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23話
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地下宮殿に閉じ込められてから、どれほどの月日が流れただろうか。
窓のないこの場所では、時間の感覚さえも砂時計から溢れる砂のように曖昧になっていく。
豪奢な寝台に身を横たえ、指先に嵌められた「魔力の指輪」を眺めるのが、僕の唯一の習慣になっていた。
これはディルク殿下が「君の魔力を安定させるため」と言って嵌めたものだが、実際は僕の居場所を常に彼に知らせるための発信機であり、彼の魔力を僕の体内に逆流させるための「愛の首輪」だ。
「……レアン。まだ起きていたのかい? 夜更かしは体に毒だと言っただろう」
扉が音もなく開き、ディルク殿下が入ってきた。
彼は慣れた手つきで僕の髪を指で梳き、その指先が耳裏から首筋へと這う。
僕の『心の声を聞く能力』は、ここ数日の監禁生活でさらに純度を増し、殿下の内側に澱(おり)のように溜まったどろどろとした執着を克明に描き出していた。
『……ああ、この無防備な首筋。今すぐ牙を立てて、私の『印』をさらに深く刻みつけてやりたい。……記憶がない今の君は、私という存在を信じるしかない雛鳥だ。……誰の視線も、誰の言葉も届かないこの地下深くで、君のすべてが私に塗り潰されていく。……なんて甘美な悦びだろう。君が絶望し、私を拒絶する力さえ失い、私の愛の海で溺れていくのを眺めるのは……!』
(……怖い。この人は、僕が僕でなくなることを、心の底から望んでいる……!)
「殿下……。少しだけ、外の風に当たりたいです。月が見たいんです……」
「……月? 私の瞳が黄金に輝いているだろう? それだけで十分ではないか。外は危険だ、レアン。君を狙う汚らわしいハイエナ共が、今も君を奪おうと嗅ぎ回っているんだよ」
ディルク殿下の言葉は甘く、だがその背後にある魔力は、拒絶を許さない重圧となって僕を押し潰す。
その時だった。
突如、静寂に包まれていた地下宮殿が、天地がひっくり返るような巨大な衝撃に見舞われた。
「バリン!」という、空間そのものが割れるような不快な音が響き、ディルク殿下が絶対の自信を持っていた魔力障壁が、一瞬にして霧散したのだ。
「――そこまでだ、ディルク殿下。あなたのその歪んだ寵愛、私が断ち切って差し上げましょう!」
爆煙を切り裂いて現れたのは、漆黒のマントを翻したユストスだった。
だが、その姿は僕の知る「忠実な騎士」ではなかった。
右手に握られているのは、禍々しい闇の魔力を放つ、見たこともない形状の短剣。
彼の瞳は血走り、その『本音』は嫉妬と狂気によって完全に黒く染まっていた。
『……見つけた。ああ、レアン様……。あんな男に組み敷かれ、鎖に繋がれて……! ……許さない。殿下であっても、あなたの自由を奪う者は万死に値する。……いや、自由にするのは私だ。……私があなたを奪い、誰の手も届かない場所へ連れていく。……そのためなら、私は騎士としての魂を、この闇の刃に捧げても構わない……!』
「ユストス……! 貴様、どの面を下げて私の庭に足を踏み入れた。その不潔な剣で、私のレアンを汚そうというのか!」
ディルク殿下が立ち上がり、空中に無数の黄金の魔力剣を出現させる。
もはや、そこに主従の絆など微塵も残っていなかった。
最強の王子と、闇に堕ちた騎士。
二人の「執着」が極点に達した瞬間、地下宮殿の狭い空間を、殺意の火花が焼き尽くした。
「レアン様、今すぐこちらへ! その男はあなたを壊す! あなたを本当に愛しているのは、私だけだ!!」
「黙れ、ユストス! レアンは私のものだ! 彼の指先一本、お前のような裏切り者に触れさせるものか!」
黄金の雷撃と、闇の魔刃が激突し、周囲の壁が崩れ落ちていく。
