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二十三.正照
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「え?」
突然の誘いに、大和は戸惑う。
正照は大和を見据えた。
「この力は、金になる。告の家にいたんじゃ、真面目な依頼しか来ないだろうが、俺のところには野心に溢れた面白い依頼が来る。自分が人の人生を動かせるなんて、告の家にいたんじゃできないだろう」
それに、と正照は続ける。
「お前は、弟に当主の座を奪われて悔しくないのか。お前は直系なのに、弟は分家出身の父親の血しか受け継いでいないんだろう。分家並みに薄い血に負けたんだぞ」
正照は身を乗り出し、ベッドに両手をついた。
「お前も、あいつらに腹が立たないか」
「………」
今は一切、告の家と関わりを持っていないだろうに、そんなことまで調べたのか。大和は内心で舌打ちした。
正照も直系の人間とはいえ、“告”の情報はそう簡単に漏れて良いものではない。
「力の弱い者同士、協力しようじゃないか。俺と大和なら、いいパートナーになれる」
正照は、拘束されて動かすことができない大和の手を握った。
正照は勘違いをしているようだった。大和が次期当主の座から下りたのは大和の意志だが、そのことまでは知らないようだ。
そして、恐らく力が弱いという理由で次期当主ではなくなったのだと思っているのだろう。正照と同じく、除外された者という同類意識を持たれているようだ。
「……お断りします」
大和は正照から視線を逸らさず、きっぱりと断った。
正照の表情が曇る。
「俺は、“告”に生まれたことに誇りを持っている。“告”を陥れるようなことをするつもりもないし、そうでなくても悪用するつもりもない」
「悪用なんてしていないさ。むしろ、“告”と同じで、人生の岐路に悩む奴らを良い方向に導いてやっているんだ。世の中には、“告”の恩恵に預かれない輩が五万といる。むしろ、人助けだ」
正照の弁明は、大和には届かない。聞き苦しいとさえ思った。
「どう言われても、気持ちは変わりません。叔父さん、こんなことをしても無駄です」
大和を拉致し、拘束したところで、大和の気持ちを変えることはできない。
こんな話なら、わざわざ拉致までしてすることではない。普通に話し合いの場を持てば良かったのに。力が戻ったというのなら、正々堂々と告の家に来れば良かったのだ。
正照はしばらく黙り込んでいた。その表情は、暗い。
そうか、と呟き正照はズボンのポケットから携帯電話を取り出す。
「俺だ。持ってきてくれ」
短く告げると、電話を切る。仲間がいるのだ。
簡単に解放はしてもらえないようで、大和は嫌な予感がした。
しばらくして、廊下から何かを移動させる音が聞こえた。大和は、そちらに首を向ける。
何かの機械を乗せたワゴンを運んだ女が現れ、それが昨夜自分の前に現れた女だと、逆光で顔が見えずとも分かった。この女に気を取られてしまい、大和は捕まった。やはり、叔父とグルだったのだ。大和は唇を噛んだ。
女が正照のもとへとワゴンを運ぶ。
ベッドの脇に置かれたワゴンに、いったい何を運んできたのかと、大和は不安な気持ちになる。
犯人の顔を見た場合、殺される可能性もある。だが、さすがに叔父はそこまではしないだろう。
この後、自分はどうなってしまうのだろうか。
正照と女がベッドから離れ、少し話をしだす。
正照の目が離れた隙に、大和は右手をぎゅっと握った。
最悪の事態はないと思うが、それでも不安はある。携帯電話もなく拘束された自分にできることは、これしかない。
大和は右手をそっと開いた。ちょうど叔父側と反対側にあるので、体で隠れて手元は見えないだろう。
手の平を上にし、意識を集中させる。大和の体の中の気を手の平に集めるイメージだ。
それはゆっくりと腕を経由し、手の平に集まっていく。
手の平の上に暖かなオレンジ色の光の玉が浮かび、少しずつ大きくなり揺らぎ始める。
少し力の戻ったという正照は、どれほどのものなのだろう。正照にも見えるのであれば、見つかる前にしないとならない。
この前出そうとした時は何となくという気分だったので、きっと真剣さが足りなかったのだ。
告の人間を護るための霊獣であれば、今こそ、この状況であれば出せるだろう。
―――大和を護ってくれる、ボクノトリを。
光の玉が大きく膨らむ。
出ろ、と大和が心の中で叫ぶのと、正照が振り返るのは同じだった。
「大和、お前!」
飛びかかろうと正照が大和に手を伸ばした瞬間、光の玉はふっと姿を消す。
「あ……」
大和は光の玉の消えた空間を呆然と見つめた。
今度こそ、と思ったのに。
正照がせせら笑う。
「なんだ。直系のくせに、霊獣も出せないほど力が弱いのか? まあ、俺もそこまでの力はないんだがな。ますます気に入った」
正照はさらに仲間意識を高めたようだった。
こんな奴と同じだと思われているのが悔しかった。だが、大和が霊獣を出すことができなくなっているのは事実だ。
「まったく、余計な真似をするんじゃない。言っておくが、ここは市内から離れた空き家だ。周りに民家はないから大声を出しても無駄だぞ。携帯の電源も切ってあるから、お前の居場所は誰にも分からない。大人しくしているんだ」
誰の助けを呼ぶこともできない―――。
