〜放課後の恋人たち〜

第５章：健康診断の結果と優希の勇気

　数週間後。とうとう結果が帰ってきた。男子が偶数クラス、女子が奇数クラスと別々になって返される。隣のクラスだから男子生徒が動物みたいに騒いでいるのが分かる。私たち含む女子生徒はどちらかというと静かな方だと思う。けど、返された後体重を見せにくる。私はみんなに隠れて隠れて見る。すると、平均より数キロオーバーしてた。これ見られたら私の青春は終わる。すると後ろから
「小雪、そんなに食べてるの？　ちょっと気をつけた方がいいんじゃない？」
と。桜庭美咲さくらばみさきが言った。そして、
「あれ、体重計壊れてないよね？」
と嘲笑う。心配を装っているようでいて、瞳の奥には好奇心とわずかな悪意が宿っている。口元は心配そうに引き結ばれていても、目が笑っているような『優しいふり』の表情。
「小雪、ダイエットとか考えたことある？　その体重でバドミントンとか大丈夫？」
月島玲奈つきしまれいなが、私を非難する。少し冷ややかな目で私を見つめながら、他人事のように冷静に問いかける。親切を装っているけれど、その表情には共感の欠片もなく、突き放すような冷たさが感じる。
他には
藤原亜美ふじわらあみ
「クラスで一番重いって、ちょっとショックだよね？」
「もう少し運動した方がいいんじゃない？」
 友人に顔を向けて『ね？』と同意を求めながら、私には『残念だね』『かわいそうに』と哀れむような、しかし本心では見下している表情。
橘真奈たちばなまな
「小雪、そんなに重いなんて信じられない！」
「その体重で制服がきつくない？」
心底驚きと嫌悪感を隠しきれない、大げさな表情。まるで『自分には理解できない』というように、顔をしかめたり、目を大きく見開いたり。
水無月由香みなづきゆか
「小雪、体重管理ちゃんとしてる？」
「その体重で健康診断大丈夫だった？」
眉間にわずかにシワを寄せ、『だらしない』とでも言うように小雪を批判的に見る。健康診断の結果にまで口を出すのは、正論を振りかざして私を追い詰める。
篠宮彩花しのみやあやか
「小雪、ちょっと太りすぎじゃない？」
「その体重で体育の授業とかきつくない？」
率直で悪気がないように見えて、実は無神経で人の気持ちを考えない、遠慮のない表情。
神崎美和かんざきみわ
「小雪、クラスで一番重いなんて、ちょっと恥ずかしくない？」
「その体重でどうやって動いてるの？」
友人と顔を見合わせて薄く笑いながら、小雪を値踏みするように上から下まで見下ろす冷たい視線。
と。非難轟轟ゴーゴーの嵐だった。私だって好きでこんな体重になったわけじゃないのに。すると、
ーーガラッ！
黒崎くんが入ってきた。健康診断用紙持ってきて。
「隣のクラスがやたらうるさいと思ったらこれか……」
黒崎くんが低い声で言う。
「ここは、女子のクラスよ！　入ってこないで！」
美和が黒崎くんに怒鳴る。そして私の耳元で
「１番体重が重いからこれから先頭に並びなさい」
と。言う。すると、黒崎くんは私の手を引き後ろに回らせる。そして、自分の健康診断結果を見せつける。黒崎くんの健康診断結果は
『身長175.5cm　体重42.6kg』
と。書いてあった。私に非難をしていた女子生徒たちがみんな口を強く結んでなんもか反論できない状態だった。そして、黒崎くんは私に向いて
「俺の体重は標準女子の体重よりも軽いんだ……だから、体重なんて気にする必要はないよ……大事なのは健康でいることと、自分を大切にすることだよ……」
と。その言葉が私の胸を暖かくしてくれた。『健康でいることと、自分を大切にすること』の意味。私は今まで自分を大切にしてこなかった。無理して減量して、体重という固定概念に固執してたんだ。でも、もう無理して減量しなくていい。だって体重が平均より重かろうが軽がろうが生活できている人がいるから。黒崎くんが正にそうだったから。
　下校時。
「白石！　一緒に帰らねえか？」
黒崎くんが呼ぶ。私は黒崎くんと一緒に帰ることになった。
「ちょっと食べ歩きしていくか……」
黒崎くんは高校近くのコンビニに寄る。
　コンビニエンスストア、桜坂高校前店。
「アメリカンドッグ２つ」
「かしこまりました」
黒崎くんは、アメリカンドッグを２本買う。黒崎くんは料金を払って店を出る。そして、１本私にくれた。
「ケチャップとマスタードはいる？」
黒崎くんが聞く。
「かけてちょうだい」
私はかけて欲しいと頼む。黒崎くんは私のアメリカンドッグにケチャップとマスタードをかけてくれた。黒崎くんの買ってくれたアメリカンドッグは格別に美味しかった。