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そしてケモノは愛される
7.インバスの熱
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夕方、午後の診療を終える。
最後の患者が帰り祖母も自宅へと帰ったが、穂積は週に一度の医療用品の在庫確認のために病院に残っていた。
待合室の明かりを消しもう患者が来ないようにすると、洗い場を兼ねた備品置き場と診察室だけ明かりを灯した。
「麻痺薬……はまだいけそうだな。次回でいいか」
買い足す必要のあるものを紙に書き出していく。
最近は志狼がシャクリョウの心臓を採ってきてくれるおかげで、一番使用頻度の高いランク1の傷薬は買う必要がない。町中だと子供も多く、一番使うのがランク1の傷薬なので、在庫を気にしないでいいのは随分助かっていた。
志狼のことを思い出して、今日は来なかったなと少し物足りなさを感じる。
最近は、すっかり志狼が来ることに慣れてしまった。志狼が来ると、あの元気な笑顔に気持ちが安らぐ。来なかった日は少し寂しさを感じるくらいだ。
祖母もすっかり志狼を気に入っていて、今日は来なかったと残念そうに帰って行った。きっともう一人孫ができたようで可愛いのだと思う。
考えごとをしていると、入り口の扉をガンガンと叩く音に我に返った。随分乱暴な叩き方だ。
閉院時間なのに窓から奥の明かりが見えて、人が居ることが分かったのだ。
やれやれと溜め息をつきながらも、急患かもしれないと急ぎ入り口に向かい鍵を開けた。
扉を開けた途端に倒れ込むように人が入ってきて、咄嗟に受け止める。
装備や剣が床に落ちる音がした。
夕方で外は薄暗くなってきていることと、待合室の明かりも消していたので、最初は誰か気付かなかった。
「……っ、せんせ……たすけて……」
「志狼!?」
慌ててその体を抱き起こすと、呼吸を荒くして志狼が縋るように穂積の体を掴む。
「せ、んせ……っ」
志狼はそれなりに強いはずだ。それなのにぐったりとしている。この状態で、ここまで頑張って帰ってきたようだ。
ぱっと見て外傷は見当たらないが、明かりがないためちゃんと確認ができない。
穂積は慌てて志狼の体を抱え直し、診察室へと運んだ。
「う……っ」
診察台に体を乗せると、志狼が呻きながらマントに体を包むようにして身を丸める。
「どこをやられた!? 何があった!」
マントで隠されていては怪我が確認できない。穂積は志狼のマントに手を伸ばした。
「お、俺……。せんせ……っ」
しきりに呼ばれ、志狼が切羽詰まっていることが分かる。
だが、斎賀に回復魔法をかけてもらえばすぐに治るのだから、深手を負っているならまず穂積の元へは来ないはずだ。
「斎賀に診てもらわなくていいのか?」
傷を見たわけではないが、屋敷まで辿り着くのも困難な大怪我をしているというようにも見えない。
「さ、斎賀様に、こんなみっともないこと言えない……っ。お、俺……」
志狼は首を左右に振った。
「イ……に……」
口ごもっているせいで何を言ったのかほとんど聞こえなかった。穂積は覗き込むように志狼に顔を近づける。
志狼は顔を隠すように両手で覆うと、今度ははっきりと声を出した。
「イ、インバスに……襲われ、た」
志狼はさらに体を丸めた。
予想外のことに、思わず瞠目する。
「……え? てことは、怪我……じゃなくて?」
インバスは低級魔族だ。攻撃力もそれほどない。
ただ、人の快楽という弱い部分に付け入ってくる性質がある。
「まさか、やられちまったのか?」
インバスごときに?と顔に出てしまうが、顔を両手で覆っている志狼には見えていない。顔を隠したまま、志狼はこくこくと頷いた。
それはつまり、と穂積は息を呑んだ。
「……尻に……入れられたのか?」
最後の患者が帰り祖母も自宅へと帰ったが、穂積は週に一度の医療用品の在庫確認のために病院に残っていた。
待合室の明かりを消しもう患者が来ないようにすると、洗い場を兼ねた備品置き場と診察室だけ明かりを灯した。
「麻痺薬……はまだいけそうだな。次回でいいか」
買い足す必要のあるものを紙に書き出していく。
最近は志狼がシャクリョウの心臓を採ってきてくれるおかげで、一番使用頻度の高いランク1の傷薬は買う必要がない。町中だと子供も多く、一番使うのがランク1の傷薬なので、在庫を気にしないでいいのは随分助かっていた。
志狼のことを思い出して、今日は来なかったなと少し物足りなさを感じる。
最近は、すっかり志狼が来ることに慣れてしまった。志狼が来ると、あの元気な笑顔に気持ちが安らぐ。来なかった日は少し寂しさを感じるくらいだ。
祖母もすっかり志狼を気に入っていて、今日は来なかったと残念そうに帰って行った。きっともう一人孫ができたようで可愛いのだと思う。
考えごとをしていると、入り口の扉をガンガンと叩く音に我に返った。随分乱暴な叩き方だ。
閉院時間なのに窓から奥の明かりが見えて、人が居ることが分かったのだ。
やれやれと溜め息をつきながらも、急患かもしれないと急ぎ入り口に向かい鍵を開けた。
扉を開けた途端に倒れ込むように人が入ってきて、咄嗟に受け止める。
装備や剣が床に落ちる音がした。
夕方で外は薄暗くなってきていることと、待合室の明かりも消していたので、最初は誰か気付かなかった。
「……っ、せんせ……たすけて……」
「志狼!?」
慌ててその体を抱き起こすと、呼吸を荒くして志狼が縋るように穂積の体を掴む。
「せ、んせ……っ」
志狼はそれなりに強いはずだ。それなのにぐったりとしている。この状態で、ここまで頑張って帰ってきたようだ。
ぱっと見て外傷は見当たらないが、明かりがないためちゃんと確認ができない。
穂積は慌てて志狼の体を抱え直し、診察室へと運んだ。
「う……っ」
診察台に体を乗せると、志狼が呻きながらマントに体を包むようにして身を丸める。
「どこをやられた!? 何があった!」
マントで隠されていては怪我が確認できない。穂積は志狼のマントに手を伸ばした。
「お、俺……。せんせ……っ」
しきりに呼ばれ、志狼が切羽詰まっていることが分かる。
だが、斎賀に回復魔法をかけてもらえばすぐに治るのだから、深手を負っているならまず穂積の元へは来ないはずだ。
「斎賀に診てもらわなくていいのか?」
傷を見たわけではないが、屋敷まで辿り着くのも困難な大怪我をしているというようにも見えない。
「さ、斎賀様に、こんなみっともないこと言えない……っ。お、俺……」
志狼は首を左右に振った。
「イ……に……」
口ごもっているせいで何を言ったのかほとんど聞こえなかった。穂積は覗き込むように志狼に顔を近づける。
志狼は顔を隠すように両手で覆うと、今度ははっきりと声を出した。
「イ、インバスに……襲われ、た」
志狼はさらに体を丸めた。
予想外のことに、思わず瞠目する。
「……え? てことは、怪我……じゃなくて?」
インバスは低級魔族だ。攻撃力もそれほどない。
ただ、人の快楽という弱い部分に付け入ってくる性質がある。
「まさか、やられちまったのか?」
インバスごときに?と顔に出てしまうが、顔を両手で覆っている志狼には見えていない。顔を隠したまま、志狼はこくこくと頷いた。
それはつまり、と穂積は息を呑んだ。
「……尻に……入れられたのか?」
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