子供のままの婚約者が子供を作ったようです

夏見颯一

文字の大きさ
28 / 41

28.【だから殺されなければいけなかった】


 公爵令嬢に婚約を持ちかけるなんて、容易い気持ちで行うものではありません。
 特に婿入りなんて全くもって気楽なものではありません。

 婚約した時点で生まれるメリットは公爵という立場に合わせて大きくなり、デメリットも然りです。
 婚約がなくなった時のデメリットに至っては、婚約時の有形無形のメリットの反動の分桁違いとなります。
 ケインも侯爵令息なので別段説明など必要ないと父は思っていたようですが、マーキス侯爵家を見ていると果たして何処まで理解していたのか。

 失敗が即座に失脚へ繋がる王城で生きてきた第2王子殿下は、私がケインに機会を持たせる事に不満げな顔をしております。

「わざわざ最後に篩をかける意味なんてあるの?」
「最後だからです。私の婿になり得る程度の覚悟を理解しているならよし、無理でも温情をかえる程度であるのか、愚か者で突き放すだけで良いか。どれに値するかはっきりさせるだけです」
「あのな。ヒルダを選ぶかどうかなんて質問、間違える者がいるわけがない」
「さあ、どうでしょう?」

 正解はたった1つしかなく、殿下からしたら簡単過ぎるでしょうね。
 私を選ばなかったらデメリットに家ごと潰される。
 実にこんな簡単な事さえ分からない貴族がいるとしたら、まだまだ幼い子供かしら?

「私が思っていたより、ヒルダは現状に切れていたんだね」
「あらあら、現状を把握した後に『次』を考えていただけです」

 ケインを紹介したフリードも思う事があったでしょう。
 私も女性としてケインに仄かな愛を感じていたので事前に相談もなかった裏切りに一度は泣きました。
 ですが、公爵令嬢は基本的に愛以外のもので動くように出来ているのです。

「次は何が起こって、何をするべきか。ケインがカルナートに迂闊に何を持ちかけたのかは知りませんが、もう少し結果を考えて欲しかったです」
「ケインが何をしたのか知ってるんだ?」
「ただの行動の逆算です。カルナートをバルドルとの対面にまで動かすとしたら誰が最も無理もなく誘導出来るかを考えれば、自ずとケインだと分かります」

 カルナートはプライドが高く扱いづらい反面、素直でした。
 自分よりも目下であると思っている者から頼られれば、直ぐさまよく考える事もなく行動に移すでしょう。

「ケインという者がどんな人物かは知らんが、グリフィスが疑われていると知っていながら、グリフィスの部屋から出てきた手紙を信じたらしいな。私ならバルドル由来なら何でも疑うし、何なら死んだという事も疑っている」
「今回は死んだ事は確認が取れています」
「分かっている。だが、ここまで父はバルドルを王太子に据えるなど厚遇を続けてきたのに、ここに来て何故切り捨てる? 私には意味が分からない」

 役に立たなくなったにしても、確かにあんな形で殺してしまうのは行き過ぎでしょうね。
  ここまで話してきて、私はふと思った。

「ねぇ、バルドルは本当に陛下の子なのかしら?」
「ああ……そこは説明していなかったか。バルドルは陛下の子でもないが王妃の子供でもない。王妃が側妃よりも先に子供を産んだと言う実績の為に用意された子供らしい」

 王家の事情というのは本当に面倒な事です。
 ラビナレットの事を知った今なら陛下も加害者との間に子供を作る気なんてなかったと推測出来ます。
 残念ながらバルドルは王妃として留め置く為の材料として扱われていた、と言う事でしょうが、ちょっと不自然な気がしました。

「バルドルが偽物の王子だったとして、王妃が子供を妊娠し産んだ事からして全てを偽る事って本当に出来るものなのでしょうか?」

 フリードも殿下もぴんと来ていない顔をしております。
 王族の慣習を考えれば出てきそうな疑問なのに、この2人こそ本当に王族なのでしょうか。

「いくら陛下が関わっているにしても、王妃が子供を産む過程と赤子の両方を神殿が確認して初めて王子を産んだとされるのですよ」
「つまり?」
「少なくとも王妃は妊娠はしていたと思うのです」

