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3話
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王室専用の馬車が、高くそびえ立つエトワール城の正門をくぐった。
深い森に囲まれたその城は、まるでおとぎ話のようだが、今の僕には巨大な監獄にしか見えない。
「さあ、着いたよ。今日からここが君の家だ」
ディルク殿下は、まるでお姫様でも扱うかのように、再び僕を横抱きにして馬車を降りた。
深夜だというのに、城の玄関には整列した使用人たちが控えている。
その中には、さっきパーティー会場で興奮していたヒロイン、ベアトリスの姿もあった。
(き、きたああああ! お姫様抱っこで帰還! ディルク殿下、無表情だけど心の声は絶対『レアン可愛い、今すぐ食いたい』って連呼してるわよね!? 最高、もう壁になりたい!)
……ベアトリス。君の予測は、悲しいことに百パーセント的中しているよ。
僕の脳内には、彼女のメタな実況と、ディルク殿下の重すぎる愛欲が二重奏(デュエット)となって響き渡っているんだ。
「殿下、せめて……せめて降ろしてください。恥ずかしすぎます……」
「恥ずかしがることはない。君は私の『特別な客人』なのだから」
『……本当は客人なんて言葉で濁したくない。私の伴侶、私の番、私の性奴隷――。どんな言葉も、今の独占欲を満たすには足りない。この細い首に、消えない痣を幾つも刻んで、私がいないと生きていけない体にしてやりたい』
(性……ッ!? 今、とんでもない単語が聞こえたぞ!)
僕は顔から火が出るどころか、全身が沸騰しそうだった。
ディルク殿下は僕を抱いたまま、迷いのない足取りで最上階にある自身の寝室へと向かう。
豪華な装飾が施された扉が開き、僕は広大なシルクのベッドの上に、そっと下ろされた。
「……っ」
逃げようと身をよじったが、ディルク殿下は素早く僕の両手首を掴み、ベッドに縫い付けた。
見上げる黄金の瞳は、月の光を反射して、恐ろしいほど美しく、そして濁っている。
「レアン。なぜそんなに震える? 私は君を愛していると言ったはずだよ」
「そ、その『愛してる』の定義が、僕の知ってるものとだいぶ違う気がするんです……!」
「ほう? では、君にとっての愛とは何かな。……これかな?」
ディルク殿下が顔を近づける。
鼻先が触れ合うほどの距離。
彼の吐息が唇にかかり、僕は反射的に目を閉じた。
『ああ……睫毛が震えている。拒絶しているようでいて、その実、私の接触を待っているようにも見える。このままその柔らかな唇を食いちぎるように吸い上げたら、どんな声を出す? 奥の方まで私の舌で探って、君のすべてを味わい尽くしたい。今すぐ服を剥ぎ取って、その白い腹に私の熱を注ぎ込みたい……!』
「ひ……あ、ああ……っ!」
あまりにも具体的な、視覚を伴うような「淫らな本音」が脳内に直接注ぎ込まれる。
それはもはや暴力に近い快感となって、僕の背筋を駆け抜けた。
触れられているのは手首だけなのに、まるで全身を愛撫されているような錯覚に陥る。
「レアン、顔が赤いね。……もしかして、私が何を考えているか、想像でもしているのかい?」
ディルク殿下が、意地の悪い笑みを浮かべて僕の耳たぶを甘噛みした。
「っ……! わ、わかってて言ってますよね!? 殿下、あなたの本音、全部、全部聞こえてるんですから!」
僕はついに、我慢できずに叫んだ。
ディルク殿下の動きが、ピタリと止まる。
黄金の瞳が驚愕に大きく見開かれた。
「……今、なんと?」
「だから! 殿下が今、僕をどうやってめちゃくちゃにしようとしてるか、どんなエロいこと考えてるか、全部フルボイスで聞こえてるんです! もう、恥ずかしくて死にそうなんです!」
静寂が部屋を支配した。
ディルク殿下は固まったまま、僕を凝視している。
(あ、やばい。言っちゃった……。これで気味が悪いって追い出されるか、あるいは口封じに……)
ところが。
『……聞こえて……いた? 私の、この、抑えきれない欲情が? レアンに? すべて?』
ディルク殿下の心の声が、かつてないほど激しく揺れ動いた。
そして――。
『……最高じゃないか』
(えっ?)
『私がどれほど君を渇望し、どんな破廉恥な方法で君を犯したいと思っているか。それを君がすべて理解した上で、こうして私の下に組み敷かれている……。これ以上の悦びがあるだろうか。いや、ない』
「殿下……? あの、心の声、さらに過激になってるんですけど……」
「そうか。聞こえているのか、レアン。……ならば、もう遠慮する必要はないな」
ディルク殿下の瞳に、獰猛な肉食獣の火が灯った。
彼は片手で自分のネクタイを引き抜き、僕の両手首をさらにきつく縛り上げる。
「言葉にするのは気恥ずかしいと思っていたことも、すべて君に届いているのなら好都合だ。……耳を澄ませておけ。これから君の全身を愛でながら、私が君をどうしてやりたいか、一晩中『実況』してあげるからね」
「待っ、待ってください! そんなの精神が持たない――んぐっ!?」
ディルク殿下の唇が、強引に僕の声を塞いだ。
脳内に流れ込んでくるのは、酸素を奪い合うような激しい音と、それを上回るほどの、狂おしい愛の独白だった。
処刑回避どころか、僕は今、人生最大の絶倫王子の「本音の嵐」の中に放り込まれてしまった。
深い森に囲まれたその城は、まるでおとぎ話のようだが、今の僕には巨大な監獄にしか見えない。
「さあ、着いたよ。今日からここが君の家だ」
ディルク殿下は、まるでお姫様でも扱うかのように、再び僕を横抱きにして馬車を降りた。
深夜だというのに、城の玄関には整列した使用人たちが控えている。
その中には、さっきパーティー会場で興奮していたヒロイン、ベアトリスの姿もあった。
(き、きたああああ! お姫様抱っこで帰還! ディルク殿下、無表情だけど心の声は絶対『レアン可愛い、今すぐ食いたい』って連呼してるわよね!? 最高、もう壁になりたい!)
……ベアトリス。君の予測は、悲しいことに百パーセント的中しているよ。
僕の脳内には、彼女のメタな実況と、ディルク殿下の重すぎる愛欲が二重奏(デュエット)となって響き渡っているんだ。
「殿下、せめて……せめて降ろしてください。恥ずかしすぎます……」
「恥ずかしがることはない。君は私の『特別な客人』なのだから」
『……本当は客人なんて言葉で濁したくない。私の伴侶、私の番、私の性奴隷――。どんな言葉も、今の独占欲を満たすには足りない。この細い首に、消えない痣を幾つも刻んで、私がいないと生きていけない体にしてやりたい』
(性……ッ!? 今、とんでもない単語が聞こえたぞ!)
僕は顔から火が出るどころか、全身が沸騰しそうだった。
ディルク殿下は僕を抱いたまま、迷いのない足取りで最上階にある自身の寝室へと向かう。
豪華な装飾が施された扉が開き、僕は広大なシルクのベッドの上に、そっと下ろされた。
「……っ」
逃げようと身をよじったが、ディルク殿下は素早く僕の両手首を掴み、ベッドに縫い付けた。
見上げる黄金の瞳は、月の光を反射して、恐ろしいほど美しく、そして濁っている。
「レアン。なぜそんなに震える? 私は君を愛していると言ったはずだよ」
「そ、その『愛してる』の定義が、僕の知ってるものとだいぶ違う気がするんです……!」
「ほう? では、君にとっての愛とは何かな。……これかな?」
ディルク殿下が顔を近づける。
鼻先が触れ合うほどの距離。
彼の吐息が唇にかかり、僕は反射的に目を閉じた。
『ああ……睫毛が震えている。拒絶しているようでいて、その実、私の接触を待っているようにも見える。このままその柔らかな唇を食いちぎるように吸い上げたら、どんな声を出す? 奥の方まで私の舌で探って、君のすべてを味わい尽くしたい。今すぐ服を剥ぎ取って、その白い腹に私の熱を注ぎ込みたい……!』
「ひ……あ、ああ……っ!」
あまりにも具体的な、視覚を伴うような「淫らな本音」が脳内に直接注ぎ込まれる。
それはもはや暴力に近い快感となって、僕の背筋を駆け抜けた。
触れられているのは手首だけなのに、まるで全身を愛撫されているような錯覚に陥る。
「レアン、顔が赤いね。……もしかして、私が何を考えているか、想像でもしているのかい?」
ディルク殿下が、意地の悪い笑みを浮かべて僕の耳たぶを甘噛みした。
「っ……! わ、わかってて言ってますよね!? 殿下、あなたの本音、全部、全部聞こえてるんですから!」
僕はついに、我慢できずに叫んだ。
ディルク殿下の動きが、ピタリと止まる。
黄金の瞳が驚愕に大きく見開かれた。
「……今、なんと?」
「だから! 殿下が今、僕をどうやってめちゃくちゃにしようとしてるか、どんなエロいこと考えてるか、全部フルボイスで聞こえてるんです! もう、恥ずかしくて死にそうなんです!」
静寂が部屋を支配した。
ディルク殿下は固まったまま、僕を凝視している。
(あ、やばい。言っちゃった……。これで気味が悪いって追い出されるか、あるいは口封じに……)
ところが。
『……聞こえて……いた? 私の、この、抑えきれない欲情が? レアンに? すべて?』
ディルク殿下の心の声が、かつてないほど激しく揺れ動いた。
そして――。
『……最高じゃないか』
(えっ?)
『私がどれほど君を渇望し、どんな破廉恥な方法で君を犯したいと思っているか。それを君がすべて理解した上で、こうして私の下に組み敷かれている……。これ以上の悦びがあるだろうか。いや、ない』
「殿下……? あの、心の声、さらに過激になってるんですけど……」
「そうか。聞こえているのか、レアン。……ならば、もう遠慮する必要はないな」
ディルク殿下の瞳に、獰猛な肉食獣の火が灯った。
彼は片手で自分のネクタイを引き抜き、僕の両手首をさらにきつく縛り上げる。
「言葉にするのは気恥ずかしいと思っていたことも、すべて君に届いているのなら好都合だ。……耳を澄ませておけ。これから君の全身を愛でながら、私が君をどうしてやりたいか、一晩中『実況』してあげるからね」
「待っ、待ってください! そんなの精神が持たない――んぐっ!?」
ディルク殿下の唇が、強引に僕の声を塞いだ。
脳内に流れ込んでくるのは、酸素を奪い合うような激しい音と、それを上回るほどの、狂おしい愛の独白だった。
処刑回避どころか、僕は今、人生最大の絶倫王子の「本音の嵐」の中に放り込まれてしまった。
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