終焉の召喚術師〜悪魔の蔓延る世界に立ち向かう少年たち〜

NovaPro

文字の大きさ
34 / 97

第八章〜惨劇の都〜③

しおりを挟む
エルクたちは店主に礼を告げ、パンとスープを平らげると傾きかけた日差しのなかを歩き始めた。
郊外は、中心とちがって住宅がまばらに並び、風の音がはっきりと聞こえる。
やがて見えてきた目的の家は、木々に囲まれた白塗りの平屋だった。
庭先には古びたベンチが置かれ、干し草の香りが五人の鼻をくすぐる。

「ここだな」

エルクは玄関の前に立ち、小さくノックをした。

コン、コン。

そして、しばしの沈黙のあと、ゆっくりと扉が開いたのだ。

「……どちらさま?」

現れたのは、白髪まじりの茶髪をきちんと後ろでまとめた、穏やかな目の初老の女性だった。
首元には小さなロザリオが揺れ、深い信仰と真の強さを感じさせる。

「僕たち、中央教会から派遣された者です。少し、お話を伺いたくて―――」

フィールがひょこっと顔を出して頭を下げると、女性は困ったような顔を見せた。

「あっ……街の喫茶店の店主さんからの紹介でもありまして―――」
「え?そうなんですか?」

喫茶店の店主は有名な人のようで、彼の存在を出すと女性はにこやかに笑みを零したのだ。

「じゃあ、どうぞ」

扉が大きく開かれ、エルクたちは彼女の家に入っていく。

「わぁ、素敵ですね」

中に入ると、フィールがそう呟いた。
彼女の家は、どこか素朴で温かみがあったのだ。
太陽の光が差し込む床は木でできており、古びた絵画や植物があちらこちらに飾られている。

「ありがとう。あまりお洒落なものはないけれど……好きなものを集めているのよ」

彼女は微笑みながら、奥の部屋へとエルクたちを案内した。
通されたのは四角い木のテーブルが置かれた居間で、椅子はぴったり6つ。
年季の入ったカーペットが、足元に温もりを与えていた。

「どうぞおかけになって。お茶を淹れますね」

そう言って台所へと向かう背には、年齢を感じさせない凛とした姿勢があった。
エルクは静かに椅子を引き、目を細める。

「なんか……落ち着く気がするよな。こういう家、久しぶりかも」
「街の喧騒とは違う空気が流れてるよね」

フィールの言葉に、ベルも頷く。
やがて戻ってきた彼女は、温かな湯気の立つ紅茶と小さなクッキーの皿をテーブルに並べていった。

「お口に合うといいけれど」

その柔らかな声に、エルクは深く頭を下げる。

「ありがとうございます。俺はエルク=フリードマンです。中央教会から派遣されて、今回、この街を再調査することになりました」

エルクが名乗ったのを皮切りに、ひとりずつ順番に名乗っていく。

「フィール=フォールです。よろしくお願いします」
「ライナス=フリードマン……そこのエルクの弟です」
「私はベル。よろしくお願いしますっ」
「……ヴァン。エクソシストです」

各々の自己紹介に静かに頷く彼女は、自身の胸に手をあてた。

「私はバレンシア。こんなに若い人たちが来てくれるのは、何年ぶりかしら」

フィールは微笑みながら、湯気の立つ紅茶に軽く口をつけた。
そして、真剣な面持ちで尋ねる。

「僕たち、この街を改めて調査しているんです。前市長のトムさんのことなど、何か覚えていることはありませんか?」

その問いかけに、バレンシアはわずかに目を伏せた。
そして、ロザリオに指先を添え、ゆっくりと語り始める。

「……あの人は…とても優しい人だったわ。奥さんと娘さんを事故で一度に亡くしてしまってからは、心が壊れてしまったように見えたの。最初のころは、家からも出なくなってね……」

エルクたちは、彼女の言葉に耳を傾けていた。

「でも、ある日を境に突然変わったの。目に、光が戻ったのよ。何かを悟ったような目をしていて、笑顔も戻って……市長の仕事に打ち込むようになったわ。けれど―――」

彼女はそこで言葉を切り、しばし遠くを見るように窓の外へ視線を移した。

「その笑顔の奥に―――影が見え隠れしていたの。あれは……絶望を乗り越えた人の顔じゃなかった。何かにすがって立っている、そんな目だったわ」

彼女はそんなトム氏に違和感を覚え、自然と距離を置くようになったと言う。

「いつのまにか、街の高齢女性たちが姿を消すようになっていって……私は怖くなってサウシアに避難したの」
「それは―――直感で?」

フィールが聞くと、彼女は視線を戻した。
そして、ふっと笑い―――

「……鋭いわね。エルク、だったかしら?」

彼女は、再びロザリオに触れ、ゆっくりと口を開いた。

「ずっとね、隠してきたことがあるの。こうして世の中が静かに崩れ始めているのを見て……あなたたちなら話せると思った。―――いえ、話さないといけないときだと思ったわ」

静寂が室内を包むなか、彼女はこう言い放った。

「私は……純潔の天使『ウリエル』のサマナーよ」

その言葉は、まるで鐘の音のように部屋の空気を震わせた。
そして、一瞬の沈黙ののち、エルクは目を見開いたのだ。

「ウリエルの……サマナー……!?」

驚きの声が漏れ、五人は互いに顔を見合わせる。
これまで繋がらなかった点と点が―――確かに一本の線として、結びつき始めていたのだ。

(つまり、この街での事件はただの偶然じゃなかったってことか。ウリエルのサマナーをあぶり出すために崇拝教の大罪の悪魔たちが仕掛けた罠……)

エルクは、彼女が美徳の天使のサマナーだったと知り、ようやく胸の奥に引っ掛かっていた違和感が繋がるのを感じていた。
そして、拳を握りしめると静かに立ち上がる。

「ここは危険だ。すぐに中央教会へ移動の手配を―――」

そのときだった。
突如として窓の外から何かが飛来し、部屋に羽ばたくような風が巻き起こったのだ。
鋭利な鳥の羽根が、まるで刃のように窓を突き破る。

「なっ―――!?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...