29 / 73
26,その美女は
しおりを挟む春と秋に王城で起きる恐ろしい自然現象を知り、もどき2号を始めとしたもどき軍団が闊歩している可能性に、早く家に帰りたいなと私は願うのです。
それでも王女様との入れ替わり生活は始まったばかりで、まだまだ折角来たのですから王城の少しくらいの探検は入れ替わりの対価ですよね。対価。
「あら、これは……」
何気なくウィルマを連れて歩いていたところ、私は廊下の窓の一部に違和感を感じて立ち止まりました。
そっとガラスに指を近づけてみると、不鮮明ですが鏡のように反転して私の指が映っておりました。
「そこの部分は『反転の鏡』となっております」
ウィルマの説明に首を傾げます。
窓のガラスとしてはめ込まれていることは勿論、そもそも鏡とは反転する物なのに、わざわざ『反転の鏡』とは?
「加護持ちの方以外の前では少し曇ったガラスにしか見えないのですが、これらは加護が付与されたガラスなんですよ」
「加護って物に付与できたの!?」
私の加護は豊穣、実らせること自体が加護の効果なので、実らせた作物の方には何の加護も備わっておりません。実って終わりです。他の方の場合でも似たような物らしいです。加護は効果が全てで、物には付与できないことは加護持ちと関係者には常識となっておりました。
よくよく加護が付与出来たら作物がもっと売れるのにと思っていたので、加護が付与された現物が存在することに驚きを隠せませんでした。
幸い人通りの少ない場所でしたので、ウィルマの他の誰にも大声を出してしまった私の姿を見られてはおりませんでしたが、ちょっと油断してしまいました。
「これも我が国の過去の王族の遺物ですよ。では、少し昔話をいたしましょうか」
かつて、この王国に麗しい王がいました。
優秀な上大変な美男子として知られ、結婚して子供が生まれてからも遠くの国から釣書が届く程でした。
その釣書の中に、我が国とは長年付き合いのない名前も知らない国の王女がいたそうです。その王女も大変美しく高い能力を持っているので、是非王妃にとのお話になりました。
けれど、王には既に愛する王妃と子供がいるので、王女を新しく王妃として迎え入れる気にはなりませんでした。
お断りをしても何度も何度も相手から申し入れがありました。
王達が嫌になっていた頃、王妃様が倒れました。続いて王子様も。更には国民が病に倒れていきました。
王達が助けたくても奇妙な病には打つ手がなく、日々弱り続けていたとき、幼い王女の1人が加護を得られて言いました。
「これは魔女の仕業です」
王女は作らせたガラスに次々加護を付与して城中に設置させました。
「私の加護を付与したガラスで魔女の悪い魔法を反射させます」
設置すると直ぐにガラスは光って反射し、悪い魔法ドンドンを魔女に送り返しました。
やがて全ての魔法が返されてガラスが光らなくなると、王妃達は回復しました。
反射で一斉に悪い魔法を自らの身に受けざるを得なかった魔女は、自分の魔法で滅んでしまい、国ごと消滅していたそうです。
「これらはかつての女王の残された貴重な物なのです。その事件の後、割れずに残った多くは取り外されて宝物庫にしまわれたそうですが、一部は今でも万が一のために設置したままになっているのです」
「悪い魔法、ですか」
現実にあった昔話と言われても、魔法なんてお伽噺以外で耳にしたことはありません。
「そういうことになっております」
「何かあるの?」
「神殿は全ての加護を神々からの贈り物で祝福された物としておりますから」
ああ、そういうことですか。
本当に加護には色々なものがあります。加護と言いつつ、人を苦しめる効果しかない加護も存在します。
お話の王女も加護持ちで、加護の力でこの国の人々を倒れさせたのでしょう。ですが真実をそのまま語ることはできず、魔女と悪い魔法になった。
「私の指が映っているのは、私の加護に反応しているのかしら」
「加護持ちは全員なので、恐らくは」
跳ね返っても人間には何の効果もない加護なのですが、ちょっと不安ですね。
「この『反転の鏡』を使って別の場所に加護を与えた方もおられましたよ」
「その話、詳しく」
それが本当なら、私が移動しなくても離れた場所に加護を届けられるようになります。
「もし遠くにまで届けられるのなら、フルレット侯爵領から遠く離れた北や西の地域でも実りの加護が……」
「西の地域は見放された地域だから、貴女がどんなに頑張っても無理よ」
「でもやってみたら」
「貴女がわざわざ頑張る価値のない地域よ。レーニアさん」
私の言葉に返答していたのは、ウィルマの声ではありませんでした。
振り返った先にいたのは、同じ現実に存在するとは思えない、美しすぎる女性でした。
「初めまして。側妃のケイティよ。レイチェルにそっくりなレーニアさん」
側妃を名乗る女性は声音も響きの良い美しく、あまりに全身全てが人間離れした美しさで構成されていて、圧倒された私は呆然と立ち尽くしました。
「あら、驚かせてしまったかしら」
「ケイティ様、この話は……」
「大丈夫よ。私も誰にも言わないわ。レイチェルの娘のことですもの」
以前、王妃様のお茶会で出てきたケイティとは、側妃様のことだったようです。
側妃様の容貌は第3王子殿下と似ておられました。
「……先日、第3王子殿下にお目にかかりました」
「ふふっ。違うでしょ。王女の方が年上なのだから、セイリスって言わないと。第3王子のセイリスは私の息子よ。見かけたら構ってあげてね」
そう言えば、確かに王女様にとって第3王子殿下は弟に当たりますね。私からしたら王子は年上なので、なかなか呼びづらいところがあります。
「こうして話し込んでいると、通りかかった誰かに不審に思われるわね。じゃあ、私はそろそろ行くわ」
実母達の知り合いと覚しき側妃様。
でも、私は実母からケイティ様の名前を聞いたことはありません。
「ああ、そう言えば、聞いておかなくてはいけないことがあったわ」
振り返ったと側妃様は、
「貴女は女王になりたい? どこかの国の王族に嫁ぎたい?」
一瞬、何を訊かれたのか意味が分かりませんでした。
「はい?」
「答えはそのうち出してね」
問いかけの理由を語らず答えも待たず、側妃様は廊下の向こうに消えて行かれました。
王妃様から私は厳重に注意されております。
『側妃には気を付けろ』
今のところ私には、その理由については分かりません。
ただ、側妃様の少女のような笑みの中に悲しみが浮かんでいたのが、私には強く印象に残りました。
35
あなたにおすすめの小説
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして”世界を救う”私の成長物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー編
第二章:討伐軍北上編
第三章:魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
背徳の恋のあとで
ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』
恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。
自分が子供を産むまでは……
物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。
母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。
そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき……
不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか?
※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる