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23話
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静寂を切り裂いたのは、鋭い電子音だった。
リビングの壁に設置されたモニターが青白く発光し、訪問者の存在を無機質に告げている。
旭の指先が、膝の上で跳ねるように強張った。
ポケットの中で、スマートフォンが再び短く震える。
画面は見ずとも分かる。姉のあゆみからの、終わりの合図だ。
「誰だ。今日は、誰も呼んでいないはずだが」
蓮が眉を寄せ、椅子を引く音を立てて立ち上がった。
彼が床を踏み締めるたび、磨き上げられたフローリングが小さく鳴る。
その規則正しい足音が、旭には断頭台へ向かう足音のように聞こえた。
(行かせちゃダメだ。一条さんが扉を開けた瞬間、俺の人生は終わる。嘘で塗り固めたこの景色が、全部砂みたいに崩れていく)
旭は椅子から転げ落ちるように立ち上がり、蓮の腕を掴んだ。
指先に触れた、上質なワイシャツの滑らかな質感。その下にある、逞しい腕の熱。
「待ってください! 蓮さん、私が行きます!」
裏返った声が、広い室内に虚しく響いた。
蓮が動きを止め、ゆっくりと旭へと振り返る。
眼鏡の奥にある灰色の瞳が、驚きと、それ以上の深い懸念を孕んで旭を射抜いた。
「あゆみさん。顔色が紙のように白い。やはり体調が悪いのではないか」
「いえ、そうではなくて。その、……私が、自分で確認したいんです」
思わず口を突いて出た三点リーダーを、旭は自ら噛み殺した。
必死に酸素を吸い込み、肺の痛みに耐えながら、蓮の正面へと立ち塞がる。
蓮は無言のまま、旭の肩に手を置いた。
大きな手のひらの重みが、旭の動揺を力ずくで押さえつける。
「君をこの状態で玄関に立たせるわけにはいかない。不審者だったらどうする」
「でも」
「下がっていなさい」
蓮の声には、一条副社長としての、一切の妥協を許さない響きが宿っていた。
彼は旭の手を優しく、けれど拒絶を許さない力で解くと、大股で玄関へと向かっていく。
旭は視界が暗転するような感覚に襲われ、壁に手をついた。
冷たい大理石の感触が、手のひらから全身へと伝わり、理性を辛うじて繋ぎ止める。
ピンポーン。
二度目のチャイム。
それは、執行猶予の終わりを告げる鐘の音だった。
蓮の長い指が、玄関のロックへと伸びる。
金属が噛み合う重厚な音が響き、扉がゆっくりと、外の空気を取り込みながら開いていく。
旭は、止まった心臓を無理やり動かすように、最後の一歩を踏み出した。
扉の向こう側に立つ、見覚えのあるシルエット。
あゆみの、あの奔放なまでに明るい茶髪が、朝の光を反射して輝いている。
「――あ」
蓮の声が、驚きに凍りついた。
そこには、一条蓮の妻であるはずの「あゆみ」と、全く同じ顔をした女性が、息を切らして立っていた。
都会の騒がしい風が、開いた扉から一気に流れ込む。
蓮の、完璧に整えられた前髪が乱れ、彼の瞳が旭と、そして扉の外の女性を、交互に捉えた。
地獄のような静寂。
旭は、自分の喉が鳴る音さえも、この世で最も巨大な音のように感じていた。
リビングの壁に設置されたモニターが青白く発光し、訪問者の存在を無機質に告げている。
旭の指先が、膝の上で跳ねるように強張った。
ポケットの中で、スマートフォンが再び短く震える。
画面は見ずとも分かる。姉のあゆみからの、終わりの合図だ。
「誰だ。今日は、誰も呼んでいないはずだが」
蓮が眉を寄せ、椅子を引く音を立てて立ち上がった。
彼が床を踏み締めるたび、磨き上げられたフローリングが小さく鳴る。
その規則正しい足音が、旭には断頭台へ向かう足音のように聞こえた。
(行かせちゃダメだ。一条さんが扉を開けた瞬間、俺の人生は終わる。嘘で塗り固めたこの景色が、全部砂みたいに崩れていく)
旭は椅子から転げ落ちるように立ち上がり、蓮の腕を掴んだ。
指先に触れた、上質なワイシャツの滑らかな質感。その下にある、逞しい腕の熱。
「待ってください! 蓮さん、私が行きます!」
裏返った声が、広い室内に虚しく響いた。
蓮が動きを止め、ゆっくりと旭へと振り返る。
眼鏡の奥にある灰色の瞳が、驚きと、それ以上の深い懸念を孕んで旭を射抜いた。
「あゆみさん。顔色が紙のように白い。やはり体調が悪いのではないか」
「いえ、そうではなくて。その、……私が、自分で確認したいんです」
思わず口を突いて出た三点リーダーを、旭は自ら噛み殺した。
必死に酸素を吸い込み、肺の痛みに耐えながら、蓮の正面へと立ち塞がる。
蓮は無言のまま、旭の肩に手を置いた。
大きな手のひらの重みが、旭の動揺を力ずくで押さえつける。
「君をこの状態で玄関に立たせるわけにはいかない。不審者だったらどうする」
「でも」
「下がっていなさい」
蓮の声には、一条副社長としての、一切の妥協を許さない響きが宿っていた。
彼は旭の手を優しく、けれど拒絶を許さない力で解くと、大股で玄関へと向かっていく。
旭は視界が暗転するような感覚に襲われ、壁に手をついた。
冷たい大理石の感触が、手のひらから全身へと伝わり、理性を辛うじて繋ぎ止める。
ピンポーン。
二度目のチャイム。
それは、執行猶予の終わりを告げる鐘の音だった。
蓮の長い指が、玄関のロックへと伸びる。
金属が噛み合う重厚な音が響き、扉がゆっくりと、外の空気を取り込みながら開いていく。
旭は、止まった心臓を無理やり動かすように、最後の一歩を踏み出した。
扉の向こう側に立つ、見覚えのあるシルエット。
あゆみの、あの奔放なまでに明るい茶髪が、朝の光を反射して輝いている。
「――あ」
蓮の声が、驚きに凍りついた。
そこには、一条蓮の妻であるはずの「あゆみ」と、全く同じ顔をした女性が、息を切らして立っていた。
都会の騒がしい風が、開いた扉から一気に流れ込む。
蓮の、完璧に整えられた前髪が乱れ、彼の瞳が旭と、そして扉の外の女性を、交互に捉えた。
地獄のような静寂。
旭は、自分の喉が鳴る音さえも、この世で最も巨大な音のように感じていた。
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