ひめごと

藤沢ひろみ

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二十.ケンジ②

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 近くにある、対面受付ではない男同士でも入れるホテルに大和は連れて行かれた。
 ホテルは何度も利用しているのに、ひどく緊張した。

 ホテルの部屋に入ると、先にケンジがシャワーを浴び、大和は後から入る。
 バスローブを羽織って出てくると、シャワーから出た時のまま、バスローブを羽織ったケンジがベッドに腰掛けていた。

 大和はゆっくりと近づき、少し屈んで唇を重ねた。
「……眼鏡ないと、少し違う人みたい」
 緊張のせいか、大和は思わずそんなことを言ってしまう。
 見慣れた眼鏡がないといつものケンジと違うようで、少し不安になった。

「大和くんは可愛いこと言うなぁ」
 どっちでもいいんだけど、とケンジが眼鏡をかける。そういうちょっとした気遣いが、ケンジらしい。
「そりゃケンジさんからしたらまだ子供だけど、可愛いとか言われたくないな」

 ケンジの手が、大和のバスローブの紐を解く。隙間から手を差し入れられ、肌に直接手が触れる。
 バスローブの前を開かれると、現れた胸元にキスをされた。いつもは自分がそうしているが、立場が違うと反応に戸惑ってしまう。
 ただケンジの愛撫を受け入れているのが嫌で、大和はケンジの隣に座ると、ケンジにキスをし舌を絡ませた。
 ゆっくりとベッドにケンジの体を押し倒したところで、肩をつつかれる。

「積極的なのもいいけど、今日は抱かれる側なのでは?」
「あ」
 ケンジの言葉に、いつものように行動していた自分に気付く。
 ケンジの顔の横に両手をついたままケンジから顔を離すと、にまにまと笑いながら見上げられている。

「相手がタチだと、こんな反応なんだ。抱かれることに慣れてない感じが、新鮮でいいな」
「からかわないで下さいよ」
 大和は気恥ずかしくなる。

 ケンジの指先が、すっと大和の目元に触れる。
「からかってないよ。可愛い。それに、この泣きボクロ、恥ずかしがるとやたら色っぽく見えるね」
「……」
 そんなことを言われると余計に意識してしまう。大和は目元が赤く染まるのが自分でも分かった。

 大和の反応に満足するように、にこにこと笑いながら、ケンジの手が大和の胸に触れる。両方の小さな突起を、親指と人差し指で摘まんだりして弄られる。

「自分で胸は弄ったりしない? 弄られたことは?」
「ない……です」
「ふーん。じゃあ、開発しちゃおうかなぁ」
 ベッドに両手をついているため無抵抗な状態になり、くすぐったい感覚に大和は身を捩った。
「ケンジさん、乳首フェチ?」
「そうでもないけど……。初めてだと聞くと、色々したくなる」

 セックスの時は、前戯から入り段々と相手を高めていく。だが、悠仁はそういう行為はしなかった。そのせいで、大和はそうされることに免疫がない。

「今日は、そういうのいいかな…」
 大和は身を起こし、ケンジの手を遮った。
「とっとと、やっちゃおうよ」
「……随分と性急だね」

 焦っているわけではない。
 ただ、他の男に抱かれても反応してしまうなら自分にそちら側の素質もあったと認めればいいだけだが、そうではなかった場合、同じタチの男に性的な意味で体を触られるのは本意ではない。

 大和は身にまとったバスローブを脱ぎ捨てた。
 ケンジの体を跨いで膝立ちし、ベッドに横たわるケンジのバスローブを左右に引ん剥くと、見下ろしながらふっと笑む。
「何なら、俺がしてあげる分にはいいですけど?」
「うわ。男らしくてそそる」
 ケンジがごくりと生唾を飲む。その目に、欲情の色が浮かぶ。

「じゃあ、フェラでもしてもらおうかな。大和くんもこっちにお尻向けて」
 ケンジもスイッチが入ったらしく、大和は横たわったケンジの上に逆向けに跨った。下着は身に着けていなかったので、ケンジの顔のところに大和自身がぶら下がる。
 少し挑発したものの、いきなり尻の穴をじっくり見られてしまう体勢に、少し後悔した。

「うん。使ってなくてキレイだね」
「だから、そういうの恥ずかしいんですってば」
 大和はケンジの腰の横に手をついて、右手を添えながらケンジのものを口に含む。すでに半勃ちだったそれは、大和の愛撫によって次第に形を変えていく。

「さすが、上手いね。いつもそのテクで、可愛いコたちをあんあん言わせてるんだ?」
 大和の口淫に、ケンジが満足そうな反応を見せる。
「ケンジさんも、まさかこんなデカいもの持ってるなんて思いもしませんでした」
 大和は目の前にそびえるケンジ自身を見た。

 ケンジの穏やかな見た目に反し、初心者にはまるで暴力の塊にしか見えない。
 悠仁のものをしっかりと見たことがないので、自分がどこまで耐えられるのかと別の不安が押し寄せる。

