69 / 73
66,決まっていた未来
しおりを挟む
側妃様にはこれ以上の負担はかけられないので、この場に残ると仰った王妃殿下に後をお任せして、私達は側妃様の部屋を退室いたしました。
扉の外で待っておられたディルさんは、
「さっきの人、怒鳴りつけて押し入ったと思ったら、血相を変えて飛び出して行かれましたね」
さっきの人とは騎士団長のことでしょうね。
誰か御存知なのに、ディルさんも何か思うところがあったのでしょうか。
「どこへ行ったのか分かるか?」
レイが尋ねると首を振って、
「もう戻っては来ませんよ」
副団長のまま終わらず騎士団長になって何を得たのかは分かりませんが、失ったものは決して些細なものではありません。
もしかすると失ったもののために騎士団長になりたかったのかもしれないと思うと、あの方は悲しいほどに業が深いのではないでしょうか。
騎士団長の去って行った廊下の先を見つめ、レイは頭を振りました。
前任の騎士団長が何故消えたのか知っておりながら騎士団に残ったあの方は、自分が禁忌を犯したと無意識には理解していたからこそ、加護持ちの王女に執着しておられたのかもしれないと私は思うのです。
「加護持ちの王女の騎士になっても、どの道あいつが失ったものなど帰ってこないと今更気付いたとはな」
名声、富、栄誉の全てを手に入れても、あの方の大切な人々はいないことにいつかは気付かざるを得なかったでしょう。だけど、結局は名声や富や栄誉を手に入れるために大切な人を殺して手に入れたことには、誰かが突き付けるまでは目を逸らし続けていたでしょうね。
自身が加護持ちである私には、他の方が考える加護持ちの価値はいまいち理解しかねます。
その考えの違いが私と周囲を大きく隔てることに、時に困惑し悲しく思います。
「どんな結果でもあいつ自身が選んだ道だ。喪う恐怖より、欲が勝ったのもあいつの心の問題で、元々私達にはどうすることも出来ないよ」
加護持ちの王女が亡くなったのは、私が生まれる前のことです。レイだって赤ん坊の頃ですから、当然関係ありません。
ただ、あの方に加護持ちの王女の死を悼む気持ちはなかったことに、私はとても残念な気持ちになりました。
あれではイグニスさんも怒りますよね。
その後の騎士団長の行方は分からないままとなりました。
名前を口にする者も思い出す者もなく、騎士団の名簿からもひっそり消されたと随分経ってから聞くことになります。
死んだ扱いになったことを情だと取るのか、ただの事務手続きと取るかは、個人の心の問題でしょうから、別段追求する話ではございません。
この先はどうなるかは、一般の方が話すことです。
我々にとってはどうなるか、ではなく、どうするか、です。
騎士団長の消えた騎士団の混乱は、まだ始まってはおりません。
恐らく翌日以降、騎士団長が消えたことが騎士団員に分かってから起きると予測はしております。
第2王子殿下の執務室に戻ると、第1王子殿下が既にいらっしゃっており、書類を読みながら私達が戻ってくるのを待っておられました。
「どうだった?」
第1王子殿下に側妃様の部屋で何があったのか、レイがかいつまんで説明いたしました。
「これで面倒な狂犬の一匹は消えましたね」
騎士団長はやはり『黒い犬の群れ』のお一人でしたか。
それにしても王家の祝福の血の狂信者を名乗るにしては、あまりに自分の都合をこちらに押しつけておられた気がいたします。
「流れは変わりますかね?」
「変わるでしょうね。何を目指しているのか分からない狂犬がいないのです。後は、目的がはっきりしている犬だけです」
そもそも私が来るずっと前から続いていた話です。
ある程度は王子殿下達は犬の情報を掴んでおられるのは当たり前でしょうね。
「王女を女王にしたい層。現王の血筋を絶ち、元の祝福の血筋に戻したい層。王妃殿下と私達を殺したい層。……まあ、全て王女を女王に立たせれば終わりますよね」
ふーん……。
……?
横でぼんやり聞いていたら、何か不穏な話になっておりませんか。
「本も……は今は……」
王女様が女王になると言っても、王女様は加護持ちでもありませんよ……。
私は口の中が異様に乾いてしまいました。
第1王子殿下の結論は、聞きたくありませんでした。
「王家の血を引く加護持ちの女性が女王になれば、一応はそれで丸くは収まるのですよ。何も王女限定ではありませんよ」
かつて、アウリス様に私は王妃になりたいか、女王になりたいか尋ねられたことがあります。
どちらもありえないと思った私は、その後、アウリス様の言葉を真面目に考えることなく別のことばかり考えておりましたが。
「人生は2択だったのですね……」
もう少し丁寧に説明して頂きたかったですね!
好きな方を選んでねって話だったんですか!
