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手招き
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吾輩は猫である。名前はまだない。
そんな吾輩は今、とあるマンションの庭に居る。そして目の前には大きな池があるのだ。
なぜこんな所に居るのか? それは昨日のことである――。
***
「ニャア」
「あ、猫だ! 可愛い!」
ここはとあるマンションの一室。そのベランダから一人の女性が顔を覗かせていた。
「おいでー、こっち来て一緒に遊ぼうよ」
彼女は笑顔を浮かべて手招きをするが、吾輩はプイッとそっぽを向く。
「あれ?」
彼女は不思議そうに首を傾げるが、今度は少し声を大きくして再び呼びかける。
「ほら、こっちだよ。怖くないからさ」
だがそれでも吾輩は動かない。すると彼女はベランダの手すりの上に腰かけて、さらに大きく手を振った。
「おいでってばー」
その瞬間、彼女はベランダかえあ飛び出し、吾輩のほうへと走り出す。
フッ、ちょろいものだな。やはり猫はこうやって可愛がられるべきなのだ。
「えっ!?」
しかし次の瞬間、彼女はバランスを崩したのか、そのまま後ろ向きに落ちてしまったのだ。
バッシャーン!! 凄まじい水音と共に彼女が池の中に沈む。そしてその直後、辺り一面に水が飛び散り、吾輩の顔にもかかってしまった。
「ミャア!?(何事か!?)」
思わず驚いて声を上げてしまう。それからすぐに水面に視線を向けると、そこには先ほどまで居たはずの彼女の姿はなかった。
どうやら落ちてしまったようだ……。
「ニャーオ!」
吾輩はひと鳴きしてからその場を離れた。
***
その後、吾輩はいつものように公園に向かったのだが、そこで思わぬ人物と出会った。
「あ! やっと見つけたよ!」
そこには池に落ちたはずの彼女の姿があった。
「お前を探してたんだよ」
彼女は嬉しそうな表情でこちらに向かってくる。
まさか、追いかけてきたというのか? あの状態からどうやって……。
「はいこれ」
そう言って彼女が差し出したのは小さな皿だった。その中には牛乳が入っている。
「お腹すいてるんでしょ?」
確かに朝ごはんを食べてから何も口にしていないが……。
「ほら、飲んでいいよ」
彼女はニコニコしながら見つめてくる。……仕方がない。吾輩は小さく息をつくと、ゆっくりと近づき、ペロリとその中身を舐めた。
その瞬間世界は反転した。
***
「?ょしでんるていす腹お」
引き寄せられる小さな皿。
「れこいは」
遠ざかっていく彼女の姿。
吾輩もそうだ。体は勝手に後ずさり、それが当然のことのようにどこかへ連れ戻されていく。
そして気づいたら吾輩はあのマンションの庭に居て、池を覗き込んでいた。
池を覗き込んだまま一昼夜。吾輩は、このマンションへ来る前はどこにいたのだったか。
「おいでって、言ったのに」
池の中からは彼女が手招きをしていた。
そんな吾輩は今、とあるマンションの庭に居る。そして目の前には大きな池があるのだ。
なぜこんな所に居るのか? それは昨日のことである――。
***
「ニャア」
「あ、猫だ! 可愛い!」
ここはとあるマンションの一室。そのベランダから一人の女性が顔を覗かせていた。
「おいでー、こっち来て一緒に遊ぼうよ」
彼女は笑顔を浮かべて手招きをするが、吾輩はプイッとそっぽを向く。
「あれ?」
彼女は不思議そうに首を傾げるが、今度は少し声を大きくして再び呼びかける。
「ほら、こっちだよ。怖くないからさ」
だがそれでも吾輩は動かない。すると彼女はベランダの手すりの上に腰かけて、さらに大きく手を振った。
「おいでってばー」
その瞬間、彼女はベランダかえあ飛び出し、吾輩のほうへと走り出す。
フッ、ちょろいものだな。やはり猫はこうやって可愛がられるべきなのだ。
「えっ!?」
しかし次の瞬間、彼女はバランスを崩したのか、そのまま後ろ向きに落ちてしまったのだ。
バッシャーン!! 凄まじい水音と共に彼女が池の中に沈む。そしてその直後、辺り一面に水が飛び散り、吾輩の顔にもかかってしまった。
「ミャア!?(何事か!?)」
思わず驚いて声を上げてしまう。それからすぐに水面に視線を向けると、そこには先ほどまで居たはずの彼女の姿はなかった。
どうやら落ちてしまったようだ……。
「ニャーオ!」
吾輩はひと鳴きしてからその場を離れた。
***
その後、吾輩はいつものように公園に向かったのだが、そこで思わぬ人物と出会った。
「あ! やっと見つけたよ!」
そこには池に落ちたはずの彼女の姿があった。
「お前を探してたんだよ」
彼女は嬉しそうな表情でこちらに向かってくる。
まさか、追いかけてきたというのか? あの状態からどうやって……。
「はいこれ」
そう言って彼女が差し出したのは小さな皿だった。その中には牛乳が入っている。
「お腹すいてるんでしょ?」
確かに朝ごはんを食べてから何も口にしていないが……。
「ほら、飲んでいいよ」
彼女はニコニコしながら見つめてくる。……仕方がない。吾輩は小さく息をつくと、ゆっくりと近づき、ペロリとその中身を舐めた。
その瞬間世界は反転した。
***
「?ょしでんるていす腹お」
引き寄せられる小さな皿。
「れこいは」
遠ざかっていく彼女の姿。
吾輩もそうだ。体は勝手に後ずさり、それが当然のことのようにどこかへ連れ戻されていく。
そして気づいたら吾輩はあのマンションの庭に居て、池を覗き込んでいた。
池を覗き込んだまま一昼夜。吾輩は、このマンションへ来る前はどこにいたのだったか。
「おいでって、言ったのに」
池の中からは彼女が手招きをしていた。
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