[完結]加護持ち令嬢は聞いてはおりません

夏見颯一

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50,事態は知らない間にも進んでいる

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 食料生産の問題がありますから、王女生活をしていても絶対に私は神殿に奉仕に行かなくていけません。
「では、お気を付け下さい」
 加護持ちしか入れない区画の手前まで王立騎士団の騎士達が護衛をして下さいます。
「ありがとう。しばらく待たせてしまうから、休憩していて下さいね」
「心遣い、身に余る光栄と存じます」
 相変わらず王城内、離宮内では護衛はいないままなのですが、神殿に向かうときには凄い数の騎士が護衛に付くのですよ。この差はどういうことなのか、さっぱり分かりません。
「王女殿下の加護でこの国に実りがもたらされます。我々は奇跡の王女殿下をお守りできることこそ栄誉。我々のことはお気になさらず、使命を全うして頂きたく存じます」
 騎士隊の隊長は実りとはっきりと仰りました。
 ベールは今日もしっかり被っておりますが、これは私がレーニア・オラージュと騎士の皆さんに知られているのではないでしょうか。
 多少挙動不審な動きになりながら、私はロクス大神官に伴われて騎士達の入れない区画の奥へ進みます。
「……騎士達はオラージュ公爵令嬢が王女であることを喜んでおりますね」
 周囲に人気もなくなり廊下に二人きりになったとき、ロクス大神官は呟くように仰いました。
「自分達は奇跡の加護持ちの王女を守る騎士って無邪気に大の大人が喜んでいますよ」
 離宮に置いてきたディル(仮名)さんが、いないにも関わらず私の頭の中で呟いていかれます。
 無邪気に喜ばれている姿を見ていると、彼らの加護持ちへの強い期待も同時に感じ……私は怖くなってきました。
 加護持ちであると偽っていた本来の王女様のことも気付いていたとしたら?
「難しいことではないと思いますね。彼らにとっては喜ばしいだけですよ。騎士団はいなくなった本物の王女に関心はなく、入れ替わったオラージュ公爵令嬢を受け入れている」
 それ自体は深く考えても仕方ないことですよね。
 元々王女の身の安全を確保するために始まったことです。


 奉仕の後に酷い疲れが出た私が休憩していると、
「オラージュ公爵令嬢。今なら大丈夫ですので、オラージュ騎士団からの客人に会われますか?」
「え、はい!」
 疲れている状態ですが、この機会を逃したら次はいつか分かりません。
 私はやや食い気味に返事をしてしまいました。
「お久し振りです。お元気そう……という訳ではないですね。お疲れの所、申し訳ありません」
 王立騎士団の隊長の仰った美辞麗句なんて耳慣れない言葉より、やはり耳慣れた言葉での労りと敬意が一番心に優しく染み入りました。
 客とはフルレット侯爵領で護衛をして下さっていたこともある若い騎士の方でした。
 騎士にしては体は細く制服を着ていないと騎士と分からない方なので、神殿に祈りに来た一般の人々に交じって入り、私が来るのを待っていたそうです。王女が神殿に来る日は王立騎士団の警戒が特に凄いために、神殿の協力があってもなかなか難しいとのことです。
「こちらこそ、手間をかけさせてしまって申し訳ないわ。そちらは先日の暴動の鎮圧に参加したと聞いたけど、皆は無事だったの?」
「はい。多少のもめ事はありましたが、幸い騎士団員には大きな怪我人も出ず鎮圧に至りました」
 オラージュ騎士団の犠牲者はいないようだとは伺っておりましたが、やはり身内のことですからずっと気になっておりました。
「ですが……暴動を起こす者を事前に把握していた割に王立騎士団の動きはおかしく、手間取って小さい暴動で団員に死人を出しております」
「……どういうこと?」
 そんな話は誰からも聞いてはおりません。
 いえ、恐らく私が聞いても意味がないからか、心を痛めるから伏せたなどの理由でしょうね。役職もなく無力なので、自分でも仕方ありません。
「我々も不審に思い調べてみると、王立騎士団は一部暴動に関わっている節が見られるのです。フレイ様はそれを王立騎士団に問いただしたところ、王城への登城の禁止を命じられました……」
「え……本当ですか?」
 登城の禁止などますます聞いておりません。フレイ兄様は『王女殿下の婚約者』ですよ。何故、私にその話が届いていないのでしょう。
「騎士団からの拒否要請を陛下が通して成立したそうです。解除には公爵の登城と説明が必要との事ですが、現在公爵は全て拒否しておられます」
 絶対陛下が養母に会って話をする口実に使われたのでしょうね!
 細かいチャンスも使おうとする陛下の箍が外れた執着を……騎士団は利用したのかも知れません。まんまと利用されてしまったのはフレイ兄様も同じ事ですが、問い合わせも抗議も必要ですからね。難しいところです。
「公爵家も私も双方連絡を取り合う事が困難になっているのね」
「はい。王子殿下方にも伏せられた上で起きていると公爵は考えておられ、潜り込めそうな私が連絡係として参りました」
 陛下は病気でほとんどの仕事を第1王子殿下が代行している状況なのに、その仕事だけはしっかり抱え込むなんて、いっそ尊敬してしまうほどの執着ですよね。
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