[完結]加護持ち令嬢は聞いてはおりません

夏見颯一

文字の大きさ
53 / 73

50,事態は知らない間にも進んでいる

しおりを挟む
 食料生産の問題がありますから、王女生活をしていても絶対に私は神殿に奉仕に行かなくていけません。
「では、お気を付け下さい」
 加護持ちしか入れない区画の手前まで王立騎士団の騎士達が護衛をして下さいます。
「ありがとう。しばらく待たせてしまうから、休憩していて下さいね」
「心遣い、身に余る光栄と存じます」
 相変わらず王城内、離宮内では護衛はいないままなのですが、神殿に向かうときには凄い数の騎士が護衛に付くのですよ。この差はどういうことなのか、さっぱり分かりません。
「王女殿下の加護でこの国に実りがもたらされます。我々は奇跡の王女殿下をお守りできることこそ栄誉。我々のことはお気になさらず、使命を全うして頂きたく存じます」
 騎士隊の隊長は実りとはっきりと仰りました。
 ベールは今日もしっかり被っておりますが、これは私がレーニア・オラージュと騎士の皆さんに知られているのではないでしょうか。
 多少挙動不審な動きになりながら、私はロクス大神官に伴われて騎士達の入れない区画の奥へ進みます。
「……騎士達はオラージュ公爵令嬢が王女であることを喜んでおりますね」
 周囲に人気もなくなり廊下に二人きりになったとき、ロクス大神官は呟くように仰いました。
「自分達は奇跡の加護持ちの王女を守る騎士って無邪気に大の大人が喜んでいますよ」
 離宮に置いてきたディル(仮名)さんが、いないにも関わらず私の頭の中で呟いていかれます。
 無邪気に喜ばれている姿を見ていると、彼らの加護持ちへの強い期待も同時に感じ……私は怖くなってきました。
 加護持ちであると偽っていた本来の王女様のことも気付いていたとしたら?
「難しいことではないと思いますね。彼らにとっては喜ばしいだけですよ。騎士団はいなくなった本物の王女に関心はなく、入れ替わったオラージュ公爵令嬢を受け入れている」
 それ自体は深く考えても仕方ないことですよね。
 元々王女の身の安全を確保するために始まったことです。


 奉仕の後に酷い疲れが出た私が休憩していると、
「オラージュ公爵令嬢。今なら大丈夫ですので、オラージュ騎士団からの客人に会われますか?」
「え、はい!」
 疲れている状態ですが、この機会を逃したら次はいつか分かりません。
 私はやや食い気味に返事をしてしまいました。
「お久し振りです。お元気そう……という訳ではないですね。お疲れの所、申し訳ありません」
 王立騎士団の隊長の仰った美辞麗句なんて耳慣れない言葉より、やはり耳慣れた言葉での労りと敬意が一番心に優しく染み入りました。
 客とはフルレット侯爵領で護衛をして下さっていたこともある若い騎士の方でした。
 騎士にしては体は細く制服を着ていないと騎士と分からない方なので、神殿に祈りに来た一般の人々に交じって入り、私が来るのを待っていたそうです。王女が神殿に来る日は王立騎士団の警戒が特に凄いために、神殿の協力があってもなかなか難しいとのことです。
「こちらこそ、手間をかけさせてしまって申し訳ないわ。そちらは先日の暴動の鎮圧に参加したと聞いたけど、皆は無事だったの?」
「はい。多少のもめ事はありましたが、幸い騎士団員には大きな怪我人も出ず鎮圧に至りました」
 オラージュ騎士団の犠牲者はいないようだとは伺っておりましたが、やはり身内のことですからずっと気になっておりました。
「ですが……暴動を起こす者を事前に把握していた割に王立騎士団の動きはおかしく、手間取って小さい暴動で団員に死人を出しております」
「……どういうこと?」
 そんな話は誰からも聞いてはおりません。
 いえ、恐らく私が聞いても意味がないからか、心を痛めるから伏せたなどの理由でしょうね。役職もなく無力なので、自分でも仕方ありません。
「我々も不審に思い調べてみると、王立騎士団は一部暴動に関わっている節が見られるのです。フレイ様はそれを王立騎士団に問いただしたところ、王城への登城の禁止を命じられました……」
「え……本当ですか?」
 登城の禁止などますます聞いておりません。フレイ兄様は『王女殿下の婚約者』ですよ。何故、私にその話が届いていないのでしょう。
「騎士団からの拒否要請を陛下が通して成立したそうです。解除には公爵の登城と説明が必要との事ですが、現在公爵は全て拒否しておられます」
 絶対陛下が養母に会って話をする口実に使われたのでしょうね!
 細かいチャンスも使おうとする陛下の箍が外れた執着を……騎士団は利用したのかも知れません。まんまと利用されてしまったのはフレイ兄様も同じ事ですが、問い合わせも抗議も必要ですからね。難しいところです。
「公爵家も私も双方連絡を取り合う事が困難になっているのね」
「はい。王子殿下方にも伏せられた上で起きていると公爵は考えておられ、潜り込めそうな私が連絡係として参りました」
 陛下は病気でほとんどの仕事を第1王子殿下が代行している状況なのに、その仕事だけはしっかり抱え込むなんて、いっそ尊敬してしまうほどの執着ですよね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。 (私って一体何なの) 朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。 そして―― 「ここにいたのか」 目の前には記憶より若い伴侶の姿。 (……もしかして巻き戻った?) 今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!! だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。 学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。 そして居るはずのない人物がもう一人。 ……帝国の第二王子殿下? 彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。 一体何が起こっているの!?

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして”世界を救う”私の成長物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー編  第二章:討伐軍北上編  第三章:魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

背徳の恋のあとで

ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』 恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。 自分が子供を産むまでは…… 物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。 母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。 そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき…… 不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか? ※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。

処理中です...