僕はベッドの端で、ただ震えることしかできなかった。
能力を通じて伝わってくるのは、二人からの、僕を「所有したい」という、あまりにも重く、暴力的なまでの愛の絶叫だけだった。
窓のないこの場所では、時間の感覚さえも砂時計から溢れる砂のように曖昧になっていく。
豪奢な寝台に身を横たえ、指先に嵌められた「魔力の指輪」を眺めるのが、僕の唯一の習慣になっていた。
これはディルク殿下が「君の魔力を安定させるため」と言って嵌めたものだが、実際は僕の居場所を常に彼に知らせるための発信機であり、彼の魔力を僕の体内に逆流させるための「愛の首輪」だ。
「……レアン。まだ起きていたのかい? 夜更かしは体に毒だと言っただろう」
扉が音もなく開き、ディルク殿下が入ってきた。
彼は慣れた手つきで僕の髪を指で梳き、その指先が耳裏から首筋へと這う。
僕の『心の声を聞く能力』は、ここ数日の監禁生活でさらに純度を増し、殿下の内側に澱(おり)のように溜まったどろどろとした執着を克明に描き出していた。
『……ああ、この無防備な首筋。今すぐ牙を立てて、私の『印』をさらに深く刻みつけてやりたい。……記憶がない今の君は、私という存在を信じるしかない雛鳥だ。……誰の視線も、誰の言葉も届かないこの地下深くで、君のすべてが私に塗り潰されていく。……なんて甘美な悦びだろう。君が絶望し、私を拒絶する力さえ失い、私の愛の海で溺れていくのを眺めるのは……!』
(……怖い。この人は、僕が僕でなくなることを、心の底から望んでいる……!)
「殿下……。少しだけ、外の風に当たりたいです。月が見たいんです……」
「……月? 私の瞳が黄金に輝いているだろう? それだけで十分ではないか。外は危険だ、レアン。君を狙う汚らわしいハイエナ共が、今も君を奪おうと嗅ぎ回っているんだよ」
ディルク殿下の言葉は甘く、だがその背後にある魔力は、拒絶を許さない重圧となって僕を押し潰す。
その時だった。
突如、静寂に包まれていた地下宮殿が、天地がひっくり返るような巨大な衝撃に見舞われた。
「バリン!」という、空間そのものが割れるような不快な音が響き、ディルク殿下が絶対の自信を持っていた魔力障壁が、一瞬にして霧散したのだ。
「――そこまでだ、ディルク殿下。あなたのその歪んだ寵愛、私が断ち切って差し上げましょう!」
爆煙を切り裂いて現れたのは、漆黒のマントを翻したユストスだった。
だが、その姿は僕の知る「忠実な騎士」ではなかった。
右手に握られているのは、禍々しい闇の魔力を放つ、見たこともない形状の短剣。
彼の瞳は血走り、その『本音』は嫉妬と狂気によって完全に黒く染まっていた。
『……見つけた。ああ、レアン様……。あんな男に組み敷かれ、鎖に繋がれて……! ……許さない。殿下であっても、あなたの自由を奪う者は万死に値する。……いや、自由にするのは私だ。……私があなたを奪い、誰の手も届かない場所へ連れていく。……そのためなら、私は騎士としての魂を、この闇の刃に捧げても構わない……!』
「ユストス……! 貴様、どの面を下げて私の庭に足を踏み入れた。その不潔な剣で、私のレアンを汚そうというのか!」
ディルク殿下が立ち上がり、空中に無数の黄金の魔力剣を出現させる。
もはや、そこに主従の絆など微塵も残っていなかった。
最強の王子と、闇に堕ちた騎士。
二人の「執着」が極点に達した瞬間、地下宮殿の狭い空間を、殺意の火花が焼き尽くした。
「レアン様、今すぐこちらへ! その男はあなたを壊す! あなたを本当に愛しているのは、私だけだ!!」
「黙れ、ユストス! レアンは私のものだ! 彼の指先一本、お前のような裏切り者に触れさせるものか!」
黄金の雷撃と、闇の魔刃が激突し、周囲の壁が崩れ落ちていく。
僕はベッドの端で、ただ震えることしかできなかった。
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