 いくら公爵家に何らかの密約があったにしろ、王妃に懐妊も確認されない状態で現れた赤子を王子として認める筈もありません。
 噂が我慢出来ない貴族達からも、バルドルがあれこれ言われていたのは母である王妃の出自のみです。

「まあ、ここら辺は私の母にでも聞けば分かる事でしょうが、少なくとも王弟であるメイヴェナ公爵は事件を聞いた時もバルドルを心底心配し、全くバルドルの出自を疑っている様子もありませんでした」
「いや、それだと寧ろバルドルと同時期に王妃に子供がいた事になる! 王妃の部屋で見つけた書き付けに『側妃よりも先に子を産んだ実績の為に用意された子供』って書いてあったんだ。つまり……」
「ケインの事を貴方達はとやかく言えませんね。よく王妃の部屋にあった書き付けを真実だと思い込めましたね」

 第2王子殿下は想定外の指摘でしたのか、茫然としておられます。
 フリードの方は書き付けの内容を多少は疑っていたようで、極端に驚いた様子はありません。

 根本的にそんな物が手に取りやすい位置にあった事からして疑うべきなのですよ。
 事件の切っ掛けとなったケインがカルナートに持ちかけた図式とほぼ同じ形になっている事にも呆れてしまいます。

「真実を混ぜた嘘は見抜くのが難しい。これもグリフィスの考えだったら私も道化だったという事だ」

 自虐的にフリードは笑い、

「それで、グリフィスは何を得すると言うんだ?」

 これには私も殿下も何も答えられませんでした。
 これまでグリフィスを捕まえられなかった理由は証拠の有無は勿論として、グリフィスが関わる為の動機らしい動機がなく、得る利益らしきものも見当たらないからです。
 そして、今回身内を利用するに至り、グリフィスの利益は一層見えなくなりました。



 あまり怪我人と長々と話してはいけないとリーノ伯爵家の使用人の方に忠告され、私とフリードは殿下の部屋から退室しました。
 サロンへと向かう廊下で、

「ねぇ、フリード。貴方、リーノ伯爵家に来たのっていつ頃なの?」
「うん? それはどういう意味だろう?」

 とぼけているという訳ではなさそうですね。
 とは言え、つい私も睨んでしまいます。

「勿体ぶらなくても良いから」
「言うかどうか迷っているだけです。分からないのは寧ろ家族をやっていたからでしょうね。……バルドルとエリックは同じ年でしょう」

 執拗にエリックが王家から暗殺の機会を窺われていた理由が、長らくどうしても分かりませんでした。
 エリックが本物の王妃の子だから、ここに来て私はそれ以外考えられなくなりました。

 フリードが否定するかもしれないと思いましたが、サロンについても何一つ言葉を発する事なくソファに沈み込みました。

「フリード?」
「……いや、腑に落ちた。今はそれを事実として処理している所だ」
「私は色々おかしい点もある気がしたのよ」
「何もおかしくない。王妃の子だから早く殺されるし、勉強する必要もなければ、まともな社交もいらない、導く必要もないから注意しない。前リーノ伯爵夫妻がヒルダとの婚約を喜んだし拘ったのは、ディアーモ公爵家に守って貰って少しでも長く生きられないかと思っていたんだ」

 一息で言い切ったフリードは、荒い呼吸を何度かしました。

「入れ替えたんだよ!」

 それはまだ、ただの事実。
 この場の私とフリードには、その事実以上の事は分かりませんでした。


感想 18

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

婚約破棄? ありがとうございます。やっと本当の人生が始まります

たくわん
恋愛
婚約破棄された令嬢がすべきことといえば、泣くか、喚くか、復讐を誓うか——らしい。 リーナ・フォスター公爵令嬢がしたことは、荷造りだった。 「冷たくて人を愛せない」と王太子に切り捨てられた夜、リーナは一度も振り返らずに王城を出た。向かった先は辺境の荒れ地。目的は薬草の栽培と薬品事業の立ち上げ。前世の記憶から温めてきた、誰にも言えなかった計画の実行だ。 リーナはそこで不器用だが誠実な騎士ヴァルターと出会う。一方、残された王太子とその新しい婚約者は、少しずつ、静かに、取り返しのつかない方向へと歩んでいたーー。

幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。

たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。 彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。 『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』 「……『愛している』、ですか」 いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。

【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。