終焉の召喚術師〜悪魔の蔓延る世界に立ち向かう少年たち〜

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第十四章〜多相の男〜②

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その翌朝、一同は教会北支部の教会員に改めてハイル村の調査を依頼し、村をあとにする。
雪解け道を馬車に揺られながらアースヘルムへ向けての道を進んでいると、前方の道端にひとりの男が立っているのが見えたのだ。

「すみません!そちらの馬車に乗せてもらえませんか?」

そう言って、男は手を振りながら駆け寄ってきたのだ。

「どうされました?」

オリヴィアは馬車を止め、そう聞いた。

「北の村から出稼ぎに向かっていたのですが、道中で馬が暴れて振り落とされてしまいまして……」

男はアースヘルムまで歩いて向かうつもりだったが、体力が尽きかけているようで息が荒かった。
顔には疲労の色が浮かんでおり、距離のあるアースヘルムまでたどり着けるか怪しいところだ。

「それは大変でしたね……。これも何かの縁です。どうぞ?」

オリヴィアの言葉に、男は安堵の表情を浮かべた。

「ありがとうございます!助かります!」

男が馬車に乗り込むと、馬車は再びゆっくりと動き始めた。
揺れる車内では旅の話や世間話などが交わされたが―――
しばらくして男はライナスに視線を向けたのだ。
そして、困惑した表情でオリヴィアにこう尋ねた。

「……あの、失礼ですがそちらの方は着ぐるみを着ておられるんですか?」

その問いに、一同は一瞬固まった。

「え、ええ。まあ、旅芸人の衣装……のようなものですよ……!」

オリヴィアが慌てて愛想笑いを浮かべると、フィールがすかさず助け舟を出す。

「ぼ、僕たち、ちょっとした大道芸人の一座なんです!」

男は目を丸くするものの、すぐにニコリと笑った。

「それは楽しそうですね!ぜひ、いつか芸を拝見させてください」
「あはは……」

どうにかこの場は収まり、一同はほっと胸を撫で下ろす。
男もそれ以上は詮索することなく、馬車は静かに進んでいった。

それからしばらくして馬車は森の中に入っていき、高く伸びた木々が頭上を覆い始めた。
葉の隙間から漏れる光はわずかで、昼間にもかかわらず辺りは薄暗さを増していく。
道は徐々に細くなり、両脇から生い茂る枝葉が馬車の車輪をかすめていた。

舗装されていない道は馬車にほどよい振動を与え、疲労が溜まっているエルクたちの目を徐々に重くしていく。

「ふぁ……」

エルクが大きなあくびをひとつ漏らすと、フィールも目をこすりながらあくびを嚙み殺していた。
ライナスは首を傾け、瞼を重たそうにしている。

「無理に起きてなくていいわよ。アースヘルムまではまだ少しかかるし、疲れてるでしょ?」

オリヴィアの声に、エルクたちは顔を見合わせた。
お互いに―――明らかに眠そうな表情を浮かべている。

「まぁ……確かに……」

エルクが苦笑いしながらわずかに肩をすくめると、フィールとライナスも静かに目を伏せた。
三人は観念したように背もたれに身を預け、眠りへと落ちていったのだ。

「眠っている顔は、子どもですね」
「ほんとね。できれば危険な任務はさせたくないんだけど……」

あどけない寝顔を見ながら、二人は微笑みながら呟いた。
馬車はなおも森の中を進み、鳥の声や風が葉を揺らす音が三人をさらに深い眠りへと導いていく。

やがて、馬車が下りへと差し掛かったそのとき―――

―――ヒヒィンッ!!

突然、馬たちが甲高く鳴き叫び、激しく暴れ出したのだ。

「なっ―――!?」

オリヴィアとルーインが慌てて前を覗き込むと、御者台にた教会員がぐったりとうなだれ、動かなくなっていたのだ。

「意識が……!?何が―――」

制御を失った馬車は激しく左右に揺れ始め、暴走を始める。

「エルク、ライナス、フィール!起きて!」

オリヴィアの叫びに、三人は寝ぼけ眼をこすりながら目を開けた。
だが、次の瞬間―――

「ぐっ……!」

苦しげな呻き声がライナスの口から漏れたのだ。
見ると、先ほど馬車に乗った男が鋭い手を伸ばし、ライナスの腹を深々と貫いている。

「ライナス!!」
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