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【番外編】啼かないケモノは愛に惑う

1.年下の恋人<斎賀>

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 斎賀の週末は、一日の終わりが長い。

 三回目は、横向きの状態で背後から突かれた。柴尾は腰を動かしながらも、うなじを甘噛みすることを忘れない。

「はぁ…っ、斎賀様……」
 興奮を露わにした声で、柴尾が名を呼ぶ。
 声を聞かれるのが嫌で、斎賀は唇を噛みながらも右手で押さえていた。

「ん……っ」

 緩急をつけながら中を擦られ、どうしようもない甘い疼きが湧き上がる。
 斎賀の体は、今やすっかり柴尾に抱かれ慣れてしまった。

 埋められていた熱が抜かれ、体を仰向けにさせられた。
 慣れてはきたが股を開く格好は何度経験しても、開かれる瞬間に羞恥と未だ僅かに残った抵抗感が伴う。
 斎賀は無意識に左手でシーツに皺を作った。その手に柴尾の手が重なり、シーツに縫い留められる。

「斎賀様……」
 熱っぽく囁き、柴尾は紅潮した顔で斎賀を見下ろした。

 もう片方の手をそっと持ち上げられ、指先に口付けられる。それは口付けだけでは終わらない。斎賀の長い指を、指先からゆっくりと甘噛みしながら動いていく。手の平に辿り着くと吸い付き、べろりと舌で舐められた。

「……っ」
 ぞくりと、甘い痺れが体を走る。そんなことですら、感じるようになってしまった。

 手に意識がいっていると、再び柴尾の熱が体内に押し込まれた。

「は……、あ」
 条件反射のように口を塞ごうとするが、斎賀の右手は柴尾に握られ、左手はシーツに押さえつけられていた。

 柴尾を見上げると、斎賀の手の平に口付けながら確信めいた視線を向けられた。きゅっと握る手に力を込められる。

 体重をかけられている分、斎賀の方が不利だった。

 柴尾は抽挿する動きを速めていく。斎賀の感じる場所を、的確に攻め立てた。

「手を……っ」
 自分の漏らす声に含まれた甘さに、斎賀は羞恥に襲われた。

「柴尾……っ、あっ……離せ…っ」

 自分のこんな声を聞きたくない。
 みっともなくて、柴尾の熱い視線に堪らなく恥ずかしさを感じた。

 斎賀の手を封じたまま、柴尾は斎賀を追い上げていく。
「ん……う……っ」
「感じてる斎賀様、可愛い……。可愛いです……」
 うわ言のように柴尾が繰り返す。

「…っく、……あ」
 全ての感覚がその場所に集中し、柴尾を締め付けた。
 柴尾も後を追うように、達する。

「はぁ……はぁ……」
 二人の乱れた呼吸だけが聞こえる。
 ようやく手が解放され、斎賀は柴尾を睨み上げた。

 柴尾は、こずるいことを覚えた。

 一年に一度の誕生日だけだと仔犬のような目で甘えたくせに、斎賀の手を封じてくるとは、油断ならない。

 しかも斎賀が髪を切ってから、可愛いとうわ言のように言うことが増えた。後から指摘したらどうやら無自覚らしく、これを止めることは不可能らしい。
 いい歳をして可愛いなどと言われ、居心地の悪さしかない。早く髪が伸びることを願うばかりだ。

