[完結]加護持ち令嬢は聞いてはおりません

夏見颯一

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66,決まっていた未来

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 側妃様にはこれ以上の負担はかけられないので、この場に残ると仰った王妃殿下に後をお任せして、私達は側妃様の部屋を退室いたしました。
 扉の外で待っておられたディルさんは、
「さっきの人、怒鳴りつけて押し入ったと思ったら、血相を変えて飛び出して行かれましたね」
 さっきの人とは騎士団長のことでしょうね。
 誰か御存知なのに、ディルさんも何か思うところがあったのでしょうか。
「どこへ行ったのか分かるか?」
 レイが尋ねると首を振って、
「もう戻っては来ませんよ」
 副団長のまま終わらず騎士団長になって何を得たのかは分かりませんが、失ったものは決して些細なものではありません。
 もしかすると失ったもののために騎士団長になりたかったのかもしれないと思うと、あの方は悲しいほどに業が深いのではないでしょうか。
 騎士団長の去って行った廊下の先を見つめ、レイは頭を振りました。
 前任の騎士団長が何故消えたのか知っておりながら騎士団に残ったあの方は、自分が禁忌を犯したと無意識には理解していたからこそ、加護持ちの王女に執着しておられたのかもしれないと私は思うのです。
「加護持ちの王女の騎士になっても、どの道あいつが失ったものなど帰ってこないと今更気付いたとはな」
 名声、富、栄誉の全てを手に入れても、あの方の大切な人々はいないことにいつかは気付かざるを得なかったでしょう。だけど、結局は名声や富や栄誉を手に入れるために大切な人を殺して手に入れたことには、誰かが突き付けるまでは目を逸らし続けていたでしょうね。
 自身が加護持ちである私には、他の方が考える加護持ちの価値はいまいち理解しかねます。
 その考えの違いが私と周囲を大きく隔てることに、時に困惑し悲しく思います。
「どんな結果でもあいつ自身が選んだ道だ。喪う恐怖より、欲が勝ったのもあいつの心の問題で、元々私達にはどうすることも出来ないよ」
 加護持ちの王女が亡くなったのは、私が生まれる前のことです。レイだって赤ん坊の頃ですから、当然関係ありません。
 ただ、あの方に加護持ちの王女の死を悼む気持ちはなかったことに、私はとても残念な気持ちになりました。
 あれではイグニスさんも怒りますよね。


 その後の騎士団長の行方は分からないままとなりました。
 名前を口にする者も思い出す者もなく、騎士団の名簿からもひっそり消されたと随分経ってから聞くことになります。
 死んだ扱いになったことを情だと取るのか、ただの事務手続きと取るかは、個人の心の問題でしょうから、別段追求する話ではございません。


 この先はどうなるかは、一般の方が話すことです。
 我々にとってはどうなるか、ではなく、どうするか、です。
 騎士団長の消えた騎士団の混乱は、まだ始まってはおりません。
 恐らく翌日以降、騎士団長が消えたことが騎士団員に分かってから起きると予測はしております。
 第2王子殿下の執務室に戻ると、第1王子殿下が既にいらっしゃっており、書類を読みながら私達が戻ってくるのを待っておられました。
「どうだった?」
 第1王子殿下に側妃様の部屋で何があったのか、レイがかいつまんで説明いたしました。
「これで面倒な狂犬の一匹は消えましたね」
 騎士団長はやはり『黒い犬の群れ』のお一人でしたか。
 それにしても王家の祝福の血の狂信者を名乗るにしては、あまりに自分の都合をこちらに押しつけておられた気がいたします。
「流れは変わりますかね?」
「変わるでしょうね。何を目指しているのか分からない狂犬がいないのです。後は、目的がはっきりしている犬だけです」
 そもそも私が来るずっと前から続いていた話です。
 ある程度は王子殿下達は犬の情報を掴んでおられるのは当たり前でしょうね。
「王女を女王にしたい層。現王の血筋を絶ち、元の祝福の血筋に戻したい層。王妃殿下と私達を殺したい層。……まあ、全て王女を女王に立たせれば終わりますよね」
 ふーん……。
 ……?
 横でぼんやり聞いていたら、何か不穏な話になっておりませんか。
「本も……は今は……」
 王女様が女王になると言っても、王女様は加護持ちでもありませんよ……。
 私は口の中が異様に乾いてしまいました。
 第1王子殿下の結論は、聞きたくありませんでした。
「王家の血を引く加護持ちの女性が女王になれば、一応はそれで丸くは収まるのですよ。何も王女限定ではありませんよ」

 かつて、アウリス様に私は王妃になりたいか、女王になりたいか尋ねられたことがあります。
 どちらもありえないと思った私は、その後、アウリス様の言葉を真面目に考えることなく別のことばかり考えておりましたが。
「人生は2択だったのですね……」

 もう少し丁寧に説明して頂きたかったですね!
 好きな方を選んでねって話だったんですか!
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