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そしてケモノは愛される

5.怪我の治療

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 鱗人たちの治療は、志狼が手伝ってくれたおかげで無事手早く終えることができた。乱闘の怪我もそれほど深くはなかったのが幸いした。

 口酸っぱく注意をし治療を終えた男たちを帰すと、穂積は志狼を労った。
「悪かったな。手伝いをさせて」
「大したことしてないよ。でも緊張した」
 診察室のイスに座り胸を撫で下ろした志狼に、葡萄水をコップに入れて渡す。

「本当に助かったよ。何か礼をしないとな」
 志狼はぷるぷると首を横に振った。
「それなら、腕を治療してもらったから、おあいこ」

 腕を見せてにこっと笑う志狼に、穂積もつられて笑い返す。素直でいい子だと思った。

「でも先生、本当に医者だったんだね」
「どういう意味だ」
 葡萄水を飲む志狼を、冗談っぽく軽く睨む。

「だって、いつも外でしか会うことがなかったから。お医者さんの穂積先生って教えられてたけど、実感なかった。白衣着て治療してると、本当にお医者さんだ」

 言われてみればそうかもしれない。
 斎賀はファミリーの者たちに穂積のことを、医者をしている友人として紹介してくれているが、ファミリーの者たちは怪我をしても斎賀に治療をしてもらうため、町の病院を利用することがない。

「まあ、これで俺が皆に頼られる人気の医者だって分かったか?」
 流行っていないと言われた仕返しとばかりに言うと、休憩時間なことを知った志狼は肩身狭そうにぺたんと耳を下げた。
「うぅ」

 可愛い反応に、頭をぐしゃぐしゃと掻き乱したい衝動に襲われる。

「ところで、一つ頼みごとをしてもいいか?」
「うん。何?」
 話を聞く前から了承が返ってくる。

「狩りのついででいいんだが、もしシャクリョウを見かけたら、心臓が欲しいんだ」
「シャクリョウて、あのシャクリョウ?」
 意外そうに志狼が訊き返す。

 シャクリョウは、植物系の低級魔族だ。ハンターになりたての者くらいしか相手にしない。
 皆強くなってくると小物を狙わなくなるため、新人ハンターが増える時期以外は市場への流通が少なくなる。それに、ある程度腕に自信があればハンターでなくても戦える低級魔族なので、欲しい者は自分で狩りに行く方が早い。

「シャクリョウの心臓は、ランク1の傷薬になるんだ。それならうちのばあさんでも煎じれるからな。俺が行けば早いんだが、何しろ人気者で忙しくてな。狩りのついでに見かけたら程度でいい。採ってきてくれるとありがたい。ちゃんと報酬は払う」

 志狼はこくりと頷いた。
「ついででいいの?」
「ああ」

「じゃあ別に、シャクリョウくらい採ってくるよ。別に報酬も要らない」
 恐らく穂積と同様に、志狼なら余裕で素手でも倒せるほどの小物だ。売ったところで子供の小遣い程度にしかならないから、志狼も気にしていないようだ。

 だが、依頼とするからには何か礼はしたい。穂積は少し考える。

「それなら、いつでもタダで治療してやるってのはどうだ。ちょっとした怪我くらいなら、帰りに立ち寄ったら診てやる」

 何気ない提案だったが、志狼に驚くほど輝いた顔で見返された。
「タ、タダ!?」

 その瞳にはタダという言葉しか映していないのではなかろうかというくらいの、喜色満面だ。
 志狼の異様なほどの食いつきに、穂積の方がたじろいでしまう。

「お、おう」
 報酬なのにタダという言い方もおかしいのだが、そこは気になっていないらしい。

 タダという言葉を噛みしめるように、志狼は繰り返した。
「本当にタダで治療してもらえるの!?」

「いや、正確には報酬なんだが……な」
「タダも同然だよ。凄いっ」
 志狼の背中の向こうで、茶色い尾がパサパサと忙しなく動くのが見えた。
 そこまで嬉しそうにされると、穂積の方が戸惑う。

「いや、言っとくが病院でできることは知れてるぞ。大きな怪我なら、斎賀に治癒魔法をかけてもらわないとならんし」

「ううん。そこまでの大怪我なんてほとんどしないから。それに、怪我くらいでお忙しい斎賀様の手を煩わせずに済むし。 何より、俺んち貧乏だったから、タダという言葉がたまらないよっ」

 興奮気味で力説されると、そうかとしか言えない。
 よほどタダという言葉が魅力的らしい。それくらいでこんなにも喜んでもらえるのなら、こちらとしても助かる。

 穂積は、にっと笑った。
「じゃあ、決まりだな」

「了解っ」
 志狼はやんちゃそうな笑みを顔いっぱいに浮かべた。
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