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ケモノはシーツの上で啼く Ⅱ

2.出発

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 斎賀に想いを告げて、二つの季節が過ぎた。

 諦めないと宣言した通り、柴尾は人目を盗んでは斎賀へ好きだという主張を続けていた。
 本気で迷惑に感じていれば、例え甘やかしている相手でも斎賀は迷惑だと言うはずだ。斎賀も慣れてきたもので、柴尾の行動に動じることなく、半ば仕方なさげにも見える。

 広間に到着したのは、柴尾が最後だった。五人揃うと、屋敷を出て門へと向かう。

「おはようございます」
 食材の納品に来た商店の父娘の荷車とすれ違い、挨拶を交わした。

「柴尾さん!」
 門を出る直前、声を掛けられた。娘が駆け寄ってきて、柴尾は足を止めた。
 いつも父親と一緒に納品の手伝いに来ている、若い娘だ。

「これ、焼き菓子なんですけど……。狩りの休憩中にでも、皆さんで食べて下さい」
 娘は柴尾に小さな紙袋を渡した。

「ありがとうございます」
 柴尾が笑いかけると、娘は照れながら父親の元へと走って行った。

 仲間の元へ追いつくと、にやにやとした顔で迎えられた。
「ほお。柴尾くんはモテモテだねえ」
 揶揄おうとしているのが明らかな態度に、柴尾は何でもない態度を返す。
「皆で食べてくれって言ってただろ」

「わざわざ柴尾を名指しで呼んでるだろ。分かってるくせに」
 歩きながら、他の連中も頷く。
 もちろん柴尾にも、娘の態度からそのことは分かっている。

「え。今のそういうことだったのか?」
 分かっていないのは、志狼だけだった。

「志狼……。お前、もうちょっと女の子の気持ちを察せるようになった方がモテるぞ」
「うぅ。うっせぇよ」
 皆で鈍感な志狼を笑った。

 でも、と甲斐が続けた。

「柴尾の好みは髪の長い年上美人だから、可哀想だけどあの娘は無理だな」
「髪が長いのだけは合ってるんだけどな。年齢だけはどうしようもねえや」
 同情するように周りが頷く。
 まさかあの娘も、本人の知らぬところでこれほど自分のことを話されているとは思うまい。

「……あ」
 ふと柴尾は声を漏らした。周りが振り返り、慌てて何でもないと首を振った。

 今更ながらに気付く。

 そういう意味では、斎賀は柴尾の好みそのものだった。
 男だから気にしていなかったが、知らずうちに好みが影響していたようだ。柴尾は案外、単純な男だった。

 柴尾は年上女性の、普段しっかり者でありながらも恋人には可愛いところを見せてくるところが好きだ。恋人は、柴尾を年下として少し甘やかしつつも、男として頼ってくれる。そんなところにも、男心をくすぐられる。

 斎賀の場合は、可愛いところなど見せてはくれなさそうだけれど。
 むしろ、余裕たっぷりに男前に可愛がってくれそうだ。

「柴尾、何顔赤くしてんだ?」
 隣から声を掛けられる。
 何やら頭の中で妄想が始まりそうで、柴尾は慌てて頭を左右に振った。
「何でも……ない。少し急ごう」
 柴尾は皆に声を掛けると、歩みを速めた。
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