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九.仕事の依頼
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六月に入り、大和は久しぶりに飲みに出掛けた。
バーで久しぶりに会う仲間と飲んだ後、前回大雨のせいで行き損ねたホテルへ充と行った。
セックスの最中、挿入するタイミングで自分が弟にされ感じた圧迫感を思い出し一瞬躊躇してしまったが、事なきを得た。
つい充の体を気遣ってしまったせいで、充には少し変に思われてしまったほどだ。
最近すっかり夜遊びをしていなかったこともあり、久々に酒が入りその日は心身ともに楽しい夜を過ごすことができた。
「は~。極楽~」
ホテルで軽くシャワーを浴びてはきているが、やはり自宅の檜風呂が一番だ。
足を存分に伸ばし、落ち着くことができる。よくトイレが一番落ち着くという奴がいるが、トイレは狭い。大和はやはりこの檜風呂が一番だ。
夜中の一時を過ぎたので、皆自室にいるか寝静まっている。こんな時間に風呂に入るのは大和くらいだ。
風呂を上がると、Tシャツとスウェットズボンに着替えた。
明日の最初の講義は昼からなので、ゆっくり寝れそうだ。
大和はダイニングで水を一杯飲み、裸足のまま二階へ上がると自室のドアを開けた。
自分のベッドの脇に悠仁が腰掛けているのが目に入り、大和は一瞬後ずさる。
「おかえり、兄さん」
「……何勝手に入ってんだよ」
ベッドと悠仁、という組み合わせに動揺してしまう。
心を落ち着かせながら、避けるようにベッドの左にあるパソコンデスクまで歩いた。デスクの上には、帰ってきた時に置いたショルダーバッグがある。
「仕事の連絡で待ってた」
仕事という言葉に、悠仁を振り返る。
悠仁はベッドに腰掛けたまま、目の前に立つ大和を見上げた。
「三日後、仕事だから。清めに入るように」
「分かった」
淡々と事務的に告げる悠仁に、大和は頷く。
それはもちろん、“告”の仕事のことだ。
大和は身を引き締めた。
“告”の一族である以上、それが大和の最も優先すべきことだ。
“清め”とは、仕事の為に身を清めておくことをいう―――。
血が必要な為、肉や魚を断つことはしないが、薬などの血に何かしらの影響を与えるものの摂取は禁止されている。食べるものも、ジャンクフードは食べないようにするなど一応気を遣っている。
そして、穢れとなるセックスも禁止となる。
今日のうちに大和が夜遊びをしに行ったのは、正解だった。
「……で。今日シテきたところだからちょうど良かった、とか思ってる?」
悠仁の言葉にぎくりとする。
大和の思考が読まれていることもそうだが、何故それを知っているのか。遅い時間に帰宅したことから、そう当たりをつけたのだろうか。
大和の視線に、悠仁がベッドに置いていた右手を持ち上げる。
「これ」
その手には、ショルダーバッグに入れていた、さっきセックスで使っていたローションのボトルがあった。大和が風呂に入っている間に、勝手にバッグを開けられたようだ。
まるで夫の浮気を探る嫁の行動だ。プライバシーというものがない。
「勝手に…っ」
むっとしながら大和は手を伸ばし、悠仁の手からローションを取り返そうとした。
「!」
近づいた瞬間、逆に悠仁に引き寄せられ体のバランスを崩す。二人の重みで一緒にベッドに転がる。
咄嗟にまずいと思い、大和は身を起こそうと慌てて体を左に逸らした。だが、完全に離れようとする前に後ろに引き寄せられ、悠仁に背中から抱き締められた状態で上体をベッドに倒れさせた。
ぎゅうっと背中越しに悠仁に抱き締められる。先日の夜が思い出され、大和は体を強張らせた。
「……悔しい。嫉妬で胸が苦しい」
背中から大和の肩に顔を埋めるように、悠仁が呟く。顔が見えないが、その辛そうな声にどきりとした。
