ガラガラ

工事帽

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ガラガラ

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(ガラガラだな)

 年末のこの日、自分は今日で仕事納めだが、世間はすでに年末年始の休暇に入ったらしい。
 いつもは満員の通勤電車がガラガラだ。座っていけることでそれを強く実感する。
 学生が冬休みに入ったことでの「空いてる」感じは満員電車を逃れることが出来た「助かった」だったのに、今日のガラガラ具合は「さみしい」と感じてしまう。なぜ私は出勤しているのかと考えてしまう。

 それでも今日で仕事納めだからと自分に言い聞かせる。
 世の中、年末も年始も関係ない仕事なんて沢山ある。よく利用している近所のスーパーもコンビニも休みなしで営業しているし、今載っている電車だってそうだ。むしろ大晦日の電車は終夜運転で仕事が増えている有り様だ。

 暗い事ばかり考えてしまうのは、疲れが溜まっているのだろうか。
 せっかく座れたのだし、下りる駅までの短い時間だけでも仮眠しようかと、目を閉じる。
 瞳に映る景色はなくなり、うっすらと目蓋を通した光だけが見える。
 視界が遮られたことで、音が良く聞こえるようになる。

 ガタンゴトンと線路の上を走る音。
 ブオーと押しのけられた風が唸る音。
 そんな聞き慣れた電車の音の隙間に、何かカラカラと音がする。

(なんだろう)

 閉じた目を開いて、音のするほうを見る。
 そこには半裸のおっさんが立って居た。

(は?)

 小太りで髪は薄い。みょうに穏やかな表情をしている。
 上半身は完全に裸で、下半身に下着と靴だけを身に着けている。
 いや、下着ではない。オムツだ。厚みのあるオムツが、おっさんの小太りの体形をさらに丸く見せている。
 そして手には玩具。赤ん坊をあやすために使う、振ると音がなる筒のような玩具を持っている。

(ガラガラだ)

 正式な名前は知らない。ただ、音がなる玩具だということだけは知っている。
 カラカラという音が、おっさんが手を動かす度に聞こえてくる。
 見られていることに気づいたのか、おっさんがこちらに顔を向ける。

「ガラガラだねぇ」

 玩具を振りながらそう言うおっさんに、軽くうなずいて同意を示す。
 そして私は再び目を閉じた。
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