とある雑多な思考錯語

工事帽

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金属探知機

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ビー、ビー、ビー、という警告音が繰り返し鳴る。
手にあるのはハンディ型の金属探知機。そしてそれは段ボールに向けられている。
「あー……」
声が漏れた。
「なにやってんすか?」
背後からの声。振り向くと、そこにはスーツ姿の若い男がいた。
「えっと……」
僕は答えを迷う。
どうしよう? この人は誰だ。
どうしてここにいるんだろう? まさか……。
いや、そんなはずはない。だってこの人は、僕のことを知らないはずだ。
「それって金属反応出るんですか?」
彼はそう言いながら近づいてくる。
僕は慌てて手にした探知機を後ろに隠した。
「いや……その……」
口ごもってしまう僕を見て、彼は言った。
「あぁ、じゃあ大丈夫ですね。俺、こう見えても金属アレルギーなんで」
そう言って彼はポケットに手を入れ、そのまま通り過ぎようとする。
「あのっ!」
僕は思わず呼び止めていた。
彼が立ち止まる。
振り返った彼の顔を見る。
やっぱりそうだ。間違いない。
「どこかでお会いしたことありますよね?」
僕はそう問いかける。
「……」
彼は少しだけ考えるような仕草をして、「さあ?」と答えた。
「でも、なんとなく見覚えがある気がするんですよね」
「ああ、よくあることです。人違いですよ」
彼はあっさり否定して歩き出す。
その背中に向かって僕は叫んだ。
「ちょっと待って! あの、これ、返します」
持っていた段ボールを差し出す。
「……」
彼は足を止めて、ゆっくりとこちらを振り向いた。
その表情には警戒心が見える。
「なんですか? それはあなたが拾ったものです。返されても困りますよ」
「いえ、もう必要ないものなので」
「どういう意味でしょうか?」
「だから、僕には必要なくなったということなんですけど」
彼は首を傾げる。
「失礼ですが、あなたは何を言っているのか分かっていますか?」
「はい、もちろん」
僕は笑顔を作った。
「あなたこそ、ちゃんと分かっているんでしょうね?」
僕はことさらゆっくりと段ボールを彼に近づける。
「これは爆弾ですよ」
その言葉を聞いた瞬間、彼の目つきが変わった。
「どこでそれを!?」
「それは秘密かな。とにかく、これが爆発したら、あなたはもちろん、このビルにいる人たち全員が死ぬことになる」
「……何者だ?」
「名乗るほどのものでもない。ただの通りすがりだよ」
「ふざけるなっ!!」
彼が怒鳴る。
僕はそれに怯むことなく続ける。
「僕ならこれを解除できるかもしれない。試してみるといい」
そう言うと同時に、段ボールを床に置いた。
彼は僕を睨みつける。だが実のところ、言ってることははったりに過ぎない。
本当に解除なんてできないだろう。
けれど、今のこの状況では、どちらにせよ同じことだ。
「分かった。やってみろ」
案外素直に、彼はそう言った。
そして上着を脱ぎ捨てると、シャツの袖をまくって腕を出した。
僕はその前にしゃがみ込み、彼の腕に金属探知機を向ける。
ビー!! ビー!! ビー!!
先ほどとは比べ物にならない音量で、警告音が響く。
同時に、赤いランプが激しく点滅した。
その、赤いランプに釣られるように、彼の体は閃光を放った。
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