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15.【朽ちた女神はエロゲー的な祝福を与えた】
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ダンジョンの深層階。
冒険者でもなかったエリスには、自分がいるのが何階なのかは分かるはずもなかった。
「気持ち悪い……」
全部夢の中の出来事だった筈なのに、なんだか体中がベタベタするような気がしたエリスは不快げに地面を手で叩いた。
「何なのよ! もう!」
アイルをトラップの穴に突き落とした後、ダンジョンからラグレとともに脱出しようとしたら、入り口の転位陣に繋がっている転位陣が壊れたように反応しなくなった。
どうにもこうにも動かなくて、二人は仕方なく歩いて外に向かうことにした。
その時点で既にエリスは憤懣やるかたなかったが、その後……。
思い出したエリスは体を掻きむしった。
体中まだ触られている気がして気持ちが悪かった。
中堅所の冒険者であったラグレはそこそこ腕の立つ冒険者、の筈だった。なのに、今では魔物達が集まってきてもただいるだけで攻撃も防御もせず、腹立たしいほど何の役にも立たなくなっていた。
夢から覚めたのだからエリスが立ち上がると、足の間から何かが伝いそうな錯覚がして、一層夢が忌々しく感じた。
夢の中で、今までは敵としてエリス達の命を狙ってきた魔物達は、
『雌ならこちらに来い……』
舌なめずりをしながらエリスに命じてきた。
魔物が声を出すなんて、と元々のエリスならば悲鳴のように叫んだであろうが、雄が呼ぶ声に人としての拒否感は何とも言えぬ陶酔感に塗りつぶされ、エリスは自ら魔物に近付いていった。
自分から魔物を求め、魔物を孕んで産んだ。
魔物の生育と出産に必要なのは魔力だけで、時間など意味がない。
そして、生まれた魔物の子供とともに魔物が去るとエリスは夢から覚めるように正気に戻り、何もしなかったラグレを怒鳴りつけた。
その度にラグレは不思議そうな顔をして、
「いや、お前の『仕事』だろ?」
自分もどうかしているが、ラグレだってどうかしていると思ったエリスは急いでダンジョンから脱出しようとした。
けれど一向に出口に向かう道は見つからず長い時間彷徨い続け、ダンジョンの魔物の縄張りに迷い込んではそこに巣くう魔物の雄達に呼ばれ、その度にエリスは発情した雌となった。行く階行く階で、ダンジョン内のありとあらゆる魔物の種と交わり、多くの魔物を産み落とした気がした。
結局、正気の時のエリスは魔物の嫌悪感からラグレを求め、魔物が近付けば魔物と交わるだけの生活となっていた。
とてもとても嫌な夢だった。
夢の内容を思い出していくエリスは歯ぎしりせずにはいられなかった。
最期は、助けを求めて縋り付こうとした騎士に、
「魔物となった『堕ちたる聖女』、魔物を増やすことは許されない!」
否応なしに剣で貫かれた。
「何なのよ! 巫山戯ないでよ!」
夢だと思った。
だけど、腹を貫かれた痛みすらリアルだった。
生きているからきっと夢の筈なのに!
「ラグレ! どこにいるの!」
「ここにいる」
返ってきた声と暗がりから現れた姿にエリスはほっとして抱きついた。
「私の側を離れては駄目でしょう」
「勿論、離れないとも」
ラグレだったものはエリスと異なり最早人間の形などしていなかったが、魔物の『ラグレ』は同じく魔物として生まれ変わっているエリスにとっては以前と何ら変わらぬラグレであった。そのように認識するよう作られているからだ。
「ああ。※△□※の導きを……」
はたとエリスは気が付いた。
口にしようとした女神の名を言えなくなっているではないか。
信仰心がない事はエリスは自覚していたが、口が女神の名前を出せなくなるなんてことは聞いたこともなかった。
どういうこと?
「おい、いたぞ!」
ああ、また人間に見つかってしまった。
「ラグレ! どうにかして!」
エリスの命令にラグレが敵である冒険者に襲いかかった。
その隙にエリスは逃げ出した。
忌々しい。
腹立たしい。
夢から覚めた時、手にしてた筈のアイルから奪ったペンダントは消えてしまっていた。
ダンジョンから出たら直ぐに取り返してやる!
