町を救いに来たという予言の騎士様はこの姫騎士で合っていますか?

さくら書院(葛城真実・妻良木美笠・他)

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胸騒ぎの夜

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 用意された服をまとい風呂からあがった姫騎士は、部屋に通された。
 ハーフエルフのレオナが陶器の瓶とコップを木の盆に載せてやってくる。
「姫騎士様。この温泉の名物、冷たい炭酸水でございますだよ」
「そうか。いただこう」
 差し出された盆を受け取り、机の上に置くと、姫騎士はレオナの頭巾に手をやり、さらに深くかぶらせた。
「どうもそれが見えると落ち着かぬ。許してくれ」
「すんません、こんな耳で…」
「レオナ、謝るな。お前に悪いところは何もない」
「だども…」
「もし、お前に悪いところがあるなら、私にも悪いところがあるのだろう。言ってもはじまらん。だから、謝るな」
 姫騎士の目の前にあるコップ。そのなかには小さな泡をたてる透明な液体が入っており、一片の柑橘が浮かべられられている。
「おまえといると喉が渇くな。まるでおまえに恋でもしているようだ」
 姫騎士はコップのなか炭酸水をあおり、喉をうるおした。ぜんぜん足りない。すぐさま瓶から次の炭酸水を注いだ。
 生まれたときから魔族を斃す方法を仕込まれてきた彼女にとって、魔族の血をひくものを無傷でおく自制心を持ち続けるのは自然なことではない。ふと気がつくと目の前の少女を数通りの方法で殺害する方法を思いついてしまっている。そのなかには思い切り残虐な方法も含まれていた。抑止効果をあげるため相手が生理的に嫌悪する方法でことを成し遂げるのは禁止されてはいない。いつも戦は非情なものだ。
「恋、おらにだか?」
「ああ。おまえが気になってしょうがない」
 二杯目に口をつけた。温泉水特有の金気かなけも感じられず、微かに柑橘のよい香りがしていた。
「そういう、もんだすかあ…」
「そういうものらしい。泉の水の味、悪くないな。さらに、これを入れてみたらどうであろうか」
 姫騎士は、旅の荷物から茶色い小瓶を出すと、中身をグラスに注いだ。
「これはな、王都から大事にだいじに持ってきた濃縮した酒だ。醸した酒から酒精だけを集めたものでな」
 姫騎士はグラスに口をつける。
「濃縮した酒をいい水で薄めて飲むと実にこれが美味いのだ」
 姫騎士が言う。
 様子をみていたレオナが小首をかしげて尋ねる。
「ああのぉ、姫騎士様が濃縮した酒と言われるのは、ジンのことだかね」
「おお、そうだ。知っているのか、ジンを!?」
「うちにも薬用に残ってますだよ。城内の蒸留窯で作ったものでありますが、戦争で使われなくなって久しいそうで」
「ほぉ、蒸留釜が残っていたのはこの町だったか。私は一番くじを引き当てたかもしれんな。レオナ、まず残ったジンをくれ。明日は城内に連れていってくれ」
「あんれまあ、姫騎士様、とんだ酒好きだぁことぉ。でも、城内にはうちら庶民は出入りができんのでやんす。姫騎士様が門番らと交渉してけろぉ」
 レオナは呆れていった。
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