ひめごと

藤沢ひろみ

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十五.しろいの

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「感じてる兄さん、可愛い」
 愛しげに、悠仁が大和の柔らかい髪の中に顔を埋める。

 白蛇はまだそこにいた。悠仁の膝の上に乗せられた大和の足を、悠仁の足と一緒にするすると巻き付きながら動いている。

 吹っ切れた悠仁は何をしでかすか分からない人間だと、初めて大和は感じた。大和が予測もしない行動をする。
 むしろこの二年ほどは、大和と違い冷静なタイプの人間だと思っていたのに。

「兄さん、しろいのがまだ兄さんと遊びたいみたい」
 するすると足の間を行き交う白蛇を見て、悠仁が大和に囁いた。
「……」
 大和はごめんだ。悠仁一人でも持て余すのに、そこに蛇がいるなんて、考えられない。
 想定外の状況に、大和はすでに逃げる意欲すら失いかけていた。

 背後でごそごそと悠仁が動く。
 大和の目の前で、体を拘束している悠仁の左手にとろりとした液体が垂らされた。
「!」
「通販で買ってみた」
 後ろから悠仁が説明する。
 左の手の平に溜めたローションを、悠仁は右手で掬い取る。

 悠仁は膝を揺らすと、開かれた大和の足をさらに斜めにさせ開かせた。
「…っ」
 ヤバイ、と大和は焦った。
 また、挿れられてしまう。

 ローションで濡れた悠仁の指が一本、大和の中に入ってくる。覚えのある異物感に、大和は小さく呻く。
「ん…っ」

 広げられた場所で、ローションがいやらしく音を立てる。
 指が二本に増やされ、時々中を掠める刺激に大和は小さく声を漏らした。

 兄弟で繋がるのはダメだ、と頭の中で繰り返す。
 快感に流されないよう、理性を保つ。

「悠…仁。く、口でしてやるから、挿れるのは……」
 代替え案を提案する。
 童貞ならば、フェラチオだって興味があるはずだ。大和は背中越しに悠仁に乞うた。

「兄弟で、マズイだろ。階下には父さんたちもいるんだ」
 頼むから、と大和は付け加える。
「俺は、悠仁とはちゃんと兄弟でいたい……。大事な弟と、こんなことで気まずくなりたくない。俺たちは一生、兄弟なんだぞ」

 大和は心からの想いを悠仁に伝えた。
 だが、三本目の指が大和の中に入れられ、悠仁の拒否の意思を受け取る。
「うっ」
 足を開かれて少しでも拡げられてはいるが、その圧迫感に大和は呻いた。

「俺は、嫌だ」
 大和の髪に悠仁が顔を埋める。
「他の男のモノになってる兄さんを見ていたくない」

「……お前だって、結婚するんだ。奈津子のものになるんだぞ」
 奈津子は、大和の元許嫁であり、現在の悠仁の許嫁だ。
「こんな時に、その名前を出すなよ。兄さんは意地が悪い」
 許嫁がいるのは、次期当主である以上仕方がないことであり、しかも悠仁に許嫁を宛がったのは、その座から降りた大和でもある。

「ん…っ!」
 仕返しとばかりに、中の感じるところを指で強く押される。立て続けにぐっぐっと押されると、快感の波がぶわっと押し寄せ、体が跳ねるたびに大和の足が揺れた。

「あっ、や、やめ…っ、あっぁ」
「兄さん……っ」
 悠仁がぺろりと大和の耳を舐めた。それにすら、感じて体が震える。

 ふと目の前の、白蛇と目が合った。
「……」
 はぁはぁと呼吸を乱しながら、大和は白蛇を見返す。その目はじっと大和を見つめ続けていた。

 するりと白蛇が首を動かし、大和に近づいた。
 まるで大和が悠仁の指を呑み込む様を眺めるように、広げられた股の間を見ている。相手は蛇とはいえ至近距離で恥ずかしい場所をじっと見られ、大和を羞恥が襲った。

 悠仁の指が大和から引き抜かれる。
 その瞬間、大和は怖い考えが浮かんでしまった。

「ゆ…悠仁、まさか……」
 大和の声が思わず震える。
「しろいのを、挿れる…気じゃ……」

「………」
 黙ったまま返事をしない悠仁に怖くなり、大和は後ろを見上げる。じっと大和を見つめる悠仁がいた。
「……。そうか、そういう手もあるんだ」
 ぽつりと悠仁が呟く。その言葉に大和は身を強張らせた。

 本物の爬虫類ではないとしても、蛇が体に入るなんて嫌だ。
 体が竦む。怖くて泣きそうになった。

「いっ…嫌、だ。こ、怖い……頼むから……っ」
 さっき大和が言ったことを、そんなに怒っているのだろうか。悠仁の表情からは怒りが感じられず、感情が読み取れない。

 悠仁は黙ったままだった。しばらくして、小さく息を吐く。
「……じゃあ、しろいのと俺、どっちがいい?」
「………」
 どちらにしろ、その二択になるのか。
 大和の目元にじわりと涙がにじむ。

「……ゆ…ゆうじんがいい」

 しばらく黙り込んだ後、ようやく口にする。怖くて、子供のような喋り方になった。
 大和は自分の体を拘束する悠仁の腕を掴んだ。

「まったく……。可愛いな、兄さんは」
 ふっと優しく悠仁が笑みをこぼすと、白蛇がすぅっと姿を消した。

「兄さんの笑った顔が好きだったんだけど……。俺、やっぱり好きな子苛めたいタイプだったのかも」
 悠仁の指先が、大和の濡れた目尻に触れる。
「俺も、もう我慢が限界」

 悠仁は自分のスウェットの中から、硬くなった自身を出した。大和の体が浮き、後ろに引き寄せられたかと思うと、一気に腰を下ろされる。
「…!!」
 衝撃に、大和は体を震わせた。

「安心して。もともとそんな気なんてないから。ちょっと意地悪しただけ。兄さんの中に入っていいのは、俺だけなんだから」

「あっ、あ……っ」
 腰を揺らされて、声が漏れる。階下に聞こえてしまうと、大和は両手で口を塞いだ。
「ん、んっ」

 悠仁にされるがままだった。
 大和の体を支えるのは、悠仁だけ。体重を預け、貫かれる。

「兄さん…兄さん……」
 悠仁が、何度もうわ言のように繰り返す。

 大和は色んな男を抱いたことはあるが、こんなに激しいセックスをしたことがない。大和が経験したセックスはどれも、お互いの性処理のようなものだ。
 こんなにも熱情のあるセックスは知らない。

「あ…ッ、もう、離……っ」
 逃げたくなるほどの快感なのに、その先を追いたくもなる。怖い。

「兄さん…!」
 悠仁が大和の首筋に噛みついた。
 喰われる―――と大和は思った。
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