「…っ」
 大和の膨らみにケンジの唇が吸い付く。舐めまわされて下へと移動し、大和自身に沿って舌が這う。先端までくると温かな口の中に包まれる。

 大和は上側でこの体勢をするのは初めてで、安定しない腰が刺激にすぐ揺れてしまい、それがまるで誘うような仕草となってしまう。
「ん……っん」
 大和はケンジの口の中に包まれる快感で腰を震わせながら、ケンジ自身への口淫を続けた。

 突然尻に濡れたものが触れ、驚いて口を離す。
「びっくりさせて、ごめん。ジェルだよ」
 ケンジが謝った。

 ジェルで濡らしたケンジの指が一本、ゆっくりと大和の中に押し込まれる。
「う……」
 大和は小さく呻く。
 体内で、リアルにケンジの指を感じる。悠仁よりも少し大きな手は、指も少し太い。

 ゆっくりと優しく、ケンジの指が動く。
「どう? 大丈夫?」
 ケンジが心配の声を掛ける。大和は小さく頷いた。
 後ろが気になって、ケンジへの口淫が止まる。

 悠仁の時は無理矢理だったせいで、大和をゆっくり慣らすこともせずに進められた。ケンジはちゃんと気遣ってくれる。
 だがそれが少し恥ずかしくもある。

「もう一本、入れるよ」
 ゆっくりと動かされ慣れてきた頃、ケンジの指が増やされる。入り口を少し慣らし、今度は中で指を動かされた。
「あっ…」
 刺激にびくりと腰が震え、甘い声が漏れる。

「どう?」
 ケンジの指が的確にその場所を狙って突いてくる。男を抱き慣れている分、どこが感じるかを熟知している動きだ。

「っあ、…ん、んっ」
 大和の腰が揺れる。自身からぽたりと雫が落ちる。
 膝が崩れそうで、この跨った体勢が辛くなる。何とか腰を支えるものの、大和は上体をケンジの体の上に落とした。

「ケ…ンジさ…っ」
 びくびくと腰が揺れ、大和は呼吸を乱す。
「ちゃんと後ろでもイケそうだね。続けられそう?」
 ケンジの腰に乗せたまま、大和は頭をこくりと動かした。

 体の奥がいやらしく疼く。
 おいで、とケンジが手を伸ばす。その手を取り、大和はベッドへと横たえられた。
 ベッドがギシリと音を立て、ゆっくりケンジが覆い被さってくる。自然と唇を近づけて、舌を絡ませた。

「もう一本慣らしとくね」
 ケンジは指にジェルを垂らすと、大和の膝を割ると、再び奥へ指を入れる。
「…っ」
 耐えるように大和がケンジの腕を掴むと、大丈夫とあやすように言われる。

 ケンジは優しい。相手がケンジで良かったと、大和は思った。
 やっぱり後ろで感じてしまう自分は、こちら側が向いていただけなのだ。悩むほどのことはなかった。

 悠仁に無理矢理に抱かれ、初めてなのにおかしなほど感じすぎた。それが、悠仁が相手だからということだったらどうしようかと思ったが、他の男に触られても嫌悪感がない。そのことに大和は安堵した。

「もう、大丈夫そうかな?」
 指を抜き、ケンジが大和に尋ねる。それが意味していることに、大和はこくりと頷いた。
 ケンジは体をずらしゴムを装着すると、大和の足を大きく開かせる。大和は足の間にいるケンジを見た。

「!」
 瞬間、どきりとする。
 まったく似てもいないのに、ケンジの姿に悠仁が重なった。

 今から自分の中に入ってこようとする男を迎える為、体は甘く疼いている。だが、同時に気持ちがすぅっと冷めるのが分かった。

「挿れるよ」
 ケンジが自身を大和の最奥の入り口に宛がう。

「……!」
 その瞬間が訪れたことを知り、大和は反射的に体をベッドから起こした。
 驚いた顔でケンジが大和を見る。大和も自分がとった行動に戸惑う。
「あ、あれ。なんで、俺……」
 自分は何故、逃げたのか。大和はケンジを見返した。

 ここまで来て逃げるつもりなんてないのに、どうしてか体が勝手に動いた。
 元の位置に戻ろうとしても、体が強張って動かない。
「……」

 そこにいるのが、悠仁ではないからだ―――。

「えっ、大和くん!?」
 ケンジがぎょっとする。

「な、なんで泣いてるの? 十分慣らしたつもりだけど、もしかして怖かった?」
 言われて初めて、大和は自分の頬に触れて濡れていることを確認する。
「……」
 大和は自分の無意識の行動の意味に気付く。

 ―――悠仁じゃないと、嫌だと思ってしまった。

 そして、結果として分かってしまった現実に悲しくなり、またぽたりと涙を零した。
 どうして自分は弟を選んでしまうのだろう。許されない道を選んでしまうのだろう。
 そうじゃなければいいと、今夜は確認したかったのに。

「ごめん……なさい、ケンジさん」
 大和は項垂れ、ケンジに謝った。

 ただセックスで快楽を得ることを考えていれば良かったのに。
 でも気付いた今はもう、悠仁以外に抱かれることなんて考えられなかった。
 ケンジが悪かったわけではない。きっと、他の誰でもダメだった。

「ごめんなさい……」
 大和は繰り返した。
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