[完結]加護持ち令嬢は聞いてはおりません

夏見颯一

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19,脳内結婚していると脳内友人もいる

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 王女様のお茶会は短い時間で終了しました。

 パタンと扉が閉められ、案内の侍女の誘導で帰路につきました。
 王妃様とのお茶会が終わったときの扉の閉じられる音は、やたらと重苦しい音に聞こえましたが、今回は軽い音に感じました。扉の材質が違っている所為でしょうか。

「フレイ兄様、王女様は……」
「感想は帰ってからな」
 言い切る前に手で少し乱暴に頭を押さえつけられました。
「帰ってからな」
 笑顔で同じ言葉を繰り返せば、鈍臭いと評される私でも、ここでは王女様の話をするなとフレイ兄様は伝えていると気付きましたよ。ただ髪を綺麗にセットしているので、頭を触ることは止めて欲しかったです。

 王城の奥まった王族専用の区画を出て、私達が文官が行き来する区画に到着すると道を遮るように1人の女性が近付いて来られました。

「あら、フレイ様。お久しぶりですね」
 その女性は飽くまで偶然を装ったつもりでしょうが、私達が区画から出た直ぐに柱の陰から現れては誰でも待ち伏せていたと分かりますよ。
「……メイローズ侯爵令嬢、もう私達は婚約者ではないのだから名前を呼ばないでくれ」

 待ち伏せ女性がフレイ兄様の元婚約者の方なのですね。
 クラリス様や王女様のふんわり系美人とは異なる、ちょっときつめ系の美人ですか。化粧と香水もちょっときつめです。
 ここまで私が色々美人に会ってきても、依然一番美人は第3王子殿下のままなのは内心驚きますね。

「あら、従妹の偽者に現を抜かしていたフレイ様がそんな事言えるの?」
「もう一度言う。私達は婚約者ではない」

 これは修羅場ですか?
 ちょっとフレイ兄様と距離を置こうとしたら、がっちり腕を掴まれ引き寄せられました。私はもめ事のとばっちりは嫌ですよ。
 案の定メイローズ侯爵令嬢はむっとした顔になり、
「誰ですの?」
「妹だ。今日は付き添いで来たんだ。もう連れて帰らなくてはいけない」
 さっさと帰る口実にしたかったようですが、フレイ兄様、これは悪手です。

「ああ……あの、継嗣以外に嫁ぐ程度だけでなく、偽者に成り代わられた従妹なのね」
 酷く不快げに私を見る目は、何というか自分が明らかに上だと思い込んでいる目でもありました。
「オラージュ公爵様の情けで兄妹になれたことに感謝して、正しく分を弁え引き籠もっていれば良いのに。フレイ様の優しさに付け上がっただけでなく、王城を我が物顔で歩いているなど本当に見苦しいこと」

 敵意満載とはこれを言うのでしょうか。
 蔑む言葉をバンバン叩き付けられて困惑します。
 とばっちり、いい迷惑です。

「ここは王家の品位までも落とす方が来ていい場所ではありません。今後、王城に上がるのは許しません。即刻お一人でお帰りなさい」
 王城のルールを決める立場でもないのにそこまで仰るとは、私は本当に驚きで声も出ません。
「お前が決めることではない。公爵令嬢に無礼だ」
 感情を押し込めたフレイ兄様が、苛立ち始めた当家の護衛を留めました。
「私はフレイ様が言えないことを代わりに言っているのです。夫人とはそのような役目でしょう」
 軽く小首を傾げ、可愛い感をフレイ兄様にアピールしようとしておりますが、フレイ兄様の眉間の皺を深くさせただけでした。
 そもそも誰にとっても貴女はフレイ兄様の妻ではなく、単なる元婚約者以外の何者でもないと思います。
 とはいえ、はっきり私が言うのは危険なような気がしました。
 何せ彼女は、はっきりと拒絶されているにも関わらずフレイ兄様と脳内結婚しておられ、かなり別な意味でも危険を感じます。

 どうしようかと困っていると、案内係の侍女が一歩前に出て、
「王城への出入りは王族の方が決められることです。いつから貴女は王族となられましたか? まして、許されないとはどういうことでしょうか?」
 メイローズ侯爵令は堂々として、
「私はフレイ様の婚約者でもありますが、王女の友人でもあります。王女に害を与えるような人間を排除するのは当然です」
 突然王女様の話が出てきましたね。
 脳内結婚されている方ですし、王女様とも脳内友人であるのではと疑ってしまいます。

「王女様のご友人だと王族と同じように王城の出入りの許可が出来ると仰っているのですね」
「……そこまで規模は大きくなくとも、私も王家に仕える貴族であれば」
「ここにいるのは全員同じ貴族です。貴女が許可を出す出さないが出来る立場であるとする根拠にはなりません」

 少しずつメイローズ侯爵令嬢の顔色が悪くなってきました。ですが、こういう方ほど非を認めないものです。
「私は目上の者として注意を与えたのです。それは爵位もない次男と結婚して平民になる予定の出来損ない加護持ちではないの。そんな役にも立たない者が王城に来て良いわけがないでしょう」
「登城の許可を決めるのは王族の方だと私は申しております」
「ですから、それが王城にいること自体が分不相応だと私は言っているのです!」

 埒があきません。
 フレイ兄様も呆れ返った表情が出てしまっています。
 幻覚系の方との浮気が原因ではなく、全然別の理由で婚約を解消したと伺っておりますが、お会いしてみて何となく解消の理由が分かりそうな気がします。

 それにしても私を『それ』呼ばわりですか。
 爵位なしになる方と婚約しているのはおかしいとは言われておりましたが、私の方に欠陥ありだからそのような方と婚約するしかないと取られる方もいらっしゃるのですね。
 とても勉強になりました。

 ところでメイローズ侯爵令嬢はいくら脳内結婚されていても、現実では令嬢自身の奇行から婚約解消したと覚しき大物傷物令嬢ですよ。他の貴族からそのような扱いを受けているのは、本当は貴女ではありませんか?
 自身が問題物件である自覚がないから人通りの多い城の通路にも関わらず、大声で侍女に持論を押し通そうと出来るのでしょうね。
 周囲を通り過ぎる文官の方々の目が痛いですよ。


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