大和の腹に回されていた悠仁の左手が、するりとスウェットズボンの中に忍び込んできたので慌てる。
「悠仁っ」
また、抱かれる。
大和は悠仁の手を掴み、その動きを阻止する。後ろから抱きしめられているだけで、手は拘束されていない。十分に抵抗ができるから、同じ目には合わない。
「やめろってば」
悠仁の左手を大和の左手が掴むと、今度はその手を悠仁の右手が引き剥がそうとするので、さらに右手で引き剥がそうとする攻防が続く。
「っわ」
悠仁の手を阻止することに気を取られ、首筋をべろりと舌で舐められたことで大和は思わず力が抜ける。逃がれようとして頭を前へと伸ばした。
対抗しようとするがベッドの上では自由に動けない為、ベッドの外に投げ出されたままの足で後ろにあるであろう悠仁の足を蹴る動きをする。空振ったかと思ったら、すかさず足の間に悠仁の足が割り込んできた。
「何なんだよ、もう」
思い通りにいかないことに、大和は悔しくなる。悠仁の方が一枚上手だ。
「あうっ」
スウェットの中で蠢いていた悠仁の手が、下着越しに大和自身を掴んだ。強く握られて、思わず痛みを訴える声が漏れた。
「ごめん。兄さんが押さえてくるから力が入ってしまった」
まるで抵抗する大和が悪いかのように言われる。
そこは急所というだけあって、本当に痛いのだ。
背中から抱きしめてくる悠仁の顔は見えないが、めいっぱい首を後ろに向け睨む。
「……っ、ホンットに痛いんだぞ! 悠仁のも握り潰してやるっ」
「さすがに潰すのは勘弁してよ、兄さん」
悠仁が苦笑するのが背中越しに分かる。
「絶対わざとだ。やっぱり嫌ってる。俺への恨みだろっ」
抱かれた翌日、悠仁に好きな子呼ばわりされたが、ちゃんとした告白をされたわけではない。
本当は大和の勘違いで、今も嫌がらせをされているだけなのではないかとも思える。
「……確かに、恨んでる」
笑いの消えた、悠仁の静かな声が後ろから聞こえた。
瞬時に大和の心は凍り付いた。
バーで久しぶりに会う仲間と飲んだ後、前回大雨のせいで行き損ねたホテルへ充と行った。
セックスの最中、挿入するタイミングで自分が弟にされ感じた圧迫感を思い出し一瞬躊躇してしまったが、事なきを得た。
つい充の体を気遣ってしまったせいで、充には少し変に思われてしまったほどだ。
最近すっかり夜遊びをしていなかったこともあり、久々に酒が入りその日は心身ともに楽しい夜を過ごすことができた。
「は~。極楽~」
ホテルで軽くシャワーを浴びてはきているが、やはり自宅の檜風呂が一番だ。
足を存分に伸ばし、落ち着くことができる。よくトイレが一番落ち着くという奴がいるが、トイレは狭い。大和はやはりこの檜風呂が一番だ。
夜中の一時を過ぎたので、皆自室にいるか寝静まっている。こんな時間に風呂に入るのは大和くらいだ。
風呂を上がると、Tシャツとスウェットズボンに着替えた。
明日の最初の講義は昼からなので、ゆっくり寝れそうだ。
大和はダイニングで水を一杯飲み、裸足のまま二階へ上がると自室のドアを開けた。
自分のベッドの脇に悠仁が腰掛けているのが目に入り、大和は一瞬後ずさる。
「おかえり、兄さん」
「……何勝手に入ってんだよ」
ベッドと悠仁、という組み合わせに動揺してしまう。
心を落ち着かせながら、避けるようにベッドの左にあるパソコンデスクまで歩いた。デスクの上には、帰ってきた時に置いたショルダーバッグがある。
「仕事の連絡で待ってた」
仕事という言葉に、悠仁を振り返る。
悠仁はベッドに腰掛けたまま、目の前に立つ大和を見上げた。
「三日後、仕事だから。清めに入るように」
「分かった」
淡々と事務的に告げる悠仁に、大和は頷く。
それはもちろん、“告”の仕事のことだ。
大和は身を引き締めた。
“告”の一族である以上、それが大和の最も優先すべきことだ。