扉の外で待っておられたディルさんは、
「さっきの人、怒鳴りつけて押し入ったと思ったら、血相を変えて飛び出して行かれましたね」
さっきの人とは騎士団長のことでしょうね。
誰か御存知なのに、ディルさんも何か思うところがあったのでしょうか。
「どこへ行ったのか分かるか?」
レイが尋ねると首を振って、
「もう戻っては来ませんよ」
副団長のまま終わらず騎士団長になって何を得たのかは分かりませんが、失ったものは決して些細なものではありません。
もしかすると失ったもののために騎士団長になりたかったのかもしれないと思うと、あの方は悲しいほどに業が深いのではないでしょうか。
騎士団長の去って行った廊下の先を見つめ、レイは頭を振りました。
前任の騎士団長が何故消えたのか知っておりながら騎士団に残ったあの方は、自分が禁忌を犯したと無意識には理解していたからこそ、加護持ちの王女に執着しておられたのかもしれないと私は思うのです。
「加護持ちの王女の騎士になっても、どの道あいつが失ったものなど帰ってこないと今更気付いたとはな」
名声、富、栄誉の全てを手に入れても、あの方の大切な人々はいないことにいつかは気付かざるを得なかったでしょう。だけど、結局は名声や富や栄誉を手に入れるために大切な人を殺して手に入れたことには、誰かが突き付けるまでは目を逸らし続けていたでしょうね。
自身が加護持ちである私には、他の方が考える加護持ちの価値はいまいち理解しかねます。
その考えの違いが私と周囲を大きく隔てることに、時に困惑し悲しく思います。
「どんな結果でもあいつ自身が選んだ道だ。喪う恐怖より、欲が勝ったのもあいつの心の問題で、元々私達にはどうすることも出来ないよ」
加護持ちの王女が亡くなったのは、私が生まれる前のことです。レイだって赤ん坊の頃ですから、当然関係ありません。
ただ、あの方に加護持ちの王女の死を悼む気持ちはなかったことに、私はとても残念な気持ちになりました。
あれではイグニスさんも怒りますよね。
その後の騎士団長の行方は分からないままとなりました。
名前を口にする者も思い出す者もなく、騎士団の名簿からもひっそり消されたと随分経ってから聞くことになります。
死んだ扱いになったことを情だと取るのか、ただの事務手続きと取るかは、個人の心の問題でしょうから、別段追求する話ではございません。
この先はどうなるかは、一般の方が話すことです。
我々にとってはどうなるか、ではなく、どうするか、です。
騎士団長の消えた騎士団の混乱は、まだ始まってはおりません。
恐らく翌日以降、騎士団長が消えたことが騎士団員に分かってから起きると予測はしております。
第2王子殿下の執務室に戻ると、第1王子殿下が既にいらっしゃっており、書類を読みながら私達が戻ってくるのを待っておられました。
「どうだった?」
第1王子殿下に側妃様の部屋で何があったのか、レイがかいつまんで説明いたしました。
「これで面倒な狂犬の一匹は消えましたね」
騎士団長はやはり『黒い犬の群れ』のお一人でしたか。
それにしても王家の祝福の血の狂信者を名乗るにしては、あまりに自分の都合をこちらに押しつけておられた気がいたします。
「流れは変わりますかね?」
「変わるでしょうね。何を目指しているのか分からない狂犬がいないのです。後は、目的がはっきりしている犬だけです」
そもそも私が来るずっと前から続いていた話です。
ある程度は王子殿下達は犬の情報を掴んでおられるのは当たり前でしょうね。
「王女を女王にしたい層。現王の血筋を絶ち、元の祝福の血筋に戻したい層。王妃殿下と私達を殺したい層。……まあ、全て王女を女王に立たせれば終わりますよね」
ふーん……。
……?
横でぼんやり聞いていたら、何か不穏な話になっておりませんか。
「本も……は今は……」
王女様が女王になると言っても、王女様は加護持ちでもありませんよ……。
私は口の中が異様に乾いてしまいました。
第1王子殿下の結論は、聞きたくありませんでした。
「王家の血を引く加護持ちの女性が女王になれば、一応はそれで丸くは収まるのですよ。何も王女限定ではありませんよ」
かつて、アウリス様に私は王妃になりたいか、女王になりたいか尋ねられたことがあります。
どちらもありえないと思った私は、その後、アウリス様の言葉を真面目に考えることなく別のことばかり考えておりましたが。
「人生は2択だったのですね……」
もう少し丁寧に説明して頂きたかったですね!
好きな方を選んでねって話だったんですか!
29
あなたにおすすめの小説
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして”世界を救う”私の成長物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー編
第二章:討伐軍北上編
第三章:魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
背徳の恋のあとで
ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』
恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。
自分が子供を産むまでは……
物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。
母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。
そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき……
不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか?
※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
婚約破棄された《人形姫》は自由に生きると決めました
星名柚花
恋愛
孤児のルーシェは《国守りの魔女》に選ばれ、公爵家の養女となった。
第二王子と婚約させられたものの、《人形姫》と揶揄されるほど大人しいルーシェを放って王子は男爵令嬢に夢中。
虐げられ続けたルーシェは濡れ衣を着せられ、婚約破棄されてしまう。
失意のどん底にいたルーシェは同じ孤児院で育ったジオから国を出ることを提案される。
ルーシェはその提案に乗り、隣国ロドリーへ向かう。
そこで出会ったのは個性強めの魔女ばかりで…?
《人形姫》の仮面は捨てて、新しい人生始めます!
※「妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/271485076/35882148
のスピンオフ作品になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる