子供のままの婚約者が子供を作ったようです

夏見颯一

文字の大きさ
14 / 41

14.【それは計画外だった】

しおりを挟む
 ニナリアを連れ出した事で、ホーウェン子爵家は呆気なく消えました。

 王家の正式発表を前に没落したのではなく、文字通り『消えた』のです。
 ホーウェン子爵家は今回の件で陥れられる前から、私やニナリアの想像以上に追い込まれていたようです。

 ニナリアがいない事に気が付いたホーウェン子爵も夫人も夜陰に紛れ、ひっそりとそれぞれ屋敷を後にしたそうです。
 資産も能力もないホーウェン子爵夫妻を王家の影もわざわざ追う事はなかったそうで、その内に適当な理由を付けて一家死亡と発表されるでしょう。
 庶子問題は王家だけでなく高位貴族ではよくある事で、ホーウェン子爵家がいなくなった事も一時話題とはなっても、静かに処分されたと今回は順当に受け止められるでしょうね。

「そうですか……処刑されるよりはましだったと思う事にします」

 俯きながらニナリアは言いました。
 あのまま家族で身を寄せ合って生活を続けていたとしたら、王族を謀った罪は全員に等しく降りかかり、一家全員処刑となっていたでしょう。
 誰が何をホーウェン子爵家に吹き込んだのか知られぬまま。

 ニナリアの妹だけは密かに王家が保護したと父から聞きました。
 否定材料ばかりでも意外と気弱な王侯貴族、まして色々複雑な立場である第2王子が絡むとあれば、万が一を警戒するのは当然の事でしょう。
 現在、ニナリアの妹は外部からの接触が制限された神殿の特別な施設に隔離され、出産を待っているそうです。

「生まれたら、妹とその子供はどうなりますか?」
「以前あった同様の事件を参考にするなら、2人ともそのまま神殿が預かる事になるわ。別々の神殿に行かされるでしょうけど、名前も変えて別人として一生神殿で過ごす事になる」

 これがホーウェン子爵家で産んだ後だったら、子供だけは神殿で保護されるでしょうが、ニナリアの妹は処刑されていたでしょう。
 とは言え、神殿に入ったニナリアの妹は死んだ事にされ、もう二度とニナリアは会う事は叶わない。

「神殿に入れば……私はもう妹の事を心配しなくても良いので、一番良かったと思います。私も私の人生を歩んでいけます」

 弱小貴族で他と繋がりが薄いホーウェン子爵家だったので、ニナリアはあまり顔が知られておらず、髪型を変えて化粧をするだけで誰からも気付かれないでしょう。
 とは言え、王都に留め置くのは危険がある為に、ルト侯爵家のカントリーハウスにメイドの一人として向かわせる事にしました。
 
 私がここまで警戒するのには訳があります。

「ねえ、ニナ。貴女はどうしてケインと婚約する事になったか知っている?」

 実際に目にするまではいくら弱小貴族とは言え、ホーウェン子爵家はマーキス侯爵家と縁を結ぶ程度には何かを持っている家だと思い込んでいました。

「私の父がマーキス侯爵家の方に声をかけられたからです。行き場のない弟を何とかして欲しいと」
「具体的には誰?」
「確か……マーキス侯爵家のご長男だったかと」

 ソルシアーナの忠告の意味の一端を、私はようやく掴みました。



 ケイン自身に確認すると、最初の婚約は長男のグリフィスの『恩人』の娘と聞いていたそうです。
 マーキス侯爵家の当主がケインの婚約に家格に差のある家を勧められて受け入れたのは、恩返しである事に加えて、婚約する相手が子爵令嬢である為にマーキス侯爵夫人の妹を刺激もしない事があったとは思います。
 それでも恐らく一番の理由は、ご自身の一番上の子供を信用していたからでしょう。

 普通は身内に嵌められるなんて思いも寄らないでしょうね。
 ホーウェン子爵家の家族とも接していたケインは、薄々グリフィスに嵌められた事に気が付いていたらしく、この話を打ち明けると納得出来たと言っておりました。

