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14.【それは計画外だった】
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ニナリアを連れ出した事で、ホーウェン子爵家は呆気なく消えました。
王家の正式発表を前に没落したのではなく、文字通り『消えた』のです。
ホーウェン子爵家は今回の件で陥れられる前から、私やニナリアの想像以上に追い込まれていたようです。
ニナリアがいない事に気が付いたホーウェン子爵も夫人も夜陰に紛れ、ひっそりとそれぞれ屋敷を後にしたそうです。
資産も能力もないホーウェン子爵夫妻を王家の影もわざわざ追う事はなかったそうで、その内に適当な理由を付けて一家死亡と発表されるでしょう。
庶子問題は王家だけでなく高位貴族ではよくある事で、ホーウェン子爵家がいなくなった事も一時話題とはなっても、静かに処分されたと今回は順当に受け止められるでしょうね。
「そうですか……処刑されるよりはましだったと思う事にします」
俯きながらニナリアは言いました。
あのまま家族で身を寄せ合って生活を続けていたとしたら、王族を謀った罪は全員に等しく降りかかり、一家全員処刑となっていたでしょう。
誰が何をホーウェン子爵家に吹き込んだのか知られぬまま。
ニナリアの妹だけは密かに王家が保護したと父から聞きました。
否定材料ばかりでも意外と気弱な王侯貴族、まして色々複雑な立場である第2王子が絡むとあれば、万が一を警戒するのは当然の事でしょう。
現在、ニナリアの妹は外部からの接触が制限された神殿の特別な施設に隔離され、出産を待っているそうです。
「生まれたら、妹とその子供はどうなりますか?」
「以前あった同様の事件を参考にするなら、2人ともそのまま神殿が預かる事になるわ。別々の神殿に行かされるでしょうけど、名前も変えて別人として一生神殿で過ごす事になる」
これがホーウェン子爵家で産んだ後だったら、子供だけは神殿で保護されるでしょうが、ニナリアの妹は処刑されていたでしょう。
とは言え、神殿に入ったニナリアの妹は死んだ事にされ、もう二度とニナリアは会う事は叶わない。
「神殿に入れば……私はもう妹の事を心配しなくても良いので、一番良かったと思います。私も私の人生を歩んでいけます」
弱小貴族で他と繋がりが薄いホーウェン子爵家だったので、ニナリアはあまり顔が知られておらず、髪型を変えて化粧をするだけで誰からも気付かれないでしょう。
とは言え、王都に留め置くのは危険がある為に、ルト侯爵家のカントリーハウスにメイドの一人として向かわせる事にしました。
私がここまで警戒するのには訳があります。
「ねえ、ニナ。貴女はどうしてケインと婚約する事になったか知っている?」
実際に目にするまではいくら弱小貴族とは言え、ホーウェン子爵家はマーキス侯爵家と縁を結ぶ程度には何かを持っている家だと思い込んでいました。
「私の父がマーキス侯爵家の方に声をかけられたからです。行き場のない弟を何とかして欲しいと」
「具体的には誰?」
「確か……マーキス侯爵家のご長男だったかと」
ソルシアーナの忠告の意味の一端を、私はようやく掴みました。
ケイン自身に確認すると、最初の婚約は長男のグリフィスの『恩人』の娘と聞いていたそうです。
マーキス侯爵家の当主がケインの婚約に家格に差のある家を勧められて受け入れたのは、恩返しである事に加えて、婚約する相手が子爵令嬢である為にマーキス侯爵夫人の妹を刺激もしない事があったとは思います。
それでも恐らく一番の理由は、ご自身の一番上の子供を信用していたからでしょう。
普通は身内に嵌められるなんて思いも寄らないでしょうね。
ホーウェン子爵家の家族とも接していたケインは、薄々グリフィスに嵌められた事に気が付いていたらしく、この話を打ち明けると納得出来たと言っておりました。
しばらくはケインには家族に黙っていて貰い、私はもう1人のマーキス侯爵家の家人である次男カルナートと会う事にしました。
ケインの2番目の兄カルナートは、現在は第1王子の側近をされている方ですが、未だ結婚はされていません。
その理由は簡単です。
ようやく日程の調整出来た顔合わせで私が部屋に入るなりジロジロ見て。
「ふーん……まあ、ケインぐらいが丁度良いんじゃない?」
こういう事を口にしてしまう方でした。
余程第1王子の側近である事が自信になっているのか、カルナートは一度婚約破棄をしている私を見下すような目で見ておりました。
それに対して私は笑顔で、
「ええ、そうですわね。貴方よりもケインの方が公爵家には相応しいですもの。第1王子殿下からもお祝いの言葉を頂きましたわ」
いつまでも侯爵家令息の肩書きだけで第1王子の側近の側近として勤められると思っていたのでしょうか?
