終焉の召喚術師〜悪魔の蔓延る世界に立ち向かう少年たち〜

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第十三章〜怠惰の顕現〜③

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「間違いない……リーンズ村の祠にあったのと同じだ……」

その言葉に、一同の表情が一変した。
緊張が張り詰めるなか、オリヴィアが真剣な面持ちで振り返る。

「ベルフェゴールが封印されているとみて間違いなさそうね。―――みんな、すぐに出るわよ」

急ぎ足で戻ろうとするオリヴィアに、フィールが思わず叫んだ。

「待ってください!村の人たちはどうするんですか!?」

オリヴィアは足を止め、少しだけ振り返った。
その表情には、指揮官としての冷静さと、どこか悔しさが滲んでいる。

「……今の私たちの任務は、ベルフェゴールの在処を突き止めること。それ以上の行動は……」
「でも、あの人たちは明らかに様子が……!」

フィールの声に、オリヴィアは一瞬だけ視線を伏せた。
しかしすぐに視線を上げ、淡々と告げる。

「様子がおかしいのはわかってる。でも、それを私たちがどうこうできる状況じゃないでしょう?治癒も効かず、意識も通じない。手だてがない状況で深入りすれば、私たちが危険にさらされるわ」
「そんな……」

フィールの声は、悔しさに滲んでいた、
そんな彼に、ルーインがそっと肩に手を乗せ口を開く。

「いずれ、中央が対処に乗り出します。今は、この状況とともにベルフェゴールの在処を伝えねばなりません」

フィールは拳を握りしめ、口をつぐむことしかできなかった。
だが、その葛藤を断ち切るかのように、周囲にざり……ざり……と、地面を踏みしめる足音が響いたのだ。

「っ……!」

振り返った一同の視線の先には、村人たちの姿があった。
先ほどまで床に倒れていたはずの人々が、まるで何かに導かれるように無言で迫ってきていたのだ。

「なぜ……!?」

ライナスが息を呑むなか、村人たちは無表情のまま、ゆっくりと確実に歩み寄ってくる。
目には感情の色もなく、まるで意志を奪われた操り人形のように一歩、また一歩近づいてくるのだ。
『生ける屍』のような姿に、エルクたちは自然と祠を背に武器を手に取る。

「こちらから仕掛けてはいけません。動きを見極めるわよ!」

オリヴィアの指揮のもと、祠を背にしたままエルクたちは異様な光景に言葉を失っていた。
白い吐息が静かに溶けていくなか、村人たちの足音がじわじわと迫って来るのだ。

そして―――

「来る!」

オリヴィアの声と同時に、最前列の村人たちが急に駆け出したのだ。
目に見えぬ命令でも下されたかのように、無言で狂気じみた動きで飛びかかってくる。

「……っ!ロキ!」

村人に大剣を振るうわけにいかないエルクは、ロキを呼び出す。
すると、エルクの肩のうしろの空間が裂けるように揺らぎ、ロキが姿を現したのだ。

「おやおや、村人相手に戦っているのかい?これはまた、ずいぶんとやりにくいな」

ロキは苦笑を浮かべながら、ゆっくりと地に足をつけた。

「剣が使えないんだ!押さえつけてくれ!」

エルクに言われ、ロキは指先をふわりと宙に舞わせる。
すると、黒い重力の波が押し寄せ、村人たちの動きが鈍ったのだ。
ひとり、またひとりと膝をつき、呻き声ひとつあげずに動かなくなっていく。

「よし、今のうちに……」

そのときだった。
ルーインが大岩をじっと見つめていたのだ。
何かの気配を感じ取ったのか、目を見開いている。

「この岩……隙間が開いている……?」

先ほどにはなかった隙間に、一同の視線が大岩へと集中する。
そこには確かに、亀裂のような隙間が見えていたのだ。

「まさか……!」

その瞬間、ズドン!!と、地を揺るがすほどの衝撃音が大地を貫いた。
吹き上げる風と衝撃波に、エルクたちは思わず身をかがめる。
その刹那、空間がひしゃげるように歪み、ロキの身体が宙を舞ったのだ。

「ロキッ―――!!」

エルクが叫ぶものの、ロキは音速の勢いで大岩に叩きつけられた。
耳をつんざく重音とともに、大岩の表面に深い亀裂が走っていく。

その直後、ロキの姿がまるで墨を水に垂らしたように滲み、揺らいで消えていったのだ。

「嘘だろ……!?ロキ!?」

エルクの声に反応することなく、ロキの気配はあっけなく消え去った。
そして、呆然とするエルクの前で、大岩の亀裂はひとりでに広がり始めたのだった。

「まずい……封印が解かれるぞ……!」
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