39 / 55
閑話6 運営さんは待ちぼうけ
しおりを挟む
静かな室内に、カタカタとキーボードを叩く音だけが響く。
窓のない事務所の中は、空調が効いていて季節を感じるものは一切ない。
それでも一日の、朝、昼、夜の区分けだけは存在する。主に、出社する時間と、昼食の時間と、夜勤の一人だけが残っている時間だ。
「班長~」
昼を少し過ぎた頃、室内の静寂を破ったのは、別の部署まで出掛けていたはずの部下だった。
ゲーム好きが高じてこの会社に入ったという男は、ゲーム自体への理解度は高いものの、あまり仕事をしているとは思っていないようだ。報告書一つでも、口語と文語が入り混じっていて、修正に苦労させられる。それなのに、いや、それだからだろうか、ユーザーに当てた文面だけはキチンとしたものを書く。
「どうした」
「開発チームのやつら、おかしいっすよ」
今更だろう、とは思いつつも聞いて見ると、開発チーム全員がログイン状態で、用事がまったく終わらなかったそうだ。
フルダイブのVRMMOであるということは、ログイン中は五感全てが仮想世界に接続される。逆に言えば、リアル世界の音も振動も、感覚から遮断されて届かない。
事故や危険防止のために、ある一定以上の衝撃でゲーム内に通知したり、強制的にログアウトする仕組みもあるが、基本的にはリアル世界から遮断されることになる。
「全員か?」
「全員っすよ」
「全員がログインするのは止めてくれと、何度も言ってるんだがな」
それだけに、チーム全員がログインした状態だと、ちょっとした質問や確認も滞ることになる。
「話が出来ないなら、メールを投げとくしかないだろう」
「あいつらメールなんて読んでないっすよ。だから直接聞きにいったのに」
「あー……」
そのあたりは多少同情するところはある。
日に数通ならともかく、日に数百通となると返信どころか、読む気もなくなるものだ。
班長という立場上、部下のメールには全て目を通すようにはしているが、自分にしたところで全てのメールを読んでいるわけでもない。
メールがダメならチャットだLINEだ、Discordだとツールばかりが増えるが、いくら手軽になっても量が減らなければ意味がない。
「……まあ、なんか進展があったんじゃないか? ログ機能とか」
「全員でデバックに入らなくても、カメラでいいじゃないっすか」
「……そうだな」
「それより、不正ログインってIDなかったんすよね。ログって取れるもんですか。もう監視とか止めてもよくありません?」
「その辺は、開発チームとも相談だなあ」
電話で聞いてみようかと思い、端末に手を伸ばしかけて止める。
束の間の静寂に、カタカタと誰かのキーボードの音が響く。
「……全員ログインしてるんだっけ」
「全員っす」
「向うの班長も?」
「全員っす」
「そうか」
ターン!
力強い打刻音が響いた。
窓のない事務所の中は、空調が効いていて季節を感じるものは一切ない。
それでも一日の、朝、昼、夜の区分けだけは存在する。主に、出社する時間と、昼食の時間と、夜勤の一人だけが残っている時間だ。
「班長~」
昼を少し過ぎた頃、室内の静寂を破ったのは、別の部署まで出掛けていたはずの部下だった。
ゲーム好きが高じてこの会社に入ったという男は、ゲーム自体への理解度は高いものの、あまり仕事をしているとは思っていないようだ。報告書一つでも、口語と文語が入り混じっていて、修正に苦労させられる。それなのに、いや、それだからだろうか、ユーザーに当てた文面だけはキチンとしたものを書く。
「どうした」
「開発チームのやつら、おかしいっすよ」
今更だろう、とは思いつつも聞いて見ると、開発チーム全員がログイン状態で、用事がまったく終わらなかったそうだ。
フルダイブのVRMMOであるということは、ログイン中は五感全てが仮想世界に接続される。逆に言えば、リアル世界の音も振動も、感覚から遮断されて届かない。
事故や危険防止のために、ある一定以上の衝撃でゲーム内に通知したり、強制的にログアウトする仕組みもあるが、基本的にはリアル世界から遮断されることになる。
「全員か?」
「全員っすよ」
「全員がログインするのは止めてくれと、何度も言ってるんだがな」
それだけに、チーム全員がログインした状態だと、ちょっとした質問や確認も滞ることになる。
「話が出来ないなら、メールを投げとくしかないだろう」
「あいつらメールなんて読んでないっすよ。だから直接聞きにいったのに」
「あー……」
そのあたりは多少同情するところはある。
日に数通ならともかく、日に数百通となると返信どころか、読む気もなくなるものだ。
班長という立場上、部下のメールには全て目を通すようにはしているが、自分にしたところで全てのメールを読んでいるわけでもない。
メールがダメならチャットだLINEだ、Discordだとツールばかりが増えるが、いくら手軽になっても量が減らなければ意味がない。
「……まあ、なんか進展があったんじゃないか? ログ機能とか」
「全員でデバックに入らなくても、カメラでいいじゃないっすか」
「……そうだな」
「それより、不正ログインってIDなかったんすよね。ログって取れるもんですか。もう監視とか止めてもよくありません?」
「その辺は、開発チームとも相談だなあ」
電話で聞いてみようかと思い、端末に手を伸ばしかけて止める。
束の間の静寂に、カタカタと誰かのキーボードの音が響く。
「……全員ログインしてるんだっけ」
「全員っす」
「向うの班長も?」
「全員っす」
「そうか」
ターン!
力強い打刻音が響いた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?
志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。
父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。
多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。
オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。
それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。
この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています
ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる