨みだとばかり思っていたので、予想外の理由に大和は戸惑いを隠せない。
「俺だけ相手にしない兄さんを、恨んでる。男でいいなら、俺でいいじゃないかっ。何でダメなんだよ……俺のことも見ろよっ」
痛いくらいに背中から抱きしめられ、回された悠仁の手に大和はそっと触れた。
理由は決まっている。
兄弟だからだ。しかも、“告”だからだ。
跡継ぎは必ずいなくてはならない。そのことを悠仁も分かっているからこその、恨みなのだろう。
同じ気持ちを経験しているだけに、大和にも悠仁の辛い気持ちが分かる。
「……逆恨みって分かってる。あんな嫌な態度とってごめん」
悠仁がぽつりと謝る。
悠仁の態度が豹変したことは大和にも辛かったが、理由を聞いてしまえば責めることなどできない。
侮蔑の眼差しを向けられているのだと思っていたのは、恨みからくるものだったということか。
まるで子供の頭を撫でるように、大和は悠仁の手をよしよしと撫でた。
「………。好きだよ、兄さん」
こつんと頭を肩に当てられる。
大和は息を呑んだ。悠仁に添えていた手が止まる。
しっかりと、間違いなく、告白されてしまった。
「………」
大和は反応に困る。
答えはもちろん決まっている。悠仁も分かっているはずだ。
「最初は兄さんのこと、ちゃんと普通に兄さんと思ってた。ゲイだって言われた時はどう反応していいか分からなかったけど。……でも、俺だけ兄さんの恋愛対象から除外されたって気付いた途端に、執着心みたいなのが湧き上がってきて、自分でもどうしようもなく兄さんが好きなんだって、気付いた」
「……俺たちは、兄弟だ」
大和は声を絞り出す。
「そして、“告”の人間だ」
うん、と背中から悠仁の声が聞こえた。
こんなにも自分たちは惹かれ合っていたのに、その血ゆえに想いが叶わない。そして、この血がなければ出会うこともなかった。お互いに、辛い運命のめぐり合わせだ。
大和はすでに悠仁への想いはないが、今なお好きでいてくれているのならば、同じように悠仁も早くその想いから解放されるのを願うばかりだ。
「でも、もう我慢しない」
悠仁の言葉に、何か聞き間違いをしたのかと大和は首を悠仁の方へと向けた。
「この前オトコ連れ込まれた時に、吹っ切れた。もう我慢するつもりないから、遠慮しない」
「はあ!?」
「“告”のことは、ちゃんと責任もつ。でも、自分の気持ちもちゃんと向き合う」
「……」
悠仁の言葉に、大和は唖然とする。
「お、お前な、俺がどんな思いで……」
大和が悠仁への想いを、どんな思いで断ったと思っているのか―――。
しかし、自分が過去に悠仁を好きだったということは言えない。
大和は諦めることを選んだ。だが悠仁は、大和とは違う選択をしたのだ。
とはいえ、悠仁の気持ちを受け入れるわけにはいかない。
「兄さん」
するりとスウェットの中に手が滑り込み、下着越しに優しく握られる。油断していた大和は慌てた。
「馬鹿、やめろ」
悠仁の手を抑え込もうとするができず、見えていないのに的確にくびれなど大和の感じるところを指の腹や爪先で擦られる。
「ん…っ」
大和の口から思わず甘い声が漏れる。
「さっき痛くした分、優しく撫でてあげる」
「い、いらん! 離せっ」
遠慮しないと言った以上、悠仁は本気だ。
これから大和は、身の危険を感じながら過ごすことになるのだろうか。相手は、セックスを覚えたての男子高校生だ。大和も経験があるだけに、快楽を覚えたての頃は我慢ができないことは分かる。冗談ではない。
「お、俺は疲れてるんだっ。もう寝る!」
すでにセックスをしてきて、いい感じに体が疲れている。一日に二度もセックスできるはずもない。
「だいたい、清めに入るんだろ!」
清めと言われ、悠仁の手の動きが止まる。
告の人間には、“告”のことを言うのが一番効果がある。
「………」
悠仁が不満気な顔をしているのが想像つく。
しばらくして、悠仁の長い溜め息が聞こえ、大和の体から悠仁が離れた。
ベッドを降りた悠仁に、大和は安堵する。大和もベッドから身を起こした。
部屋を出ていこうとして、ドアの前で悠仁が立ち止まる。
「終わるまで我慢する」
そう告げて、悠仁は部屋を出た。
安堵したのも束の間、その言葉に大和はハッとする。思わず枕を掴み、閉じられたドアに向かって投げた。
「ヤレる前提でいるんじゃねーよ!」
そもそも大和は抱かれる側ではないし、兄弟だし、合意もしていないしと、色々と言いたいことはある。
悠仁が見ていたら、睨んでも可愛いだけとまた言われてしまいそうなたれ目で、大和は悠仁が立ち去ったドアを睨んだ。
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