そう強く思いながら、エリスは走った。
けれど、戦闘能力どころか運動能力自体が低いエリスは、あっさり後ろから矢で射られて倒れた。
「倒してもドロップアイテムもないのな!」
冒険者の声が遠くで聞こえた。
見た目も完全に魔物になっているラグレとは異なり人だった頃の姿を残しているとは言え、魔物に成り果てていると分かっているエリスを倒すことには、冒険者達には何ら良心の呵責などなかった。
元々冒険者の中では高い報酬を求める事で嫌われていたエリスなど、魔物になってしまえば稼ぎ目当てでいくらでも倒せる程度の存在だった。
「魔物を産む割にはボス扱いでもないのか」
「上級の魔物になるかは元が賢いか強いかとか、何か秀でていたかどうかだからな」
人間であった時のエリスは美人と呼ばれる範疇にこそあったが、知恵もなく運動能力もなく人を出し抜くだけの目もなかった為に、魔物としての扱いはレアでも最弱のレベルであった。
最弱であっては冒険者にとってエリスなど全く実入りのない獲物であった。
ラグレを倒す方がドロップアイテムといい、余程金になるので、どちらかというと冒険者達はラグレを狙っているのだ。
「ラグレもエリスが弱点になってくれて助かってるな」
それなりに実力者だったラグレは個別としては手強い相手だが、エリスの下僕という足枷があって冒険者達はそれを利用していた。
エリスさえ先に倒せば途端にラグレは弱体化するのだ。とても冒険者には都合の良い弱点だった。
「簡単な討伐でしたね!」
パーティーに混じっていた初心者が嬉しそうに言った。
「今後初心者用の仕事になるかもな」
魔物が増えすぎても困るため、定期的に『エリス』という魔物を狩る仕事が冒険者ギルドからの依頼として出て、難易度的にもそこそこ冒険者の間で人気がある仕事だった。
今はギルドが結構多めに報酬をくれるので、夕飯の予定を楽しそうに話しながらパーティーは去って行った。
そして、再びダンジョンの奥で、
「ああ……夢だったのね」
魔物のエリスは生まれ直していた。
終わりを迎える日まで、何度も何度も。
_________________________
R-15的にここまでとなります。
冒険者でもなかったエリスには、自分がいるのが何階なのかは分かるはずもなかった。
「気持ち悪い……」
全部夢の中の出来事だった筈なのに、なんだか体中がベタベタするような気がしたエリスは不快げに地面を手で叩いた。
「何なのよ! もう!」
アイルをトラップの穴に突き落とした後、ダンジョンからラグレとともに脱出しようとしたら、入り口の転位陣に繋がっている転位陣が壊れたように反応しなくなった。
どうにもこうにも動かなくて、二人は仕方なく歩いて外に向かうことにした。
その時点で既にエリスは憤懣やるかたなかったが、その後……。
思い出したエリスは体を掻きむしった。
体中まだ触られている気がして気持ちが悪かった。
中堅所の冒険者であったラグレはそこそこ腕の立つ冒険者、の筈だった。なのに、今では魔物達が集まってきてもただいるだけで攻撃も防御もせず、腹立たしいほど何の役にも立たなくなっていた。
夢から覚めたのだからエリスが立ち上がると、足の間から何かが伝いそうな錯覚がして、一層夢が忌々しく感じた。
夢の中で、今までは敵としてエリス達の命を狙ってきた魔物達は、
『雌ならこちらに来い……』
舌なめずりをしながらエリスに命じてきた。
魔物が声を出すなんて、と元々のエリスならば悲鳴のように叫んだであろうが、雄が呼ぶ声に人としての拒否感は何とも言えぬ陶酔感に塗りつぶされ、エリスは自ら魔物に近付いていった。
自分から魔物を求め、魔物を孕んで産んだ。
魔物の生育と出産に必要なのは魔力だけで、時間など意味がない。
そして、生まれた魔物の子供とともに魔物が去るとエリスは夢から覚めるように正気に戻り、何もしなかったラグレを怒鳴りつけた。
その度にラグレは不思議そうな顔をして、
「いや、お前の『仕事』だろ?」
自分もどうかしているが、ラグレだってどうかしていると思ったエリスは急いでダンジョンから脱出しようとした。
けれど一向に出口に向かう道は見つからず長い時間彷徨い続け、ダンジョンの魔物の縄張りに迷い込んではそこに巣くう魔物の雄達に呼ばれ、その度にエリスは発情した雌となった。行く階行く階で、ダンジョン内のありとあらゆる魔物の種と交わり、多くの魔物を産み落とした気がした。
結局、正気の時のエリスは魔物の嫌悪感からラグレを求め、魔物が近付けば魔物と交わるだけの生活となっていた。
とてもとても嫌な夢だった。
夢の内容を思い出していくエリスは歯ぎしりせずにはいられなかった。
最期は、助けを求めて縋り付こうとした騎士に、
「魔物となった『堕ちたる聖女』、魔物を増やすことは許されない!」
否応なしに剣で貫かれた。
「何なのよ! 巫山戯ないでよ!」
夢だと思った。
だけど、腹を貫かれた痛みすらリアルだった。
生きているからきっと夢の筈なのに!