側近を続けたいなら伯爵家以上に婿入りする必要がありますよ。
格上の相手に失言をしてしまう人を婿入りで望む家があるかどうかは知りませんが。
この会話後、流石に第1王子の名を聞いたカルナートも自分を顧みたのか、私に対しては非礼を慎むようになりました。
予定を聞いて王城の廊下で待っていると、仕事を終えて廊下を歩いているカルナートは以前ほどは自信に満ちていませんでした。
自分の立場が危ういものだと自覚したのは良い事でも、婿入りという改善策が見当たらないのでしょうね。
「カルナート様、少し宜しいでしょうか?」
「ヒルダ様? このような場所でどうされましたか?」
言葉も態度も丁寧なものになっていました。
あまりの変わりぶりに驚いて、私は咄嗟に次の言葉が出て来なくなりました。
「何かありましたか? 随分以前とは違いますね」
「……ヒルダ様はメイヴェナ公爵令嬢とは親しいそうですね」
それだけをカルナートは口にして黙り込みました。
どうやら第1王子の婚約者であるソルシアーナの関係者に何かしら指導されたのでしょう。
側近は主でもある第1王子の評判にも影響するので、当然ですね。
「それで、どうされましたか?」
「……最近、グリフィス様にお目にかかりましたか? グリフィス様はどうやらケイン様の婚約者になった私と会うのを避けておられるようで、ケイン様共々どうしてかと」
何処でグリフィスの話をするか考えたのですが、結局一番安全なのは王城内だと私は結論づけました。
何故なら既に王家の影が動いているから。
グリフィスの名前を聞いたカルナートは怪訝な顔をしましたが、それだけでした。
「何というか……私もグリフィスとはそれ程仲が良くはないのですよ。近年は全く会話もしないので、何を考えているのだか分かりません」
「あら、兄弟同士ご相談もされないのですか?」
「相談出来る関係ではありませんよ。家を継ぐ長男、家を継げない次男。仲が悪い事は珍しい事ではありません」
てっきりカルナートを通じてニナリアの妹の件を操ったと思っていたのですが……まあ、第1王子の側近を今も務めているのですから、違うのは当たり前ですね。
「なら、私を避ける理由は御存知ありませんよね。お時間を取らせて申し訳ありません」
軽く礼をして去ろうとした私に、
「多分、グリフィスは貴女に会いたくないのだと思います」
「はい?」
振り返った私にカルナートは、
「可哀想な令嬢を助けたかった兄は、ケインの婚約者になった貴女を見たくなかったのでしょう」
それだけを言い残し、カルナートが去って行きました。
可哀想な令嬢……?
グリフィスが「助けたかった」と言ったカルナートの言葉は、エリックとの婚約期間を過去にしていた私の胸を今更揺さぶり、大きく動揺させました。
王家の正式発表を前に没落したのではなく、文字通り『消えた』のです。
ホーウェン子爵家は今回の件で陥れられる前から、私やニナリアの想像以上に追い込まれていたようです。
ニナリアがいない事に気が付いたホーウェン子爵も夫人も夜陰に紛れ、ひっそりとそれぞれ屋敷を後にしたそうです。
資産も能力もないホーウェン子爵夫妻を王家の影もわざわざ追う事はなかったそうで、その内に適当な理由を付けて一家死亡と発表されるでしょう。
庶子問題は王家だけでなく高位貴族ではよくある事で、ホーウェン子爵家がいなくなった事も一時話題とはなっても、静かに処分されたと今回は順当に受け止められるでしょうね。
「そうですか……処刑されるよりはましだったと思う事にします」
俯きながらニナリアは言いました。
あのまま家族で身を寄せ合って生活を続けていたとしたら、王族を謀った罪は全員に等しく降りかかり、一家全員処刑となっていたでしょう。
誰が何をホーウェン子爵家に吹き込んだのか知られぬまま。
ニナリアの妹だけは密かに王家が保護したと父から聞きました。
否定材料ばかりでも意外と気弱な王侯貴族、まして色々複雑な立場である第2王子が絡むとあれば、万が一を警戒するのは当然の事でしょう。
現在、ニナリアの妹は外部からの接触が制限された神殿の特別な施設に隔離され、出産を待っているそうです。
「生まれたら、妹とその子供はどうなりますか?」
「以前あった同様の事件を参考にするなら、2人ともそのまま神殿が預かる事になるわ。別々の神殿に行かされるでしょうけど、名前も変えて別人として一生神殿で過ごす事になる」
これがホーウェン子爵家で産んだ後だったら、子供だけは神殿で保護されるでしょうが、ニナリアの妹は処刑されていたでしょう。
とは言え、神殿に入ったニナリアの妹は死んだ事にされ、もう二度とニナリアは会う事は叶わない。
「神殿に入れば……私はもう妹の事を心配しなくても良いので、一番良かったと思います。私も私の人生を歩んでいけます」