 しばらくはケインには家族に黙っていて貰い、私はもう1人のマーキス侯爵家の家人である次男カルナートと会う事にしました。

 ケインの2番目の兄カルナートは、現在は第1王子の側近をされている方ですが、未だ結婚はされていません。
 その理由は簡単です。
 ようやく日程の調整出来た顔合わせで私が部屋に入るなりジロジロ見て。

「ふーん……まあ、ケインぐらいが丁度良いんじゃない?」

 こういう事を口にしてしまう方でした。
 余程第1王子の側近である事が自信になっているのか、カルナートは一度婚約破棄をしている私を見下すような目で見ておりました。
 それに対して私は笑顔で、

「ええ、そうですわね。貴方よりもケインの方が公爵家には相応しいですもの。第1王子殿下からもお祝いの言葉を頂きましたわ」

 いつまでも侯爵家令息の肩書きだけで第1王子の側近の側近として勤められると思っていたのでしょうか?
 側近を続けたいなら伯爵家以上に婿入りする必要がありますよ。
 格上の相手に失言をしてしまう人を婿入りで望む家があるかどうかは知りませんが。

 この会話後、流石に第1王子の名を聞いたカルナートも自分を顧みたのか、私に対しては非礼を慎むようになりました。


 予定を聞いて王城の廊下で待っていると、仕事を終えて廊下を歩いているカルナートは以前ほどは自信に満ちていませんでした。
 自分の立場が危ういものだと自覚したのは良い事でも、婿入りという改善策が見当たらないのでしょうね。

「カルナート様、少し宜しいでしょうか?」
「ヒルダ様? このような場所でどうされましたか?」

 言葉も態度も丁寧なものになっていました。
 あまりの変わりぶりに驚いて、私は咄嗟に次の言葉が出て来なくなりました。

「何かありましたか? 随分以前とは違いますね」
「……ヒルダ様はメイヴェナ公爵令嬢とは親しいそうですね」

 それだけをカルナートは口にして黙り込みました。
 どうやら第1王子の婚約者であるソルシアーナの関係者に何かしら指導されたのでしょう。
 側近は主でもある第1王子の評判にも影響するので、当然ですね。

「それで、どうされましたか?」
「……最近、グリフィス様にお目にかかりましたか? グリフィス様はどうやらケイン様の婚約者になった私と会うのを避けておられるようで、ケイン様共々どうしてかと」

 何処でグリフィスの話をするか考えたのですが、結局一番安全なのは王城内だと私は結論づけました。
 何故なら既に王家の影が動いているから。

 グリフィスの名前を聞いたカルナートは怪訝な顔をしましたが、それだけでした。

「何というか……私もグリフィスとはそれ程仲が良くはないのですよ。近年は全く会話もしないので、何を考えているのだか分かりません」
「あら、兄弟同士ご相談もされないのですか?」
「相談出来る関係ではありませんよ。家を継ぐ長男、家を継げない次男。仲が悪い事は珍しい事ではありません」

 てっきりカルナートを通じてニナリアの妹の件を操ったと思っていたのですが……まあ、第1王子の側近を今も務めているのですから、違うのは当たり前ですね。

「なら、私を避ける理由は御存知ありませんよね。お時間を取らせて申し訳ありません」

 軽く礼をして去ろうとした私に、

「多分、グリフィスは貴女に会いたくないのだと思います」
「はい?」

 振り返った私にカルナートは、

「可哀想な令嬢を助けたかった兄は、ケインの婚約者になった貴女を見たくなかったのでしょう」

 それだけを言い残し、カルナートが去って行きました。

 可哀想な令嬢……?

