ひめごと

藤沢ひろみ

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十三.悠仁の部屋

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 檜風呂で体をリラックスさせた後、大和は脱衣所から廊下に出た。

 六月半ばに入り、季節は梅雨入りしていた。連日続く雨で、告家自慢の庭園もすっかりびしょびしょだ。
 ガタガタと風がガラス戸を揺らし、廊下の障子を開けて大和は外を見る。
 月は薄い雲に隠れ、ほとんど見えない。雨は夕方よりも強さを増していた。

 リビングへ行き、父の晩酌に付き合いながら、一緒にテレビのニュースを見る。途中、木村が現れ就寝の挨拶をしていく。
 十一時半になると父も部屋へと戻り、少し遅れて大和も自室へと戻ることにした。


 寝る前にベッドの上に横になり携帯を触っていると、部屋のドアをコツコツとノックされる。友達のメールを見ながらだったので、大和は適当に返事を返した。

「兄さん、いた」
「!」

 悠仁が姿を現し、大和はベッドから飛び起きた。
 部屋に入ろうとする悠仁に向かって手の平を向け、入ってくるなと制する。

「学祭のことで相談があるんだけど……」
「え?」
 悠仁を警戒してベッドからパソコンデスクへと移動する大和は、悠仁の言葉に動きを止めた。

 てっきり宣言通り襲いに来られたのだと思っていたので、相談と言われると聞かざるを得ない。
 しかし、部屋の中へ悠仁を招くことの危険性はすでに理解している。

「分かった。俺が悠仁の部屋へ行こう」
 大和は少し考えた後、告げた。
 大和の部屋は入り口側にベッドがあり、しかもローションなども揃っている。事に至りやすい状況なのもいけない。

 友達にメールを返信したら行くと伝えると、悠仁は先に自室へと戻った。大和は手早くメール返信すると、部屋を出た。


 大和の部屋は、二階の一番西端にある。対して悠仁の部屋は、二階の東端にあった。

 階段を上がり右へ曲がると、分家の人間が泊まる為の客室が二部屋用意されている。納屋を挟んで一番端が、悠仁の部屋だった。
 大和は悠仁の部屋のドアを叩いた。

「ありがとう、兄さん」
 悠仁に出迎えられ、部屋の中に入った。

 悠仁の部屋に入るのは、じつに三年ぶりだろうか。家族の前でゲイであることを告げるまでは、お互いの部屋に頻繁に行き来していたが、それもすっかりなくなっていた。

 久しぶりの悠仁の部屋は、昔と変わらないようで、少し変わっていた。本棚や勉強机には、厚みのある本が増えた気がする。悠仁も冬には大学受験なので、色々と勉強することも多くなっているだろう。
 部屋の中央に置かれたローテーブルを見て懐かしくなる。よくそこで、お菓子を摘まみながら悠仁の勉強を見たりしていたものだった。

「相談って?」
「これなんだけど」
 そう言って悠仁は勉強机の前に立ち、机の上に広げたノートを右に寄せ示す。見てくれということだろう。
 大和はベッドの位置が部屋の奥であることを確認してから、机に近づいた。古く広い建物なため一部屋が広く、ベッドまで距離があることに安心できる。

「今まで使ってた業者が廃業してて、新しい施工業者の選定をしているんだけど…」
 ノートに書かれた文字を読もうと悠仁の右に立つ。その直後、大和は悠仁に抱きしめられた。
「やっと捕まえた」

 嬉しそうな悠仁に、大和は怒りを表す。
「真面目な話じゃねーのかよ!」
「これも真面目だよ」

 Tシャツにスウェットズボンというラフな部屋着のため、悠仁が手を動かせば、簡単に大和のシャツの裾は捲られ、スウェットも下にずらされてしまった。下着ごと太腿で止められ、これ以上ずり落ちるのを阻止しようと身動きがしづらくなる。
 そして、後ろから抱き締めてくる悠仁の力が、自分よりも強いことに驚いた。

「最近あまり部屋にいなくて、逃げてたよね」
「……」

 大和は最近、寝る前までリビングで過ごすようにしていた。
 悠仁が宣戦布告をしてきたせいだ。

 悠仁の左手が、大和の右胸の小さな突起に触れる。
 胸を弄られるのは初めてだ。いや、先日抱かれた時は途中から意識が飛んでいたから、初めてではない可能性もある。くすぐったい感覚に、大和は身を捩った。

「…っ」
 剥き出しにされた下腹部に、悠仁の右手が伸びた。柔らかいその場所に悠仁の細くて長い指が絡み、大和は体を緊張させる。

「悠仁……」
 摘まんだり捏ねたりするような動きをする胸も気にはなるが、それよりも下を弄られる方が困る。
 大和は両手で悠仁の手を押さえ込んだ。悠仁の指は大和が制止する以上に力強く、大和自身をやわやわと触る。形をなぞるように先端まで動くと、指先でぐりぐりと弄られた。
「…っ、ん」
 大和は小さく声を上げた。

 抗う気持ちはある。
 けれど、感じるところを弄られれば、気持ちとは裏腹に男は反応してしまう。そこは次第に形を変え始め、大和の気持ちを裏切る。

「兄さん……」
 大和の首筋に、悠仁の熱い吐息がかかる。
 大和の反応が薄いせいか、悠仁の興味は胸から下半身へと移ったようだ。

 いけないと分かっているのに、体が勝手にその先の快楽を求めてしまう。
 大和は悠仁の手を押さえているはずなのに、ただ悠仁の動きに合わせて動かしているだけのような状態になってしまっていた。
「……っは、あ」

 足が震え、大和は体を支えたくてついに悠仁の手を離し、勉強机に片手をついた。そのせいで動きやすくなった悠仁の右手が、さらに大和を高めていく。
 清めが終わってから自分でもしていなかったので、熱くなるのは早かった。

「悠……仁…っ」
 大和はもうすぐ達しそうなことを、悠仁に訴える。了解したとばかりに、悠仁に首にキスされ、追い上げられる。

「あ、あ……っ」
「兄……さん」
 首にかかる悠仁の熱い息も相乗効果となり、大和は体を震わせて達した。

 大和の吐き出したものが机の上を白く汚したのを見て、がくりと項垂れる。
「だから、こういうのはマズイって言ってるのに……」
 イっておいて言うのも何だが、大和は溜め息ついた。

「声、可愛かった、兄さん」
 耳元で悠仁が囁く。体を近づけられ、腰に硬いものが当たるのを感じ、大和はぎくりとした。
 当然ながら、悠仁はこれだけで終わらせるつもりはないのだ。

 可愛いと言われたのはこの際どうでもいい。とにかく逃げることが先決だ。さっきのは、ベッドが離れているという油断が招いた結果だ。
 まさか悠仁は、このまま立ってするつもりなのだろうか。ローションだってない。慣れない人間がすれば、怪我をするに決まっている。

 机に手をついたままの大和を見て、悠仁が気付く。
「立ったままじゃ、大変だよね」
 悠仁が大和の体を力強く引き寄せ、思わず体をぐらつかせた。太腿にスウェットが引っ掛かった動きづらい状態で大和が連れていかれたのは、すぐ傍の部屋の中央に置かれたローテーブルだった。

 一瞬悠仁の手が離れる。
 逃げるなら今だと、大和はドアの方へと大きく足を踏み出そうとした。
「!」
 たるんだスウェットズボンの裾を右足で踏みつけ、大和はつまずきかけた。倒れかけた瞬間に、腰を悠仁に抱き止められる。
「危ないよ、兄さん」
「……」

 ただ間抜けなだけなら、しなければ良かったと少し後悔した。
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