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18,成り済まし再び、もしくは足りない系増殖中
しおりを挟む王城です。
短い間に2回も登城することになるなんて、フルレット領にいた頃には想像もしておりませんでした。
前回王妃様とのお茶会で案内された同じ部屋に案内されるのかと思っていましたが、同じ奥は奥でも向かう方向が全く違って、最終的には人も少なく寂れている感じの部屋に通されました。
流石王城です。この部屋も塵一つなく綺麗に掃除はされております。一方で調度品は一律古めかしく使い込まれてすり減っており、カーテンも絨毯も年期が入った物で色は所々はげております。どれも色味だけでも到底若い女性の好む物とはほど遠い気がいたしました。
部屋の窓は小さい上に向きが悪いせいで日当たりも悪く、美しい城の中庭からは離れていて拝見することさえできません。
たった一人の大事なお姫様なので、奥に隠していると説明されたらそれはそれで納得しなくもないですが、何となく私には『冷遇』と言う言葉が浮かびました。
チラッと見ると、王女様の身に付けているドレスもアクセサリーもそれなりに高価な物のようではあります。ただ、ドレスとアクセサリー自体の組み合わせにだけ着目して用意された感じがしました。
どちらもそもそも王女様に似合ってはいないのですよ。王女様が着る前提で侍女が選んだようには思えません。
いえ……この部屋には最初から配膳のメイドが1名控えているだけで、侍女も護衛の騎士もおりませんでした。一国のただ一人の王女にこの待遇ですか。通りで我が家の護衛も外で待機になりますね。
隣のフレイ兄様は今日も基本は感情を表に出さず話さずの置物になっておりますので、帰りの際に王女様の事情はお伺いいたしましょう。
「今会わないと、次の機会はいつになるか分からないでしょう?」
私の困惑を余所に楽しそうに笑うのは、この国でたった一人の筈のお姫様です。
またしても、本物ですよ。
いえ、偽者の方が珍しいのですが、つい。
妙に王族と縁があると思っていたら、私もフレイ兄様も今の王子王女様にとっては再従兄弟に当たると教えて頂きました。養母や実母の父、私にとっての祖父が先々代の王の末の子だったとか。
何故血縁の私が知らないのかと言う事情は、メンタル激弱な愚兄に気を遣った実母達が黙っていたということらしいです。
離れてもまだまだ愚兄には憎悪が蓄積する一方でございます。
ただ迂闊過ぎる愚兄は、その内想像も付かない変なことをして、さっくり姿が見えなくなるかもしれないと最近思うようになりました。それも仕方ないことなのでしょうね。
まあ、愚兄のことは十分ですね。まずは目の前にいらっしゃる王女様でしょう。
「私と同じ王族の加護持ちって、昔から何度も聞かされていたの。ずっと会ってみたかったわ」
用意されたお茶請けである軽食や甘味の種類は少なく、用意されたお茶も王妃様のお茶会のお茶とは香りも味も違っております。
これは茶葉の品質の差は勿論、淹れる人の技能の差でしょうか。香りも飛んでしまったやや渋いお茶でした。
「ありがとうございます。とても光栄です」
淑女の笑みでそつなく答えておりますが、私の頭は現在別のことでグルグル回っております。
王女も加護持ちだったとは存じ上げませんでした。
存じ上げませんというか、これは一体どういうことでしょうか?
直球でお伺いしてもいいのでしょうか?
……とてもじゃないですが、判断がつきませんので一旦保留といたしました。
「王家の血を引く加護持ちは他国に狙われやすいって外出を禁じられているから、私は神殿に行ったことも奉仕もしたことがないの。でも、レーニアさんだって王家の血を引いているのに、おかしいわよね」
表情がクルクル変わる王女は、年上とは言え可愛らしいと言えば可愛らしいのですが、どうも見ている限りテーブルマナーもギリギリ合格か不合格かという程度で、きちんとした淑女教育を受けていない印象を受けました。
とはいえ、領地に引き籠もりまともに社交界で生きて行く予定のないため、限定的な外面……周囲の加護持ちのイメージを保つことを優先した教育を受けていた私とどちらがましでしょう?
私の方がドキドキしますね。たまにズレることはございますが、私は淑女の仮面はなんとか被れますよ。
とりあえず、腹の探り合いもなく高度な会話術を必要としないお茶会なので、私としては王女様に好印象を覚えました。
「でね、レーリアさんには気をつけて欲しいの」
他のことを考えていたので、ちょっとお話を聞いていませんでした。
気をつけること?
「レーニアさんが奉仕していることを、まるで自分が奉仕しているように話している方がいるそうなの」
うーん……?
「自分が奉仕したことにすると、何かいいことでもあるのでしょうか?」
まさか私が知らないだけで、奉仕をすると何か別な特典でもあったのでしょうか。
もしやあの神殿でいただいた美味しいお茶とお菓子、と一瞬考えましたが、お茶とお菓子はそもそも神殿に行かないと食べられませんよね。
いや、貴族なら茶と菓子ぐらい買えよ、とまだ頭の中に居座っていたイグニスさんが呆れきった顔で言い放ちます。そろそろ迷惑なのでお帰りいただきたいのに、本物よろしく居座り続けております。
「そうね……。高位貴族の加護持ちだと、それなりに自慢になるみたいね。功績って感じで話しているそうよ」
なるほど。私は自慢しても良かったのですか。
というか、奉仕って自慢できる何かだったんですか。
王都と領地の価値観の差に、私は時々困惑します。後しばらくしたら領地に帰るので、その価値観は再び無意味になるのですが。なお、奉仕をしたからといっても領地での私の扱いはとっても雑です。
「自慢したいから偽っているのですか。それ程意味があるとは思えない行為ですよね」
「意外と本人にしたら違うみたいよ。その割に、貴族の中では加護持ちが奉仕するのは義務って考えの人が多いと聞くけど」
クラリス様も義務だと仰ってましたね。
お金だけ貰って何も奉仕しないどころか、他人の奉仕活動を自分の功績にするとは何という……
「本来貴女だけの功績を奪うなんて、やっていることは今は悪女扱いになった貴女の偽者と同じようなものじゃない。どういう発想なのかしらね」
なりきり2号。そんな言葉が浮かんでしまいました。
愛人の、そもそも男の影がないので、2号という呼び名はちょっとありえないでしょうか。少なくとも浮かれた頭の……もう考えるのが面倒なので、足りない系の何かでいいしょう。
王都って怖いところです。
こんなに不思議に謎な方達が増殖するんですね。1匹現れたときには100匹になっているあれなのですか。
しかも、
「……気をつけようがありませんよ?」
「良く考えればそうね」
王女がふわっとした笑顔を浮かべます。
血縁者なので、その顔は私の実母の顔によく似ております。
王女様のお茶会で分かったのは、以前のクラリス様のお話は実は、奉仕活動を自分がしていると偽っている方がいると遠回しに仰っていたということです。素晴らしいは文字通りではなかったようです。
やっぱり貴族的会話は分かりません。
イグニスさんくらいはっきり言ってくれないと私的には困ります。
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