愛を知らずに愛を乞う

藤沢ひろみ

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4.特別な客

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「………」
 このままでは本当に抱かれてしまう。
 力が入らないはずの体が強張った。

「衛士とやら。本当に抱いてはならんぞ」
「へ?」
 老人の言葉に衛士が振り返る。

「後ろが使えるかどうかと、どんなものか確認するだけだ。決して行為に及んではならぬ」

「え? なんだよ、挿れられねーのか?」
 衛士はとても残念そうだが、那岐は少し安堵した。
 だが、事態はそれほど変わっていないようにも思う。

 茶色い髪を手でぐしゃぐしゃとかき混ぜた後、衛士は大きく頷き那岐の前にしゃがんだ。
「よっしゃ。じゃあ、那岐を開発すっかな」

 裸でソファに座っていた那岐は、両膝を掴まれ広げられた。力の入らない体はいとも簡単に、衛士に動かされた。
「……っ」

「開脚~って、ん?」
 しゃがんだ衛士が顔を上げる。
 何の抵抗もない那岐の異変に気付いた。嬉々としていた顔が、すっと真剣なものに変わった。

「那岐……。お前、何か……」
 言いかけて、衛士は口を噤んだ。不満そうに、老人には聞こえないほどの小さな舌打ちをする。

「ご親切なことだな……」
 苦い表情で、衛士は那岐に聞こえるくらいの呟きを漏らした。
 薬を使われているということが、衛士にも分かったのだ。

 衛士は那岐の膝裏に手を差し入れると、ソファのひじ掛けに那岐の両膝を乗せた。
 足を大きく開かせ、橘宮の男なら見せることのない屈辱的な格好をさせられる。羞恥で頬に朱が走った。

「く……っ」
 何の抵抗もできないことが、そして橘宮のトップまで上ったのに男に抱かれるということが、ただただ悔しかった。

 老人が立ち上がり、那岐の座るソファの傍に立つ。まるで見物するように、二人の様子を眺めた。
「こういったものを見るのは初めてなのでな。じっくりと見せてもらうとしよう」

 自分が年齢的にできないから他人の行為を見て楽しもうだなんて、悪趣味だ。
 見るだけならば、自分好みの者を選べばいいのに。トップとナンバー2の二人を使うことで、満足感を得ているのだ。
 そんな金持ちの自己満足の為に選ばれたのだと、那岐は唇を噛んだ。

 衛士はベッド脇からローションを持ってきた。
「爺さん。男は濡れねーから、こういうのを使う」
 説明を受けた老人は、ふむと頷いた。

 衛士はローションを傾けると、何の反応も示さない那岐の中心へと垂らした。思わずびくりと体が揺れた。

「せっかくなんで、人気の“遊華楼の那岐”のご自慢の一品を拝むとするか。こんなことでもないと、見れねーし」
「ふざ……けるな」
 楽しそうな衛士を睨んだ。

 だがローションで濡れた自身を握られると、次第に体は反応してしまう。ローションには、少し興奮剤が含まれているのだ。

 簡単に達しないように我慢を身につけた体だが、薬で力が入らないせいか衛士の手管のせいか、間もなくして那岐の中心は熱を持ち始めた。
「ん……」

「どう? オレの手技。やらねーけど、口技もすげー上手いんだぜ」
 普段のように話しかける衛士を、軽く睨む。
 衛士が手を動かすたびに、ローションの濡れた音が耳障りなほど聞こえてきた。

「う……、はぁ」
 息を零すと、衛士は満足そうに育ちきった那岐自身を撫でた。

「おお。立派、立派。さすが、トップの名は伊達じゃねーな」
 揶揄うような言い方に、むっとした表情になった。
 後で覚えていろよと思ったが、むしろ弱みを握られているのは那岐の方だ。言えるはずもない。

「じゃあ、後ろもいくぜ」
 楽しそうな衛士を見て、ぎくりとする。

 ついに挿れられてしまう―――。那岐は思わず顔を背けた。

「さすが、使ってないだけあって綺麗なもんだな。なあ、那岐?」
 衛士の視線がどこに向けられているのかが分かり、那岐は唇を噛んだ。

 高級なソファに染み込みそうなほどたっぷりとローションを垂らし、衛士の指が那岐の触れられたくない場所に押し入ってくる。

「く……」
「まだ一本目だ、那岐」

 力が入らないおかげで、衛士の指はスムーズに押し入ってきた。ゆっくりと動かされる指に、その形を頭の中に描いてしまう。

「ふ……く、はぁ……」
 ローションが継ぎ足され、指が増やされる。
 老人も衛士も喋らないので、部屋には那岐の呼吸だけが聞こえた。

 まるで体の中から呼び起こされるような感覚がせり上がってくる。
 那岐が突くと、いつも客が悦ぶ場所。一生知ることのなかった、その場所を突かれる感覚。

「……っ、ん……!」

 ソファの上の体が跳ねる。
 知りたくなかったのに、嫌だと思うのに、そこに触れられる快感を知ってしまった。

「衛……っ」
「はは。素質あるんじゃねーの」
 びくっと震えた那岐の尻を、衛士は撫でた。

「これは今どういう状況かね?」
 老人が尋ねる。衛士は指を動かしながらも、老人に説明した。

「男の体の中にも、女みてぇに敏感な場所があるんだ。そこを押してやると、ほら、こんな風に気持ちよくてたまんねーんだ」

「あ、や……っ」
 まるで遊ばれているように、説明しながら何度もぐりぐりとその場所を攻められた。これでは、すぐに達してしまう。

「衛士、やめ……! あ、あ」
 抵抗もできず、那岐は腹を白く濡らした。

 こんなに早くに達してしまったのは初めてだった。自らの意志とは関係なしにイカされたのも、初めてだ。
 いつもは達してもすっと熱が引くのに、じわりと腰のあたりに熱が残る。

「では、抱く側であればいかがなものか? 悦いものかね?」
「男は締め付けがきついから、女よりいい。だから、うちの客は常連が多いんだ。イク時に締め付けてくるのが、またイイんだよな。うちの桃宮の連中もすげーテク磨いてるから、今度あっちも行ってみてよ。もちろん舌技も絶品だから」

 なるほど、と老人は頷いた。
 平常通りの二人の前で、那岐だけが踊らされているようだった。

「んっ」
 終わったと思っていたら、中に入れたままだった指を動かされた。
「衛……っ、あ、まだ……っ」
 まだするのか、という問いかけはすぐに乱れた呼吸に変わる。

 老人は続きを促すように、大きく脚を開かされた那岐の姿を眺め続けた。
 衛士に視線をやると、応えるように口角を上げた。

「はっ、あ、衛……」
 蠢く衛士の指の形を感じながら、呼ぶことで抵抗を示す。

 衛士はゆっくりと体を起こし、指はそのままで那岐に顔を近付けた。
「言っとくけど、普段は優しくなんてしないんだぜ。こんなふうに丁寧にしてやるのは、特別だからな」

 囁くように告げられた恩着せがましい衛士の言葉は、那岐の心には届かなかった。

 普段優しくなかろうが、今優しかろうが、那岐の最悪な状況に違いはない。
 そんなことは、那岐にはどうでもいいことだった。
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