弱小貴族で他と繋がりが薄いホーウェン子爵家だったので、ニナリアはあまり顔が知られておらず、髪型を変えて化粧をするだけで誰からも気付かれないでしょう。
とは言え、王都に留め置くのは危険がある為に、ルト侯爵家のカントリーハウスにメイドの一人として向かわせる事にしました。
私がここまで警戒するのには訳があります。
「ねえ、ニナ。貴女はどうしてケインと婚約する事になったか知っている?」
実際に目にするまではいくら弱小貴族とは言え、ホーウェン子爵家はマーキス侯爵家と縁を結ぶ程度には何かを持っている家だと思い込んでいました。
「私の父がマーキス侯爵家の方に声をかけられたからです。行き場のない弟を何とかして欲しいと」
「具体的には誰?」
「確か……マーキス侯爵家のご長男だったかと」
ソルシアーナの忠告の意味の一端を、私はようやく掴みました。
ケイン自身に確認すると、最初の婚約は長男のグリフィスの『恩人』の娘と聞いていたそうです。
マーキス侯爵家の当主がケインの婚約に家格に差のある家を勧められて受け入れたのは、恩返しである事に加えて、婚約する相手が子爵令嬢である為にマーキス侯爵夫人の妹を刺激もしない事があったとは思います。
それでも恐らく一番の理由は、ご自身の一番上の子供を信用していたからでしょう。
普通は身内に嵌められるなんて思いも寄らないでしょうね。
ホーウェン子爵家の家族とも接していたケインは、薄々グリフィスに嵌められた事に気が付いていたらしく、この話を打ち明けると納得出来たと言っておりました。
しばらくはケインには家族に黙っていて貰い、私はもう1人のマーキス侯爵家の家人である次男カルナートと会う事にしました。
ケインの2番目の兄カルナートは、現在は第1王子の側近をされている方ですが、未だ結婚はされていません。
その理由は簡単です。
ようやく日程の調整出来た顔合わせで私が部屋に入るなりジロジロ見て。
「ふーん……まあ、ケインぐらいが丁度良いんじゃない?」
こういう事を口にしてしまう方でした。
余程第1王子の側近である事が自信になっているのか、カルナートは一度婚約破棄をしている私を見下すような目で見ておりました。
それに対して私は笑顔で、
「ええ、そうですわね。貴方よりもケインの方が公爵家には相応しいですもの。第1王子殿下からもお祝いの言葉を頂きましたわ」
いつまでも侯爵家令息の肩書きだけで第1王子の側近の側近として勤められると思っていたのでしょうか?
側近を続けたいなら伯爵家以上に婿入りする必要がありますよ。
格上の相手に失言をしてしまう人を婿入りで望む家があるかどうかは知りませんが。
この会話後、流石に第1王子の名を聞いたカルナートも自分を顧みたのか、私に対しては非礼を慎むようになりました。
予定を聞いて王城の廊下で待っていると、仕事を終えて廊下を歩いているカルナートは以前ほどは自信に満ちていませんでした。
自分の立場が危ういものだと自覚したのは良い事でも、婿入りという改善策が見当たらないのでしょうね。
「カルナート様、少し宜しいでしょうか?」
「ヒルダ様? このような場所でどうされましたか?」
言葉も態度も丁寧なものになっていました。
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「何かありましたか? 随分以前とは違いますね」
「……ヒルダ様はメイヴェナ公爵令嬢とは親しいそうですね」
それだけをカルナートは口にして黙り込みました。
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側近は主でもある第1王子の評判にも影響するので、当然ですね。
「それで、どうされましたか?」
「……最近、グリフィス様にお目にかかりましたか? グリフィス様はどうやらケイン様の婚約者になった私と会うのを避けておられるようで、ケイン様共々どうしてかと」
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グリフィスの名前を聞いたカルナートは怪訝な顔をしましたが、それだけでした。
「何というか……私もグリフィスとはそれ程仲が良くはないのですよ。近年は全く会話もしないので、何を考えているのだか分かりません」
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「はい?」
振り返った私にカルナートは、
「可哀想な令嬢を助けたかった兄は、ケインの婚約者になった貴女を見たくなかったのでしょう」
それだけを言い残し、カルナートが去って行きました。
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