「ラグレ! どこにいるの!」
「ここにいる」
返ってきた声と暗がりから現れた姿にエリスはほっとして抱きついた。
「私の側を離れては駄目でしょう」
「勿論、離れないとも」
ラグレだったものはエリスと異なり最早人間の形などしていなかったが、魔物の『ラグレ』は同じく魔物として生まれ変わっているエリスにとっては以前と何ら変わらぬラグレであった。そのように認識するよう作られているからだ。
「ああ。※△□※の導きを……」
はたとエリスは気が付いた。
口にしようとした女神の名を言えなくなっているではないか。
信仰心がない事はエリスは自覚していたが、口が女神の名前を出せなくなるなんてことは聞いたこともなかった。
どういうこと?
「おい、いたぞ!」
ああ、また人間に見つかってしまった。
「ラグレ! どうにかして!」
エリスの命令にラグレが敵である冒険者に襲いかかった。
その隙にエリスは逃げ出した。
忌々しい。
腹立たしい。
夢から覚めた時、手にしてた筈のアイルから奪ったペンダントは消えてしまっていた。
ダンジョンから出たら直ぐに取り返してやる!
そう強く思いながら、エリスは走った。
けれど、戦闘能力どころか運動能力自体が低いエリスは、あっさり後ろから矢で射られて倒れた。
「倒してもドロップアイテムもないのな!」
冒険者の声が遠くで聞こえた。
見た目も完全に魔物になっているラグレとは異なり人だった頃の姿を残しているとは言え、魔物に成り果てていると分かっているエリスを倒すことには、冒険者達には何ら良心の呵責などなかった。
元々冒険者の中では高い報酬を求める事で嫌われていたエリスなど、魔物になってしまえば稼ぎ目当てでいくらでも倒せる程度の存在だった。
「魔物を産む割にはボス扱いでもないのか」
「上級の魔物になるかは元が賢いか強いかとか、何か秀でていたかどうかだからな」
人間であった時のエリスは美人と呼ばれる範疇にこそあったが、知恵もなく運動能力もなく人を出し抜くだけの目もなかった為に、魔物としての扱いはレアでも最弱のレベルであった。
最弱であっては冒険者にとってエリスなど全く実入りのない獲物であった。
ラグレを倒す方がドロップアイテムといい、余程金になるので、どちらかというと冒険者達はラグレを狙っているのだ。
「ラグレもエリスが弱点になってくれて助かってるな」
それなりに実力者だったラグレは個別としては手強い相手だが、エリスの下僕という足枷があって冒険者達はそれを利用していた。
エリスさえ先に倒せば途端にラグレは弱体化するのだ。とても冒険者には都合の良い弱点だった。
「簡単な討伐でしたね!」
パーティーに混じっていた初心者が嬉しそうに言った。
「今後初心者用の仕事になるかもな」
魔物が増えすぎても困るため、定期的に『エリス』という魔物を狩る仕事が冒険者ギルドからの依頼として出て、難易度的にもそこそこ冒険者の間で人気がある仕事だった。
今はギルドが結構多めに報酬をくれるので、夕飯の予定を楽しそうに話しながらパーティーは去って行った。
そして、再びダンジョンの奥で、
「ああ……夢だったのね」
魔物のエリスは生まれ直していた。
終わりを迎える日まで、何度も何度も。
_________________________
R-15的にここまでとなります。
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