「この……っ」
 手を封じられたことに斎賀が睨んでも、まったく意にも介さない様子で柴尾は満足そうな笑みを浮かべた。

 達したばかりの敏感な場所に、柴尾が食らいつく。
「んっ」

 頬張ると強く吸引され、中に残ったものを吸い出される。斎賀は開かれた太腿を、びくびくと震わせた。
「あ……あっ」
 強く吸い出され、最後に腰がひくっと震えた。

 斎賀は体を弛緩させた。

 悔しいことに、夜に関しては今やすっかり柴尾に振り回されている。
 くっと小さく呻いて、斎賀は柴尾から顔を背けた。

「拗ねないで下さい。斎賀様」
「拗ねてなどいない」
 むっとして即答すると、斎賀は傍の布団を手繰り寄せた。

「もう終わりだ。明日は昼から出掛けるからな」

 斎賀の嫌がることをするから、その罰だ。もう続きはさせないことにした。
 当然、柴尾は残念そうな顔をする。

「まだ三回しかしてないのに」

 三回もすれば十分だ。
 獣人は精液量が多く、比例して行為の回数も増える。だが、それと受け入れる体力は別だ。

 物足りないようだったが、柴尾は布団の中に潜り込むと斎賀の隣に大人しく横たわった。

「明日はどちらに出掛けられるんですか?」
「北の隣町だ」

「北の? 僕もご一緒していいですか? 友達がいるんです」
 柴尾がぱっと笑みを浮かべた。
「ああ、構わん。私は取引先と会うから、その間好きにするといい」

 隣町に友人がいるというのは、初めて聞いた。

 いつも仲間とばかり遊んでいるようだったので、柴尾の交友関係など考えたこともなかった。柴尾は人当たりがいいから、きっと誰とでも仲良くなれる。斎賀が知らないだけで、友人も多そうだ。
 面倒見がいいから、年下からも兄貴分として慕われていることだろう。

「一緒に出掛けられるの、楽しみです」
 柴尾は嬉しそうに、ふわりと微笑んだ。そんな小さなことで喜ぶ姿に、斎賀も小さく笑い返した。

 普段はしっかり者で優秀な柴尾だが、時折、若さゆえの暴走があるのは否めなかった。

 本人は自分を変態だと言っているが、本当にそうなのではないかと時々思う。

 柴尾は、斎賀の体を舐めたり吸ったり噛んだりするのが好きだ。そのうち斎賀を食うつもりなんじゃないかと思うほどだ。愛撫の範疇を超えている。
 それが例え、斎賀を愛するが故だったとしてもだ。

 過去に付き合った女性にも同じようなことをしていたのなら、女性が少し可哀想に思えてくる。
 見た目は好青年のくせに、いやらしい男だ。

 以前、斎賀を妊娠させたいなどと言い出した時には驚いた。
 本気でそんなことが可能だと思っていたところが、怖いくらいだ。

 あの時の屈辱的な気持ちといったら、最低最悪だった。

 そもそも万が一にも本当に男でも妊娠できたとして、斎賀が妊娠してしまったらそれは、斎賀が男に子種を注がれたと言っているようなものだ。

 そんなことを周りに知られでもしたら、斎賀はきっと知った相手すべてに攻撃魔法を向けてしまう。本当に、何も起こらなくて良かったと心の底から思った。

 時にとんでもないことをするし、夜の行為も疲れるほどの柴尾だが、それでも斎賀の中で気持ちよくなっているのを見ると、柴尾のしたいようにさせてやるかと思えてしまう。
 誰だって、愛する者が自分と抱き合って気持ちよくなってくれているのは、嬉しいし愛しさが込み上げてくるものだ。

 毎日が穏やかに幸せだった。

 あれほど拒んでいた柴尾の気持ちを受け入れて良かった。
 まるで意地のように自分のこれまでの生き方から抜け出すことを認めずにいたが、自分の気持ちを素直に受け入れて良かった。

 抱かれることにも慣れたし、今更異存はない。
 ただ、自分が制御しきれないほどの快楽で乱されるのは、あまり好ましくはない。みっともない姿を見せたくないと思うせいで、抱かれる時は常に緊張感が伴っていた。

 男に抱かれる自分自身を、もう認めてはいる。柴尾に抱かれることを、嫌だと思っているわけではない。
 声を上げたくないだの乱されたくないだのは、自身の性格的なことが要因だ。けれど、性格というのは簡単に変われはしない。
 割り切ったつもりでも体と心に性格がついていけず、未だに少しばかりの抵抗感が残っているようだった。

「おやすみなさい。斎賀様」
 柴尾は斎賀の頬に、そっと触れるだけの口付けをした。

「……おやすみ」
 最後に柴尾を見ると、斎賀は光魔法を解いた。
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