大和は身動きもできず、正照を見上げるしかできなかった。
突然の誘いに、大和は戸惑う。
正照は大和を見据えた。
「この力は、金になる。告の家にいたんじゃ、真面目な依頼しか来ないだろうが、俺のところには野心に溢れた面白い依頼が来る。自分が人の人生を動かせるなんて、告の家にいたんじゃできないだろう」
それに、と正照は続ける。
「お前は、弟に当主の座を奪われて悔しくないのか。お前は直系なのに、弟は分家出身の父親の血しか受け継いでいないんだろう。分家並みに薄い血に負けたんだぞ」
正照は身を乗り出し、ベッドに両手をついた。
「お前も、あいつらに腹が立たないか」
「………」
今は一切、告の家と関わりを持っていないだろうに、そんなことまで調べたのか。大和は内心で舌打ちした。
正照も直系の人間とはいえ、“告”の情報はそう簡単に漏れて良いものではない。
「力の弱い者同士、協力しようじゃないか。俺と大和なら、いいパートナーになれる」
正照は、拘束されて動かすことができない大和の手を握った。
正照は勘違いをしているようだった。大和が次期当主の座から下りたのは大和の意志だが、そのことまでは知らないようだ。
そして、恐らく力が弱いという理由で次期当主ではなくなったのだと思っているのだろう。正照と同じく、除外された者という同類意識を持たれているようだ。
「……お断りします」
大和は正照から視線を逸らさず、きっぱりと断った。
正照の表情が曇る。
「俺は、“告”に生まれたことに誇りを持っている。“告”を陥れるようなことをするつもりもないし、そうでなくても悪用するつもりもない」
「悪用なんてしていないさ。むしろ、“告”と同じで、人生の岐路に悩む奴らを良い方向に導いてやっているんだ。世の中には、“告”の恩恵に預かれない輩が五万といる。むしろ、人助けだ」
正照の弁明は、大和には届かない。聞き苦しいとさえ思った。
「どう言われても、気持ちは変わりません。叔父さん、こんなことをしても無駄です」
大和を拉致し、拘束したところで、大和の気持ちを変えることはできない。
こんな話なら、わざわざ拉致までしてすることではない。普通に話し合いの場を持てば良かったのに。力が戻ったというのなら、正々堂々と告の家に来れば良かったのだ。
正照はしばらく黙り込んでいた。その表情は、暗い。
そうか、と呟き正照はズボンのポケットから携帯電話を取り出す。
「俺だ。持ってきてくれ」
短く告げると、電話を切る。仲間がいるのだ。
簡単に解放はしてもらえないようで、大和は嫌な予感がした。
しばらくして、廊下から何かを移動させる音が聞こえた。大和は、そちらに首を向ける。
何かの機械を乗せたワゴンを運んだ女が現れ、それが昨夜自分の前に現れた女だと、逆光で顔が見えずとも分かった。この女に気を取られてしまい、大和は捕まった。やはり、叔父とグルだったのだ。大和は唇を噛んだ。
女が正照のもとへとワゴンを運ぶ。
ベッドの脇に置かれたワゴンに、いったい何を運んできたのかと、大和は不安な気持ちになる。
犯人の顔を見た場合、殺される可能性もある。だが、さすがに叔父はそこまではしないだろう。
この後、自分はどうなってしまうのだろうか。
正照と女がベッドから離れ、少し話をしだす。
正照の目が離れた隙に、大和は右手をぎゅっと握った。
最悪の事態はないと思うが、それでも不安はある。携帯電話もなく拘束された自分にできることは、これしかない。
大和は右手をそっと開いた。ちょうど叔父側と反対側にあるので、体で隠れて手元は見えないだろう。
手の平を上にし、意識を集中させる。大和の体の中の気を手の平に集めるイメージだ。
それはゆっくりと腕を経由し、手の平に集まっていく。
手の平の上に暖かなオレンジ色の光の玉が浮かび、少しずつ大きくなり揺らぎ始める。
少し力の戻ったという正照は、どれほどのものなのだろう。正照にも見えるのであれば、見つかる前にしないとならない。
この前出そうとした時は何となくという気分だったので、きっと真剣さが足りなかったのだ。
告の人間を護るための霊獣であれば、今こそ、この状況であれば出せるだろう。
―――大和を護ってくれる、ボクノトリを。
光の玉が大きく膨らむ。
出ろ、と大和が心の中で叫ぶのと、正照が振り返るのは同じだった。
「大和、お前!」
飛びかかろうと正照が大和に手を伸ばした瞬間、光の玉はふっと姿を消す。
「あ……」
大和は光の玉の消えた空間を呆然と見つめた。
今度こそ、と思ったのに。
正照がせせら笑う。
「なんだ。直系のくせに、霊獣も出せないほど力が弱いのか? まあ、俺もそこまでの力はないんだがな。ますます気に入った」
正照はさらに仲間意識を高めたようだった。
こんな奴と同じだと思われているのが悔しかった。だが、大和が霊獣を出すことができなくなっているのは事実だ。
「まったく、余計な真似をするんじゃない。言っておくが、ここは市内から離れた空き家だ。周りに民家はないから大声を出しても無駄だぞ。携帯の電源も切ってあるから、お前の居場所は誰にも分からない。大人しくしているんだ」
誰の助けを呼ぶこともできない―――。
大和は身動きもできず、正照を見上げるしかできなかった。
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