とある雑多な思考錯語

工事帽

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消息不明の陽花里ちゃん

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 キーンコーンカーンコーン。

 チャイムが鳴れば授業は終わり。今日はこれで学校も終わり。
 途端に騒がしくなる教室で、私も友達の桂木に声を掛ける。

「桂木っ、帰ろっ」

 近所に住んでる桂木とは、学校に来る前からの友達。さっきの授業では寝てしまって原先生に起こられていたけど、実は、珍しくもない光景だったりする。
 大体、お昼を食べた後の授業って眠いしね。

「うん……ちょっと待って。今行くから」

鞄の中に教科書を仕舞いながら言うと、桂木はゆっくりと立ち上がる。
私はそんな桂木の仕草を見ているだけで嬉しくなってしまう。
だって、他の人は早く帰りたいばかりなのかバタバタしてるから、ゆっくり座っているだけでも目立つんだもん。
まぁ、それが当たり前なんだろうけど、私は違う。
桂木はマイペースだけど、決して自己中じゃない。
きっとそれは、性格がいいからだ。
私には分かるよ。
だから好きになったんだよ?
それからしばらくして校門を出ると、前の方に見慣れた後ろ姿があった。
あれ? 良かった。
やっぱりここで合ってたんだ。
でもどうして分かったのかな? 不思議に思いながらも小走りで駆け寄る。

「陽花里ちゃん! 久しぶり!」
「え?……あぁ、唯奈か……」

振り向いたその顔を見て、私は思わず息を飲む。何これ……。
どうしたの、この人……。
久しぶりに見た陽花里ちゃんの顔はやつれていて、目の下の隈は化粧をして誤魔化す事すらしていないみたいだった。
まるで何かに追われるように焦った様子。
でも、それを必死に取り繕おうとしている。

「大丈夫?」

そう問いかけると、ハッとしたように表情を変えた。
そして、「ごめん、気を付けるわ」と言って歩き始める。
私も慌てて横に並んで歩いた。
すると不意に、隣にいる陽花里ちゃんが呟く。

「あのさ……突然悪いんだけど……一つ聞いてもいい?」
「うん、何でも言って」

元気がないせいか、いつもより小さい声の彼女に優しく答える。

「最近、変な噂とか聞いたりしない?」
「変なって?」

聞き返すと彼女は一瞬迷うような素振りを見せた後口を開いた。

「……心霊現象みたいな話、とか……」
「え!?……ないよそんな話……」

予想外の言葉に驚いてしまう。
確かにそういう話は怖いと思うけど、流石に非科学的なものを信じてはいない。

「それって原先生になにかされたの?」

魔法の授業を担当する原先生はアンデットという種族らしい。いつも体中に包帯を巻きつけていて、魔法がすごく上手い。
噂でしか聞いたことがないけれど、原先生は幽霊も操れるそうだ。もし、原先生が陽花里ちゃんになにかしたなら訴えなきゃいけないかも。
すると、なぜか陽花里ちゃんは困った顔をする。

「あー違う違う、別に何もされてないし、むしろ助けてくれてるくらいだよ」
「じゃあなんで急にそんなこと聞くの?」

私が疑問をぶつけると、彼女の表情が変わった。
今まで感じていた違和感の正体に気づく。
―――恐怖だ。
これは、怖がっている人間の目つき。
そして、先程からの言動から察せられる事はただ一つ。

「ねぇ陽花里ちゃん、まさかだけど……何かあったの?」
「……」

私の問い掛けに、彼女は何も答えず、暗がりに溶けるように消えていった。
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