 グリフィスが「助けたかった」と言ったカルナートの言葉は、エリックとの婚約期間を過去にしていた私の胸を今更揺さぶり、大きく動揺させました。


しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で終わるはずでしたのに、気づけば全部あなた方が崩れておりました

しおしお
恋愛
王太子カイルの婚約者だった公爵令嬢リディアナは、学園の舞踏会で突然婚約破棄を告げられる。 隣にいたのは、可憐に涙をこぼす義妹ミレイユ。 誰もがリディアナを捨てられた令嬢だと思った。 けれどその婚約破棄は、ただの恋愛沙汰では終わらなかった。 王太子は、自分が何に支えられていたのかも知らないまま婚約を切り、義妹と継母は、選ばれた側になったつもりで浮かれ上がる。 しかし一夜明けるごとに、王宮の実務は乱れ、社交界の空気は冷え、王太子の周囲からは人が消えていく。 一方、すべてを失ったはずのリディアナは、静かに身を引きながらも、崩れていく彼らを冷ややかに見つめていた。 選ばれただけでは、何者にもなれない。 肩書きだけでは、人は支えられない。 そして、誰かを踏みにじった代償は、ゆっくりと、けれど確実に返ってくる――。 これは、婚約破棄された公爵令嬢が自ら騒がず、 勝ったつもりだった王太子、義妹、継母が、静かに自滅していくざまぁ恋愛譚。

婚約破棄をお望みでしたので。――本物の公爵令嬢は、奪った全員を生き地獄へ落とす

鷹 綾
恋愛
卒業舞踏会の夜。 公爵令嬢エルシェナ・ヴァルモンは、王太子エドガーから大勢の前で婚約破棄を言い渡された。 隣にいたのは、儚げな涙で男たちの同情を集める義妹セラフィナ。 「お姉様に虐げられてきました」と訴える彼女を庇い、王太子はエルシェナを悪女として断罪する。 けれど彼らは知らなかった。 王家の華やかな暮らしも、王太子の立場も、社交界での信用も、その多くがヴァルモン公爵家――そしてエルシェナの存在によって支えられていたことを。 静かに婚約破棄を受け入れたその日から、エルシェナはすべてを止める。 王宮に流れていた便宜も、信用も、優先も。 さらに継母イザベルの不正、義妹セラフィナの虚飾、王太子の浅はかさを、一つずつ白日のもとへ晒していく。 奪ったつもりでいた義妹も、捨てたつもりでいた王太子も、家を食い潰していた継母も―― やがて名誉も立場も未来も失い、二度と這い上がれない生き地獄へ落ちていく。 これは、すべてを奪われかけた本物の公爵令嬢が、 自分を踏みにじった者たちへ救済なき断罪を下す物語。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました

丸顔ちゃん。
恋愛
王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、 隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。 だが私は知っている。 原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、 私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。 優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。 私は転生者としての知識を武器に、 聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、 王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。 「婚約は……こちらから願い下げです」 土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。 私は新しい未来を選ぶ。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

『奢侈禁止令の鉄槌 ―偽の公爵令嬢が紡ぐ、着られぬ絹の鎖―』

鷹 綾
恋愛
亡き母の死後、公爵家の正統な継承者であるはずの少女は、屋敷の片隅で静かに暮らしていた。 実権を握っているのは、入り婿の父とその後妻、そして社交界で「公爵令嬢」として振る舞う義妹。 誰も疑わない。 誰も止めない。 偽りの公爵令嬢は、華やかな社交界で輝き続けていた。 だが、本来の継承者である彼女は何も言わない。 怒りも、反論も、争いも起こさない。 ただ静かに、書類を整えながら時を待っていた。 やがて王宮で大舞踏会が開かれる。 義妹は誇らしげに、亡き公爵夫人の形見である豪華な絹のドレスを身に纏って現れる。 それは誰もが息を呑むほど美しい衣装だった。 けれど―― そのドレスには、誰もが知らない「禁忌」があった。 舞踏会の夜。 華やかな音楽が流れる王宮で、ある出来事をきっかけに空気が一変する。 そして静かに現れる、本当の継承者。 その瞬間、 偽りの身分で築かれた栄光は、音もなく崩れ始める。 これは、 静かに時を待ち続けた一人の少女が、 奪われたものを正しい場所へ戻していく物語。 そして―― 偽りの公爵令嬢が辿る、あまりにも残酷な結末の物語でもある。

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~

村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。 だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。 私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。 ……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。 しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。 えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた? いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

処理中です...