“清め”とは、仕事の為に身を清めておくことをいう―――。
血が必要な為、肉や魚を断つことはしないが、薬などの血に何かしらの影響を与えるものの摂取は禁止されている。食べるものも、ジャンクフードは食べないようにするなど一応気を遣っている。
そして、穢れとなるセックスも禁止となる。
今日のうちに大和が夜遊びをしに行ったのは、正解だった。
「……で。今日シテきたところだからちょうど良かった、とか思ってる?」
悠仁の言葉にぎくりとする。
大和の思考が読まれていることもそうだが、何故それを知っているのか。遅い時間に帰宅したことから、そう当たりをつけたのだろうか。
大和の視線に、悠仁がベッドに置いていた右手を持ち上げる。
「これ」
その手には、ショルダーバッグに入れていた、さっきセックスで使っていたローションのボトルがあった。大和が風呂に入っている間に、勝手にバッグを開けられたようだ。
まるで夫の浮気を探る嫁の行動だ。プライバシーというものがない。
「勝手に…っ」
むっとしながら大和は手を伸ばし、悠仁の手からローションを取り返そうとした。
「!」
近づいた瞬間、逆に悠仁に引き寄せられ体のバランスを崩す。二人の重みで一緒にベッドに転がる。
咄嗟にまずいと思い、大和は身を起こそうと慌てて体を左に逸らした。だが、完全に離れようとする前に後ろに引き寄せられ、悠仁に背中から抱き締められた状態で上体をベッドに倒れさせた。
ぎゅうっと背中越しに悠仁に抱き締められる。先日の夜が思い出され、大和は体を強張らせた。
「……悔しい。嫉妬で胸が苦しい」
背中から大和の肩に顔を埋めるように、悠仁が呟く。顔が見えないが、その辛そうな声にどきりとした。
大和の腹に回されていた悠仁の左手が、するりとスウェットズボンの中に忍び込んできたので慌てる。
「悠仁っ」
また、抱かれる。
大和は悠仁の手を掴み、その動きを阻止する。後ろから抱きしめられているだけで、手は拘束されていない。十分に抵抗ができるから、同じ目には合わない。
「やめろってば」
悠仁の左手を大和の左手が掴むと、今度はその手を悠仁の右手が引き剥がそうとするので、さらに右手で引き剥がそうとする攻防が続く。
「っわ」
悠仁の手を阻止することに気を取られ、首筋をべろりと舌で舐められたことで大和は思わず力が抜ける。逃がれようとして頭を前へと伸ばした。
対抗しようとするがベッドの上では自由に動けない為、ベッドの外に投げ出されたままの足で後ろにあるであろう悠仁の足を蹴る動きをする。空振ったかと思ったら、すかさず足の間に悠仁の足が割り込んできた。
「何なんだよ、もう」
思い通りにいかないことに、大和は悔しくなる。悠仁の方が一枚上手だ。
「あうっ」
スウェットの中で蠢いていた悠仁の手が、下着越しに大和自身を掴んだ。強く握られて、思わず痛みを訴える声が漏れた。
「ごめん。兄さんが押さえてくるから力が入ってしまった」
まるで抵抗する大和が悪いかのように言われる。
そこは急所というだけあって、本当に痛いのだ。
背中から抱きしめてくる悠仁の顔は見えないが、めいっぱい首を後ろに向け睨む。
「……っ、ホンットに痛いんだぞ! 悠仁のも握り潰してやるっ」
「さすがに潰すのは勘弁してよ、兄さん」
悠仁が苦笑するのが背中越しに分かる。
「絶対わざとだ。やっぱり嫌ってる。俺への恨みだろっ」
抱かれた翌日、悠仁に好きな子呼ばわりされたが、ちゃんとした告白をされたわけではない。
本当は大和の勘違いで、今も嫌がらせをされているだけなのではないかとも思える。
「……確かに、恨んでる」
笑いの消えた、悠仁の静かな声が後ろから聞こえた。
瞬時に大和の心は凍り付いた。
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